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リアクション
◆◆
さて……。
それは、バレンタインデーの昼下がりのことでありました。
公園にある約束の木の下で、二人の少年が並んで立っていました。
その木はですね、いわゆる恋人同士が結ばれるとか、告白するとオッケーされるとか言う噂の、いわゆる恋愛スポットなわけです。さらには、広場もあったりして、あの辺で弁当を食べたりしたら楽しそうです。
この二人、もしかして恋人同士なのでしょうか、雰囲気がギクシャクしてますし、ちらちらと意識しあうように視線を交わしたりしています。
が、よく見ると違うようです。
「よう、何でこんなところに兄弟がいるんだ?」
「何でって、呼び出されたからに決まってるだろ」
この二人、八神 誠一(やがみ・せいいち)と日比谷 皐月(ひびや・さつき)だったのです。お互い顔を見合わせると複雑な笑みを浮かべます。
「おや、兄弟、奇遇だねぇ。まさか、その呼び出しの相手は雨宮さんじゃないだろうねぇ」
「そちらこそ、オフィーリアじゃないだろうね?」
「……そういえば、バレンタインデーだねぇ」
「バレンタインデーだな」
「とても嬉しそうにチョコ作っていたねぇ」
「ああ、幸せそうな表情をしていたな」
「……」
「……」
「は、ははは、ここは……逃げの一手、だよねぇ?」
「アテはあるのか?」
「彼方まで」
「そうだな、行けるところまで行くか……」
そんなことを言っていますと、向こうからさらに女の子が二人やってきます。
「待ったか?」
金髪をサイドに束ねた金髪の少女は、オフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)です。もう片方の銀髪ロングの娘は、雨宮 七日(あめみや・なのか)です。
「待つんじゃなかったねぇ……」
じりじりと後ずさりしながら、誠一は顔を青ざめさせます。その視線の先には、なんと言いますか、茶色く名状しがたい物体がこちらに歩いてくるのが見えます。
オフィーリアと七日が引き連れるように、機械のように従順についてきています。全長5メートルくらいありましょうか、不気味なオーラを身にまとって、ゴーレムのように、だが意外とサクサク近づいてきます。向こうからやってきます。こっち見てます、すごいこっちばかり見つめていますよ。
皐月は決死の表情で呟きます。
「……命があったらまた会おう」
「……グッドラック、兄弟」
皐月と誠一は、ダッと駆けだします。しかし回り込まれてしまいました。
「待つのだ。俺様の渾身のチョコケーキを受け取れないというのか!?」
オフィーリアが見事な身のこなしで、誠一を捕らえます。
「……一生懸命作りました。……食べてくれたら……嬉しいです……」
さらには、七日も、皐月を取り押さえ、ちょっぴりはにかみながら微笑みます。
「あ、あんなの食べられるか!」
皐月は戦慄の目で、そのゴーレム(?)を見つめます。彼女らの言葉からすると、チョコレートケーキのようですが、何をどう間違えたらああなるのでしょうか?
「魔王チョコケーキオブナイトメア。可愛いでしょ、俺様たちより愛を込めて……」
「ほら、もう目の前まで来てますよ……、はい、あーんして下さい」
七日が皐月の口を開かせようとしています。
「おやおや、僕、走馬灯が見え始めたよ。あの頃はよかったねぇ……」
ガッチリ押さえ込まれた誠一が古きよき時代を思い出していた時でした。
不意に異変が起こります。
この哀れな(?)二人を神は見捨ててはいなかったのです。
「……」
長い黒髪を後ろで束ねた背の高い青年が、天使のような足取りで近づいてきてスルリと皐月たちの傍を通り抜けます。
「?」
次の瞬間。破裂音とともに、足元から竜巻が巻き起こります。
「えっ?」
「……?」
オフィーリアと七日は、一瞬何が起こったかわからなくて目を丸くします。
ぶわり! と皐月たちを助けるためにやってきた神風に煽られて、オフィーリアと七日のスカートが盛大にめくれあがります。何の対策もしていなかった二人、完全に無防備です。
パンツ丸見えです。色は白でよかったですね? 好みに合わせて脳内で変換してください。
「きゃああああっっ、なにこれぇっ!?」
「…………!!」
職人の心のこもったプレゼントは持続時間が長いです。必死にスカートの裾を押さえようと二人がじたばたしている間に、皐月と誠一は自由の身になります。
「……」
「……」
立ち上がった皐月と誠一は、目配せあいます。
パートナーのパンツ取りますか、自分の命取りますか……?
