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【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース

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【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース
【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース 【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース

リアクション

 
 
 
 ■ レース ■ 東ツァンダスーパー林道 〜 ゴール
 
 
 
 ゴール地点には白いテープが張られていた。
 ドラゴンがゴールする瞬間を見ようと、多くの見物客がひしめき合っているのを、獣人の城から依頼された自警団が懸命に交通整理にあたっている。
「見やすいぽいんとで観覧したい気持ちは分かるが、決して道路には出てはならぬぞ。ごーるするため、どらごんは路上へと下りる。そんなところに飛び出せば、大惨事になるでのう」
 歩道の柵を越えようとしている見物客に、サティナはとくとくと言い聞かせた。押し合いへし合いの歩道ではなく、人の空いているところで見たいという気持ちは分かるが、下りてくるドラゴンにひっかけられたりでもしたら大事故になってしまう。
「もう来そうですよ。みなさん柵の内側にいて下さいね。レースを見ている間も、お子さんの手はしっかり掴んでて欲しいのです。もしそれでも迷子になってしまったら、獣人の城でお預かりしてますから、そちらに捜しにくると良いのですよ」
 みーみーみみみー近くにいる自警団から入った連絡に、土方伊織は見物客にそう呼びかけた。
 
 
 東ツァンダスーパー林道では、ポンポンが振られ、チア衣装が翻る。
 チアガールの応援はレースの華。
 桜月舞香、綾乃、奏美凛が息ぴったりの見事なフォーメーションを見せる。
「ここは獣人の村アル! 内に秘めた野獣の闘志を解き放てアルよ!」
 美凛がかけた声援を、その通り、と実況のエクスが受けた。
「いよいよラストスパート! 溢れる闘志でいいレースを見せてね!」
 ゴールはもう目前。
 どの選手もスピードをあげている。
 
「さあ、まず飛び込んできたのは立川るる操るフォレスト・ドラゴン! 何がなんでも突っ走る、ルートはとにかくインコース。分かり易すぎるほどの猛進っぷり!」

 エクスの叫びも耳に入らないくらい、るるはぐるぐる気分でドラゴンを飛ばしていた。
 ちょっと進んではカーブ、またカーブの連続で、頭がぐるぐる、気分もぐるぐる。進めば進むほどにぐるぐる度が増してゆく。
「どっかにこんなジェットコースター無かったっけ? ぐるぐるひたすら左回り……」
「なー、ななんな、なーなーなー!」
 放り出されそうな力に耐えてインコースを回るドラゴンとるるを、ミケが叱咤激励する。
 
「二番手、三番手はほぼ横並び! 激しい競り合いをしているのは、ノーン・クリスタリアの乗るワイバーン『モデラート』、そして月崎羽純選手操るフォレスト・ドラゴン!」

「モデラート、まだ頑張れる? じゃあ一緒に、最後の力ふりしぼろーね!」
 ノーンはモデラートにそう話しかけると、
「いっくよー! モデラート、FULL THROTTLE!」
 これが最後のスパート。モデラートの全力を出し切るように走らせる。
「カーブが多いけどスピードを落としすぎないでね。羽純くんならまだまだいけるよっ」
「そう言ったなら無茶は承知だろうな? 何がなんでも落ちるなよ」
 レースコースの形状からみて、重要となるのはコーナーを回る位置とスピード。コーナーに気を払ってきた2人は、最終局面に入ってからぐんぐんと順位をあげてきている。
 
「四番手、ラルク・アントゥルースとパートナーのアイン・ディスガイス! 派手なぶつかりあいをしたというのに、速さに衰えはなし! 五番手、ミルディア・ディスティンの乗るワイバーン『りゅ〜ちゃん』、疲れは見えてきてるけど、思い切ってコーナーに飛び込む度胸はさすがだね! 六番手、パートナーの黒崎天音を乗せたブルーズ・アッシュワース! あの突風を見事にかわしてからの、加速と小回りを活かしての追い上げ! 目を見張るしかないねっ」

