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リアクション
「ふぅ……。よし! まずはフェイズ1が終了ってとこね!」
一つ息を吐いて呟くと、ルカルカは隔壁の向こうへと突入する。すると、そこには何人かの作業員が倒れていた。
「助けに来たわ!」
要救助者が倒れているのを発見するなり、ルカルカは彼等を励ますべく、ひときわ快活で力強い声を上げた。それに続くようにして、隔壁の向こうへと飛び込んだウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)はルカルカを振り返ると一度深く頷き、言った。
「適材適所ってな☆ 任せる所と自分がやるべき事を見極めれば何でも出来るし、何より皆で生き残りたいからな」
そして、今度は要救助者に向き直ると、ウォーレンは素早く駆け寄って声をかける。
「歩けますか!」
そう問いかけられた要救助者は礼を言って何とか立ち上がろうとするも、脚が爆発で飛んできた大型の瓦礫の下敷きになった衝撃で折れたらしく、脚を踏ん張ることができないようだ。
「待ってろ! 今、応急処置をする!」
要救助者の状態を即座に見て取ったウォーレンはその場で応急処置を始める。人間の医者ではなく、獣医であるとはいえ、医療の心得を持つ彼は、的確に応急処置を進めていく。
一方、ウォーレンのパートナーであるジュノ・シェンノート(じゅの・しぇんのーと)は氷術で部屋の温度を下げつつ、火術で火の勢いをコントロールすることで環境の改善を図る。
「魔法って便利ですね」
更に、環境の改善と並行して、ジュノは連れてきた賢狼の嗅覚を活かして怪我人の捜索にあたっていた。
「おっかない隠れんぼですね、鬼は火か俺か」
そうジュノが一人ごちた直後、大型の機械の裏手に回った賢狼が咆哮を上げて怪我人の存在を知らせてくる。それを聞き、ジュノは大型機械の裏手へと小走りに走り込むと、賢狼の前で倒れている要救助者の作業員に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
ジュノからの呼びかけに対し、作業員は弱々しい声ではあるが、何とか返事を返す。かろうじてだが、喋れるようだ。
「貴方を搬出するのは当然として、他に搬出して欲しい資料や物品はありますか?」
そう問いかけられ、作業員はいくつかの物品を震える手で指さすと、自嘲気味に呟く。曰く、現場の人間であるにも関わらず、この一大事に何の役にも立てていない――と。
しかし、その自嘲気味の呟きに対してジュノは微笑みを浮かべると、作業員が指さした資料と物品を手早くかき集め、更にその上で作業員に肩を貸して立ち上がる。
「自分の今できる事を素早く的確に十二分に、ですよ。貴方が今できることは、無事に生きて帰り、今後の復旧や稼働再開の助けとなること。そして、大切なものを搬出する援護が俺の仕事です」
肩を貸した作業員に語りかけながら、ジュノは更に微笑む。
「頑張って生き残って下さい……無茶して怪我した奴はぶん殴りますからね」
冗談めかして言うと、ジュノはにこりと笑みを浮かべると、作業員を勇気づけるように言った。
「生きてれば何だって創り直せますよ」
ジュノが作業員を連れ出している横で、鳴神 裁(なるかみ・さい)はパートナーである魔鎧――ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)を装着し、江戸時代の火消しとして有名な『め組』の「火消し」の纏(まとい)を掲げて、隔壁の向こうへ突入しては作業員を連れ出してくるのを繰り返していた。
有名な火消しの格好をして気を引き締めるという彼女の作戦が功を奏したのか、裁は凄まじい気迫で突入、救助、再突入を極めて早いスパンで繰り返していく。
「ボクの持ち味は素早さだ!」
自分自身を鼓舞する為、そして、災害現場で待つ要救助者を安心させる為、裁は声高に叫んだ。それに呼応するように、パートナーであるドールも裁に装着された状態で、自らの能力を発動する。
強化装甲にエンデュア、そして、フォースフィールド。物理的な防御力の向上に加え、精神力による力場を形成する能力等々、それらの防御壁を幾重にも組み合わせ、ドールは迫り来る災害現場の炎に対し、鉄壁の防御壁を創出し、裁を守る。更には、装着者である裁の肉体を強化し、超人的な身体能力を与えることで、ドールは救助効率の更なる向上を成功させていた。
「煙を吸わないよう鼻と口にハンカチ、マスクなどを当てろ! 救助班に従い落ち着いて行動するんだ!」
裁と同じく相棒である魔鎧を装着し、救助活動にあたっていた狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)は要救助者が多い分、パニックに陥って出口に殺到し将棋倒しになる危険性が高い点を懸念し、そうなる前に先んじて取り残された作業員たちに指示を飛ばしていた。
