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【なななにおまかせ☆】あばよ! 今年の汚れ

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00.大掃除本部

  
 掃除がはじまるよ

 年の瀬も押し迫った12月。忙しく師――坊主が走るとも、兵士が走るとも言われるこの月。
 ヒラニプラにあるシャンバラ教導団では警備任務についていない生徒者達がバタバタと走り回っている。
 今日は年に一度の大掃除。
 号令を出したのは綺麗好きで団長室の掃除は手ずから行っているという教導団団長金 鋭峰(じん・るいふぉん)
 一年の汚れを掃い、新たな年を新たな心で迎えたい。そんな心構えから行われている一年の締め括り。
 いまや教導団の恒例行事だ。
 校舎の他、ヒラニプラの主要施設と清掃場所には事欠かない。
 凡そ70000人が在籍する教導団だが、警備などの任務で不在の者も少なくはない。
 そのため、他校にも広く参加を呼びかけており、グラウンドに立ち並ぶ仮設テントの周辺には他校の制服がそこかしこに見える。
 中央に『総合案内所/大掃除本部』と『清掃道具貸出所』。
 その左右にテントの周囲を横断幕で覆った仮設の『更衣室』。
 そして、本部の目の前が『廃棄物集積所』。
 担当箇所の確認や用具の受け取り、作業着に着替えるために本校、他校の生徒が入り混じって列を作っていた。

  * * * 

 廃棄物集積所――いわゆるゴミ捨て場前。
「ゴミはゴミ――と全て同じように処分するわけにはいかないのよね。残念ながら」
 無数の巨大コンテナを背に沙 鈴(しゃ・りん)は、集まった生徒と教官に分別処理の説明をする。
「詳細はこの要綱を……全部読むのは大変だろうから、一番上の分別処理対応表を見てちょうだい」
 なるほど。プリントの表書きを一枚めくれば、その次にゴミの分別と処理を一覧できる表があった。
 大分類、小分類、例外――色分けされたそれは分かりやすく、見やすい。
「それでもわからなければ、備考欄にある該当頁を参照してちょうだい。何か質問はあるかしら?」
 分別表と背後のコンテナを交互に見やる担当の生徒達から質問の代わりに何とも言えない声が上がった。
 集まってるくるだろうゴミの量とその後の作業を考えれば当然である。
「……業者に任せたらいいのに……」
「だよなぁ。それこそ専門に任せるのが一番だよなー」
 誰かがぼそりと呟けば、同意する声が続く。
 担当場所に向う前に沙の説明を聞いていたメルヴィア・聆珈(めるう゛ぃあ・れいか)の眉が吊り上がる。
 だが、その手から鋭い斬糸が放たれる前に沙がやんわりと生徒たちを嗜めた。
「そうかもしれないわね。でも、ここはシャンバラ教導団――国軍の本拠地よ。
 他校生との交流に使える校内施設はともかく機密性が高い場所も多いわ。出てくるゴミにしてもそう。
 セキュリティ面を考えても、おいそれと外部に頼めるものではないの。そのことを理解してもらえないかしら?
 例えば……そうね。自分の銃の手入れを考えてみて」
「銃、ですか?」
「そう。剣やパワードスーツでもいいわ。自分で使うものの整備は他人に任せないでしょう?」
 と、丁度良いタイミングで総合案内所から元気な声が聞こえてきた。
「自分たちの学校の掃除は自分たちでするものじゃない。だから、お餅つきを手伝いに来たんだ」
「そうですか。餅つきはグラウンドで行いますので、そちらへお願いします」
 見れば、赤毛の少女と黒髪の少女が餅つきの場所の説明を受けている。
「――そう言う事よ。さ、大変だろうけど頑張りましょう」
 教官だからか。それとも沙の性分なのか。
 落ち着いて理路整然と。だが、理詰めだけでなく、どこか気持ちも汲んでくれているような物言いには妙な説得力があった。
 今回の廃棄物取扱要綱にしてもそうだ。団長への上申書類にしろ、現場への配布資料にしろ、どれも必要なものが的確に纏められいる。
 配慮が細やかなのだ。この要綱の他に各所との連絡無線手配、清掃状況の進み具合を記入するボードなどを配備した本部の設置。
 清掃道具貸出所に更衣室の準備。更衣室は「法務科の少尉から申請があったのよ」との話だが。
 大掃除の効率化を図る。裏方に徹した行動は見事の一言に尽きる。
 自分にはできないなとメルヴィアは複雑な思いで現場用の廃棄物処理一覧をしげしげと眺める、その隣に生徒達を見送った沙が並んだ。
「困ったものですわね。最近の子は。自分たちのことは自分たちでするのが当たり前だというのに」
「……その割には随分と甘いな。お前は」
「わたくしが目くじら立てて怒ったところであまり効果は期待できないですもの。そこはメルヴィア大尉のお役目ですわ」
「それは、どういう意味だ」
「清掃時間に清掃をしていない者を注意するのは当たり前のこと。大尉にはその権限があるし、効果も大きい。
 ――いわゆる飴と鞭というやつですわね」
 ともすれば揶揄されているような物言いにメルヴィアはフンと鼻をならした。
「私が鞭でお前が飴か?」
「あら? わたくしも鞭、ですわよ? 今回の飴はお汁粉です。――残念ながら、わたしく甘いものは苦手ですけれど」

