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えすけーぷふろむすくーる!

リアクション公開中!

えすけーぷふろむすくーる!

リアクション

――特別教室棟2F、音楽室にて。

「……なんか、どこかで悲鳴みたいな声が聞こえたわね」
「そうね……フィス達も気をつけよう」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)がお互い頷きあう。
「けど……何も無いわね……おかしい点なんかもね」
 リカインが辺りを見回して呟く。
「追ってくる人もいないし、何も無いのかしらね?」
「居ますよ」
 背後から、声が聞こえた。
「――きゃ」
 リカインが悲鳴を上げようとした、瞬間。
「おっと。駄目ですよー、こんなところで叫んだらお仲間さんまで倒しちゃいますよ?」
「むぐっ!?」
 背後に居た者が、リカインの口をふさいだ。
「よっと」
そしてそのまま後ろに引っ張り、地面へと転がす。
「はい、捕獲です」
「ね、ねぇ……なんであなたがいるのよ?」
 シルフィスティが声を震わせる。そこに居たのは、卜部 泪(うらべ・るい)だった。
「追う側の人間ですから。それより、あなたはどうしましょうか?」
「んー! んぐー!」
 押さえつけられ、もがくリカインを目にしたシルフィスティは、
「……参りました」
悔しそうに呟いた。

「さて、ペナルティなんですが……どうしましょうかねぇ……」
 リカインとシルフィスティを前にして、泪は顎に手をあて考える仕草を見せる。
「どうしましょうって……考えてなかったの?」
「いえ、何も用意できなかったので、【ビンタ】と考えていたのですが……流石に女の子の顔に傷はつけられませんから」
 唸りつつ考える泪の脳裏に、とある光景が浮かんだ。それは、少し前バラエティ番組で見た光景。
「……よし、それじゃこれにしましょうか」
 そう言うと、泪がリカインの頬をそっと両手で包む。
「……ど、どうするの?」
「動かないでくださいねー?」
 泪は上半身を捻ると、
「えいっ!」
自分の胸を、リカインの頬に叩き付けた。俗に言う『おっぱいビンタ』ってやつだ。
「んぐっ!?」
 結構な質量を頬に叩きつけられたリカインが呻くと、膝から崩れ落ちた。
「り、リカインー!?」
「さ、次はあなたですよ」
 にっこりと泪は笑うと、そのままシルフィスティの顔を抑える。
「えいっ」
「あうっ!」
 シルフィスティが膝から崩れ落ちた。
「はい、それでは頑張ってくださいねー」
 そう言うと泪は扉を開けて、去っていった。
「……リカイン」
「……何かしら」
「……巨乳って、武器になるのね」
「……そうね、初めて知ったわ」
 2人はがっくりとうなだれた。

