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古戦場に風の哭く

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古戦場に風の哭く

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第九章 古戦場に、風のなく
『なぁ好敵手よ。幕引きを頼んでも、良いか?』
 月が、消えようとしていた。
 清々しい空気に満たされていく村で、政敏は『ともよ』と呼ばれ、頷いた。
 その眼差しが声音が、告げていた。
 信じていると、だからもう終わりにして欲しい、と。
 逃げるのではない、村人を仲間を率先して連れていきたいと、それが最後の役目なのだと。
 何度も何度も心を交わしたからこそ、分かった。
「政敏。『使いなさい』」
 だからリーンに促された政敏は、光条兵器を手にし。
「貴方が出来なかった事は俺が代わりに成していく」
 言葉にし、約束した。
「……いつか、同じ様に護りたいと願う人に、貴方を誇ろう『すごい人が居たんだ』と。その人達の中にも貴方達の志が受け継がれ生きていくように」
 振り下ろした光の軌跡。
 全ての未練から解き放たれた魂は、淡い光に包まれた。
「もう、時間のようだな」
 最後は疾風突きで……グロリアーナはこの演出された死闘に終止符を打った。
「手合わせ、大儀であった――もうよい、存分に休め」
 耳打ちすると、戦士はふと口元を緩めた。
「貴方様は、わたくしの善き儕(ともがら)でした――来世では毘沙門天の御加護が在らん事を」
「貴方の想い、背負う事は出来ないけど……一緒に持って行くわ。そして、忘れない――この村を護ろうとして命を擲とうとした、勇敢な貴方達の魂を。だから……お休みなさい」
 頃合いを悟り、菊とローザマリアもまた決着を付け。
 そうして戦士たちは満足げに目を閉じ……その身体の輪郭を無くした。
「これで終わりよ」
 セレアナは【光術】の目くらましを喰らわせ、【シーリングランス】で一気呵成に攻め立て……止めを刺した。
『中々、楽しい死合いだった』
『今まで生きてきた中で……否、死んでからも一番、滾ったぞ』
「ええ、あたしも楽しかったわ」
 セレアナと並び立ったセレンフィリティは、楽しそうに笑う戦士達に笑みを返し。
 ようやく重い荷物を下ろす事を許された彼らに、無言で祈りを捧げた。

 勿論、全てが終わりを受け入れたわけではなかった。
「思いだけで全てを守れる……それはただの幻想だ」
 呟き、レリウスは容赦なく戦士を、在るべき場所に還るのを拒む、歪みきった魂を、屠った。
「まっ、こういう役回りのヤツがいねぇと、な」
 素直じゃねぇなぁ、とニヤけたハイラルは向けられた絶対零度の眼差しに、顔を引きつらせた。
「ていうか、その槍の穂先がこちらに向いてるのはどうして……うぎゃっ!?」
「聖なる光に慄き、ここより退去せよ」
 その横ではリリィがひたすら死者を排除……浄化していた。
「この期に及んで逝きたくないとか駄々をこねる相手に、容赦する必要はありませんわ」
 最後の一人まで救い上げたいと、受け止めたいという者達がいる事も分かっていたが。
 それでも、リリィにはこの村人よりも生きている者達の方がずっと重要で大切だから。
「退去せよ退去せよ退去せよ」
 この地にしがみ付く魂を、リリィとレリウスは解き放った。
「行かないのですか?」
 傍らに佇んだままの霊魂をに大地は問うた。
 答えはなく、ただ、ジッと見つめられ苦笑をもらす。
「では来ますか? 貴方は強かったですし、そうそう退屈はさせないと思いますよ」
 それは直ぐに、返された頷きに曇りのないものへと変わった。
「ねぇ幽霊さん、誰か僕と一緒に行かない? 僕が色んなところに連れてってあげるよ」
 ニコもまた、頑強に浄化を拒む霊に問いかけていた。
 パートナーが自分を地下から連れ出してくれたみたいに、もしも未だこの世界を見たいと、この世界に未練を残すモノがいるならば、と。
 差し伸べた手に、透き通った手が二つ、重ねられた。
 永き時の果て、残った魂はあまりにも儚く、或いは許されざるのかもしれなくて……それでも。
「うん、一緒に行こう!」
 ニコは嬉しそうに、その手を掴んだ。
 そして。
「セラ、皆さんっ!」
「りょ〜かい!?」
 それら全てを見届けてのルイの合図に、セラやエッツェルは結界解除に踏み切った。
 途端、結界を支えていた者達に襲いかかる、負荷。
 魂の浄化を経て軽くなったとはいえ、留まっていた時と現実の時との乖離は如何ともし難く。
「キツい、っての」
 頬を伝う汗。
 それでも唯斗は最後の力を振り絞った。
「必ず、解放してやる」
 世界を在るべき姿にする為に。
 森羅万象の歪みを正すのだ。
 この土地を浄化し、魂達を在るべき場所に。
「救いを求める魂に救済を。救い無き物語に希望を」
 ただそれだけを、唯斗は願った。
「純粋であるが故に歪みし魂よ、清らか故に穢れた魂よ」
 隣に立つエッツェルには、切羽詰まった焦りは見られなかった。
「汝等を縛りし鎖は解かれ、今 輪廻の輪へと戻らん」
 静かに、右手で描く五芒星。
「再び留まるコト無く、再び淀むコト無く、再び縛られるコト無く、再び歪むコト無く」
 描きつつ言の葉を紡げば、闇が辺りを包んでいく。
 暖かな、安寧をはらむ優しい闇が、時の狭間に放りだされようとする魂達を包み込む。
「旧き神々と、古の支配者の名の元に 一つトコロへと流れてゆく事を約束せん」
 エッツェルのそれは、優しき救済。
「長い間苦しみ続けたのですから、いい加減成仏していただきましょう。余計なコトはすべて忘れ、正しく輪廻の輪へと返してさしあげましょう」
 せめて逝けるモノ達はその場所へ……。
「私はその場所へは逝けませんからね」
 魂達を守りながら、エッツェルは、ポツリと呟いた。
「後悔も無念も哀しみも、絶対に大地に還すの!」
「もう少し、なんだ」
 歯を食いしばる夜魅をグラキエスを、朱里のリュースの美羽の歌が包み込む。
 そして、そうして。