二人は、即座に自分の命を選択して、脱兎のごとく駆け出します。
ゴオオオオオッッ! と強烈なオーラを撒き散らしながらチョコケーキ(?)の魔王が追いかけてきます。
パンツ見せたので、後は娘さんたちにはフェードアウトしてもらいます。
「うぎぎぎぎぎっっ! こんなんじゃ物足らんし、許さん! 全てのリア充を爆破してやる!」
皐月たちを救った真性非リアの閃崎 静麻(せんざき・しずま)は、本当にテロリストと化して街中に登場します。満を持しての万全装備です。
彼、マジでモテてませんから、暗い情念は半端ではありません。そう、とてもとても頼りになる男です。彼ならやってくれるでしょう。
ゴーレム(?)も気になりますが、そちらは一旦置いておいて。
しばらく静麻の行方を追ってみましょう。
○
「……」
その日、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)はちょっとドキドキしながら帰路を急いでいました。
何でも、ツァンダの街に、リア充を狙うテロリストたちが跋扈しているというではありませんか。
彼自身は、外見等普通の好青年で、一人街中を歩いていれば通り魔でない限りは狙われないだろうと思っていたのです。彼の名を知らない場合にのみ。
そう、あの御神楽環菜(みかぐら・かんな)を妻にもつ男なのです。しかももちろん夫婦仲円満、どころかラブラブすぎてたまりません、状態なのです。
えっとですね。これ……現在最大のリア充じゃないですか?
そりゃ、他のカップルもそれなりですけど、どうしてこんな大物を誰も狙わないのでしょうか。
それは、彼がまだ気づかれていないからなのです。 ですが、彼の命運もここまでです。
彼は今、蒼空学園の調理室を使用して、愛する妻のために愛情を込めて作ったケーキをツァンダを手にしているのでした。
「……」
愛する妻の顔を思い浮かべるたびに、図らずとも彼の顔はほころんでしまいます。
このケーキは喜んでくれるでしょうか。いや、一緒に食べることにのみ価値があるのです。と……。
彼は、不意に呼び止められ警戒しながら振り返ります。一瞬テロリストかと思いきや。
「あの、道を聞きたいんですけど」
彼に話しかけてきたのは、金髪の美少女たちでした。かなり可愛い子たちです……ふふ、妻には敵いませんけどね。
「どうかしたのですか?」
「道に迷ってしまって……」
その金髪美少女である刹那・アシュノッド(せつな・あしゅのっど)は、アレット・レオミュール(あれっと・れおみゅーる)と遊馬 澪(あすま・みお)、サルヴィン川の精 ニコル(さるゔぃんがわのせい・にこる)とともに、この街に遊びに来ていたのでした。
街はなにやら騒がしいですが、彼女たちは気づいていません。騒ぎにも、そして目の前の青年の正体にも。そんな危険な男に近寄ってはいけなかったのです。道くらい交番で聞きましょう。
目の前のいかにも人のよさそうな青年は、最大のリア充なのです。巻き込まれるのが目に見えてます。
「ああ、それでしたらですね……」
彼が笑顔とともに答えようとしたときでした。一瞬走った殺気とともに、強烈な閃光が迸り、破裂音が鳴り響きます。
「……!」
それは、静麻が放ったランダムダイスボムという名の爆弾だったのです。
この爆弾、効果は六種類ありまして、最初にスカートをめくった小さな竜巻を起こす効果の他に、服を溶かす効果やスライム状のものが襲い掛かってくる効果など、素晴らしい作りです。ホンモノテロリストと化した静麻にぬかりはありません。まさに職人です。
今回はなんでしょうか……。今、ダイスを振ってみます……。
3でした。いいですねぇ、空気を読むダイスを持っているって……フフ。
「きゃああああっっ!? なによこれ……?」
刹那が悲鳴を上げます。
噴射した液体が、彼女らの衣装をドロドロに溶かし始めてくれます。
ちょっと見てみましょうか……。
刹那は……、水色の縞パンツですか。
アレットは……、オーソドックスな白ですね。
澪は……、はいていませんでした。ヤバイのでここで描写を終えましょう。
ニコルは……、男の子なのでどうでもいいです。男の娘じゃなくてホンモノ男。……。まあ、いいです。
しかも、それもドロドロ解け始めてしまいます。危険なので別の方を向きます。
で、当のリア充、陽太はというと、なんと横合いから飛び出してきた僧侶の衣装を纏った男に助け出されています。かと思ったら、そのままズボンを奪われてしまいました。何なんでしょうか。これについては後に述べましょう。
「ギギギギッッ……、リア充め、討ちもらしたか!」
