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リアクション
「さて、お二人さん。戦況は不利。此処で無理に戦っても得策じゃないわよ」
「待ってくれ、それじゃあ――」
「ウォウルなら平気じゃないかしら。ラナロックのあの様子じゃ、私たちに目が向いてるしね、寧ろ此処で戦えば、ウォウルに流れ弾が当たる」
何やらブツブツと独り言を言っているラナロックに一度目をやると、セレアナは再び一同へと向き直り、言葉を続ける。
「そうか。俺たちが此処から離れれば――ラナロックさんも着いてくる!」
「御名答。さぁ、行きましょ! 君のパートナーちゃんも、立ち直る時間がいると思うのよね」
セレンフィリティは、フィアナの足元に落ちていたランドグリーズを拾い上げ、俯いたままのフィアナに差し出した。
「…………私は」
「細かいことは気にしない! あたしは事情を知らないし、それをどうこう言う気もないの。ただ、今はアンタの力が必要なのよ」
「……………………」
「受け取って。みんなの為に、そして貴女の為に。受け取りなさい。それを握るか、それを手放すかは握りってから考えることよ。きっとね」
セレンフィリティの横からセレアナがフィアナに近付き、彼女の肩に手を乗せる。
「……………はい」
未だに決意の決まらぬ顔で自ら戦友を受けとる彼女に、なぶらは押し黙ったままに視線を向けていた。
「さ、行きましょ! あの鬼みたいになった御姉様が追いかけてくるわよ」
苦笑しながら、セレンフィリティが三人の先頭に立って走り始める。
「出来れば追いかけてきて貰いたくは、ないもんだねぇ…………」
なぶら同じく苦笑を浮かべながらセレンフィリティの後を追った。こうして四人は二階へと登っていく。先程セレンフィリティとセレアナがいた二階へと。
「マァァァテぇよぉぉぉぉ!!! こっちぁまだ体ガ痺れて動けケねぇェェンダヨぉぉぉ!!!!!」
がしゃり――。人が倒れる音ではない音が響き、ラナロックが体勢を崩して倒れている。
「っひゃっヒャッヒャっひ!!! もう良いィィィ! みんナぶっ殺してやるよぉおぉっぉ!!!」
彼女がセレンフィリティの放った弾丸を受けたのは左足の太股。故に立っている事が困難となり転倒している。彼女は這いずりながら四人が向かったエスカレーターへと向かっていく。とーー。
「すまんな、相棒。今の貴様ではこの体が持たんのだ。此処は一度、再起動するがいいーー」
何やら電子音がなり始め、這いずっていた彼女はそこで動きを止める。二階に上がった彼女は、そこで一時的に気を失うのだーー。
◆
ルイ・フリード(るい・ふりーど)は、例によって道に迷っている。しかもその迷っている場所は――
「楽しいはずのショッピングモールが…………何が起こっているのでしょうか」
所々の照明は消えており、周囲には誰一人としていない通路。彼は恐る恐る歩き回っている。
「もし何かが起こっているとすれば――はぁ…………セラには迷惑かけちゃいますね…………」
肩を落としながら歩き続ける彼はそこで足を止める。
「シャッター? はて、もう営業時間外なのでしょうか。そんな時間では……ない筈ですが」
先に進めない為にその場で足止めさせられている彼は、近くの店にある時計へと目をやった。時刻は十三時三十二分――店じまいにはまだ早い。
首を傾げて再びシャッターへと視界を戻した彼は、シャッターの向こうから声を聞く。決して此処の従業員ではない声。
「この声は――」
息を大きく吸い込み、自分の存在を知らせようとしたルイは、吸い込んだ息を声に変換しようと口を開いたところで停止する。それは驚きからだ。
なんと彼の前、数センチ先に嫌な光を放つものが、シャッターから飛び出てきたのだ。随分と強引にそれが横へと移動し始め、彼の鼻頭をかすめていった。幸い怪我はしていない様だが、精神的に相当負荷がかかったらしく、恐ろしいほどの汗をかいている。
「あ、あれ? 何してんだ? そんな大口開けて」
「何してるって………私たち逃げ遅れた人を助けに来ているんですよ? 海くん」
海の言葉にツッコミをいれる柚。ルイの前には、外から侵入してきた海たちが現れたのだ。
「か、海くん!? それに皆さんも! いやぁ、助かりましたぁ! 私迷ってしまったんです。どうやって此処から出て良いか困っていまして。それに、この事態は一体何なのです?」
はっとしてルイが口を開くが、質問が矢継ぎ早の為に海たちが返答に困っていた。
「ま、まぁ………帰り道は確保してあるから安心してくれよ。事情は――時間がかかるんだけど、聞くか?」
「えぇ、一応気になるので。と、皆さんは此処へ何をしに?」
「人命救助、だな」
黙っていたカイが無表情のまま返事を返す。
「何ですと!? 誰かが危機に晒されているのですか?!」
