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第3章 新役員発表

 新学期前日。
 百合園女学院の生徒会室に、白百合団新役員候補が集められた。
 既に役員である、ティリア・イリアーノと、風見瑠奈。
 新たな昇格対象者、及び立候補者である、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)秋月 葵(あきづき・あおい)レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)。それから、一般の生徒から推す声が高いアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)の6人だった。
「あまり緊張なさらないでくださいね。信任投票の結果ですが……」
 団長の桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)が集まった6人に、お茶を進めながら話し始める。
「ティリアさん、瑠奈さん、ロザリンドさん、レキさんは信任が大多数で、不信任はごく少数でした。また、お気づきかと思いますが、テストでもありました『すずらん』でのご挨拶と企画につきましても、積極的に他校の方々とも親交を深める姿勢、子供達を楽しませる遊びの提案と実行を行われており、周囲や施設の方々からも高い評価をいただいております」
 皆を見回して、白百合団、団長として皆を誇らしく思うと、鈴子は言った。
「ロザリンドさん、レキさんにつきましては、副団長を希望されているということで、その仕事の内容的にも特に問題はないかと思います。ですが……団長を正直決めかねています」
「申し分ない支持率だったのは、ティリアと瑠奈だ」
 副団長の神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)が説明を引き継ぐ。
「数だけで言えば、信任票の数はティリアの方が多い。しかし、不信任票もティリアの方が多い」
 また、ティリアへの信任票は団長以外ならば『信任』などの、団長としては信任出来ないと読み取れる理由も多かった。
 逆に、瑠奈の方の不信任理由にはやる気がなさそうだから、本人が望んでないなどの理由が大半だったが、彼女は役員継続の意思は強く、やる気は十分にある。だが、団長になる自信はなさそうであった。つまりその不信任の票は、役員継続に対しては信任と読み取れる。
「ティリアの不信任理由は本人もわかってると思うけど、明確だ」
「武力強化を望まない生徒がいるということですよね?」
 ティリアの言葉に、優子は頷いた。
「あと、好戦的過ぎるように見えたり、少し強行主義に見えるところもあるようだね。暴走しそう、性急すぎる印象があるなどという意見がある」
「神楽崎先輩ほどじゃ全くないと思うんですけど……」
「うん、だから私も団長には相応しくなかったわけで」
 ティリアと優子は軽く笑い合う。
「瑠奈の方は、守旧派であることが理由としていくつか上がっている」
 革新派と思われる者から、島国根性丸出しの時代遅れの守旧派に入れる票なはいというものと、変化を望まない人物は今の百合園に相応しくない、会長との連携が上手く出来ると考えにくいという意見があった。
「それで、そのような生徒の皆様の意見を、お2人はどう思いますか?」
「改めます。白百合団を軍事組織にするつもりは一切ないので。強行的な印象を与えてしまったことを反省し、皆の理解が得られるよう、努力していきます」
 ティリアは即答した。
 瑠奈は……一呼吸おいた後、はっきりとこう言った。
「私に団長をやらせてください。ティリア、さんとツートップでもいいです」
「ツートップがいい、ではなくて?」
 鈴子の問いに、迷いのない目で瑠奈は言う。
「はい。百合子様の時代は、団長が1人で団を率いてきました。桜谷先輩と神楽崎先輩の時代は、2人で率いてきました。次の白百合団は重役皆で率いる団にしたい……というのが、先輩達の意思かとも思います。団は意思のある者、皆で率います。私は皆のまとめ役、そして日本文化を伝える百合園の顔となれるよう、団長に志願いたします」
 はっきりとした口調で、瑠奈は語り始める。
「私は日本の伝統を重んじる百合園が大好きです。百合園の変化を寂しいとも感じていますが、それで日本の伝統がなくなるわけではありません。むしろ、伊藤先輩や桜谷先輩がシャンバラで社会に出ることで、ヴァイシャリーに日本の伝統をより伝えていってくださると確信しています。だから、百合園全体が、日本の百合園女学院と同じである必要はないのだと、最近ようやく理解しました。でも、百合園の中に、学科や部活動として、日本文化を学び、活かせる場があり続けることを望んでいます。おそらく、同じ気持ちの人も多いと思います。それが無くなってしまたったら、地球人の契約者の入学希望者は激減すると私は思います」
