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<part5 土竜>


 トンネルでは土砂の撤去作業が着々と進められていた。
 世 羅儀(せい・らぎ)叶 白竜(よう・ぱいろん)の指示に従い、埋まっている大木を黄山のドリルで粉砕していく。ついさっき仮設本部から届いた情報によると、飛空艇に寺院兵が迫っているらしい。羅儀は気が急いていた。
「早く助けに行ってあげないとね。寺院兵はなにするか分からないし」
「焦ってはいけません。鏖殺寺院は確かに危険ですが、自然の驚異の方が遥かに恐ろしいんですから。二次災害が出たら目も当てられません」
 白竜はたしなめた。地質学の知識をフル活用し、土壌の状態を分析しながら掘る場所を計算する。下手をしたらまた落盤が起こる可能性があった。
「次、そこの岩を砕いてください」
「あ、ボクやるやる〜!」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)がウサギ型イコンラーン・バディでぴょこぴょこと大岩に近づいた。なるべく周りに衝撃を与えないよう、ウサ耳ブレードで控えめに大岩を切り裂く。
 隣の席のミア・マハ(みあ・まは)が、むう、と唸った。計器を眺めてつぶやく。
「どうもこのトンネルの先に、熱反応があるのじゃがな……」
「えー? もしかして誰か生き埋めになってるの?」
「いや……、まあ今は気にせず作業に集中するがいい」
「はーい!」
 レキはラーン・バディの前肢で地面を掻くようにして土砂を掘り進んだ。
 如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)が操縦桿を恐る恐る操って、自分のアーマイゼをトンネルの中に入れていく。手つきはぎこちなく、スピードもあまり出ていない。
「こんな……感じでいいのかな」
「手に力が入りすぎですわ。全力で握りすぎると、急な状況に反応しにくいんですのよ」
 隣の席からラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)がアドバイスした。掘削用ドリルを操作し、トンネルに詰まった土砂を掘り返す。
「この土、トンネルの外に持っていった方がいいよな?」
「そうですわね。邪魔になりますし。抱えられます?」
「難しそうだ」
 佑也は試しに両腕で泥をすくい上げてみるが、ぼろぼろとこぼれ落ちる。
「ボクに任せて!」
 レキのラーン・バディがアーマイゼの前に割り込んだ。
「ちょっとどいててね。泥被っちゃうよ」
 注意され、佑也はアーマイゼをなんとか脇に避ける。
 ラーン・バディは前後の足で泥を掻いてトンネルの外に跳ね飛ばした。

 作業現場には、イコンの銃剣で穴を掘るフィリップの姿もあった。
 銃剣がガチンと固い物にぶつかる。
「ん? 岩でしょうか?」
 フィリップはその物体を取りのけようとするが、意外と大きくて取っ掛かりが掴めない。
「ボクも手伝うよ」
 さっきからフィリップをちらちらと眺めていた赤城 花音(あかぎ・かのん)が申し出た。ストライク・エンジェルのMVブレードを物体に当て、刃の振動で押し砕く。
「ありがとうございます。助かりました」
「ううん。お礼なんていいよ。お互い様だもん」
 フィリップの感謝の言葉に、花音は笑って首を振る。
「飛空艇の人たち、どうしているでしょうか。無事だといいんですけれど」
 フィリップの隣席のルーレン・ザンスカール(るーれん・ざんすかーる)が気遣わしげに顔を曇らせた。
「心配ですね。早く作業を片付けて行ってあげましょう」
 花音のストライク・エンジェルに同乗しているリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)が言った。
「だね!」
「頑張りましょう!」
 花音とフィリップは意気込んで掘削を続ける。やわらかい土壌はフィリップが掘り、固いところは花音のMVブレード、という役割分担がいつの間にかできあがっていた。

 作業が進み、トンネルの中はだいぶ開けてきた。撤去された土砂はとりあえずトンネルのすぐ外に積み上げられている。
 白竜は黄山に乗ったままトンネルの内壁や天井を点検し、倒れそうな箇所をワイヤーロープで固定していく。
「そういうのは後でいいんじゃないかな? 今は非常事態なんだし」
 羅儀が首を傾げた。
「非常事態だからこそです。乗客の皆さんを救助した後、その輸送車両は戻ってこなくてはいけないんですよ。トンネルがまた塞がってしまっていたら、鏖殺寺院に追いつかれて全滅するかもしれません」
 白竜は己を曲げず、堅実に工程をこなす。

 他の仲間たちはトンネルを奥へと掘り進んだ。ドリルを土に突っ込んだラグナが歓声を上げる。
「あ! この感触は! ここを崩せば外ですわ!」
「ちょっと待つのじゃ」
 ミアが制止した。
「さっきからメーターを見ていたのじゃがな、どうもこの先に熱反応があるのじゃ。それも人間や小動物ではない、でっかい反応がな」
「イコン……ですか。では出ると同時に撃ちます」
 リュートがマジックカノンを二丁構えた。
 佑也が慌てて止める。
「待て待て! そんなことしたら衝撃で落盤が起こるかもしれないだろ」
「そうですわね。私が敵の動きを封じますから、どなたか静かに敵を倒していただけませんか?」
 ラグナが問うた。
「えっと……」
 逡巡するフィリップ。彼はイコンの操縦が得意でないのだ。花音は代わりに手を上げる。
「はいはい! ボクたちが倒すよ!」
「じゃあ、お願いしますわ」
 フィリップが申し訳なさそうな口調で言う。
「すみません……」
「いいっていいって! フィリポはボクの後ろに隠れてて!」
 花音は明るく笑った。

「じゃ、行くよ……?」
 レキがウサ耳ブレードで最後の土壁を軽く突いた。
 崩れ落ちる土壁。トンネル内に風雨が吹き込み、稲妻が陰を照らす。
 トンネルの外には一機のシュメッターリングが歩哨のようにたたずんでいた。
「えいっ、ですわ!」
 ラグナが超電磁ネットを敵機に投げる。敵機は高圧電流の流れる投網に巻きつかれ、細かく痙攣しながらのけ反った。
 その隙に花音のストライク・エンジェルが接近し、MVブレードで敵機の脚部を切り裂く。敵機が地面に転がった。
「やったね、フィリポ! トンネル治ったよ!」
「はい、治りました……」
 花音とフィリップは、自分たちが再生した道を惚れ惚れと振り返った。