「第2集団以降の走りだって見逃せないものばかりよ」
 観客を湧かせる力は負けていない、とディミーアも先頭集団以外の選手を画面に映し出す。
「中でもそうね、空から滑空……というよりもはや落下の勢いで降ってきたハーリー・デビットソンと南鮪には、観客も度肝を抜かれたわ。こういう興奮はトップ争いとはまた違って盛り上がるものね。
 安定感で言うなら、レリウス・アイゼンヴォルフとハイラル・ヘイルを推したいところね。ドラゴンに乗るのが初めてということもあるのかしら。小細工なしの丁寧な走りで、数々の局面を乗り切っているわ。
 追い上げならやっぱり朝野未沙。余計な装備品をパージしての加速、ぎりぎりで障害物をかわすテクニック、何をとっても素晴らしいものがあるわ。途中、寄り道していたのが悔やまれるわね」

「先頭は獣人の城に到達! そして遂にここがゴール前最後のカーブ! ここを曲がればゴールはもうそこ! 頑張れみんな、あと一息だよ!」
 エクスの声はレースの盛り上がりにつられるように、次第に大きくなってゆく。
「みんなお願い、無事に曲がってー!」
 猛スピードで攻めるドラゴンがカーブへと差し掛かる。ひやりとするような眺めだ。
「……っ! 羽純くん、ぶつかる!」
 ノーンとコースが重なっていることに気づき、歌菜が悲鳴に近い警告を発する。
「モデラート、お願い、かわしてー!」
 衝突は避けたい。けれど無理な動きをすれば勢いで吹っ飛んでしまいかねない。衝突を回避しようとノーンはモデラートの進路を僅かにずらす。羽純が逆方向に進路をずらしてくれたとして、避けられるかどうかは五分五分。
 羽純は迷わなかった。
「歌菜、しっかり掴まっておけ」
 進路を逆にずらすのではなく、フォレスト・ドラゴンのスピードを半ば無理矢理に上げてノーンと距離を空けようとする。遠心力とスピードが負荷となってのしかかり、ドラゴンも乗り手も息を詰めた。
 ノーンが進路をずらそうとしてスピードをセーブしていたのが幸いに、2体のドラゴンは接触することなくカーブを曲がった。羽純はそのままの勢いでゴールを目指す。
「トップが入れ替わったー! 現在のトップは月崎羽純! だけど立川るるも即座に追うっ! 熾烈なデッドヒートだ! そしてここで黒崎天音も一気に追い上げる! 高めにとった高度でカーブを制し、ラルク・アントゥルースと並んだーっ!」
 エクスは息継ぐ間も惜しく、叫び続ける。
「このままなら月崎羽純がトップ! けどまだみんなに勝機はあるよ。とにかく頑張れ、もうみんな、いっけぇぇぇーっ!」
 ゴールまであと数秒。
 けれど、まだるるはトップを諦めてはいない。
 コーナーで無理をした羽純操縦のドラゴンの一瞬のぶれで出来た抜け道を見極め、全力で突っ込んだ。
 
 
 そして――。
 
 「ゴール!」
 白いテープが切れる。
 和泉絵梨奈が両手で思いっきり振ったチェッカーフラッグが翻る。
 黒と白のチェック模様の旗が、風の音を鳴らす。
 
「1着、立川るる、ミケ選手。2着、月崎羽純、遠野歌菜選手。3着、ラルク・アントゥルース、アイン・ディスガイス選手。4着、黒崎天音、ブルーズ・アッシュワース選手。5着、ノーン・クリスタリア選手。6着、ミルディア・ディスティン選手……」
 ゴールした選手の名が呼び上げられてゆく。
「やったー! けどもう頭ぐるぐるだよー」
 目が回りそう、とるるはふらふらになりながらドラゴンから下りた。
「なー! ななんななんななー!」
「ん、ミケ、もうレースは終わったんだよー。だからもう落ち着いて」
 るるに言われても、ミケはまだ興奮さめやらぬ様子で、尻尾をぶんぶんに膨らませている。
「羽純くんおめでとう! 2位だなんて凄すぎるよ。でもここまで来たら1位取りたかったかな、なんてね♪」
 歌菜はおつかれさまと羽純の汗をハンカチで拭いた。
 ラルクはアインから下りると、肩を回す。
「筋肉ががちがちになってるぜ。無茶な飛び方しやがる」
「これしきで音を上げるなど、オレが隠居したからって鍛錬をさぼっているのではないだろうな?」
 ラルクの文句をアインはさらっと受け流した。
 