  * * * 

「それじゃぁ始めるぞ」
「各自持ち場に着け! 少しでもサボったら指導するからな!」
 本部備え付けのマイクに向って長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)とメルヴィアがそれぞれ号令をかける。
 二人の声が校内――そして、ヒラニプラ市街の各施設に響く。いよいよ掃除の始まりである。
 つい先刻まで自校他校の生徒でごったがえしていた本部周辺には数える生徒の人数しか残っていない。
「――さて。じゃあ、俺も基地に戻るか。お前さんたちは……」
 どうするんだ? と長曽禰は本部に残っている面々を見回した。
「わたくしはここで廃棄物の処理の管理と全体の進捗を」と沙。
「ハッ。私は学生寮へ向います」とメルヴィア。
「あ。私も同行させていただきますよ。少佐」
 横から戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)が口を挟む。
 その隣には何に使うのか。巨大なコンテナに車輪をつけた、いわゆるスーパーでよく見るカートのようなものがあった。
 備品管理表を真剣に読み込んでいた源 鉄心(みなもと・てっしん)もようやく顔を上げる。
 珍しく一人だ。いつも傍らにいるパートナーの少女が二人揃ってお汁粉つくりに参加しているためだ。
「……全体的に見ても不要品が多い、か。相当の数を廃棄……あ。俺はこのまま、ここで廃棄品の処理を。
 時間があれば校内を回って、備品の点検もしてきますよ」
 答えてから、鉄心は兼ねてから考えを長曽禰とメルヴィアに思い切って提案してみた。
 それは――
 この機に不要品は全て処分。但し、使える部品やリペアー可能なものは各科に分配。
 払い下げれるものはリサイクルし、新たな備品購入の費用にあてる。
 商人(トレーダー)としての能力を生かし、この機にそういったことができないか。
 というものであった。
「……いや、うち(騎兵科)の備品も大分古くなったので、この機会にと」
「おまえの科だけというわけにいくか、この三等兵」
「……いや、俺、これでも上級曹長……」
「まぁ、そう言うな。メルヴィア。……団長の判断次第だが悪くはない考えだな」
「ありがとうございます。じゃあ、一応そのつもりで廃棄物の選別をしておきます。
 実は廃材や廃棄品に掘り出し物が多くてですね。いや、トレーダーの腕の見せ所で――」
「但し、パワードスーツやイコンに関わるものは機密事項だ。払い下げにもリペアーにも出さないからな」
「……ですよねー」
 長曽禰に釘を刺されて鉄心はがくりと肩を落とした。
 
  * * * 

「大掃除を手伝いに来たのだが――どこに行けば良いだろうか?」
 本部を出たメルヴィアたちは一人の少女に声をかけられた。
「君は?」
「申し遅れた。わたしくは姫神 司。空京大学に籍を置く者だ」
 遅れてきたその他校生は少しばつが悪そうに名乗った。
「教導団の長曽禰だ。空京からか。わざわざご苦労だな」
「メルヴィアだ――しかし、少佐の場所も私が向う場所も他校生の立ち入りは禁止されている……」
「――そうか。少し遅かったか……」
「いや。俺たちが向う場所の清掃を手伝ってもらうわけにはいかないが、入口の掃除なら他校生でも問題ない」
 ほらと小次郎は指を指す方には、掃除の段取りを話し合っているのだろう、教導団と他校生の集団がいた。