相棒である魔鎧――ビリー・ザ・デスパレート(びりー・ざですぱれーと)は黒革のライダースーツの姿となって乱世に装着されており、裁とドールがそうしたように、精神力による防壁で装着者、即ち乱世を襲い来る火炎から防護していた。
ビリーの能力で護られているのに任せ、燃え盛る火炎の中へと突入し、それを走り抜けた先で乱世は取り残された作業員を発見するも、乱世と作業員たちの間には火災で焼け落ちた機材や備品が重なって溶け合ったものが通路を塞いでおり、作業員はそれほど離れていない場所に倒れているとはいえ、その救助は一筋縄では行かないようだ。
その状況に直面し、乱世が歯噛みした時だった。つい今しがた彼女がそうしてきたように、燃え盛る炎の中を誰かが強引に駆け抜けてくる。
「ああっ! ここにもいたっ!」
燃え盛る炎の中を駆け抜けてきた誰かは、乱世のすぐ近くまで走り込んでくるなり、元気な少女特有の声を上げる。その声にはっとなって振り返った乱世は、心当たりのあるその声の主に向けて、感嘆の声を上げた。
「裁!」
乱世から名前を呼ばれて、走り込んできた誰か――裁も振り返ると、元気な声で応える。
「ランランもこっちに来てたんだ! って……早くあの人、助けないと!」
変なアダ名を勝手に付けられ苦笑するも、すぐに乱世は引き締まった顔になると、腕を回して肩をほぐしながら、すぐ傍に立って、崩れた機材の向こうに倒れている作業員を見つめている裁へと問いかけた。
「裁、お前と相棒の鎧なら、このデカブツの下をくぐるのに何秒必要だ?」
肩をほぐし続けながら、乱世は引き締まった顔で裁へと問いかけつつ、前方に鎮座する機材と備品の山をしっかりと見据える。元来、大型の機材であったものに、付近から焼け崩れてきた備品が高熱で溶解して癒着したせいで、機材は更なる巨体となり、障害物としてはもはや小規模な壁に等しいサイズにまで肥大化しており、乱世の身の丈以上はある。
かろうじて隙間は残っているようで、そこから向こう側は見えるものの、逆に言えば覗き穴程度の隙間しかなく、その隙間から人が行き来するのは無理だろう。
だが、そんな状況にあっても、乱世の心には希望が満ちていた。確かに、ついさっき一人でこの状況に直面した時には、どうしようもなかったかもしれない。だが、今は違う。自分がやったのと同じように、燃え盛る炎の中を突っ切って裁が来てくれたのだから。
裁、そして彼女のパートナーであるドールの存在があれば、この困難な状況も打開できる――乱世にはそんな確信があった。
「5秒……いや、10秒は持たせるからよ。その間にあの作業員の兄ちゃんを頼む。――できるよな?」
「もっちろん! さっきも言ったじゃない、ボクの持ち味は素早さだ! ――って」
信頼に満ちた顔で問いかける乱世に、元気一杯の顔で返事をすると、裁は大きく頷いた。
「上等! それじゃ、行くぜ!」
裁の返事に満足そうに笑うと、乱世は意識を集中するとともに、気合いを高めていく。
「うおおおおおおおおおお!」
鬼神力によって発達した筋肉は傍目にはそれとわかるほどには膨張はしていない。だが、タイトフィットな黒革のライダースーツが、はちきれんばかりにを張っているのを見るに、筋力が凄まじい増強を遂げているのは明らかだ。
黒革のレザースーツを小気味良く鳴らしながら、乱世は左右の拳を打ち合わせることで、もう一度気合いを入れ直すと、機材と備品が溶け合ってできた障害物に駆け寄り、その下部にある隙間へと手を差し入れる。
「男は度胸! 女も度胸! うぉぉぉぉぉらぁっ!」
まるで咆哮するような雄叫びを上げ、乱世は全身全霊で巨大な障害物を持ち上げにかかった。歯を噛み砕かんばかりに食いしばり、煤でくすんだリノリウムの床を踏み抜かんばかりに足を踏ん張って、乱世は機材と備品が溶け合ってできた壁と格闘する。
最初の数秒こそ、まるで床と溶接されたようにビクともしなかった障害物も、乱世の気合いが通じたのか、微かにではあるが動き出し、少しずつ震えるようにして浮き上がっていく。
「ふんぬううううう!」
微かに障害物が持ち上がったことが乱世の心を勇気づけたのだろう。彼女は更に気合いを入れ、渾身の力を全身に込めて障害物を持ち上げようとする。すると、遂に障害物は人一人が何とか通れそうな高さまで持ち上がった。
「ぐぐぐぐぐ……! だぁっ! 裁ッ! ……今だッ!」
一人一人分の隙間ができるまで障害物を持ち上げた乱世は息を整え、今度は苦心して作り出した隙間を維持することに注力する。驚嘆すべきは乱世の膂力、そして気合いだった。魔鎧を装着していることや、鬼神力の恩恵を受けているとはいえ、彼女は自分の高さや横幅、そして厚みに至るまで、すべて自分を上回る巨大な障害物をたった一人で持ち上げているのだ。