 無音。

 瞬間、全ての音が消えた。


「調子はどうよ村長?」
 村の片隅、坂上 来栖(さかがみ・くるす)はずっと静かに佇むその老人に結界越し、軽い調子で声を掛けた。
『……久方ぶりに、気分が良いのぅ』
「結構な人数浄化された事で周りの想いも浄化されたみたいですね。ホラ、村長私と会話出来てるし」
 言いつつ苦く笑む老人に、来栖は素知らぬフリを決め込んだ。
『で、お主は何をしに来たのだ? この老骨を断罪しに来てくれたか?』
「まさか。本当は私も積極的に活動しようと思ってたんですけどね、人手は足りてるみたいですし?……無駄話しをしに来ました」
 何も出来なかった後悔と、死して尚この村に閉じ込められた村人への申し訳なさと。
 狂う事さえ出来ずにただ独り在った老人の心中は察してあまりあった。
「それに、これ以上悪い物が入ったら悪化しちゃうかもだし」
『どういう事じゃ?』
「ん、どういう事…って。貴方も煙草吸います?」
『!?』
 煙草の箱を持った手は、結界に入った瞬間、肉が焼け骨をのぞかせた。
 今、結界内は清浄さに満たされていた。
 故に不浄の者は拒まれる。
「こういうことですね」
 けれど、戻した腕はすぐに再生する。
 まだ夜の時間。
 吸血鬼たる来栖の再生力は、不死ともいえるほどだ。
「まぁ、コレはどうでもいいです。私は話しに来たんですから。どうでもいい世間話をね」
『……うまい、な』
 老人の口元から、白い煙が空に昇っていく。
『ワシは……ワシも共に逝って良いのだろうか?』
「いいんじゃない? 村長は随分と苦しんだし……誰も恨んでないよ」
 俯いた肩が微かに震えていた。
 多分彼はずっと、ずっと誰かに許されたかったのだ。
「ん、そろそろお開きですかね。あ、その煙草もっていっていいですよ。アッチは禁煙とかケチな事いわないでしょうから」
 空に昇っていく煙の軌跡を追うように、老人の身体がゆっくりと霞んでいく。
「私は行ったことも無いし行けないだろうけど快適らしいよ? めったに戻ってくる人居ないもん。そんじゃ、バイバイ」
 ポトリと音もなく落ちた煙草を爪先で消してから。
「……行ってらっしゃい」
 来栖は村に背を向け歩き出した。
「……あ゛、あれ最後のストックだった」
 そう気付いたのは、少し歩いてから。
「ま、いいや。誰かにおごってもらお」
 そうして、夜の終焉と共に、来栖もまた夜に溶けるように立ち去るのだった。