その言葉に対し、海が今までの経緯を説明しな始める。初めは帰ろうと思っていたルイではあるが、共に来ていたパートナー、シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)と合流する、といことで海たちに付き添っていた。
「成る程。では、私もお手伝いしましょう! セラと合流しなければなりませんし、途中で逃げ遅れた人がいれば助けましょう!」
「そいつは助かる、よろしくな!」
「えぇ! それでは海くん、皆々様、また後程!」
そう言うと、交差している通路の、海たちとは別方向へと向かうルイ。どうやら別行動を取るらしく、海たちはその後ろ姿を見送った。
――数分後――
「困りましたね、こんなことならば海くんたちと共に回るべきでした………」
連面と続く通路、その片隅で、辺りを見回しながら歩き続けるルイは、再び道に迷っていた。
「セラにはなんと詫びれば良いのでしょう………困りました」
と、彼は突如開けた視界に足を止めた。周りの様子を見渡し、おそるおそる足を踏み出した彼の足に、何やら感触が伝わる。
「うん? これは――な、何ですと!?」
横たわり、呆然としているウォウルの姿。それを見たルイが彼の横にしゃがみこんだ。
「大丈夫ですか!? お兄サン!」
「……………………………」
声はなく、ウォウルは瞳だけを力なく動かした。
「良かった、まだ息はありましたか。喋らなくて結構、その状態で話をしろ、というのは些か酷と言うものですから」
が――。
「う………貴方も、逃げ遅れた………方、で………す、か?」
すきま風の様な呼吸音。既に声は殆ど出ていない。
「駄目です、喋ってはいけませ!」
「早………………く、逃げ…………………」
「な、なんと言う…………貴方、このままでは死んでしまいますよ! それを逃げろとは」
ウォウルは言葉なく、うっすら笑みを浮かべて彼の肩に手を置いて頷くだけだ。
「そんな事は出来ません! ………上着、貴方のものではなさそうです。と、言うことは海くんたちの他にもまだ――………」
「ルぅーイぃー!!」
ウォウルへと注意を向けていたルイの背後から、不意に声が聞こえる。それは先程まで彼が探していた存在。パートナーのセラエノ断章。
「セラ! 事情は後です! 早く此方へ!」
「はっ!? えっ何々!?」
ルイがあまりにも真剣に声を挙げた為、文句も早々に彼等のもとへとやって来たセラエノ断章は、両手で口を押さえた。
「…………………………!? ……………ルイ、この人…………」
「まだ意識はあります。しかし呼吸がおかしいのです! せめて回復魔法を」
「う、うん…………」
動揺し、震える手をウォウルに翳したセラエノ断章は回復魔法を唱え、それをウォウルへと施し始めた。若干の発光が暗闇を照らし、ぼんやりとウォウル、ルイ、セラエノ断章の顔を照していた。と、彼女の翳している腕を、紅が掴む。
「ひゃっ!? ………何、何っ!?」
「落ち着きなさい、彼です」
ルイは若干パニックに陥っていたセラエノ断章に声をかけた。
「貴方たち………どれだけお人好し、ですか。僕の事は良いと――」
「それはこちらの台詞ですよ。貴方は、此処まで怪我をしながら逃げろとは。とても正気の沙汰とは思えません」
「フフ………それは良く、言われますよ………ゴホッゴホッ!……」
「ま、まだ喋っちゃ駄目だよ! 回復魔法だって、完治する訳じゃないんだよっ!?」
「優しいですね、でも…………大丈夫です、から………………」
セラエノ断章の制止を振り切り、ウォウルは立ち上がった。
「あ、ががっっ…………………ぐぅふううぅぅぅ……………」
立ち上がれば勿論、傷口から鮮血が溢れ出る。痛みに耐えながらよろめく彼は、しかしそこでルイの手によって抱き上げられる。
「な、何を――」
「それは貴方だっ!! 先程から同じことを言わせないでいただきたいっ! 今の貴方は無力なのです、無理に動けば命を落とす! 命を粗末にしてはいけません!」
真剣な眼差しで、ルイはお姫様だっこで抱えるウォウルを見つめて言った。暫く驚いていたウォウルは、何やら観念したのかクスクスと笑い出す。
「わかりましたよ……………お言葉には甘えさせて貰い………ましょう。ただ…………」
「ただ、何ですか?」
「この抱きあげ方は、拒否しても………良いですかね」
「………っ!? これが一番安定するのですよ!?」
「ならば、降ろして………ください。もう、無理は、しません……から」
苦笑するウォウルを、しかしもとの場所には戻さず、近くのベンチまで運んで横にさせる。
「セラ、続き、御願い出来ますか?」
「わかった! ウォウルさん、だっけ? もう脅かさないでよ!?」
ルイの言葉が効いたのか、ウォウルは苦笑とも取れる笑顔で一度、セラエノ断章に返事を返した。
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