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【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース

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【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース
【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース 【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース

リアクション

 
 
 
 ■ ドラゴンレース ■ スタート! 〜蒼空王国機甲獣人の村本部
 
 
 
 獣人の村を左回りにぐるぐると内に向かうのがこのレース。
 順調に飛べば5分ほどのコースとなる。
「レースに参加する人はこのクジを引いてね。良い場所悪い場所、運も実力のうちってね」
 ルカルカは参加者にくじ引きしてもらうと、等間隔にスタート地点に並ばせた。ドラゴンが空に舞い上がり出発していく様は、レースの最初の見物となるはずだ。
「あ、でもスタート地点の近くに、託児をしてる『こどもの家』があるから出だしは大きな音のすることは遠慮してくれると嬉しいなっ」
「え、だったらソニックブラスターもダメ?」
 ソニックブラスターを通じて龍の咆哮を使おうと考えていた朝野 未沙(あさの・みさ)が、セッティングの手を止めて尋ねた。
「うーん、やっぱり小さい子がたくさんいる辺りだけは、びっくりさせるようなことは避けて欲しいな」
「この手は使えないか……仕方ないわね。ま、いいわ。他にもやりようは色々あるから」
 未沙はどうしようかと次の手を考える。
 そこにテスラ・マグメル(てすら・まぐめる)がお守りを差し出した。
「レースの安全祈願代わりに『キポリの森』特産、キポリの守りをどうぞ」
 テスラはレース参加者全員にお守りを配って回る。お守りから薫る香が選手の気持ちを鎮め、大事故になりませんようにとの祈りをこめて。
「あたしにもくれるの? ありがと」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)はテスラから受け取ったお守りを、ワイバーンのりゅ〜ちゃんに結わえた。
 大切に育ててきたりゅ〜ちゃんに乗れる良い機会だからと、このドラゴンレースに参加を決めたのだが、参加ドラゴンの数が多いのが気に掛かる。
「りゅ〜ちゃんはあたしが守ってあげるからねっ」
 参加するからには優勝を目指す。けれどミルディアにとってドラゴンは守ってあげる対象だから、怪我をさせたりはしたくない。
「お守りもあるから大丈夫だよね! りゅ〜ちゃん、一緒に頑張ろうっ」
 結んだお守りをミルディアは揺らしてみせた。
「ん? これ何かな?」
 その目の前をひらひら横切ってゆく派手な旗に、ミルディアは何が書いてあるのだろうと目をこらす。
「ええっと……『漢の魂【モヒカン】試着コーナー』伝統パビリオンにて開催中……?」
「おう! ドラゴンレースは万博の記念であるらしいじゃねえか。これで展示を宣伝すりゃ、一石二鳥。かまけに優勝すればきっとモテモテあんど展示は満員御礼間違いなしだぜー、がはは、さすが俺様さえてるぜっ!」
 ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)は得意げにお手製の旗を振ってみせた。黒地に白で書き殴ったような文字が躍る旗には、ワンポイントに鮮やかなピンクのモヒカンが描かれている。
「ふっふっふ〜♪ でも優勝するのはあたしだもん。この『氷龍シューティングスターちゃん』に乗って、ぶっちぎりでゴールしちゃうよ♪」
 場を盛り上げる為に、秋月 葵(あきづき・あおい)はハッタリをかまして優勝宣言。最近友だちになったフォレスト・ドラゴンを押し出すように紹介する。
「ぴゃっ!」
 ずん、と前に踏み出した氷龍シューティングスターに、葵のパートナーの魔装書 アル・アジフ(まそうしょ・あるあじふ)が息を呑む。ギロリとドラゴンに睨まれると、アルは慌てて葵の後ろに隠れた。
 ドラゴンに乗ってレースするとは聞かされず、村まで連れてこられたアルはガクガク震えている。逃げ出したいのだけれど、ここまで来て逃げたらレースに出られなくなった氷龍が機嫌を損ねるかも知れないと葵に言われて、仕方なく踏みとどまっている状態だ。
「いやいや、うちのマナさんには叶わないでしょう」
 クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)はドラゴネット『巨大マナ様』に変身したマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)を自慢げに見上げた。今回のマナの服装は、フォレスト・ドラゴンって何をデフォルメした着ぐるみパジャマ風。
「かけっこなら誰にも負けないのだっ!」
「手足は短いですけど、持久力なら負けません。あと、可愛さだって負けません!」
 ずんぐりむっくりのマナだけど、見た目のキュートさならダントツだ。そう言うクロセルに葦原 めい(あしわら・めい)が反論する。
「可愛さだったら、『緑のウサちゃん』がトップだよ!」
 めいが連れてきた自分のフォレスト・ドラゴンはたれ耳だ。キラーラビットのバリエーション機を村のイコンにと推していたのだが、それが叶わなかった代わり、めいはドラゴンにウサちゃんという名をつけた。
 パートナーの八薙 かりん(やなぎ・かりん)と共に、バニーガール風パイロットスーツを身に纏い、ビジュアルからしてレースに勝つ気満々な様子が見てとれる。
「可愛いと言えば、ノルンちゃんですよ〜」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)もこれだけはと主張するが、名前を出されたノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)は、え、と驚いた顔になる。
「あの明日香さん、何か間違ってませんか?」
「何も間違ってないですよぅ」
「私はドラゴンではないです。褒めるなら村で借りたこのドラゴンにして下さい」
「じゃあドラゴンも可愛いですよ〜。これはおまじないですぅ」
 明日香は村のフォレスト・ドラゴンをパワーブレスで祝福した。
「うぬ、様々なドラゴンがいるようだが、オレは負けぬ。ここは負けてなるものか!」
 皆の様子を眺め、闘志をたぎらせたホー・アー(ほー・あー)は、ゆくぞとゲブーを追い立てて、自分のスタート位置へと向かった。
 