 
 選手たちがゴールして行く中。
「タックルー!」
 騎沙良詩穂は【獣人文化歴史資料館】前でレースを観戦していたサクラコめがけ、フォレスト・ドラゴンを突進させた。
「ど、どうしたんですか……これは……」
 危ういところでサクラコは避けたが、そこに今度はハーリーのフォレスト・ドラゴンも、自分の加速ブースターと仏斗羽素の推進力を利用して強引にベクトルをゴールラインから資料館へとねじ曲げ、ブーストダッシュで突入してくる。
 大音響が響き、振動が建物を襲う。
 がらがらと崩れた入り口からはもうもうと土煙が上がり、サクラコは咳き込んだ。
「ヒャッハァー! 俺はこのレースに隠されたとんでもねえ事実に気づいちまったぜ! コースのルートの謎。回転方向とか特に臭い。これは魔法陣だな?」
 したり顔で鮪が顎に手をやれば、詩穂もその通りだと自分の推論を披露する。
「古来、渦巻き模様は魔物を迷わせるための幾何学的記号でした。今回のレースのコースは渦巻き状。ならば中心部にはラスボスのような存在がいるはずです♪」
「誰がラスボスですか! そんな理由で資料館を壊したんですか? 誰かが怪我でもしたらどうするんですっ。それに、渦巻き模様がどうであれ、それと資料館に突っ込むのは関係ないでしょう」
 そこに正座! の勢いでサクラコに叱られて、3人……というか2人と1台ははしゅんとうなだれた。
 大丈夫かと様子を見にやってきたチエルが、困ったように苦笑する。
「これは魔法陣とはちょっと違うんですけれど……」
 そう言ってチエルは空を振り仰いだ。
 その視線を追うように空を見上げ、サクラコは不思議そうな顔になった。
「オーロラ……? なんてことないですよね?」
 空に淡く虹色の光がある。全体に広がっているのではなく、ゆらゆらと揺れながら一箇所に集まっているように見える。
 形になっているようで、けれど見定められない虹色の光に、サクラコは目をこすった。チエルはちょっと微笑んで空を見つめ続ける。
「見ていれば分かります。多分……いいえ、きっと」
 
 元気に、あるいは疲労困憊で、選手とドラゴンは次々とゴールしていった。
「けっ、ホレられそこなったぜ」
 優勝したらモヒカンの知名度アップ、モテモテ間違いなし、とはりきったゲブーだったが、途中のトラブルで時間を取られたのがかなり痛かった。全力で頑張っていたホーはさぞや落ち込んでいるだろうと見れば、ホーはラルクやレリウスなど、途中で競り合った選手を見つけては、がしっと握手を求めている。
「あんた、やるのである」
 勝ちたくはあるけれど、強い相手は認め、それに負けた己も認めるのがホーの主義なのだ。
「志方ありませんね」
 志方綾乃とパートナーのラグナは、相手を惑わせたり睨みつけたりと色々小細工を試してみたのだけれど、どれも思ったような効果は出ず、順位はふるわなかった。
「さぁ最後のスパートだぜ!」
 ウルスはフォレスト・ドラゴンを地上へと降ろし、ゴールめがけて最後の見せ場だと加速させたが……着地に失敗したドラゴンは、躓いて地面を転がった。
「痛てぇ……ってテスラ、大丈夫か?」
 テスラに何かあったら、と青くなってウルスは自分の痛みそっちのけで呼びかけた。
「何ともないわ、大丈夫」
 テスラは身を起こすと、転んだままのフォレスト・ドラゴンに触れた。
「さぁ、ドラゴンさんも立ち上がって。転んでも良いのよ。きちんとゴールしましょう」
 フォレスト・ドラゴンに手を貸して立ち上がらせると、テスラはウルスと共にドラゴンを支えるようにしてゴールした。
 