「オッケイ! ランラン! 後、少しだけがんばって!」
障害物が持ちあった瞬間、阿吽の呼吸でスタートダッシュをかけた裁は一瞬で障害物の下をくぐって作業員に接近し、即座にその身体を抱え上げると、自身の持ち味である素早さを活かし、再び障害物の下をくぐって戻ってくる。
「救助完了! ランラン! もういいよ!」
作業員を無事に救助し終えた裁が十分に離れたのを確認すると、乱世は一気に手を離した。持ち上げられていた障害物が床につくと同時に凄まじい衝撃が走り、辺り一面が振動するあたり、相当な重さであったことが伺えた。
「ふぅ……結構な重労働だったぜ……」
大きく息を吐いて、肩の感触を確かめるように腕を軽く回すと、乱世は助け出された作業員の状態を確認するのを兼ねて裁へと向き直った。
「とりま大丈夫みてぇだな。あ、それと裁――」
そこで作業員から視線を移すと、乱世は裁の着衣を見ながら、にっと笑う。
「――良い鎧だな、お前の相棒」
すると裁も笑顔を浮かべて、言葉を返す。
「ありがとっ! ランランの鎧も最高だねっ!」
裁からの言葉に乱世はもう一度笑みを浮かべると、その後に苦笑しながら言った。
「ああ。ありがとよ。それと、そのアダ名だけはカンベンな」
一方その頃、変身ベルトで仮面ツァンダーソークー1に変身した風森 巽(かぜもり・たつみ)は火事による熱と一酸化炭素等の毒性ガスを防ぐ為に防毒機能を持ったマスクを仕込んだ仮面ツァンダーマスクを被り、入口から作業区画まで、疾風の如しスピードで駆け抜けていた。
「変身! 蒼い空からやってきて! 人の命を護る者! 仮面ツァンダー! ソークー1! 参上!」
名乗りを上げながら疾走する彼は作業区画の最奥へと躊躇なく突き進んで行った。その途中で冷気を放って消火活動をすることも忘れない。
「チェンジ! 冷却ハンド! 爆裂的に鎮火する!」
更に彼は強化された感覚によって生存者の気配を感じ取っていく。
「感じるんだ……助けを呼ぶ声を……見つけたっ!」
すぐさま生存者の気配を感じ取った彼は、燃え上がっているドアに駆け寄るなり、少しも憶すことなく拳を握ると、ドアをパンチングでこじ開ける。
「助けに来たぞ!」
すると、最奥と思われるその部屋には一人の作業員が倒れていた。巽はその作業員に駆け寄ると、手厚い処置で応急手当をするとともに、炎による体力低下防止を施していく。
「うう……」
ややあって作業員が気がついた時だった。彼等の頭上の天井が崩れ、二人に向けて落下してくる。
「危ないっ!」
それに気付いた巽は咄嗟に身を挺して作業員を庇うと、背中で天井を受け止める。仮面ツァンダーの装甲に守られたものの、砕けた天井の破片が散らばっているのを見る限り、その衝撃は相当なものだったに違いない。当然のように心配そうな、それでいて申し訳なさそうな顔をした作業員に向けて、巽は優しく言う。
「気にするな、増える傷跡が誰かを護った我の勲章だからな」
すると作業員は小さく微笑んで言う。
「こんな危険な場所、それも一番奥まで来てくれて……本当に感謝しているよ」
すると巽は立ちあがって拳で胸板を叩き、それに応える。
「皆の笑顔が戻るなら、どんな辛い事も……苦しみだって越えてやる!」
力強い巽の言葉。だが、それを嘲笑うかのように、被害状況は凄まじい速度で悪化していく。既に部屋の中は殆どが炎で埋め尽くされ、壁や天井も次々と崩れ始め、もはや原形を失いつつある。
悪化の一途を辿る被害状況を見ながら作業員はもう一度小さく微笑むと、巽に囁いた。
「ありがとう。もういいよ。俺の為にここまで来てくれただけで十分だ。あんたみたいな強くて優しい人はこんな所で死んじゃいけねえよ。だから、あんた一人で逃げてくれ」
すると巽は口角泡を飛ばす勢いで声を上げた。
「な、いきなり何を言って!」
だが、それとは対照的に作業員は穏やかな表情と声音で告げる。その様は、どこか達観しているようだ。
「これだけ燃えてて、しかもここは奥まってる。もう無理だ……けど、あんた一人なら何とか逃げられる。あんたなら、これから先も大勢の人を助けられる。だから、俺一人なんかの為に死ぬもんじゃねえよ。だから、俺は置いて――」
そこまで言いかけた時、巽は大声で叫びを上げ、作業員の言葉を遮った。
「ふざけるな!」
その剣幕に思わず作業員が黙り込んだのと同時、巽は感情に任せて一息にまくし立てる。
「一つの命を救うのは、無限の未来を救うことだ! 一人だとか、大勢だとか……そんなものは関係ない!」
言い放つなり巽は作業員の身体を抱え上げると、焼け崩れる寸前のドアを蹴破り、炎の中を全速力で駆け出したのだった。
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