 
「すまねぇなアイン。引っ張り出しちまって」
「まったく、隠居してたと思ったらこれだ。少しは父親を敬え」
 ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)に無理矢理連れてこられたアイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)は、やれやれと肩をすくめた。村のフォレスト・ドラゴンを借りることも出来るのにと言うアインに、それではダメだとラルクはかぶりを振る。
「知らねえドラゴンとレースに出てもしょうがねえだろ。見せてやろうぜ! 俺たちの絆を」
「ま、参加するには1位を取らないとな」
 来たからには力を尽くそうと、アインはドラゴネットへと身体を変化させた。
 
 今回のレースに参加するドラゴンは、ドラゴネット、ワイバーン、そして獣人の村の名物でもあるフォレスト・ドラゴンの3種。
 村がフォレスト・ドラゴンを貸し出してくれるというので、ドラゴンに乗ってみたかったレリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)も、選手に名乗りをあげた。
「ドラゴンかあ……手綱は任せた」
 ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)は生き物に騎乗するのはこれが初めてだ。勝手が分からないからと、フォレスト・ドラゴンの操縦はレリウスに任せることにした。レリウスはドラゴンマスターな上、そこに至るまでにもビーストマスターやナイトを経てきている。その過程で乗馬もしているし、生き物にもある程度慣れているだろうと考えたのだ。
「なあレリウス、バランスは小型飛空艇みたいな感じでいいのか?」
「そうですね、共通する部分は多いと思います。違うのは、大きさ、スピード、そしてドラゴンは個々の意思がある生き物だ、ということでしょうか」
 レリウスはフォレスト・ドラゴンに触れると龍の咆哮で意思疎通をはかってみた。鳴き声で返してきたドラゴンはかなり闘争心が旺盛で、今すぐにでも飛びたいとレリウスをせかすように首で押してくる。
「かなり気性が荒そうだな……大丈夫なのか?」
「制御を失敗しなければ、ですね」
「失敗したら……ってそんなのはやってみなきゃ分からないか。ま、そっちはレリウスの仕事だ。オレはいつものように、コース取りや気流を読むほうでサポートするからな」
 そう言うハイラルに、お願いしますと答えながら、レリウスはドラゴンが少しは落ち着くかと、馬にするように首を軽く叩いてやった。
 