 校長は日本のお嬢様として、百合園の象徴として相応しい方だけれど。
 彼の性別が女性ではないことは、既に広く知られている。
 それを好ましく思わない百合園生もいる。
 百合園が百合園女学院であるために。
 百合園の顔の一人として、姿形も心も大和撫子として、日本の伝統を守り続ける存在となりたい。
 瑠奈は意思の込められた目で、そう思いを語っていく。
「ティリアはどう思う?」
 優子がティリアに尋ねた。
「瑠奈が団長なら申し分ありません。瑠奈は意見が合わないからといって、喧嘩するタイプじゃないしね。会長とも上手くやると思うわ」
「お2人のお気持ちは、解りました。瑠奈さんは何か心境の変化があったようですね?」
「……はい。『すずらん』に行った日に、大切なことを教えていただきました。私は、軍や他校生にも頼りながら、百合園からは武力以外の方法で、お返しして、私達の学校を守っていきたいです」
「わかりました」
 それからと、鈴子は葵に眼を向ける。
「団長に立候補してくだった葵さんには、実行力不足を心配する声が上がっています」
「はい」
 葵自信も理解しての立候補だった。
 彼女はただ一人、白百合団をどう導きたいのか明確な意思を示した。
 百合園と、団を守りたいという気持が誰よりも強かったから。
 ティリアを頼りになる存在と思いながらも、彼女の方針とは相反する意見を持っていたから。
「出来れば、団長のサポートをお願いしたいです。勉強にもなると思いますわ」
 そんな鈴子の提案に、葵は「よろこんで」と答える。
 瑠奈のことは理想的だと感じていたから。一緒に頑張っていけるだろう。
「レキへは明確な拒否というほどの不信任意見はなかった。ただ、希望の役割から考えると、副団長ではなく、副団長補佐という役職名が適当かと思う」
 レキは『メインの副団長に、腰を据えて物事を見、指導・指示をして頂き、自分はフォローに回る役を担いたい』と、希望を出していた。
「はい、構いません。補佐する副団長は……お2人でしょうか?」
 レキの言葉に、鈴子が頷き、ロザリンドに目を向けた。
「副団長は、ティリアさんと、ロザリンドさんにお願いしようと思っています」
 ロザリンドは、団長をサポートと、戦闘時は最前列で皆の盾となり、道を切り開くことを役割としたいと申し出ていた。
 また、新たな団の活動として、避難訓練、救助活動、街の巡回などを有志で放課後に行ってみたいということ。
 それぞれが試しに行ってみることで、自分の適性を探したりスキルアップをしていくことが目的だであり、団としての連帯感や結束の強化も図れるし、街の人との触れ合いも大切だと。
 そして、団の基礎方針は変えずに、救護や後方支援の能力を高めていけたらという、方向性も語っていた。
「ロザリンドさんへの意見ですが、兼任が多すぎて重責すぎることを心配されている声が上がっています。逆にそれでも本人にやる気があるので、大丈夫だと強く推す声も」
「一生懸命頑張れば最善の行動が出来ると信じています」
 ロザリンドのしっかりとしたその言葉に、鈴子は頷いた。
「それからもう一つ」
 鈴子は深刻ではないというように微笑みながら言う。
「男(の娘)と付き合ってるなんてありえない。(そもそも校長が男(の娘)というのが有り得ない)……そんな意見がありました」
「ま、そんな風に、色々な考えを持つ生徒がいるが、その生徒達の声に柔軟に耳を傾けられるメンバーがそろったと、私は思う」
 優子はそう言った後、アレナに目を向けた。
「アレナに関しては、キミのことをよく知らない一般の生徒からの支持は高いようだが、契約者と思われる者達からは、無理にやる必要はないという意見が多く出ている。ちょっと気になる意見もあるんで……そのうち、話をしようか」
「……はい」
 アレナは不安げな顔で頷いた。
「それでは、今話し合った役職をベースに、ラズィーヤ様と役割の吟味を行いますわね」
 鈴子はそう言って、ペンを置いた。
 それから、紅茶を飲んで、少しの歓談を楽しんだ後。
 それぞれの想いと決意を抱きながら、少女達は帰っていった。

 翌日。
 全校生徒の前で、白百合団の新役員の発表と任命式が行われた。

●役員
団長:風見瑠奈(かざみ・るな)
※全体指揮、統括

副団長:ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)
※団長補佐、団長代理、総務、警備、防衛指揮

副団長:ティリア・イリアーノ
※団長補佐、団長代理、情報、機動(特殊班指揮)

副団長補佐:レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)
※副団長補佐、副団長代理

●係員
団長秘書:秋月 葵(あきづき・あおい)
※団長秘書、伝達、班長業務

 尚、ティリアの指揮の下、特殊班の一部として、イコン班を設けることになった。