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オオカミさんにご用心

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オオカミさんにご用心
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「よっ! なんだ久し振りだな。2人ともお風呂から上がったところか」
 樹が更衣室からほぼ同時に出てきたクロス・クロノス(くろす・くろのす)カイン・セフィト(かいん・せふぃと)に話しかけた。
「あ、林田さん。お久しぶりです。はい。女湯気持ち良かったですよ」
「男湯もまあまあだった」
 クロスとカインは声でもかけあって出てきたようだ。
「そうか。私もアキラと二度目のお風呂に行こうとしてたんだが……揚羽蝶、ちょっと私と一緒に飲まないか? ここで会ったのも何かの縁だしな」
「良いんですか? 私は嬉しいのですが、せっかく温泉にきたのに……」
「良いんだ、気にするな。さあ、私たちの部屋で飲もう!」
 樹はクロスの肩を組むと部屋へと戻って行ってしまった。
 残されたのは樹と一緒に来ていた章とカイン。
「緒方さんって医学に詳しかったですよね? ちょっと俺も聞いてもらいたい話があるんですが……良いですか?」
 真剣な様子で章に迫るカイン。
「良いよ。じゃあ、セフィトくんたちの部屋に行こうか」
「ありがとうございます!」
 2人も部屋へと戻っていったのだった。


 樹とクロスが樹の部屋に到着すると、中にはふてくされたジーナと、今にも寝そうな衛がいた。
「樹様!? どこ行ってたんですか!? 気が付いたら置いてけぼりなんて寂しいですー!」
 ジーナはそう言いながらも、入ってきた2人のためにお茶をいれ始める。
「ん? なんだ? あっきーはどうした?」
 眠たそうに欠伸をする衛。
「そういえばいないな。きっとあっちはあっちで男2人で話してるんじゃないか?」
「そうか……じゃあ、オレもあっちに行こうかね」
 衛はクロスから部屋の場所を聞くと、欠伸を噛み殺しながら部屋を出て行った。
「で? 揚羽蝶何があった? 何か悩み事でもあるんだろ?」
 樹はジーナから受け取った湯呑みのお茶をすするとそう切り出した。
「そ、そんなに顔に出てました?」
「いや、そうじゃない。なんとなくだ」
「その、実は夏にカインから告白されて恋人同士になったんです」
「おおー。めでたいじゃないか。まあ……かくいう私もアキラと……なんだが……」
 樹はハートの機晶石ペンダントを胸元から取り出すと、いとおしそうに見つめた。
「そうなんですか!? 緒方さんと?」
「ああ、その……求婚された」
 樹はちょっと頬を染めると、ぷいっと横を向いた。
「おめでとうございます〜。それなら相談しやすいです」
「なんだ?」
「相談というのは……その……林田さんはどうやって2人の時間を作ってますか!?」
 真剣な瞳で見つめるクロス。
「他に3人のパートナーがいるので、なかなか時間を作れなくて……」
 クロスはしょんぼりと下を向いてしまった。
 突然、うんうんと話を聞きながらお気に入りの缶紅茶を飲んでいたジーナがその紅茶を吹き出しそうになる。
「はぁ〜、お2人とも大変……って、いつの間に樹様とアホ餅そんな事になっていたんですか!? はっ!! もしかして最近、みんなで買い物に行ったりすると樹様と餅が一緒に迷子になっていたりするのは……!!!」
「ジーナ!? どうしてそれを!?」
 樹は恥ずかしそうに頬をかいた。
「なるほど、その手がありましたね!」
 クロスは身を乗り出した。
「ああもう! 恥ずかしくてたまらん! ほら、飲め!!」
 樹は持参していた日本酒を鞄から取り出すと、クロスに盃を渡し、日本酒を注いだ。
「はい、いただきますっ!」
「どれ、私も」
 樹は自分の盃にも日本酒を注ぐ。
「ああ、今夜は良い月見酒だ……」
「本当ですね……」
 2人が盃の中の月に見惚れていると、2人の体からオオカミの耳としっぽが生えてきた。
「た、大変ですっ!!」
 それを見ていたジーナは慌てて男部屋へと駆けて行った。


 部屋へ駆けつけたカインは今にも(色々な意味で)襲い掛かりそうなクロスを担いで自分たちの部屋に戻っていった。
 部屋からはジーナも衛もいなくなっていた。
「カイン〜……久々に2人きりだね〜」
 入るなりいきなりクロスに抱き着かれ、しりもちをつくカイン。
 クロスはそのカインの膝の上に乗っかる形になっている。
「ど、どうした!?」
「ん〜……だって、2人きりになりたくて、なりたくて……どうすればいいのかわからなくて……」
「わかった! わかったからとりあえずどいてくれませんか?」
「いや」
 そう言うと、クロスはカインの顔に自分の顔を近づける。
 どうしようかと迷っていたカインだったが、寸前でクロスの動きが止まり、そのままカインの上で崩れ落ちた。
「くぅ……」
「クロス! クロス!? ……なんだ、寝たのか……」
(……助かったけど、残念なような……もうちょっとだったんだけど……はぁ……)
 カインはため息をついたのだった。