――特別教室棟2F、図書室。

「うーん……何もねーなー……」
 本棚の間を通り、ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)が指で背表紙を追っている。
「都合よく『扉を開ける魔術』とか書いてある魔導書とかありゃいいんだけど……お?」
 そこで一冊の本に行き着いた。『閉じ込められたときに役に立つ本』というタイトルだ。
 急いで手に取り、中身を開く。『諦めんなよ!』とだけ書いてあった。
「なんじゃそりゃ!」
 思いっきりアイリが床に叩きつける。
「どうしたの?」
 その音を聞きつけて遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)がやってくる。
「……それ」
「これか? ……なるほど」
 アイリが指差した本を羽純が拾い、ページを捲ると納得したように頷いた。
「うわ、ひどいねこれ……」
 その後ろから覗いていた歌菜も呆れたように呟いた。本は他に『どうしてそこで諦めるんだ!』とか『もっと熱くなれよ!』とか胸焼けしそうな根性論でいっぱいだった。
「何かあったの?」
 一歩遅れて、白瀬 歩夢(しらせ・あゆむ)が顔を出す。
「全然。そっちはどうだ?」
「私の方も……何か仕掛けでもあるのかな、って思ったんだけど」
 アイリの言葉に、疲れたように歩夢が言う。本棚に何か仕掛けでもあるのか、と思い歩夢は先ほどから調べていたが、それらしきものは見当たらなかった。
「うーん……この建物の設計図でもあれば良かったんだけどねぇ……」
「そう都合のいい話は無いみたいだな……ん?」
 羽純が、表情を変えた。
「どうしたの、羽純くん?」
「何か聞こえないか?」
 そう言われ、全員が耳を澄ませる。バサバサと、本が落ちるような音が部屋の奥から聞こえてきた。
 全員が本棚の間から離れ、通路に出る。
 ぐらり、と奥の本棚が倒れ掛かってきていた。隣の本棚に倒れ掛かり、重みに耐えられなくなった本棚がまた倒れ、ドミノのように連鎖していく。
「歌菜! 逃げるぞ!」
 羽純が歌菜の手を取る。同時に、アイリと歩夢も出入り口に向かって駆け出す。
「あら、気づかれたんですか?」
 だが、イリス・クェイン(いりす・くぇいん)クラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)が出入り口を塞ぐ様にして立っていた。
「ここはそう簡単には通さないよ! もうキミ達は逃げられないよ!」
 クラウンが言った直後、最後の本棚が倒れ、大きな音が響く。
「……逃がさないです」
 フェルト・ウェイドナー(ふぇると・うぇいどなー)が、倒れた本棚の後ろから現れる。彼女がこの本棚を倒していたのだ。
「確かに簡単には逃げられないだろうね……でも、こっちもそう簡単には捕まらないよ!」
 歌菜が【光精の指輪】を向ける。
「くっ!」
「うわっ!」
 闇に慣れていたイリス達の目を光が襲う。
「ごめんね!」
 歩夢が振り返り、フェルトに【光術】を放つ。
「あうっ!」
 思わずフェルトが目を覆った。
「今だ!」
 その隙に、アイリがイリス達の横を通り抜ける。
「……しまった!」
 そしてその後を歌菜達と歩夢が通り抜けていった。
「……逃げられたわね」
 漸く目が慣れたイリスが、悔しそうに呟く。
「どうする!? 追いかけようか!?」
「いえ、もう追いつけないでしょうね……次の作戦を練って……」
「イリス、あれ」
 フェルトがイリスの袖を引き、指差す。そこに目をやると、ふわふわと浮いている物体があった。
「ひぃっ! お、お化け!」
「お化けだ……!」
 悲鳴を上げるクラウン。それとは逆に、感動したようにフェルトが言った。
「それがしはお化けではない。こんななりではあるが天使だ」
 そんな2人に、ウーマ・ンボー(うーま・んぼー)が言う。
「あなた、逃げ遅れたみたいだけど逃げないのですか?」
「漢たるもの、引き際というものはわきまえているつもりだ」
 イリスの言葉に、ウーマが言う。
「じゃあどうしたのさ!」
「ふむ、ここを見てほしい」
 ウーマが倒れた本棚を見るように示す。
「……あ」
「どうしたの?」
「……人、下敷きになってるよ」
 フェルトの言うとおり、そこにはアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)が気を失い、倒れていた。
「それがしではどうにもできんのだ」
「まぁ、助けないと捕まえられないですしね」
 そう言って、イリス達が何とかアキュートを引っ張り出した。

「助けてあげましたけど、ペナルティはペナルティなので」
「……まぁ、仕方あるまい」
 助け出されたアキュートは、現在パンツ一丁の格好になっていた。『下着姿で過ごす』というペナルティだ。
「……一つ聞きたい」
「何かしら?」
「この場合、それがしはどうすればいいのだ?」
 そういわれ、ウーマを見る。外見が完全なマンボウであるウーマは、勿論服なんて物を着ていない。
 3人があーでもないこーでもないと話し合う。そして結論を出した。
「「「……放置で」」」
「むぅ……仕方があるまい」
 少し残念そうに、ウーマが呟いた。