 鬼院 尋人(きいん・ひろと)は村のフォレスト・ドラゴンを借りる際、村人にドラゴンの名を尋ねた。
「こいつはカトゥスだ。やや臆病なところがあるが、頭の良い奴なんだ」
 村人に教えられた名で呼ぶと、ドラゴンは首を下げた。タシガン馬術部の部長をしている尋人は、馬に関しては慣れているがドラゴンに関しては、パートナーの呀 雷號(が・らいごう)のレッサーワイバーンを借りて時々乗るくらいだ。ドラゴンの様子に詳しくはないが、じっとこちらを見つめてくるカトゥスの目は落ち着きはあるが、内に秘めた闘志を覗かせているように見える。
 尋人よりはドラゴンに慣れている雷號は、あれこれと村人にドラゴンのことを聞いて頭に入れておく。
「他のドラゴンとの距離が詰まりすぎるのを嫌がるが、自分である程度は判断して避けてくれる。大事に飛ばせば、そこそこ良い成績が出せると思うが」
「そうか。ありがとう」
 もとより雷號は無理をするつもりはなかった。おそらく混戦となるこのレース、尋人や借りたドラゴンにケガをさせるわけにはいかない。
 何頭のドラゴンがレースに参加するのかと雷號が目で数えてみれば22。これだけのドラゴンが一斉に村内の道を駆けるのだ。建物や障害物、他のドラゴン等、衝突の可能性はかなり高くなりそうだ。
 そろそろ皆がスタート位置についたとみて、ルカルカは壇上から声を張り上げる。
「もう一度、コースを確認しておくよ。くじ引きで決まったスタート位置から出発して、村をぐるぐると左回りに内側へと進んでいって、ゴールは【獣人文化歴史資料館】の前。ゴールには白いテープが張ってあるから、すぐに分かると思うよ。スタートとゴールはお客さんが見やすいように地上だからねー」
 ダリルから渡された説明事項の紙をチェックしながら、ルカルカはレースのルールを再確認していった。
「曲がるところは赤い布を結んだポールが目印。レースのコースは基本は道路の上。だけど施設の上ぐらいまでなら、はみだしてもオッケーだよ。もしコースを外れたら外れたところに戻ってからレース続行ね。他のドラゴンを攻撃するのは禁止だよっ。あくまでこれはレースなんだし、村から借りたドラゴンや同乗してくれる村の人に怪我をさせるわけにはいかないからねー。ルカもカルキも不正がないか空から見張ってるから、正々堂々でよろしくっ」
 このレースは万博行事として、3位までに入賞出来ればパビリオンに得点が加算されることになっている。
 自分たちの応援しているパビリオンの為にも入賞をと思えば、選手にも力が入る。
「スタートとゴールが地上だし、途中で『みどりの家』のアーチをくぐってもらうから、高く飛びすぎるとロスが出ちゃうから注意だよ。それに、お客さんからも見辛いから高さはそこそこでお願い。低い分には地上を走ってもらっても構わないけど、その場合は歩行者に絶対接触しないこと」
 これで良かった? とダリルに目で尋ねてから、以上、とルカルカは説明を終えた。
 かわってチエルが壇上に登ってマイクを握った。
「お集まりの皆様、ドラゴンレースへのご参加ありがとうございます。地球人ならびにそのパートナーの方々のお陰で、一度は滅びた獣人の村も、また新たな形で蘇ることが出来ました。皆様の作り上げたこの村でのレース、きっと良きものとなってくれると信じています。どうか怪我にはくれぐれも気を付けて下さいね。レースをされる方も見る方も楽しめる催しとなりますように」
 ぺこりとお辞儀をすると、チエルは壇を下りた。
 入れ替わりにルカルカが壇に戻る。
「じゃあ、みんな位置についてー!」
 号令をかけると、選手はドラゴンに乗り込んだ。
 南 鮪(みなみ・まぐろ)は村でレンタルしたフォレスト・ドラゴンの背で、威勢良く声を張る。
「ヒャッハァー! ドラゴンども、これは空京大分校の入学試験の一環と思え! 空京大分校に来てグレーターフォレストドラゴンになって貰うぜ」
 ドラゴンのメインドライバーは鮪ではなく、パートナーのハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)だ。ハーリーの外見はとげとげしいデコレーションのされたバイク型。その為、フォレスト・ドラゴンの背にバイクが乗るという実にシュールな見た目となっている。
「ドルンドルンドルンドルン、ドッドッドッドッド、ブォンッ!」
 自分が直接地面を走らないレースはいつもと勝手が違うが、そのエンジンの派手なふかしっぷりに、どんなレースであろうとも全力を尽くすとのハーリーの意気込みが表れている。
「はい、静粛にー! いっくよー。よーい…………」
 ルカルカの撃つピストルの音と共に、ドラゴンたちは一斉に駆け、宙へと羽ばたいた。
 
 
 
