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「要はもち米なわけだし、炎系の攻撃は避けた方がいいかな? ベトベトくっ付くと後が大変だから、遠距離攻撃主体でいきたいなぁ」
禁猟区を発動しながら清泉 北都(いずみ・ほくと)モーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)と戦略を練っていた。
「僕はサイドワインダーと歴戦の魔術でモンスターを狙うから、モーちゃんは攻撃を交わしながらサイドワインダーで逆から狙ってくれる? 左右から攻撃を繰り返してみよう」
「分かった」
「来るよ!」
 禁猟区で敵の接近を察知した北都の声に、モーベットはイナンナの加護と歴戦の防衛術で攻撃を交わした。そのまま揃って攻撃へと転じ、モンスターを叩きのめしていく。手際よく物理攻撃を与えていく二人だったが、ふと北都が声を上げた。
「何か来る……」
「モンスターではないのか?」
 緊張感を増す二人の耳に、バタバタと駆け回る足音が届いた。
「早く、食材に、なりなさーい!」
 突然新たなもち米モンスターが物陰から飛び出してきた。その後を追うようにロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)がハンマーをぶんぶんと振り回しながら現れる。
 今回の雑煮大会にふさわしく振袖にかんざしといういでたち。だが、鎧、籠手、ハンマーのフル装備も忘れてはいない。
「うわあ、なんだか、凄いねぇ」
 思わず呟いた北都にロザリンドは誇らしげに胸を張る。
「いついかなる時も、女王様達を守るために装備はしっかりしていませんと」
「確かにね」
 ロイヤルガードとしての意気込みに北都は頷いた。
「それに、私のようにか弱い乙女には身を守る武具は必須になってしまいますしね」
「か弱い……? 我の聞き間違いであろうか」
「モーちゃん!?」
 普段無口なパートナーが真顔で発した一言に北都は慌ててロザリンドを見る。が、当の本人は体当たりしてきたモンスターのべたべたに巻き込まれ、抜け出すのに必死だった。
「いざ、そこのモンスター! 大人しく餅になってください!」
 何とか抜け出したロザリンドは、そう宣戦布告するなりハンマーを振り回し。
「わわっ!!」
 見事ハンマーを横の樹木に激突させた。
 その隙に再びロザリンドに体当たりしようとするモンスターの姿を見た北都とモーベットは息を合わせてモンスターを仕留める。
「ありがとうございます!」
「いや、構わぬ。しかし、雑煮というのは作るのが大変な食べ物なのだな。特にこの餅。伸びるしベトベトするし元気に跳ねまわるし、中々活きが良い食材だ」
「本当はそんなことないんだけどねぇ」
「む……よくは判らんが、倒して食べてみれば分かるだろう」
「その通りです! アイシャ女王とセレスティアーナ代王のためにも、まずはモンスターたちを倒さなければ!」
 相変わらずハンマーを振り回しながらロザリンドが鼓舞する。
 北都とモーベットもドゴォ! グワシャッ! と、餅つきにしては不穏な音を立てながら、次々とモンスターを餅に仕上げていくのだった。
「それでは私は女王のところにご報告に行ってまいります!」
 出来上がった餅を抱え、ロザリンドは二人にぺこりと頭を下げると猛烈なスピードで戻っていった。
「運ぶのも面倒だし、サイコキネシスで持ち上げて調理班のみんなのところに飛ばそうか。ところでさ、今回の餅は丸か四角かどっちなんだろう? 雑煮も味噌と醤油の味付けがあるよね? 理子様は東京の人だから、四角餅の醤油ベースになりそうだね。折角だから、それぞれの出身地の雑煮を食べ比べるのも面白そうだけどなあ」
「ふむ随分と詳しいな。しかし雑煮とは、本当に難しい食べ物なのだな」
「バリエーションは多いけど、難しくはないよ。きっと調理班のみんなが色々作ってくれるから、モーちゃんも色んな種類食べてみるといいよ」
「そうだな」
 戦いを終えた二人は、ゆっくりと広場中央へと戻っていくのだった。

 一方調理班の近くでは、調理班のメンバーそして調理器具や材料に被害が出ないよう、餅つき班のメンバーたちが緊張した面持ちで辺りを見回していた。
「ここは俺が食い止める!」
 やたら粘着質な足音を響かせ押し寄せてきたもち米モンスターたちの前に立ちはだかるとエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は木刀を構えた。初めて着用したとは思えないほどきっちりと着こなされた袴と相まって、その立ち姿には妙な迫力がある。
 その隣では、リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)がなぜか鐘つき棒を構えていた。
「餅つきといえば鈍器の出番。やっぱコレよね」
 可愛らしく着用された振袖とのギャップに周囲は思わず息を呑む。
「り、リリア? その鐘つき棒どこで……」
「行くわよ、もち米モンスター!」
 武器の出所を心配するエースの言葉をさえぎり、リリアはペガサスに乗ると意気揚々とモンスターを追い掛け回しはじめる。
「半殺しなんて中途半端じゃお雑煮にならないもの。みんなきっちり全殺しの美味しいお餅にしてやるわ!」
「きゃあっ!」
