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バレンタインデー・テロのお知らせ

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バレンタインデー・テロのお知らせ

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 レポートター修行中の六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)は、『六本木通信社』をお休みして、テロリスト狩りに巡回していました。
 せっかくケーキを作ってきたのに、こんないい日にアホなことしてぶち壊す連中は、もちろん排除するべきなのです。
「なかなか現れませんね」
 吸血鬼のアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)と腕を組んでカップルデートです。フリですが、かなりいいムードです。ゆっくりと街を散策します。
「みんなこっち見てるな。なんか全員こちらを狙っているように見えてきた」
「やっかみうけているのでしょうか? もっとディープなカップルだっていると思うのですが」
「全員監視しあっているみたいで、あまり気分よくねえな」
「実は、全員テロ狩りの人たちだったりして」
 優希がそんなことを言ったときでした。
 あちらの木陰からじっと優希を見つめている少年がいるのに気づきました。
 すごいこっち見てます。まるで、そう、狙っているかのように。そして、全身から暗いオーラが立ち込めています。彼は、アイス・シトリン(あいす・しとりん)です。いったい何をしているのでしょうか?
「……あいつかな?」
「行ってみましょうよ」
 二人がそちらに向かおうとすると、後ろから呼び止められます。警戒しながら振り向くと、
「あ、あのさ。僕、取締役を探しているんだけど、知らないかな?」 
 小柄で優しげな少年がやってきて、そんなことを聞いてくるんです。
「取締役? 会社の?」
 優希は心当たりもなく、首を傾げます。
 その少年霧丘 陽(きりおか・よう)は、何かおどおどしながら、あちらこちらをキョロキョロしています。もうめちゃくちゃ怪しいです。しかも、頭に変な塊を載せているんですよ。テロリストでしょうか?
「その割には、殺気を感じねえな」
 アレクセイは優希に小さく耳打ちします。
「とにかく、取締役って人は、まあどこかの会社にはいるんでしょうけど、知りませんね」
「そ、そう、そうなんだ。ところで、いい天気だね」
 陽はまだ話をねばって続けてきています。何なんでしょう彼、どうでもいい話を。ちらちらと上を見るように視線を動かしています。
「?」
「おい、行こうぜ。構ってる暇ねえだろ」
 アレクセイが言います。が、優希が我慢しきれないといった表情で聞いてきました。
「ところで、その頭の上に乗せているものは何なんですか? いや、答えたくないならいいんですけど」
「……」
 その時の陽の顔は困ったという表情と良くぞ聞いてくれたという表情が入り混じった複雑なものです。目が何かを必死に訴えています。
「アクセサリーか何かですか?」
 優希がそう聞くと、陽はどんよりと表情を曇らせます。
「もしかして、取ってほしいのですか?」
 陽の表情がぱあっと明るくなりました。
「わかりました。取ってあげますね」 
 そう言って、優希が手を伸ばしてそれに触れようとしたときでした。
 ストン。と軽い音がして何かが下に落ちるのがわかりました。
「……え?」 
 と優希は一瞬何が起こったかわからずに目を丸くします。
 いやな予感がして恐る恐る視線を下げてると、スカートが落ちて、真っ白なパンツが丸見えになってます。誰かが『奈落の鉄鎖』をかけたようですが、相手はどこに……?
「き」 
 彼女が悲鳴を上げそうになった瞬間。
「ありがとう!」
 陽が優希の手から塊をひったくり、空へと投げつけます。
 ドオオオオン! と轟音とともに、それは上空で爆破しました。
「てめえ!」 
 アレクセイが陽を羽交い絞めにしますが、彼は抵抗せずむしろ今度ははっきりと指をさします。
「違う、上、上!」
「え?」
 それにつられてアレクセイが上空に視線を投げかけると、そこには烏の羽を生やした人物が浮いています。それは、陽のパートナーのフィリス・ボネット(ふぃりす・ぼねっと)です。パートナーなのに、陽の頭に爆弾を取り付けて怪しげな脅迫をしていた模様。
「アイス、もういい、動いちゃだめだ!」
 陽は、木陰から何かを仕掛けようとしていたアイスに声をかけます。
「あいつか!」
 そのアレクセイの声と共に、茂みに潜んでいたミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)も前もって準備してあった『奈落の鉄鎖』をかけます。
「ちぃっ!」
 舌打ちをしながらもフィリスは逃げようとしますが、標的さえわかってしまったら捕まえられます。予想通り程なく捕まってしまいました。
「さぁて、ぼこぼこにさせてもらおうかな」
 アレクセイの言葉に陽は頭を横に振って言います。
「まあ、僕は止めないから、死なない程度には……。っていうか、監督不行き届きだよね。僕からもお詫びするよ」
 フィリスは散々説教され、陽に連れられて帰っていきました。
「やれやれ、ひどい目にあったな」
 スカートをはき直した優希にいたわるようにアレクセイが言います。
「大丈夫よ、これくらいは」
 気を取り直して優希はアレクセイにチョコレートを渡します。
「はい」
「ああ、ありがとうな……」
 もう一度デートのやり直しですね。
 今度は気をつけてください。
 