 その間にも、空の虹色は揺らめきながら濃くなってゆき、1つにまとまってゆく……。
 
 
「怪我をしてる人はこちらに来て下さいねー」
 高峰結和は治療用のテントに怪我人を集め、ドラゴンの傷をホースで洗い流しにかかった。
「身体が大きい分、怪我の範囲も大きいですね。痛いかもしれないですけど、きれいにしてから治療しましょうね」
 その結和の様子を見て、明日香は村で借りたフォレスト・ドラゴンの様子を確かめた。危険な箇所もあったけれど、ノルンのがんばりでドラゴンは無傷でレースを完走できた。
「ドラゴンさん、お疲れさまでした」
 撫で撫で、と明日香はフォレスト・ドラゴンをねぎらい、そしてぷにっ。
 ドラゴンを撫でるついでに、さっき出来なかったノルンの頬をつっついて、きょとんとする表情に満足した。
 
 
「これでみんなゴールしたわよん。お疲れさまぁ」
 セラフの知らせに、ゴール地点には改めて拍手がわき起こった。
「じゃあ次は表彰式ですね。こちらへどうぞ」
 チェッカーフラッグを巻き取りながら、絵梨奈は村長が待っている表彰台へと勝者をいざなおうとした。けれどそれをチエルが少しだけ待って下さい、と呼び止める。
「今日の良き日、獣人の村に確かな祝福が与えられました。お気づきの方もいたようですが、このレースの左回りの渦巻き模様は、この村よ永遠なれ、のおまじない。そして多くのドラゴンが渦巻きを辿り、ゴールすることによって……そのまじないは成就したのです。そのしるしが、そこに――」
 チエルが指し示した頭上には、虹色の輝き。
 虹の光が凝って作り上げた形は、村を守るように翼を広げたドラゴンの姿。
「ありがとうございます。そしてどうかこれからも、この『獣人の村』をよろしくお願い致します。多くの人の力が作り上げ、そしてこれからも発展してゆくこの村を――」
 チエルは胸の前で手を組み合わせると、村の永遠を願って目を閉じた――。
 
 
 
 ――ドラゴンレース結果―― 

《1位》 立川るる・立川ミケ
         ……パラミタパビリオン

《2位》 月崎羽純・遠野歌菜
         ……パラミタの伝統パビリオン

《3位》 ラルク・クローディス  《ドラゴネット》アイン・ディスガイス
         ……パラミタの未来パビリオン
 
 
 
 ■ レースの終わりと祭りの続き ■
 
 
 
「みんな、軽く宴席を設けたから良かったらおいでー」
 ルカルカが誘うと、祭りはやはり祭り櫓で、と【祭り櫓】の朝野 未羅(あさの・みら)も皆に呼びかける。
「イベントのお祝いに祭り櫓でお祭りするの。楽しい音楽を流すから、みんなで踊るの!」
「折角のイベントですからぁ、みんなで盛り上がれたら嬉しいですぅ」
 朝野 未那(あさの・みな)もレースの興奮さめやらぬ人々を、気兼ねなく歌って踊って騒げる場所へどうぞと祭り櫓へと案内してゆく。
 ドラゴンレースは終わったけれど、村の興奮は冷めやらない。
 入賞者を祝う声、選手をねぎらう声。
 祭りの興奮に浮かれ騒ぐ人々。
 そんな村の様子を眺めるかのような虹色のドラゴンの幻影は、少しずつ薄れてゆきながら村の空気へと溶けてゆくのだった。