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【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!

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【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!
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―第四章―
 ハロウィンパレードに様々な山車が出るのと同じで、観客として来場した者達もその楽しみ方は様々である。
 パレードの通り道を挟んで賑わう道には、恋人とのデートであったり、屋台を堪能する観客達がいた。

 顔が見えなくなる位の深めのフードが付いたローブを着て、手にランプを持つ、大鎌こそ持って来なかったものの見事に死神の仮装をした笹野 朔夜(ささの・さくや)は、春の妖精さんをイメージしたらしいピンク色の衣装に白いタイツ、それにピンクの羽を付けたアンネリーゼ・イェーガー(あんねりーぜ・いぇーがー)と共に、ゆっくり歩きながらパレードを見物していたのだが、その道沿いに出たネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)の屋台『煤沙里』を見つけた、甘い物に目がないアンネリーゼが一目散に駆け出したため、朔夜が手を引かれる感じで屋台に立ち寄ったのである。
 アンネリーゼさんの頭には、先程朔夜が付けてくれたお友達から貰った白と黄色の花びらが交互についたガーベラの花を模した花ヘアピンが付けてある。
「いらっしゃいませー」
 普段が魔法少女とは思えない程、よく似合う黒尽くめの魔女の仮装をしたネージュが、立ち寄った二人に挨拶する。
 ネージュの屋台で販売されていたのは、『ジャック・オ・ランタンのプリンパイシュー』を筆頭に、シナモンやハーブを効かせた、かぼちゃやおばけなどの形のアイスボックスクッキー等であり、甘い物に目がないアンネリーゼは陳列されたお菓子に心を奪われていた。
「とりっく・おあ・とりーと!」
 アンネリーゼがネージュにそう挨拶すると、朔夜が微笑み、
「あーちゃん。それは今言う台詞ではないですよ?」
「えー、だっておばあ様? こう言わないとお菓子が買えないんじゃ……?」
 二人のやり取りを聞いていたネージュが頭に?マークを浮かべる。
「……おばあ様?」
【光術】で人魂のような物を作り出して周りに飛ばし、死神っぽい格好こそしているものの、朔夜はその2メートル近い身長から見ても男性である。
「ああ……すいません。私は今、私であって私じゃないんです」
 フードの下で朔夜の口元が微笑む。
「随分、気合の入った仮装をしているのね」
 ネージュがそう言うと、朔夜は首を振る。
「中身は別ですから……」
 実は、朔夜の体は奈落人である笹野 桜(ささの・さくら)が憑依したものである。桜は、朔夜の体に憑依して、孫娘同然に可愛がっているアンネリーゼと一緒にパレードに来ていたのであった。
 その朔夜本人は桜に体を貸しているので【テレパシー】、【精神感応】等の精神に直接話しかけるスキルを使って貰わないと桜以外の人とは会話が出来ない状態である。(尚、体は朔夜のため、以後桜も朔夜として描写しています)
 朔夜の体に憑依した桜に、朔夜本人が話かけてくる。
「(桜さん、紛らわしい事言って……ホラ、店員さんが困ってるじゃないですか!)」
「(朔夜さん、本当に困るのはこれからです。見てごらんなさい。あーちゃんの今にも涎を垂らしそうなあの幸福そうな顔を……)」
「(!? 桜さん……まさか……)」
「……?」
 首を傾げるネージュの前で、朔夜は未だ響く朔夜本人の声を無視して財布を取り出す。
「あーちゃん。好きなものを買ってあげます。どれがいいですか?」
「おばあ様、本当!?」
「(やはり……そう来ましたか。桜さんはこの子に甘すぎですよ!! ……でも、俺もそれは既に見越していましたけどね)」
「ふ……朔夜。喚いても遅い。既に財布は俺の手にあるの……」
 朔夜が朔夜本人の財布を開く。
「(……少なくない?)」
 見ると、必要最低限くらいのお金しか入っていない。
「(桜さん……そう来ると思って、俺は財布に入れる金をわざと少なくしておいたんです!)」
「(!!)」
 朔夜がブツブツと何か言ってるのを横目に、アンネリーゼがネージュにオススメを聞いている。
「魔女さん、どれが美味しいですか?」
「どれも自信作だけど、あたしの中ではコレね」
 ネージュが指さしたのは、昨年ネージュがハロウィンパティシエコンテストで作った、『ジャック・オ・ランタンのプリンパイシュー』である。
「コンテストでは入選できなかったけど、すっごく美味しいわよ! あまり数が作れるものじゃないから、残りも少ないし」
「マズい……」
 朔夜が呟いた一言に、ネージュとアンネリーゼが振り向く。