 少し手薄になった調理場へ、物陰からモンスターが1体、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の目の前へ飛び出した。
「隠れてたのか。汚いマネしやがって! その根性、叩きなおしてやるぜえっ!」
 ベアトリーチェを庇うように立ったエースが木刀を自在に操り、真っ向斬りから切り上げ、突きへと三段攻撃を仕掛ける。
 良い具合に出来上がった餅と、どこからか取り出した花を1輪、ベアトリーチェに微笑みながら渡した。
「貴女は調理に専念して下さい。美味しいお雑煮を楽しみにしていますよ」
「は、はあ」
 下心を感じさせない清々しいエースからの贈り物に思わずベアトリーチェも餅と花を受け取った。
「なんだろう。なんか、凄いな」
「うん。なんか、アレだよね」
 調理班にいるアイシャ・シュヴァーラ(あいしゃ・しゅう゛ぁーら)を庇うように立ちながら、朝霧 垂(あさぎり・しづり)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は感心したように顔を見合わせた。
「さてと……いくよっ、たれちゃん!」
「ああ!」
 垂はゴッドスピードを使用して仲間たちのスピードを上げた。
「餅つき開始ね!」
 話しながらも油断なくエンタシスの柱を構えたルカルカは垂に声をかけるとハヴォックで攻撃力上げ、ダッシュローラーと氷雪比翼を併用し動き回りながら立体的に攻撃を展開する。
 ルカルカがフルスイングで飛ばしてきた餅を垂は鬼神力を使用し手水をつけた平手打ちではじき返す。
「一匹たりとも逃しません!」
 同時に垂はホークアイを使用し、隠れたモンスターたちを残さず見つけ出してはルカルカと攻撃を仕掛けていく。
 ルカルカと垂の間でキャッチ&リリースされどんどん餅と化してゆくモンスターの姿を見て、今度はエースが感心する。
「日本の伝統文化はやっぱ凄いぜ! 俺も負けてられないな!」
 言うなり龍飛翔突を繰り出し、周囲にいたモンスターたちを一気に餅へと変えた。
「エースもドレだけ本気出すのよ!」
 ペガサスの蹄でモンスターたちを踏み潰しながら、リリアがこぼす。
「大人しく突かれなさいよー!! 去れ、煩悩!」
 そのまま鐘つき棒を振り翳すとペガサスによってほぼ餅になりかけていたモンスターたちを餅へと浄化するのだった。

 広場の隅では、ハインリヒと陽子が呼吸を合わせ普通に餅つきを行っていた。つき上がった餅からちぎって形を整え、雑煮用の小餅にしていく。
「うん、美味しいー!」
 味見と言って、陽子が餅を口に入れると嬉しそうに声を上げた。
「陽子、食いすぎだぜ」
「これぐらいの役得は当然でしょ」
 悪びれず返す陽子に、ハインリヒも小餅を口に投げ入れつつぼやいた。
「味見で食うのはいいんだよ。一気に食いすぎなんだよ」
「だってつきたてのお餅、美味しいんだもん」
「無理に突っ込んで喉詰まらせるなよ……ごふっ!!」
 途中まで言いかけて咽たハインリヒの背中を、餅をくわえたままの陽子が慌てて叩く。
「ひょっひょ! ひゃひひょひゅひゅ!?」
「ごほっ……何言ってんのか……わっかんね……ごほごほっ」
「少しずつ食べるから咽るんだよー!」
 やっと落ち着いたハインリヒに向かって、餅を飲み込んだ陽子が困った顔で注意する。
「いや、普通逆だろ」
「一気に食べれば咽たりしないんだよ」
 解せないといった面持ちで首をかしげるハインリヒに、杵に水をつけながら陽子が答える。
「早く次のお餅つこうよ!」
「ったく、しょーがねぇなぁ」
「そんな言い方しなくてもいいじゃない!」
 心底呆れた様子で呟いたハインリヒに陽子が言い返した。
「違ぇよ、俺だってさっさと餅つきしたいんだよ。あいつらだよ」
 ハインリヒが目をやった先には、エースたちからうまいこと逃れ迫ってくるモンスターたちの姿があった。
「わー……とりあえず、片付けちゃうしかないよね」
餅つきの手を止めた陽子がやれやれとディフェンスシフトで全体の防御力を上げ、自身にも女王の加護とエンデュアを使い守りを固める。
「ここだと調理班に近いからな。あんまり被害も出せないが」
 そう言うと、女王の加護とイナンナの加護で守りを固めたハインリヒは、調理班から少しでも離れるため自らモンスターに向かって走りだす。
 一定距離を取ると、ダメージを与える対象をモンスターだけに限定した光条武器を使い、攻撃を繰り出していく。
 陽子は後衛に立ち、調理班に被害が出ないようしっかりとその場を守るのだった。
 身体検査でモンスターの攻撃力を低下させたハインリヒは、モンスターたちを一箇所に集めるとサイドワインダーで必中の攻撃を放った。
「お疲れ様。あいつらあのままでいいのかな?」
 散り散りに逃げていくモンスターの姿を見ると、ハインリヒはゆっくりとした足取りで陽子のところへ戻ってくる。
「あっちにエースたちがいたからな。なんとかしてくれるだろ。俺たちはさっさと次の餅つこうぜ。もち米が冷める」
「うん!」
 再び餅つきを再開した二人から少し離れたところで、エースとリリアがモンスターたちにとどめをさしていった。
「これでとりあえず終わりだな。じゃあリリア、餅集めて調理班のみんなに渡そうぜ」
「わかったわ」
 方々で力尽きた餅を集めに再びペガサスで飛び上がったリリアの後姿を見て、エースは呟く。
「雑煮食べ終わったら、鐘つき棒、返しにいかないとな……どこかに」