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新たな年を迎えて

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「ティセラちゃん、いっしょにはこんでくれる〜?」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は持ってきたお菓子をテーブルに運ぼうとしたのだけれど、重たくてちゃんと持てなかった。
 体が小さくなってしまっていたのだ。
「いいですわよ」
 そう答えたティセラも、祥子と一緒にリーアからもらったお茶を飲んだ後、身体が縮んでしまっていた。
 二人とも、7歳くらいの女の子の姿だ。
 洋服はまくったりして、どうにか歩けるようにして。
 お菓子の沢山入った籠を2人で持ち上げて、ゆっくりパーティが行われる部屋へと運んだ。
「きょうはみんなといっしょにたのしもうね!」
「そうですわね」
 ティセラは不思議そうな顔で当たりを見回している。
「どうかしたの?」
「……いろいろなものが、おおきくみえますわ。おおきなおとこのひとが、とってもつよそうにみえますわ」
 小さくなったティセラはませたお嬢様に見えた。
「そうだね。けとばされないようにしないとね。わたしたちだけじゃなくて、たくさんのおともだちもね」
「ええ、きをつけてみまもりましょう」
 2人はパーティ会場に入ると、テーブルにお菓子を配って回る。
「みんなーおかしもってきたよー」
 声をかけると、片付けを終えた子供達からこちらへと近づいてくる。
「もうちょっとではじまるはずだよ」
 祥子は全部のテーブルにお菓子を配った後は、ティセラとちょっと高い椅子に仲良く隣同士腰かけて。
 にこにこ微笑みながら開始を待った。

「ねえねえ、みかん釣りってしってる?」
 百合園女学院の制服を着た女の子が沢山のみかんとソーイングセットを持って、遊んでいる子供達の中に入っていく。
「おさかなつりじゃなくて?」
「ヨーヨつりならしってるよ! おまつりでやるの。そーゆーの?」
「うん、そういうの」
 女の子――子供化した鳥丘 ヨル(とりおか・よる)は、みかんをテーブルの上にバラバラにおいていく。
「こうしてバラバラにしたみかんを糸を通した針でひっかけて、いくつ自分のところに引き寄せられるか競うんだ」
「ひっぱったら、ハリとれちゃうよ?」
「とれないように、そっとひっぱるんだよね!?」
「うんそうそう」
 ヨルは子供達に説明をしながら、糸のついた針を配っていく。
 落して無くさないように、針には全て太くて赤い糸を結び付けてある。
「ん? そこのしかめっ面の子も一緒にやろうよ」
 部屋の隅いる兄弟らしき男の子達にもヨルは声をかけた。
「やめたほうがいいよ」
「ちかづくとね、ぶきをむけてくるんだ」
「せんせーのゆうこともきかないんだよ」
「そうなんだ……」
 もう一度声をかけてみようかなと思ったヨルだけれど、一緒に遊んでいる友達の安全と……それから、彼らのことを気にしてる人が沢山いるようでもあったので、そっとしておくことにした。
「実はボク、疾風のみかん釣り師って呼ばれてるんだ。ボクに勝てるかな?」
「かったらこのみかんたべていいの?」
「みかんは釣った人のものだよ。勝った人が沢山もらえるね」
「よぉし、がんばるー!」
 子供達はヨルに教えてもらった通りに、針を投げてみかんに刺していく。
 それから糸をぐるぐる巻き付けて、針が取れないように引っ張って、テーブルから落そうとする。
「ボクの学校のね、百合園の生徒会長は帝国の人なんだ。新学期、学校で会うのが楽しみだよ」
 みかん釣りをしながら、ヨルは隅の子供達にも聞こえる声で言う。
「帝国とは悲しい出会い方だったけど、だからこそ同じ学校の彼女達と仲良くしたいんだ」
 悲しい思い出は消えないけど、嫌ってばかりも苦しいから。
「遠ざけて憎み続けるくらいなら、近づいて相手を知る勇気がほしいんだ」
 子供達はみかん釣り夢中だったことと、ヨルの話はちょっと難しくて、きちんと聞いてはいなかった。
 だけど、部屋の隅の兄弟には聞こえたようだ。彼らはぐっと拳を握りしめて俯いていた。
「またいっこせいこー! あたしがいちばーん!」
「あー……よそ見しているうちに、やられちゃった」
 ヨルはふふふっと笑みを浮かべる。みかん釣りは、すずらんの子供達の勝利のようだ。