 瞬間、全ての音が消えた。

 ホンの一瞬。
 それは隔絶された世界が繋がる瞬間。
 村が、村が在った空間が確かにこの世界に還ってきた、瞬間だった。

「さてと、お別れの時間だな」
 冬の走りの冷たい空気を嗅いだ奈津はそう言って、子供達の頭を撫でようとして。
 その手が子供達をすり抜けた事に、一瞬だけ手を止めた。
 スゥと薄くなっていく身体に不思議そうに互いの顔を見合わせる子供達。
「往くべき場所に還る魂たちが無事に往けるよう、君たちの悲しみを私が背負おう。そして、私は君たちのことは決して忘れたりしないよ」
 いつか涼介の奏でたレクイエムが、子供達を導くように空に昇っていく。
「ほら、奈津さん」
「……我慢しろあたし、プロレスラーだろ? どんなに悲してくも泣くな! 笑え!」
 クレアに促され、奈津は必死に自分に言い聞かせた。
「お別れはやっぱり笑顔でなきゃなっ」
 最後に子供達が目にした奈津は、少しだけ何かを堪えるように、それでも満面の笑顔で。
 だから、久しぶりに……すごくすごく久しぶりに楽しかったから。
 同じように笑顔を浮かべ、子供達は一人また一人と……空に昇って逝った。
「願わくば彼らに一時の平穏を。そして、来世に幸多からん事を」
 家族に囲まれ嬉しそうな老人の姿が光に溶けて消えて……還っていく。
 黙祷した真人は、ただそれだけを願っていた。
「魂か……人の形で現身したセラも魂あるとしたらどんな感じだろ」
 静かに黙祷を捧げていたルイの耳に、そんな呟きが聞こえた。
「さぁ。でもきっと、あんな風にキレイでしょう、きっと」
 昇華され天に還っていく魂達を、二人はじっとずっと見上げていた。
「良かったですね、ミルディ」
 安堵の笑みを浮かべた真奈は、隣で固まっているミルディアにコトリと小首を傾げた。
「あ、そういえばゆうれ……あれ?」
 そう……この期に及んでようやくミルディアは気付いたらしい。
 彼らが、幽霊なのだという事に。
「ミルディらしいですけどね」
 腰を抜かしたミルディアを支えながら、真奈はこちらに嬉しそうに手を振って逝く、子供達に手を振り返し。
「あの方々も、次の人生は幸せになれると良いですわね……」
 そう、心の底から祈るのだった。
「たとえ、夢物語だとしても……」
 ゆっくりと朝日に溶けて行く村人たち。
『バイバイ、おねぇちゃん』
 その中に、嬉しそうに手を振る母子の姿を認め、結和は願わずにはいられなかった。
「ああ、どうか……どうか、こんな風に、悲しむ人が、苦しむ人がもう……出ませんように」
「歌うよ、少しでも安らかに昇れる様に、また産れるその日の為に」
 巽に頷いたティアが、歌う。
「救えたのかな、彼らの魂だけでも」
「うん、きっと……だって、ほら」
 仮面ツァンダーに微笑み、ティアが指さした先。
 穏やかにこちらを見つめる、かつての先達達の姿があった。
 彼らは仮面ツァンダーを認めると頷き、安心したように天へと召されていく。
「誓うよ、こんな悲劇をもう起こさせない為に戦う、と。貴公らが安心して眠っていられる様に」
 仮面の奥で、先ほどまでとは違う、涙が零れおちた。


