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リアクション
●第4章 油断禁物!?
“黒髭”が踏み込めば、エヴァンジェリンは己の得物にとって不利になるため、退いて距離を取る。そして間髪入れずに引鉄を引き、銃弾を放った。
「美緒っ!」
積極的に干渉せず、傍で見守っていた如月 正悟(きさらぎ・しょうご)だったが、“黒髭”が避けれないと悟り、間に入った。
「っく」
銃弾がその身を貫き、痛みに顔をしかめる。
「手当てするのです〜!」
ヴァーナーが天使の救急箱を開いて、正悟を始め、周りの仲間たちの傷を癒していく。
「くっそ、手ごわいな……」
(ちょっとした援護ぐらいはしてあげましょうか)
ぽつりと呟く“黒髭”に、亜璃珠は思う。
彼女が、すっと指先をエヴァンジェリンへと向けると、激しい炎の渦がエヴァンジェリンを包み込む。
「きゃああっ!」
突然のことに悲鳴にも似た声を上げたエヴァンジェリンの真正面から、セフィーが突撃してきた。炎が消えると共に、綾刀を抜き様に一撃、斬りかかる。
更に、セフィーへと気を取られている間に、別の角度から近付いたオルフィナがエヴァンジェリンの胸へと手を伸ばした。
「きゃっ! な、何をするのっ!?」
いきなりのことに声を上げたエヴァンジェリンは、銃身でオルフィナの手を叩く。
小型飛空艇に乗ったまま、上空へと飛んできたエリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)は、フェザースピアを構え、小型飛空艇ごと突っ込んでいった。
彼女が近付くことで、セフィーとオルフィナが数歩退くけれど、胸を揉まれたことに、取り乱したエヴァンジェリンはそれを怪しく思うことなく、近付いてきたエリザベータからの一撃をもろに喰らってしまう。
「っく……!」
傷を抑えながら立つエヴァンジェリンは、銃を構え直すと、距離を取ったセフィーとオルフィナに向かって、引鉄を引く。
「これくらいで倒れはしないよ、2人とも行くよ!」
セフィーの掛け声に、オルフィナとエリザベータが頷いた。
聖なる光が放たれた綾刀で、セフィーが斬りかかる。エヴァンジェリンが避けたところで、オルフィナのカルスノウトが、音速を超えたスピードで、勢い良く振り下ろされる。
「っ! こんなところで、倒れてなんか……!」
銃身で受け止めようとしたものの、スピードが加わったことで重くなった一撃に銃は弾き飛ばされ、その一撃を受けてしまう。
更に、エリザベータが踏み込んで、剣圧を纏ったフェザースピアで一度に二度の刺突を与える。
3人による連続攻撃に、エヴァンジェリンは膝を突いた。
「これ以上の争いを止めて、会談としませんか?」
エヴァンジェリンへと、キュべリエが訊ねる。
「船員の命は船長が預かっているもの。船長同士の話し合いで白黒付けた方が無駄な死傷者を出さずに済みますわ」
パートナーの死海も問いかけた。
「会談? 話し合い? 冗談じゃないわ」
膝を突いたまま、彼女らを見上げるエヴァンジェリンは鼻で笑う。
「時代は変わり今やシャンバラとエリュシオンが同盟を結ぶ時代ですわ。黒髭とブラッドレイ海賊団が手を組んでもおかしい事はないと思いますし……」
「私掠船なんてゴメンよ! 政府か何処かから賊行為を許可されている分、巻き上げたものは大半取られてしまうんじゃないの? そんなのはイヤなのよ!」
キュベリエの言葉をさえぎって、エヴァンジェリンが声を荒げる。
「フリューネだってそうだったわ、奪った金品全て庶民になんか施して、あたしたちへの利益なんて考えてなかったんだからっ!」
ペガサスを駆る女義賊の名を出せば、ぐっと拳を握る。
「だから、あたしは、フリューネを倒すまでは捕まれないのっ! この船も、もうすぐ沈むわね……皆纏めて海の藻屑になれば、いいんだわっ!」
言うが早いか、痛む傷を抑えながらも脚へと力を込めたエヴァンジェリンは駆け出した。
甲板の更に上部へと向かうと、用意していたのだろう。小型飛空艇に乗り込み、船を後にする。
「キャプテン!?」
「お嬢!?」
後に残されたアーダルベルトとエセルバート、そして他の海賊たちが驚きの声を上げた。
「……奈落よりも深きモノ、冥府の闇より暗きモノ、大いなる海原に封じられしモノ……」
そこへ、何処からともなく、詠唱のような声が響く。
「古き深淵の盟主よ!!」
一際大きな声で告げられた言葉の後に、その場の海賊船全体へと、闇黒と氷結の魔法が襲い掛かった。
「ぐっ」
怯んだ“黒髭”へと死骸翼「シャンタク」で羽ばたき、冷気の嵐を巻き起こしながら近付いてきたのはエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)だ。
正悟が間に入り、“黒髭”……いや、美緒の身体に直接冷気が纏わり付くのを防ぐ。
「エッツェル様ノ 行カレルママニ」
告げながら、アーマード レッド(あーまーど・れっど)が上空から左腕部の回転式機関砲からミサイルを発射させる。
「ククク……踊れ……踊れ……クク……アハハ……アーハハハハッハハハ!!!」
ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)の瘴気が大量に集まって生み出された魔瘴龍「エル・アザル」が口から燃え盛る黒い炎を吐き、辺りを焼き尽くそうとする。
「こっちの船はもう持たないだろう? 一旦、俺の船に退け! もちろん、こいつらは撃退しつつ、だ!」
“黒髭”の上げる声に、契約者たちも海賊たちも黒髭海賊団の船へと移動する。
その間にもエッツェルは右腕の蛇尾刃「ヌギル=コーラス」を振るい、“黒髭”へと攻撃を仕掛ける。
時に“黒髭”は手にした長剣でそれを受け止め、時に正悟やルレーブが庇う。
明子が梟雄剣ヴァルザドーンを構え、上空からミサイルをばら撒いてくるレッドへとレーザーを放った。
ヴァンガードブースター「回天」の力で避けるレッドに、明子は次々とレーザーを放ち続け、機関砲を破壊する。
けれどもレッドの攻撃手段はそれだけではなく、両脚部に装備していた三連ロケットポッドを開くと、そこからミサイルを放ってきた。
疲弊したところに、容赦のないエッツェルたちの攻撃。
それでも、数があるのは海賊たちだ。
後退しながらも、彼らへと各々が攻撃を仕掛けていく。
「流石にこれ以上は……2人とも、ここは退きますよ」
ブラッドレイ海賊団の船群は、もともとの大穴の所為もあったが、魔瘴龍「エル・アザル」が体当たりしたことも含めて沈みつつある。
黒髭海賊団の船にもそれなりの痛手を負わせた。
これ以上踏み込んでいくと退けなくなると判断したエッツェルはパートナーたちへと声を掛けた。
そして、引き返していく。
「行ったか……?」
去っていく彼らに、“黒髭”は一息吐き出して、被害状況を確認すべく、辺りを見回した。
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