遠くから眺めていた静麻は、新たなリア充を探していってしまいます。といいますか、手当たりしだいにランダムダイスボム投げてます。辺りから沸き起こる悲鳴。無駄遣いは控えてくださいね、いざという時のために。
「逃がさないわよ!」
刹那は追おうとしますが、ニコルが羽交い絞めでとめます。
「その格好で街うろつくのはまずいって。まず服買いにいこうよ、服」
「ズボン奪われるどころか、服全部とけてしまったねぇ……」
う〜ん? とそのままどこかへ行こうとする澪も回収してリベンジを図ります。
「……」
パンツ一枚で道端に放り出された陽太でしたが、おお、なんと彼方から妻が迎えに来るのが見えたではありませんか。遅くなったので心配して様子を見に来たようです。それだけで完全回復です。彼女が巻き込まれなくてよかったと胸をなでおろしながら、彼は幸せな家路に着くのでありました……。
○
神崎 輝(かんざき・ひかる)は、パートナーのシエル・セアーズ(しえる・せあーず)と一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)とともに、公園デートを楽しんでおりました。
輝とシエルは恋人どうしで、それはもうイチャイチャイチャイチャしていたわけです。輝は男の娘なんですけど、それはもうあまりに完璧に可愛すぎて、そこいらの生物学上の単なる女なら裸足で逃げ出すでしょうね、ふふ、楽しみです。
で、相手の金髪のほうが女の子なんですけどね、こちらも当然美少女で、こんな二人が公園で目立ってるのです。テロリストたちはなぜ現れないのでしょうか。
このパンツ章に登場したからには断固全員見せてもらう所存なのですが、まだやってこないようです。
「手作りのチョコレート、愛を込めて……受け取ってくれる?」
「ええ、ありがとうございます」
もう、何度書いたでしょう、こんな恒例のやりとり。アツアツのチョコプレゼントです。
「食べさせてあげる。あ〜ん」
「……おいしい。舌がとろけそうです」
チョコよりも甘とろろんな空気が辺りを支配し、二人だけの大切な時が流れます。
「ねえ……」
「んっ」
ちゅっ。と二人はそっと唇を合わせたりしています。
いい雰囲気です。けしからんですね、もっとやれであります。
と……、
「……ぐぎぎぎぎぎっっ」
来ました、静麻です。もはや彼に言葉はいりません。職人は無口なくらいのほうがカッコイイですしね。粛々と己が職務を遂行し、テロリストらしく散ってくれるでしょうか、今回は勝手が違います。
周囲を警戒して殺気看破なんかやってくれちゃってる瑞樹がいますからね。この娘、機晶姫で、ミサイル撃ってきます、いきなりです。もちろんテロリストなんか殺す気満々です。
「死ね!」
「ギギギギッッ」
職人吹っ飛びますが、もちろんそこいらの連中とはダークオーラが違います。ガチ非リアで憎しみが違います。全てのリア充に何かするまでこの世を去るわけにはいきません。遠くから例のランダムダイスボムをガンガンぶつけてくれます。こっちだって色々特技持っててくれて、応戦できます。LVだって高いです。なぜ彼女できないのでしょうか。
リアVS非リアの命とパンツをかけたバトルが展開されます。
「……!」
奥でチュッチュしていた二人も気づきますよ、もちろん。音大きいですからね。顔を見合わせて頷くと、テロリストを完全消滅させるためにこちらにやってきます。
「うぎぎぎぎぎぃぃぃっつ!」
職人はニヤリと微笑みます。戦力的には三対一ですが、ねえ……パンツ見るだけなら充分ですよ?
最期の力を振り絞った、渾身のランダムボムが炸裂します。竜巻が、輝とシエルのスカートを盛大にめくってくれます!
「……!」
男の娘アイドル、輝の白地に水玉女の子パンツと。
その恋人、シエルのピンクにいちご柄のパンツが、華々しくご披露されます。
瑞樹ははいていません、機晶姫ですからね。グッドです。
「きゃあああああっっ!」
悲鳴とともに、総攻撃が開始されます。
さらには。
「追いついたわよ、もうパンツ見られないんだから!」
刹那たちも追いかけてきて戦闘に加わってきました。
「ギイギギギギイイギギ!」
お疲れ様でした、職人。我々のパンツのためによく戦ってくれました。ありがとうございました。後はゆっくりとお休みください……!
≪ ただいま非常に暴力的なシーンが繰り広げられておりますので、お見せできません ≫
ピ―――――
フェイドアウトします。
三日後、静麻が病院で目を覚ました頃には、すでに祭りは終わり、リア充カップルたちは日常に戻っていたそうです……。
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