「なあ幸村……お前も、まだ戦い足りないのか?」
 戦士達を見送る幸村の眼差しに、氷藍は躊躇いながら問いかけた。
「……さて、どうでしょうな」
 答える声は静かだ。
 静か過ぎて感情が読み取れなくて、氷藍の胸をざわめかせる。
「別に戦いを望むことが悪だとか、そういう事じゃないんだ。……怖いんだ。望みを果たせば、お前も何処かに行っちまうような気がして」
「あの者達とは違い……拙者は今この時を生きる事の出来る亡者故に、思い移ろう事も無きにしも非ず」
 幸村は口の端をホンの少しだけ釣り上げた。
 どこか氷藍の知る彼らしくない、笑みに似たその表情。
「彼らもまた、来世で新たな望みを得られようかと。長く険しき転生の旅になろうとも、望めば再びこの世で合間見える事も叶いましょう」
 どこか懐かしむような、愛しむような、遠くを見つめるような眼差しに氷藍が不安を覚えた時、幸村の『いつもの』笑みが向けられた。
「氷藍殿もお疲れでしょう。帰路につきましょうぞ」
「そうか……なら帰ろう、俺達の仕事は終わったから」
 そうしてその真っ直ぐな背を見つめながら、
「……否定は、してくれないんだな」
 氷藍は幸村に聞こえないよう、呟いた。
「俺は、知らないのか……? お前の本当の望みを……」
 握りしめた手は微かに震えていた。

「良かった、夜魅!」
 ぎゅっと抱きしめてくれたコトノハに、夜魅は茫然と呟いた。
「あたし……消えてない?」
「当たり前だよ! 夜魅みたいな良い子が消えちゃうわけないでしょ」
 良かったね、ジュジュは優しくその頭を撫でた。
 ツァンダ政府と蒼空学園上層部は今回の一件にあまり乗り気でないようだけれど、帰ったらまたコトノハの嘆願書を出そうと、決めた。
(「蒼空学園を護るために命をかけたこと。確かに一度は間違ったことをしてしまったけど、強く復学を願っていること。今も、他人を思いやる心があること。幼い子供たちのためにも、どうかもう一度チャンスを」)
 コトノハ本人には言えないけれど、ジュジュにとっては親友で、姉のような存在なのだ。
 夜魅の事も、かわいい妹だと思っている。
 だから。
(「許されるならもう一度、同じ学校で学びたいから」)
 夜魅をぎゅうぎゅう抱きしめるコトノハと、白夜を腕に抱き微笑むルオシンと。
 見つめながらジュジュは強く手を握りしめた。

「働いたら負けかなと思っとる……今回は働かずに遊んでたから俺は勝ち組やな」
「ま、そういう事にしとくわね、けどあたしはあきらめてないからね」
 今はもう何も無い、村の跡。
 花を供えた優夏に、フィリーネはクスリと笑みを零すのであった。
「お疲れ様、貴方がいて良かった」
 アリアは愛剣に労いの言葉をかけ。
「また、ここに来よう。蒼空学園の花壇の花を持って」
 あそこの花は生命力強いから、微笑んでキレイになってしまった大地を見やる。
「土地が浄化された後なら、きっと再び草木は芽生えてくれるはず」
 いつか……いつかこの大地にも草が根付き花が咲くでしょう。
 その日を信じて、この地に足を運び続けよう、アリアはそう心に決めるのだった。。


(「寒い、寒いのが怖い、孤独を感じる、それが寂しい……」)
 手当を受けながら刀真は久しぶりにそんな感情に囚われていた。
 でもそれが嫌で。
 柔らかな膝に頭を乗せながら心配そうな表情で手当をしてくれる白花の手を掴み、様子を見る為にのぞき込む月夜を抱き寄せて。
 それぞれが愛おしいと甘えるように頬ずりをした。
 そうしていると玉藻が金毛の尻尾で包んでくれ、それにも頬ずりをして甘える。
 それぞれから感じる暖かさ、さっきまで囚われていた感情が優しく溶かされるのを感じ、その事に安心して……刀真はそのまま眠りに落ちた。
(「ああ、俺はこいつらにこうやってずっと傍にいて、護っていて欲しいんだ」)
 護っているつもりが護られている……それは暖かく、凍えていた心を満たした。
「……寝ちゃったね」
 私、抱き枕?、すぐ近くにある顔にドギマギする月夜の頬は赤い。
「頬ずりされちゃった」
 恥ずかしくて、でも、刀真に甘えられるのはとても嬉しかった。
「これが刀真の望み欲しているものなのだろう……普段は見せないが、流石に今回は傷を負いすぎたか、動き続けた事もあるのだろうし無茶しすぎだ」
 九尾を発言して眠る刀真達を優しく包みながら、玉藻は呟いた。
 黒曜鳥がいたとはいえ、一人であれだけの人数を相手どったのだ、最後には『死んで』までみせて。
「いつもは自分がどうなろうと自分のやりたい事をやり他は知らないと好き勝手する奴、その実ただの寂しがり屋な甘えん坊か……中々可愛らしいな、その姿を我らにだけ見せると言うのがまた良い」
「私達にだけ、ですか?」
「うむ。普段は見せないが、刀真は自分の寂しさを埋めてくれる我らのような者が沢山欲しいのだろう、どれだけそれを求めるんだ? この我が儘な節操なしが」
 仕方がないから傍で護ってやる安心しろ、玉藻は愛おしそうに刀真の頭を優しく撫で。
 月夜は玉藻の尻尾にモフモフしながら、自らも暖かな眠りに落ちていった。
「お休みなさい。皆さんの眠りは私が護りますから」
 甘えてくれる事が、握られたままの手が、嬉しい。
 大切な人達がこんな風に、いつも幸せに眠れますように……それが白花の今夜最後の祈りだった。


