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我が子と!

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我が子と!

リアクション



〜 6th phase 〜


セントラルビルに足を踏み入れてすぐ、空間全体を凄まじい閃光が包み
気がついた時には九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は全てを思い出していた

  この度、素敵な新機能が実装されました!
  その名も『我が子シュミレーター』!!

  自分と恋人、自分と憧れのあの人、お友達同士……
  データを入力するだけで、二人の間に産まれるだろう子供をシュミレートし
  その子供と仮想都市で遊ぶことが出来る機能です

先日、ヴァーチャルシュミレーターを使った仮想都市が打ち出した新たな企画
あまりに遊びと興味が過ぎるようなカップル対象の俗っぽいデート企画だったはずだが
興味半分の者だけでなく、身体的な理由や様々な事情を持った者が利用を望み、参加者が殺到
数日をもって一大テーマパークのような賑わいになっていた

そんな中、彼女がこの仮想都市を訪れ、シュミレーターと出会ったのはたまたまの事だった
正直、世の中の流行りに反応したのも事実だし、興味が無かった…と言えば嘘になる
だが、過去の父との関係もあり、どうしても参加する気になれず
多くの参加者を眺めているうちに、緊急ニュースで仮想空間にバグが生じているとの報道を知った
シュミレーター参加者の多くがそのバグの影響を受け、仮想空間に閉じ込められている事も判明し
彼女は原因を突き止めようと、封鎖網を抜けて仮想空間に侵入したのだ

シュミレーター適合者の条件は子供を望む気持ち
そのイメージを媒介にし、コンピューターが望んだ姿に近い子供のマテリアルを作り出す
それ故、子など望まない自分はバグやシュミレーターの影響を受けないと判断していたのも
彼女が危険な突入を決めた理由だった

理由だった……のに……?
自分はいつの間にかシュミレーターの影響下に置かれ、作られた子供と共にその記憶を忘れ
ずっと今まで一緒にいたのである

 「なんで……私に子供が……」

我に返った今となってはその事が不思議に思える、だが……。

 「おかあさん、どこかいたいの?ヒールで治るかな?」

記憶の混濁に頭を抑える自分を不安げに見上げる仮の娘、ロビンの姿を見つめ、彼女は納得する。

  ああ、そうか……この子は私なんだ。
  そして愛する者を失い、それに向き合えずにわが子とすら向き合えていない、という自分の作られた記憶
  これはそう、父の……父の記憶なんだ
  それ程までに自分は父との事を引き摺っていたのか……その思いをシュミレーターの媒介にする程に

  だが、だからと言ってどうだというのだ、この子は作られた子、そして私の半身だ
  だから私は……この子を……受け入れられ……ない

全てを思い出し、膝を突く九条、それを不安げに見守るロビン
その傍らで、また六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)も全ての記憶から解き放たれ、天を見上げていた
……なんとまざ滑稽で、穏やかで。とんでもない悪夢だろう、と

 「あなたは最初から知っていたのでしょう、輪子?」

鼎の問いかけに申し訳なさそうな顔で娘が寄り添う

 「……気づいたのは私もずっと後じゃ、父上
  我々マテリアルは己が認識より親と指定されたサンプルのイメージの具現化を優先される
  だからこの胸にある7つまでの記憶も確かなんじゃ
  だがそれ程までに高度なプログラムなら、共に記憶を構築して行くうちに己が立場を自覚するのは必然
  ……ま、仕方のないことじゃ。何時かは来ることだと思っていた、時間の問題だったのだ」

俯いて鼎の手に触れながら、輪子の言葉は続く

 「……でも。もう少し甘えていたかった、かのう」

ぽたり……と、自分の手に落ちる静かな水滴に気がつき、鼎は自分の胸の内を確かめる

  そう……どんな仮初でも、この手に落ちた涙は自分にとって本物だ
  例え浅はかな思惑が生んだ関係だとしても……親の頭に靴をぶつける様な乱暴な娘だとしても

  楽しかった、幸せだった……だから悪くなかった、と思う
  ……………だが、それはそれ、これはこれだ

俯く輪子の顔をしゃがんで見つめた後、鼎は不意に娘の鼻をつまむ
思っても無い親の行動に娘は顔を真っ赤にして逃れようとする

 「ふぇ?ひ、ひひうえ?ひゃにをいっはい?」
 「7歳の癖に余計な知識と言葉ばっかり詰め込んで…一体誰の願望なんですかねこれは
  だから、娘に苦労をかけたけじめを……つけにいかないといけませんね」

輪子の鼻から手を離し、俯いている九条と輪子に向けて鼎はこれからの行動を宣言する

 「このままセントラルビルの中心に突入し、バグの根源を駆除します。
  あなたもその為に来たのでしょう?九条さん。協力してくださいませんか」

のろのろと顔を上げる九条
それを見終わらぬうちに、今度は輪子の手をしっかりと握る

 「さ、あなたも手伝いなさい輪子。お父さんと……一緒に踊ろう!」