リアクション
● つくづく、口は災いのもとだと四谷 大助(しや・だいすけ)は実感していた。 「こ、怖くない! 怖くないわよ、この程度の森なんかっ! ふん! た、ただ、くく、暗いだけじゃない!」 台詞では凛々しいことを言いつつも、パートナーのグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)は、大助の腕にくっついて離れない。 「おいグリム……そんなにくっつくなよ、動きづらいだろ」 「……っ! …………っ!!」 「七乃も顔にしがみつくな。前が見えないだろーが」 もう一人の大助のパートナーである四谷 七乃(しや・ななの)は、大助に肩車されながら、ぎゅっとその顔にしがみついていた。 肝試しに参加したのは、そもそも大助がグリムゲーテに『お前、怖がりだから肝試しとか無理だろ?』と言ったのがきっかけだった。キッと大助を睨んだグリムゲーテは、彼を見返すために七乃を連れて、肝試しの参加を決めたのだ。 冷静になって思い返せば、彼女なら確かにそうする。大助はいますぐ数時間前の自分のもとに帰って、『頼むから、グリムを挑発するのはやめてくれ』と忠告したい気分でいっぱいだった。 そんな後悔を抱きつつも、こうして肝試しは順調に進む。 そして、お化けも順調に現れていた。 「きゃーっ! 嫌ぁーっ! 破邪必滅!」 「うわぁっ! い、いま剣が耳を掠ったぞ! いだだっ!? 七乃も髪を引っ張るな!」 「…………っ!」 お化けが出るごとに、グリムゲーテは逃げるではなく、抗戦を選択して剣を振りまわす。 二、三度ばかりそんなことが怒ったあとで、大助はグリムゲーテに忠告した。すでに、彼の頬には血の線が5本ほど走っていた。 「あのなぁ、グリム。肝試しで剣を抜いたら負けだ。その時点で、お前は怖がってますってことになるんだぞ」 当然、グリムゲーテはそれを受け入れるのをためらっていた。だが、大助への強がりもある。結局は、渋々それを受け入れた。 七乃に関しては、とりあえず声を我慢しているだけマシだと大助は考えた。それに、彼女は妹のようなものだ。髪を引っ張られるのは勘弁だが、まだ可愛らしい部類だろう。 ――そんなことを思っていたのが間違っていた。 「あ……あ……もう、やぁーーーーっ!! ますたーーーーっ!!」 「どわあああああぁぁぁ!」 あまりにもお化けのクオリティが高すぎたせいか、七乃の恐怖が限界に達して、彼女は雷を放つ魔法を全力投球した。 人魂を浮かべていたスタッフや、お化けの工作員が魔法にふき飛ばされる。ついでに、大助もそれに巻き込まれた。 だが、それが功を奏したか。 ふき飛ばされたお化け工作員が持っていたカメラに、グリムゲーテが気づいた。映像をチェックすると、そこに映っていたのは怖がるグリムゲーテを下から覗きこんだもの。彼女の恥ずかしい部分が接写されていた。 「大助? 盗撮は、肝試しに含まれない、わよね?」 「は、はいっ……」 グリムゲーテの怒りのオーラを感じ取って、大助は慌てて返事をした。 「……聖剣よ」 ゆらりと、グリムゲーテはお化けたちの前で剣を構えた。彼女の背後では、真っ赤な炎が燃え上がり、怒りの眼光が輝きを放っていた。 「黒印家当主の名の下に断罪を!」 「ぎゃああああああああぁぁぁ!!」 断末魔の叫びが森に響き渡る。 大助はぷるぷると震える七乃にその光景を見せないように、彼女を全身で庇った。そして、彼はお化けたちに同情して愁傷さまと両手を合わせ、彼らの無事を祈った。 ● |
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