「悪いわね、こっちの都合で立ち退いて貰わなくちゃいけなくなったわ」
 村の中心で、グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)は佇んでいた。
 上げた瞳に映るのは、昇る太陽。
 それらに照らされ、歌に想いに導かれて逝く、たくさんの魂達。
 全てが、満足していくわけではないだろう。
「だけど、生きてるモノにも意地があんのよ」
 リリィやハツネやレリウスが、死者よりも生者の為にその力を振るったように。
 グラルダは亡者となった村の住民を?哀れ?とも思わなければ?不幸?だとも思わなかった。
 ただ、綺麗事で飾りたくなかった。
 グラルダは膝を付くと、花を捧げた。
 そして、誓う。
「アンタ達の死は、アタシ達がちゃんと看取った。愛する村と共に朽ち、記憶の中で生き続けろ」
 生きる者の勤めとして、真実と共に在る事を。
 告げ、立ち上がる。
「いくら清き流れでも、留まれば淀み濁ります」
 その背に掛けられた声はシィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)のもの。
 グラルダに付き従っていたシィシャは、その無機質な表情を崩さぬままに、問いかけた。
「万物が流転するものとの定義なれば?これ?は貴女の未来でもある。貴女は、留まることなく歩み続けられますか。グラルダ」
「屍を踏み越えてでも、アタシは進む」
 答えに、躊躇は無かった。
「ならば貴女が子を成し母となった後、我が子と共に再びこの地を訪れなさい。語り継ぐまでが、貴女の役目です」
 グラルダにこの光景を見せる事が、シィシャの目的だった。
 その目的が達せられた今、シィシャの目の前に広がる光景は?意味?と?価値?を失った。
 太陽が輝きを増す中、最早この地に縛りつけられていた魂達はどこにも居なかった。
 村もまた、まるでそこには何も無かったかのように、その姿を時の果てに返し。
 グラルダは一度だけ、荒野に置かれた花を見つめ、そうしてもう二度と振り返らなかった。
 やがて吹いた風は花を揺らし。
 花弁は、ようやく在るべき場所へと還った魂達を言祝ぐように、ハラハラと空に舞った。


 かつてその場所は不毛の土地だったという。
 荒野を渡る風は、哭いているかのようだったという。
 だが今、その地に風は無く。
 ただ時折、優しい優しい歌声が微かに聞こえるのだという。
 あの日、リュースや朱里が歌った歌が今も、その場所を癒すように慰めるように。


光の翼
あなたへと飛ばす
祈りを込めて

この世界を愛しく思うのは
この世界にあなたがいるから
誰よりも愛しいあなた
私の運命

どうか迷わないで
闇の中に取り残されても
私の光の翼頼りに
どうか抜け出して

愛するあなた
私は祈る
あなたの光の翼が
私を闇から連れ出してくれること

光の翼
あなたへと飛ばす
祈りを込めて
愛を込めて

光の翼
私とあなたを導いて

担当マスターより

▼担当マスター

藤崎ゆう

▼マスターコメント

 こんにちは、藤崎です。
 皆さんの頑張りで、村人達はようやくいくべき場所にいけたようです。
 今回は本当に素敵なアクションばかりで、藤崎は嬉しい悲鳴を上げてしまいました。
 ではまた、お会い出来る事を心より祈っております。

▼マスター個別コメント