「獣人の村ドラゴンレース、遂にスタート! 速い速い、まずぐんとスタートダッシュで飛び出したのは、立川るる、ミケの乗るフォレスト・ドラゴン! 初っぱなから仏斗羽素でぶっとばしー! 次いでノーン・クリスタリアの乗るワイバーン『モデラート』! その後に、朝野未沙のワイバーン『ヤクト』、メリッサ・マルシアーノの『レイズ』。スタートダッシュはワイバーンやや有利だね」
 先頭集団を実況するのは、青のパワードスーツのエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)だ。いよいよ開始されたレースに興奮を隠せない様子で、勢い込んで実況する。
 仏斗羽素を使用したるるは、外周の長い直線をぐぐっと豪快に駆け抜けてゆく。重心を思い切って左にかけ、ドラゴンの左側は地面すれすれに飛ばす。
 逆に、未沙は建物に引っかかるのを避ける為、ある程度の高さを保ってヤクトを飛ばしている。
「モデラート、ここは頑張って。どんどん小回りになるコースなんだから最初に猛ダッシュかけておかないと、取り返せなくなっちゃうからねー」
 ノーンは御神楽陽太から助言されていた通り、序盤戦でダッシュをかけて先頭集団に加わっていた。
「地上では可愛い応援がされてるよ。ここから聞こえるかな?」
 首を傾げたエクスに代わり、赤のパワードスーツのセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)が地上の様子を解説する。
「じゃあ中継こっちにもらうわねぇ」
「こどもの家『こかげ』前では、子供たちが応援してるわよん。こんな応援、良いわねぇ」
「参加者のみなさん、音に関するご協力ありがとうございました。どうかご健闘を!」
「がんばれー!」
「すごいすごいー!」
 子供の家『こかげ』前にはネージュを初めとして子供たちが並び、目の前を猛スピードで飛ぶドラゴンたちにわぁわぁと口々に声援を送っている。
「あれなにー?」
 子供たちが指さす方向では。
「万博に来たら漢になれる展示にくるといいんだぜー!」
 ゲブーがモヒカン試着コーナーの旗を振って宣伝しつつ、ゲブーがホーの頭のモヒカンを掴んで駆けてゆく。
「えっとあれは……そうね、もう少し大きくなってから知れば良いことだと思うわぁ」
 ドラゴンレースを見物に来たら子供がモヒカンにしたいと言い出した、なんてことにならないようにと、セラフはさりげなく子供たちの興味を別方向へと誘導した。
「あらん、何か聞こえない?」
 歌が近づいてくる。
 フォレスト・ドラゴンに乗った騎沙良 詩穂(きさら・しほ)の歌声だ。
 歌いながらレースをするのはかなり大変だが、秋葉原四十八星華のリーダーとしては歌わないわけにはいかないからと、詩穂は歌声を響かせながらドラゴンを駆っている。
 ドラゴンのスピードは速い為、沿道の人にはそれが何の歌なのかまでは分からない。けれど、小さく歌声が聞こえたかと思えば、見る間に大きくなり、また消えてゆく……そんな歌を耳にすると、見物客は皆、誰が歌っているのかと頭を巡らせて声の主を捜した。
「歌いながらなんて余裕あるわねぇ。さあ、そろそろこちらは最後尾かしらん」
 レースの最後尾には志方 綾乃(しかた・あやの)ラグナ・レギンレイヴ(らぐな・れぎんれいぶ)の乗るフォレスト・ドラゴンがいた。
 序盤は熾烈な団子争いになると踏んで、巻き込まれるのを防ぐ為にわざと後方の位置につけているのだ。
「衝突してスタミナを消費だなんて、馬鹿馬鹿しいですしね」
 ドラゴンの操縦者である綾乃は手綱を絞り気味にして、スピードを抑えている。速く走ることに集中するのではなく、自分が借りたドラゴンや他のドラゴンの癖や感覚を掴むように五感を働かせている。
「途中でバテるのもそうだが、逆にスタミナを温存したまま負けるのも避けるべき事態だ」
 蛮族連中には負けられない、とラグナはあらかじめ頭に叩き込んでおいた建造物の形状や順番を確認しながら、ペース配分を行い、それを綾乃に伝えた。
 
 
「さあ〜、ばっちり撮影するわよ〜」
 レストラン・シュクレクールでは、チャティーがビデオカメラを構え、レストランをかすめるようにして飛ぶドラゴンをしっかりと収めた。道に面した窓という窓からは食事をしていた客が顔を覗かせ、レースに見入る。
 スタートしたドラゴンはまだ帯状になっており、集団として固まってはいない。
 息をつく間もなく、目の前を横切ってゆくドラゴンたちに、チャティーのビデオカメラを持つ手にも力が入った。
「どのドラゴンも頑張れよー!」
 ステアが窓から大声でレースに参加しているドラゴンたちに声援を送った。
 
 
「そろそろ先頭は、最初のカーブ! おおっと立川るる、全くスピードを落とさずにインに突入したーっ!」
 レース先頭では、エクスが全身でレースを解説している。レース実況をしているヴァルキリー三姉妹の中では末っ子のエクスだけが目立って小柄だが、それを補うほどのオーバーアクションで臨場感を煽る。
 
