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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ

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【蒼空のフロンティア秋祭】秋のSSシナリオ
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リアクション

 小春日和の麗らかな秋の日。
 その日、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)ジーナ・竜胆(じーな・りんどう)のふたりは、空京へとやってきていた。
 普段は亜空間に在る喫茶店でマスターと店員をやっているウィングとジーナだけど、今日は買い出し。コーヒー豆に、ケーキの材料、足りなくなってしまったカップやソーサーと、メモを片手に買ってみれば結構な量になっていた。二人で手分けして持っているが、特に豆や食器類は重たい。
「ちょっぴり、疲れましたね」
 はあ、とジーナが呟いた。重たい荷物はほとんど、一歩先を歩くウィングが持ってくれているとはいえ、かなり歩き回った所為で足がぱんぱんだ。
「……公園、か」
 ふと、ウィングが足を止めた。その視線の先には、美しい紅葉に染まった木々が茂る、広々とした公園。
 その木々越しに、広げられたいくつもの白いパラソルが見える。
 それから、ふわりと微かに紅茶の香り。
「少し、寄っていくか」
「あ、はいっ」
 突然進行方向を変えるウィング。ジーナは慌てて後を追う。
 煉瓦で作られた門をくぐると、紅茶の香りに混じって、甘い香りが漂ってくる。
 ジーナがあ、と「それ」に気付いた。
「青空喫茶、でしょうか?」
 外から見えたパラソル群の足元には、まっさらな白木のウッドテーブルとチェアのセットが並べられている。その中心には、可愛らしいデザインの小さなワゴン。中段には色とりどりのケーキが並び、上段には湯気を立てるポットと様々な紅茶の瓶、それからコーヒーポットが乗っている。
 テーブルセットには数組の女性達が着席していて、その周囲では、黒いワンピースに白いエプロンをした、典型的なウェイトレス姿の女性達が注文を取ったり、ケーキを取り分けたりと賑やかに動き回っている。
 天気は快晴、風は穏やか。外でティータイムを取るには良い日和だ。
「他店のメニューを調査する良い機会だな」
 ウィングは少し表情を緩めると、寄っていこう、と空いているテーブルに腰を下ろした。はい、と笑ったジーナも向かいの席にちょこんと腰を下ろす。
 メニューとかは……と視線を巡らせるジーナの元へ飛んできたのは、ウェイトレス姿のルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)だ。ちなみに、今日は臨時のお手伝い。
「いらっしゃいませぇ」
 おっとりとした声で新しいお客様に歓迎の挨拶をすると、ルーシェリアはどうぞ、とメニューを差し出す。
 どうやら期間限定の臨時営業らしく、渡されたメニューは紙をラミネートしただけのもので、そう、学校の文化祭ならこんな感じのものが出てくるかな、という雰囲気。回りのお客さんはあんまり気にしていないみたいだけれど、同業者としてはつい厳しい目で見てしまう。
「お勧めのケーキとコーヒーを」

「じゃあ、私はイチゴのムースとダージリンを」
 ひとまずざっとメニューに目を通してから、ふたりはそれぞれに好みのものを注文する。
 ルーシェリアは手にした伝票に
ちょこちょこと注文を書き留めると、にっこり笑って、ありがとうございまぁす、とお辞儀して、ワゴンの方へと戻っていく。
 白いワゴンでは、長い髪を一つに束ねた、店員の中では割と年長の女性がせっせとケーキを取り分けたり、紅茶を注いだりしている。紅茶は茶葉が色々と用意されているが、コーヒーはどうやらブレンド一種類だけのようだ。
 コーヒー党としてはちょっとつまらないかな、と思いながら、ついつい店員の動きや用意している食べ物、飲み物の質に目を光らせている自分がいることに気付いて、ウィングは内心苦笑した。
 そこへ、銀のトレイを持ったルーシェリアが戻ってきて、手際よく二人の前にお皿とカップを並べていく。
 店舗……というか、ワゴンとパラソル、テーブルセットはどこか急ごしらえ感が否めないけれど、お皿とカップ、ソーサーのセットは本格的だ。
「ウィング?」
「ああ、いや。いいカップだなと」
 職業病ですね、とクスクス笑うジーナに軽く咳払いで答えてから、二人はそれぞれのケーキにフォークを入れた。
 マスターのお薦め、として運ばれてきたのは果物をふんだんに使ったタルト。ほろりと崩れるタルト生地に、バニラの香るカスタード、特製のシロップに漬け込まれた果物が仄かな酸味と華やかな香りを添えている。
「ほう……ケーキはなかなか……だが、コーヒーはイマイチのようだな」
 タルトをひとくち、それからコーヒーをひとくち飲んだウィングが、やっぱり同業者の視線で呟くと、隣のテーブルを拭いていたルーシェリアがこちらを向いて、申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「ごめんなさぁい、マスターの専門はお菓子と紅茶なんですぅ……」
「そうか……それは、残念だな」
「でもたしかに、紅茶はとっても美味しいです」
 残念そうに手元のカップに視線を落とすウィングに、ジーナは自分のカップを差し出す。
 一口貰ったウィングは、ほう、と感嘆の声を漏らした。
「確かに美味いな……」
 どこの茶葉だ? と興味深げに問いかけるウィングに、ルーシェリアはちょっと待って下さい、とマスターと思しき女性の元へ駆けていく。

 こぢんまりとした青空喫茶は、お客さんは多くないけれど、その代わり店員も少ない訳で。
 慌ただしいと言うほどではないけれど、数人しかいない店員さんはなにくれと自分の仕事に没頭している。
「ルーシェリア殿、がんばっていますね」
 ルーシェリアのパートナーであるアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)は、駆け回っているパートナーの姿を見ながら、手元の紅茶を一口啜る。
 ルーシェリアから誘われて遊びに来たのだけれど、誘った本人は忙しそうにしているし、やることも無いのでこうしてのんびりとしている。
 ポットでサーヴされている紅茶は、しかしもう半分以上無くなってしまった。
 ケーキもあと一口で、その一口が今、フォークの上に乗っている。
 ぱくり。
 舌の上でふわりと解けるスフレ・チーズケーキは絶品だ。アルトリアはほう、と溜息を吐く。
「アルトリアちゃん、ケーキのおかわりは?」
 丁度そこへ、手が空いたのだろうか、ルーシェリアがひょこりと顔を出した。
「い、いや、別に、ケーキに惹かれて来たわけではありませんから」
 流石に二皿は食べ過ぎだろう、という恥じらいが邪魔をして、うん、とは言えない。
 ルーシェリアはサービスしますよぉ、と言うけれど。
「ケーキが目的では、ありませんから」
 大事なことなので二度言った。
「そうですかぁ……他のも美味しいのに」
 ルーシェリアの言葉にぐらっと、ぐらぐらっと来る。思わず、そんなに言うなら……と、口が滑りそうになった瞬間。

「おねーさーん、おかわりちょーだぁい!」

 公園中に響くんじゃ無かろうか、という大きな声に呼ばれて、ルーシェリアはぱたぱたと行ってしまった。
「あ……」
 ちょっぴり、後悔するアルトリアだった。