「おばあ様?」
 朔夜の体に憑依した桜は、朔夜本人と激論を繰り広げていた。
「(私としては、あーちゃんが楽しんでいるかどうかが最重要なのです!)」
 桜が言うと、朔夜本人も言い返す。
「(楽しむのは良いですが、無駄遣いはよくないですよ。第一、先程も何か凄い買い方しようとしたでしょう!?)」
「ちょっとそこの死神さん? まだ食べない内から酷評は酷くない?」
 ネージュが言うと、朔夜(の体を借りた桜)が、フードの上から両耳を塞いで、
「あー、あー、聞えませーん♪」
「……」
 眉を八の字にしたネージュに、アンネリーゼが言う。
「魔女さん、大丈夫ですわ。今、お兄様とおばあ様がやり合っているだけですから」
「……精神分裂?」
 アンネリーゼが朔夜の裾を掴み、ニコリと微笑む。
「お兄様? わたくし、おばあ様に言われて沢山、お父様に貰ったお小遣いを持ってきましたし、大丈夫ですわ」
「(え?……桜さん? 何を言ったんです?)」
「(私が屋台で買い物をする為のお金を、朔夜さんに使えなくされても良いようにと、あーちゃんにはお小遣いを持って来るよう、来る前にアドバイスしたんです)」
「(……先に言って下さい。ほら、ネージュさん。絶対俺の事疑ってますよ?)」
「(私のせい?)」
「(はい……)」
 その後、朔夜(の体を借りた桜)が、「実は……」と憑依されている事をネージュに話す。
「……まぁ、信じておくわ(ハロウィン特有の悪戯の線も捨て切れないわ)」
と、ネージュが頷く。
 その時の三名の絵は、傍から見れば、「妖精姿のアンネリーゼをいくらで買うか?」の密談をしている死神と魔女そのものであった。
 朔夜とネージュの話が終わった後、アンネリーゼがネージュに言う。
「こっちの端から向こうの端まで1個ずつ下さいな!」
「あーちゃん。いいの? 『目指せ、ハロウィン屋台全制覇っ! なのですわ!』とか言ってた目標失いそうだよ?」と、朔夜がそう聞こうとするが、それより早く、ちみっこアクマちゃんな感じの扮装をした人物が月光を浴びて飛んでくる。
「なんてお店の方に言ってみたいですわね♪」と言ったアンネリーゼの言葉がその人物の言葉にかき消される。
「くーわーせーろーーー!!」
 フーフーと息荒く飛び込んできたのは、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)であった。
 四つん這いの姿勢で着地したクマラが、ゆっくりと立ち上がり、アンネリーゼをビシィと指さす。
「おまえ!! 屋台でじゃんくなフードを満喫するオイラの前で、屋台全制覇! とか、端から端まで全部とか……好敵手(ライバル)か強敵(とも)か!?」
「……は?」
「クマラ! あまりお嬢さん達を困らせたら駄目だぜ?」
 ヴァンパイアの仮装をしたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)がクマラの後から遅れてやってくる。その顔はやや呆れ気味である。
「すいません。ウチのお子様にもお菓子を売ってあげてくれませんか?」
 エースがネージュにいつもとは違う、紫色の魔界の花を手渡す。
「いいわよ。でも……出来るなら味わって食べて欲しいわね」
 ネージュが外見上、同じ位に見えるアンネリーゼとクマラを見て呟く。
「味わうのは当然だけど、オイラはそれだけじゃないよ!」
 クマラが紙で作ったひまわりっぽいおっきい花をパッと、お菓子を袋詰めしていたネージュに見せる。
「何? このお花は?」
「これは、美味しかったフードの屋台にオイラが付けてあげる「お勧めするにょ」の花飾りだよ! 花の下に紙を付けて「お勧め屋台フード」ってでっかく書いてあげるよっ☆」
「へぇ……それはいいかもね」
 ネージュが花を見てクマラに微笑む。この花を作るのをクマラに手伝わされたエースが、味のある顔で二人を見つめている。
「ただ、財力にものを言わせて食べるだけなんて、グルメとして駄目なんだよ!!」
 クマラの挑発に、アンネリーゼが金のロングウェーブの髪を掻き上げて微笑み返す。
「そこの小さいお方?」
「なっ!? オイラ小さくないよ! 身長139だぞ!?」
「わたくしは143ですわ。いいこと? 世の中の真なるグルメは、各々得意分野を持っていますわ。すなわち、わたくしは甘い物。しかし、貴方はどう? ただの雑食はグルメにあらずですわ!!」
 今度はアンネリーゼがクマラをビシィッと指さす。
「う……だけど、オイラは好き嫌い無いし、これまでも出された物は絶対完食して、料理人の粋に応えてきてるんだもん!!」
 クマラとアンネリーゼがやりあう後ろでは、朔夜(の体に憑依した桜)とエースが和やかにパレードを見物している。
「はい……ちびっ子さん達。とりあえず、あたしのお菓子食べてから対決してよ。あ、お代は後ろの保護者さん達から貰ってきてね?」
「……」
「……」
 クマラとアンネリーゼが自分たちより遥かに小さいネージュにそう言われて閉口する。
 こうして、クマラとアンネリーゼの味の表現バトルは急遽始まったのである。