「わざわざアウトコースを行くなんて愚の骨頂!」
 ぐうっとるるは一層左に重心をかけた。傾いたドラゴンはまるで壁を走るがごとく、カーブを描いて最初の曲がり角を疾走してゆく。飛行機が曲がる為にロールするのと同様の、見事なドラゴンさばきだ。
「わぁ、なんだか気分いいー!」
 とにかくどんどん行こうー、とワイバーンの『レイズ』を進ませてきたメリッサが、ぐっと身体にかかる遠心力を楽しみつつ、そのすぐ後につけている。
 そして次の未沙、ミルディア、ノーンはほぼ同時にカーブへと進入した。
 誰もが良いコースで曲がりたい。
 だがそのラインこそ、最も他のドラゴンとぶつかる可能性の高いルートとなる。
 コース取りの有利不利と、ドラゴンへのダメージ、あるいは接触によるタイムロスを秤に掛けて、瞬時にルートを判断しなければならない。
「りゅ〜ちゃん、気をつけてっ」
「モデラート、危ないよー?」
 接触しそうになったミルディアとノーンがワイバーンを庇って進路を譲り、その間を未沙がさっと抜けてゆく。
「そこだ、つっこめ、ホー!」
 ゲブーの戦術はただ1つ。モヒカンと漢なら突撃あるのみ、だ。
 何が何でも全力前進。難しいことは無し。力ずくでひたすら突き進む。
「よしきた。オレのパワーに物言わせてやろうぞ」
 ドラゴネット形態のホーがインぎりぎりに定めた進路は、ラルクがドラゴネットと化したアインと目指したラインと同じ。
 ぶつかる!
 だがどちらもひるむことも避けることもしない。ホーとアインはまともに衝突した。
 ドラゴネット同士の衝突だ。ズシンと走った振動に観客がざわめく。
 放り出されそうになったゲブーは、ホーのモヒカンにがしっと掴まった。手の中でぶちぶちと何かが千切れるような感触がしたようだが……まあ、気にしないでおこう。
「ぐは、やったなてめぇ!」
 ゲブーが怒鳴ると、衝突ダメージに耐えながらアインが言い返す。
「すまないな。これもレースなんでな」
 大きくバランスを崩したアインは、体勢を立て直そうと身をねじった。その所為で乗り手のラルクが半ば背から落ちかかるが、アインはそちらには全く気を払わない。そんな柔な鍛え方はしてないだろうと、アインは乗り手の安全やバランスなど一切考慮する必要無しとの考えだ。
 ならば意地でも落ちまいと、全身に力を込めながらラルクは不敵に笑った。
「攻撃したい訳じゃねぇが、たまたまぶつかっちまうのはご愛敬、ってな」
「ちくしょー、何があってもインは譲らねえぞ。おら、気合い入れろ、ホー!」
 レースよりも目先のイン争いにムキになったゲブーが指示するまでもなく、ホーは歯を食いしばってコースの維持につとめている。
「負けぬ。ここは負けてなるものか!」
 その攻防に、観客の目は釘付けだ。
「ディミーア、コーナーの様子を教えてくれるかしらぁ?」
 セラフに振られ、緑のパワードスーツのディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)がそれを受けて解説する。
「はいはい、了解よ。第一コーナーで繰り広げられているイン争い。片やパラ実のゲブー、ピンクのモヒカンと宣伝の旗はどこにいても見分けが付くわね。ただひたすらまっすぐ突き進む作戦の結果はどうでるのかしらね。もう片方は空大のラルク。こちらもかなり思い切った飛び方をしてるわね。だけど新婚さんが怪我なんかしたら大変なんじゃないかしら? おっとー、再び両者激突! なんという闘い、なんという迫力! ……と思ったら、もう1人ー!」
 他の選手は回避してゆくのに、押し合う2人の外側から、騎沙良詩穂がインに切り込んできて、ラルクの乗るアインを押した。
「くっ……」
 不屈の闘志で傷は軽減しているが、ただでさえバランスを取りかねていた所に加えられた力までもは防げず、アインは内側に……ゲブーの乗るホーにぶつかった。
 ホーは建物に取り付けられた補強の木材に押しつけられ、ばりばりと木っ端を飛ばした。
「なんだ? やろうってのかこのヤロー!」
 ゲブーの罵声に詩穂は笑う。
「激しいぶつかりあいもレースの華だよ。下の歓声、聞こえない?」
 ドラゴン同士のぶつかりあいに、見物客は道路にまで乗り出す勢いで観戦している。
 今日の警備の為にかり出された自警団が道路に出ないようにと警告する声や、それにかぶさる観客のわめき声がどよめきとなって上空にまで届く。
 ダメージを受けながらもコーナーを曲がると、詩穂は観客へと手を振り、再び歌声を響かせるのだった。