――その頃。
――特別教室棟2F、職員室では。

「……誰も居ないね」
「ああ、そうだな」
 エールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)アルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)が、職員室内の物陰を探りながら呟く。
「そして誰も来ませんねぇ……」
 乙川 七ッ音(おとかわ・なつね)が、【狼】を撫でつつ呟いた。
「誰か来ましたかね?」
 マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)がロッカーから出てくるが、エールヴァントと七ッ音が首を振るのを見てため息を吐く。
「来ないのかしら。折角格好まで変えましたのに」
 アム・ブランド(あむ・ぶらんど)ががっかりした様子で机の下から顔を出すと、吸血鬼の格好をした自身を見る。ちなみにマーゼンは某街の悪夢に出てくる鍵爪殺人鬼の格好をしていた。
「そうかもしれないねぇ……」
「えー、折角色々用意したのにさー。入り口に落とし穴とか、ペナルティ用にさー」
 ため息を吐きつつ言った碓氷 士郎(うすい・しろう)の言葉に、白泉 条一(しらいずみ・じょういち)が不満げに言う。
「こっちもだっての……わざわざペナルティ用に【ビキニアーマー】まで用意したんだぜ?」
 そう言うとアルフが何処からか、露出が激しい【ビキニアーマー】を取り出した。
「あ、衣装被っちゃったなー。俺は制服なんだけどさ。男が引っかかったら女子用制服、女子はその逆って感じで」
「後ボクが【鼻眼鏡】持ってきてるんだよぉ」
 条一と士郎が、それぞれ手に持ったペナルティ用アイテムを見せる。
「おーいいじゃんいいじゃん、何だったら全部つけさせちゃえ」
「お、それ面白そうじゃん」
 アルフと条一が盛り上がる。
「ところで、キミ達はどんなペナルティを用意していたのかなぁ?」
 士郎がマーゼン達に話しかける。
「私が【吸精幻夜】を使う予定だったわ」
 アムがそう答えた。
「それ全部引っかかったら相当だねぇ」
「……引っかかったら、ね」
「そうですなぁ……」
 士郎の言葉に、エールヴァントとマーゼンがため息を吐いた。
「……あれ? どうしたの?」
 七ッ音の横で大人しくしていた【狼】が、突如入り口に向かって唸り声を上げる。瞬間、
「え? うわっ!? な、何これ!?」
職員室に入るなり、アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)が条一が設置した落とし穴に落ちる。
――皆の目が、妖しく光った。

 図書室を飛び出し、廊下を走っていたアイリの目に飛び込んできたのは『職員室』と書かれたプレート。
「……職員室、か! あそこに逃げ込もう!」
 荒々しく扉を開き、飛び込む。
「ってうぉっ!?」
そして即座に落とし穴に落ちる。
「な、何だこれ……」
 下半身がすっぽりとはまってしまい、身動きが取れない。

「……う……あ……ん……ふぁ……」

 職員室奥から、苦しそうに喘ぐような声が聞こえてきた。
「……なんだ?」
 アイリが目を凝らして、声のするほうへ目をやる。
「……んふぅ……あなたの血、とても美味しい……あむ……」
「はう……あ……ふぁ……あう……」
 アムに首筋から血を吸われ、アゾートが悶えていた。
「な……」
 アイリが言葉を失う。しかし、それは吸血行為を目撃したからではない。
「な、何、あの格好……」
 アイリが言葉を失ったのは、アゾートの格好であった。
 【男子用制服】の上に、明らかに胸がぶっかぶかな【ビキニアーマー】を着せられ、顔は【鼻眼鏡】がかけられている。
「ぶっ……ぎゃははははははははは! さ、流石にその格好はねーって!」
「ホントホント、ひどい格好だねぇ」
 そんなアゾートの格好を見て、条一と士郎が遠慮なく笑う。
「……ぶっ……くっ……くっ……くぅッ……」
 その横で、七ッ音が必死に口元を手で隠し、顔を真っ赤にして笑いを堪えていた。
「じょ、冗談じゃない……早く逃げないと……」
 アイリが穴の縁に手をかけた、瞬間。
「「いらっしゃい」」
エールヴァントとマーゼンが、アイリの肩に手を置いた。