「明けましておめでとうございますぅ」
 白百合団班長のメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は、学園の代表者たちやティリアや瑠奈、ロザリンドに新年の挨拶をした後。
 配膳を担当しているレキの元に挨拶に訪れた。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね」
「はい〜。よろしくお願いしますぅ」
 2人とも和服姿だ。
 丁寧にお辞儀をする可愛い少女の姿に、聡ら他校生の男子の視線が集まる。
「料理はまだまだあまり得意とは言えないので……私もこちらを手伝いますぅ」
 でもそんなことに気づきもせず、メイベルはレキを手伝って、パーティの準備を進めることに。
「実はボクもあまりというか、不得意なんだ料理」
 レキはクスリと笑みを浮かべて、そう言い、メイベルと微笑み合う。
 それから、厨房で作られている料理を一緒に運んでいく。
「そろそろ、他校の方達、席についてもらっていいかな?」
 問いかけてきたのは桐生 円(きりゅう・まどか)。円は今日は、きちんと標準の百合園女学院の制服を着て、百合園で習った一般教養に、礼儀作法を捻り出して、一生懸命丁寧に対応している。
「そうですねぇ。最初は子供達のテーブルと学生のテーブルを分けておいて〜、学生側が子供達のテーブルにお菓子を持って遊びにいくというのはどうでしょう〜?」
「うん、そうだね。子供達の席の椅子、間隔を広めにしておくよ」
 メイベルの提案に従って、円は大まかな席順を決めて。
 それから、やや緊張もしながら社交に勤しんでいるロザリンドの元へと歩く。
「お時間が近づいてきました。皆様もご着席ください」
 そう言って、ロザリンドの隣に立って、丁寧にお辞儀をする。
「子供達もお菓子を作ってくださっているようです。楽しみですね」
 ロザリンドは会話を続けながら、円と共に他校の要人達を席へと案内をしていく。
「どうぞ。もう少々お待ちください」
 着席した要人には、レキがお茶を出していく。
 金箔を浮かべた緑茶だ。
「おー、縁起がいいな。いただくぜ。で、良かったら隣に来ないか? すぐ飲み終わりそうだから、左右に座って注いでくれると嬉しいんだけど!」
 聡がレキとメイベルに声をかける。
「時間が出来ましたら」
 失礼のないよう微笑んでそう言い、レキは他の要人に茶を淹れていく。
 メイベルは微笑んで会釈をしただけで、その場を離れた。
「はあ……やっぱり、百合園の子は可愛いな、可愛すぎる……」
 うっとりため息をつく聡を見て、共に訪れた閃崎 静麻(せんざき・しずま)もため息をつく。
「お前、何しに来たんだよ……ああ、そうだよな、ナンパに来たんだよな、それが目的だよな」
 思わずそう呟く。
 当たり前だが、聡は百合園生と会った途端、口説き文句の連発だった。辛うじて、新年の挨拶はしていたが。
 なので、その分、静麻がまともな挨拶をして回っていた。

「そろそろ、パーティ始まるって」
 カトリーン・ファン・ダイク(かとりーん・ふぁんだいく)は、遊んでいる子供達の手を引っ張った。
「あのね、私の友達は日本の子なの。その子から和菓子を教えてもらったんだけど、どってもおいしいのよ」
「わがし? ケーキとちがうの?」
「チョコレートとはちがうの?」
「違うの。甘くておいしいお菓子なのよ。おいしいものはみんなで食べるとおもっとおいしくなるの。私といっしょにたべましょ」
 カトリーンはそう答えて、子供達をテーブルの方へと誘っていく。
「ね、いっしょに食べましょ?」
 カトリーンは部屋の隅に居る兄弟にも声をかけた。
「いっしょはむり」
 すると、カトリーンに腕を引かれていた小さな子が泣き出しそうになる。
「てーぶるでうってきたら、いたいもん」
 見れば、兄弟たちはモデルガンのような玩具を持っている。
「そういうこと、する子なのね……」
 困った顔をしながらも、カトリーンはお菓子を持って兄弟に近づいた。
「くるなっ」
 すぐに、兄の方が銃を向けてくる。
「お菓子を置いていくだけよ。このくりのあまいお菓子って、とってもおいしいのよ」
 そう言って、カトリーンはお菓子を置くと、その場を離れた。
 それから他の子供達と一緒にテーブルに向かった後でそっと振り向くと。
 隅の兄弟たちは、カトリーンが渡したお菓子をぱくりと食べていた。
 彼らは笑みを浮かべなかったけれど……美味しいと思っているはずだ。
「かわいい子たちだもの、きっとみんなとも仲良くなれるわ」
 今は笑えない理由があるんだなと、カトリーンは幼くなった心で感じていた。
「わー、おかしいっぱい!」
「手を洗ってから、席についてくださいねぇ〜。温かい飲み物入れますからねぇ」
 メイベルが優しく声をかける。
「はーい」
「うんっ!」
 子供達はテーブルの上のお菓子に目を輝かせながら、手を洗いに向った。