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リアクション
13
地下墓地一階。
この地下墓地は、最も古い協会幹部らが眠っている。十字架や卒塔婆のようなものはなく、ただ石板にその人の名前と生没年、人によってはメッセージが添えられているだけだ。
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)の三人は、進んでここの守りを引き受けていた。
対するはカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)とジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)だ。気が付いたら闇黒饗団に勧誘され、成り行きでここまで来ていた二人は、決して魔法協会や契約者たちと事を構えるつもりはなかった。後々のことを考え、フードを目深に被り、顔を隠している。また、なるべく口を利かないよう心掛けていた。
「いきますぅ」
メイベルはセイバーだが、魔法も若干使える。【護国の聖域】で魔法防御力を上げ、ナイトのセシリアと、ローグのフィリッパが狭い場所を有効に使い、身軽な装備で魔法を使われるより速く動き、叩いて離脱する――ヒットアンドアウェーの戦法を取ることにした。
一方のカレンたちは、コンジュラーとトレーダーだ。加えて、相手をなるべく傷つけないように……と考えていた。
セシリアがジェットハンマーを振り回す。フィリッパが「聖剣エクスカリバー」で切りかかる。それをどうにか躱し、ジュレールは【エイミング】を使った。
機晶キャノン零式から発射されたエネルギー弾が、距離を取ったセシリアとフィリッパに襲い掛かる。
「きゃあっ!」
「ああっ!」
「セシリア! フィリッパ!」
心を無にして戦っていたメイベルも、仲間二人がやられては心穏やかではいられない。
魔力が強まる世界なら、魔法を使うべし。
メイベルは【氷術】を使おうとして、気づいた。
「聖女の衣」が燃えていた。
「大変!」
手の平で消そうとしたが燃え広がる一方だ。仕方なく、使いかけの【氷術】で消し止めた。
――と、目の前にジュレールがいた。
大きく飛び上がり、両手を組み合わせ、強く握りしめている。
「すまんが、眠っていてくれ」
がつんっ、と側頭部を力いっぱい殴られ、メイベルは意識を失った。
カレンは息をついた。やはり気分のいいものではない。
「もう二度とやりたくないな……」
焔のフラワシが消える。大規模な戦闘で使わずにすんでよかったと、心の底から思うカレンだった。
地下墓地二階を守るのは、ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)とトリア・クーシア(とりあ・くーしあ)、それに相田 なぶら(あいだ・なぶら)と木之本 瑠璃(きのもと・るり)の四人。
対するは黒羽 シァード(くろばね・しぁーど)とティルナ・レイ(てぃるな・れい)、そして饗団の魔術師である。
「魔法使いである僕の本気を見せる時が来たようだね!」
などとユーリは言っているが、実はメイドである。トリアはパートナーが無茶をしないか心配でならなかった。
全身を黒で統一したシァードは、いかにも「魔法使い」のように見え、トリアは警戒した。しかし実はサイオニックで、ティルナはユーリ同様、メイドだ。
一方、
「ぐむむむ、敵に攻撃が届かないのだ! アレ凄く厄介なのだ!」
瑠璃が饗団の魔術師を睨んで地団太を踏んだ。既に何度か攻撃をしているが、グラップラーである彼女の技は、全て自動防御術式に遮られてしまっていた。
「焦るな、瑠璃。力で押し通そうとせず、上手に使う方法を考えるんだ」
と、なぶらはアドバイスしたが、目の前のそれは確かに厄介だった。なぶらはパラディンだ。彼が魔法を使えば対等に戦えるだろうが、それでは瑠璃のプライドが傷つくし、何より戦力にならないのは今後、困る。
「トリア、やっちゃって!」
ユーリがビシッ! と指を差す。
「分かったわ!」
トリアが【火術】を使った。
シァードは【フォースフィールド】を発動、クロスした両腕で衝撃を堪える。燃えはしなかったが、身体中が一瞬、沸騰するかのような熱を感じた。
「くっ……!」
「シァードさん!」
ティルナは咄嗟に【子守歌】を歌った。
「それなら負けない!」
と、ユーリも【子守歌】を歌いだす。双方、子守歌合戦である。この戦いは、僅差でティルナが勝った。ユーリがうとうととし始める。
「ユーリ!!――何てことを!!」
怒りの余り【雷術】を使おうとしたトリアだったが、直後、抱きかかえていたユーリの顔がどろどろに溶けるというおぞましいものを見てしまった。
「いやああ!! ユーリ! ユーリ! 何てこと!」
シァードとティルナは呆気に取られた。二人は何もしていない。トリアは眠っているユーリを抱きしめて、何か喚いている。
「どういうことだ?」
シァードの問いに、ティルナは答えを持たなかった。
ほぼ同時に、なぶらたちと魔術師の決着もついた。
なぶらのアイデアで、瑠璃は【神速】を使って一気に魔術師に近づいた。魔術師はにやりと笑っている。気に食わない笑いだ。
近づいた後は、触れるか触れないか、という軽い力で魔術師のローブを掴んだ。――掴んだ瞬間、自動防御術式が発動した。だが、発動から実行までは時間がかかる。瑠璃はその隙に魔術師の関節に己の腕を絡めた。そこまではよかった。
次に魔術師の関節を外そうとする前に、術式により、瑠璃は弾かれた。
ただし腕を絡めたままだったので、魔術師の関節も大きな音を立て、彼はその場にしゃがみ込んだ。
「やった!」
地面に引っ繰り返った瑠璃に、なぶらは親指を立てた。
なぶらの【ヒール】を受け、瑠璃は立ち上がった。
その時、何とも言えないおぞましさを感じた。何やら皮膚がざわざわと総毛だってきた。そこにティルナの【子守歌】が染み込んでくる。なぶらと瑠璃はすうっと夢の世界へと誘われていった。
一行が三階へ降りた後、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は【光学迷彩】を解いた。【その身を蝕む妄執】と【アボミネーション】がかなり有効に働いたようだ。
彼はここに来るまでに、協会の幹部何人かへ同じことをし、尋問した。
エレインが時折一人で墓地へ降りて行くのは、幹部なら誰しも知っていることだった。だが、彼女がどの墓へ行くのか、何しに行くのかは誰も知らなかった。そこで手掛かりは切れた。
こうなれば、饗団に頑張ってもらうしかない。
ザカコは、再び姿を消した。
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