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リアクション
―第一章―
シャンバラ中に広がったハロウィンパレードの開催の噂の影響か、多くの来場者を集めたハロウィンパレード。
セシルの空中ショーの次に現れたのは、他のイコンより当社比4割増しで、闇夜に英国の国旗が浮き出る様な電飾の飾り付けを行ったHMS・レゾリューションである。
その電飾は、魔王様ちっくな衣装を着用し、レゾリューションの背中に設置された玉座の上に座して悠然とギャラリーを睥睨するグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)に因んだものである。
「妾のレゾリューションをパレードに? おお、やろうではないか!」
グロリアーナの許可なく出撃させる事は出来ないとすら言われ、自分の半身の様に大切にしている愛機は、パレードに出られると聞いてノリノリでデコレーションしたためか、電飾を飾り付けるついでにチャッカリ万国旗ならぬ四国旗(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)も飾り付けてある。
「こうした催しも中々どうして、やってみると面白い物だ。イコンが一同に会し壮観ではないか」
後続のパレードの光の列を見て、満足気に頷くグロリアーナ。余談であるが、彼女は容姿・背格好全てが契約者のローザに瓜二つなイングランド女王エリザベス?世の本霊である。
レゾリューションの外部スピーカーからはノリノリな音楽が大音量で流れている。その音楽は、サブパイロット席に設置したターンテーブルで、パレード中の機体コントロールと並行しつつ、ノリノリでDJよろしくレコードを回しているローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)によるものであった。ローザマリアは、今回のパレードに参加すべく、半月と30人も契約しているパートナー達の生活費から娯楽用のボーナスを切詰めてレゾリューションを改造していた。
ローザマリアのコスチュームは、ピンク色のウィッグを被りセクシーな衣装に身を包んだもの。一言で言うと、一昔前に流行った音声合成デスクトップミュージックソフトウェア(DTM)のキャラクター、M・ルカを模したものである。
飾り付けを手伝ったレゾリューションの頭部の先端に腰掛けた、大天使の仮装をしたフィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)が、ギャラリーにを見降ろしつつ手を振ったりする。フィーグムンドは、元々天界から堕ちて堕天使になったと言われている悪魔ゆえか、天使の衣装も堂に入った感じで神々しささえ漂わせギャラリーを魅了する、と同時に、機体に十円傷を付けようとする不届き者が出て来ないとも限らない為、同じ様に観客に手を振るカイサ・マルケッタ・フェルトンヘイム(かいさまるけった・ふぇるとんへいむ)と共に見張っていた。
「ちょっと頼むよ?」
フィーグムンドがカイサに後を任せ、操縦席に戻る。イコンは二人でなければ満足に性能を発揮出来ないため、万一に備えてグッロリアーナと交代で小まめに状況を確認しに行く。
行進を続けるレゾリューションの揺れも何のそので跳ねるように戻っていくフィーグムンド。
「ん?」
ふと、上空を見上げると、小型飛空艇オイレがこちらへ飛んでくるのが見える。その機体の動きは酔っぱらいの千鳥足に近い。ただ、それよりも高速ではあるが……。
「私達の方が順番早いはずなんだけれど……」
少し前、ローザマリア達の後方の上空を飛ぶ飛空艇オイレでは、自分で所有しているゴスロリ服そのままのシスターの姿のパピリオ・マグダレーナ(ぱぴりお・まぐだれえな)が、執事服を活用したヴァンパイアの衣装姿アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)に抱きつきながら、
「テ〜ッツァ!!、ぱぴちゃんは踊れる曲がいいなぁ。ほら、あの下の地球人みたいなぁ」
と、前を行くレゾリューションを指差す。
困惑の表情を見せるアルテッツァ。
そんなパピリオに、海賊のコスプレ、といっても普段着に海賊帽をかぶり玩具のサーベルを刺しただけのヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)が言う。
「アンタ、あんな音楽の何がいいのよぉ!? 所詮、電子音楽じゃない?」
「エェー!? だって、超ノリノリじゃん?」
普段は天御柱学院で音楽の非常勤講師をしているレクイエムがやれやれと両手を広げて首を振る。
「うーん、大荒野だからねぇ。だからあたし達もクラシックをノれるようにアレンジした曲をするんじゃないの?」
「むー」と不満気な表情を見せるパピリオをアルテッツアがなだめつつ、レクイエムに話しかける。
「でも、本当に久しぶりですね、このような衣装で演奏するなど。……そうは思いませんか? ヴェル?」
アルテッツアの問いかけに、懐かしそうに目を細めるレクイエム。
「そぉねぇ、アタシは魔道書になる前はアンタが持っていたスコアだったもの。でも、アンタが旅芸人のステージに立っているときは、置いてきぼりだったからわからないわぁ」
「ところでヴェル、何を演奏すれば良いんですか?」
「モーツァルトでもヴィヴァルディーでも構わないわよ。でも、アタシだけは勘弁してよね!」
「そうすると、『魔笛』のパパゲーノあたりでしょうかね?」
と、フィドルを手にするアルテッツア。フィドルとは一般的に「ヴァイオリン」と言われる楽器と構造が同じではあるが、一部では「ヴァイオリンは歌う。しかしフィドルは踊る」と称される魅力を持っていた。
すっかり音楽の話に華を咲かせる二人に飽きたのか、パピリオは小型飛空艇の操縦席へ戻っていく。
「パレード中は、アタシは歌を歌うことに専念するわ」
レクイエムの言葉に、アルテッツアが「楽しみです」と頷く。
「でもねぇ、あまりにもヘタッピな歌が聞こえてきたら、【怒りの歌】でどやしつけるか【激励】で一喝してやるわよ! 美しくないものは却下よ!」
「ヴェル……それはちょっとまず……ぅわッ!?」
「きゃー、な、何?」
グラリと大きく揺れる小型飛空艇。
アルテッツアが「パピリィ!?」と視線をやると、操縦席で舵を切るパピリオが二人に笑顔で手を振る。
「えーと、ぱぴちゃんは、この小型飛空挺オイレを使って、踊ってみることにしたの〜」
「は?」
「アクロバット飛行とか、【鎖十手】をうまく使って手すりにつかまって一回転とか〜。たぶん、特技の【舞踊】使えば、ちょ〜っとムチャしてもヘ〜キかなぁ?」
「ヘーキじゃないわよ!!」
「もう遅いよー。じゃ、レッツゴー!!」
「パピリィ! ストップ、ストォォーーップ!!」
悲鳴に近いアルテッツアの声は、「ひゃっは〜♪ アゲポヨ〜!!」と、叫ぶパピリオの声にかき消される。
―――グルンッ!!
空中で一回転する小型飛空艇。
「うわああぁぁぁぁーーー!!」
「きゃあぁぁぁーー!?」
アルテッツアとレクイエムが空へ放り出される。
「キャハハハ……あれ?」
パピリオが観客席の揉め事を仲裁している三鬼に目をとめる。
「ねぇー、テッツァ? あそこで警備してる〜ガクランの男の子の名前に突っ込んじゃダメなのぉ〜?」
元の姿勢に小型飛空艇を戻したパピリオがアルテッツアに呼びかけるも、船内に彼の姿は既に無かった。
サブパイロット席のローザマリアは、外の観衆に起きたどよめきに満足そうな笑みを見せる。
「ズバリ私の仕掛けがウケたようね。恐竜型(?)のヴァラヌスに外せない物と言えばこれ。口の部分からスモークが噴射されるように改造し、ギャラリーの前に来て首を振りながら口を開閉しスモークを噴射する演出よ!」
頭部に腰掛けていたカイサが振り落とされないように必死に捕まっているともいざ知らず、ローザマリアは自信に満ちた顔をして、次にかけるレコードを漁りだす。
「ローザ?」
「あら、フィー?」
ヒョイと顔を覗かせたフィーグムンドが、ローザマリアにレコードの指定を告げる。
「一応、あるけど。そんなクラシック、どうするの?」
曲名に首を傾げながら、言われたレコードを探すローザマリア。
「昔とった旅芸人時代の杵柄で、クラシカルクロスオーヴァー風に名曲をアレンジしましょう、だって」
手を止めたローザマリアがフィーグムンドに聞く。
「……それ、誰の台詞?」
「空から落ちてきたイケメンとオカマ」
「本当は山車作りや警備をしてみたかったのですが……国軍の軍服を見ると斬りかかってしまいそうで……」
フィドルを持ったアルテッツアが頭に出来たタンコブをさすりつつ、ベースギターの調弦をしていたグロリアーナに苦笑する。
「そなた、教導団に何か恨みが?」
「ええ。ちょっと私怨があるんです」
グロリアーナは「ふむ」と少し何かを考える。
「それにしても、えーと、テューダー君でしたっけ? こんなクラシックをその若さでよくご存知ですね」
「その昔、教養で身につけたのだよ」
「もう、アンタ達! 演奏前に雑念を入れると、集中できないわよ!」
レクイエムが二人を軽く叱咤する。
やがて、ローザマリアがセットしたクラシックレコードが、妙にビートの利いたアレンジで外部スピーカーより大音量で流れだすモーツアルト作曲の『魔笛』。
歌い出すレクイエムに合わせて、アルテッツアのフィドル、グロリアーナのベースギターが荘厳でテンポの良い音楽を生み出していく。
遅れて現れたフィーグムンドとカイサもその音楽に手拍子で加わり、観衆もそのリズムに乗って行く。
いつ終わるかわからぬ音楽と共に、レゾリューションは行進していった。その上空に浮かぶ小型飛空艇オイレの中では、パピリオが聞こえてくるリズムに合わせて足踏みしていた。
「テッツアもやるじゃん! でも、あの人達ってぇ、確かテッツアの嫌いな教導団じゃなかったっけ? ……ま、お祭りだから細かい事はいっか!!」
そう言って、リズムに合わせて小型飛空艇をアクロバットに動かしながら、レゾリューションの上空を共に行くパピリオであった。
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