 
「ほら、手に入れてきてやったぞ。例の『最大のリア充』のズボンだ」
 待ち合わせ場所で、国頭 武尊(くにがみ・たける)は、ジャンバラ大平原からやってきたヘンタイ少女、自称ズボンハンターの萩 香(はぎ かおる)と会っていました。
 この香って娘、態度と口調がえらいこと尊大ですが、実際に会ってみると、とってもチビッ娘でした。ポニーテール&ミニスカニーソ姿で十代前半に見えます。実年齢とは違うのでしょうが、もう外見だけでヤバいです。
 ぱんつハンターの武尊は、ズボンハンターのパンツを手れるべくこのツァンダへとやってきていたのです。力づくで相手のパンツを奪うのではなく、彼は交換条件を出したのでした。
「お前のパンツがほしい。ズボン何枚となら、交換してくれるのだ」と。
 とてもカッコイイ顔で、小さな女の子にですよ?
 香は答えました。
「ぱんつハンターの言葉とは思えない。貴様は、パンツの価値を枚数で決めるのか」と。 
「むう……っ」と武尊はうめきました。確かにその通りなんです。ただパンツがほしいだけなら、お店を行ってお金を払って買ってくればいいだけのことです。お店は商売です。外見の怪しい男でも、お金さえ払えばいくらでも売ってくれるでしょう。
 そうじゃないのです。
 スカートめくりの連中ともども同意見。
 パンツというものは! 誰がはいているか! 
 なんです。これがパンツの価値ってもんで、色だの形状だのはその後の話なんです。
 はいているから欲しくなる、はいているからスカートめくりをするのです。
 香は武尊に言いました。
「貴様は、ズボンハンターたる俺様のパンツが欲しくてやってきたのではないのか? ただのパンツでいいなら、そこいらから拾っておけ。それと同じだ」と
 彼女が熱く語るには。ズボンもパンツと同じく誰がはいているものか、が重要だというのです。
「俺様は有象無象のズボンなどいらない。数など問題ではない、必要なのは質だ。この街で最も価値のあると思われる男のズボンを手に入れて来い。それとの交換なら考えてやる」と香は武尊に吹っかけました。
 実のところ、香はできっこないと思っていたのです。男なんざ一皮向けば誰も同じだと考えていたのです。だから、彼女はズボンハンターになったのでした。
「どんなに気取った男でもズボンを剥いてやると、ただのパンツ男だ。本性などすぐに露になる。だからズボンは興味深い」
「同感だ。パンツもな」
 武尊は香とがっちり握手を交わしたあと、街の中へと消えていき、そして手に入れてきたのでした。リスクと汚名と大きな傷を背負って。
「強奪してきた。街で一番価値がある男かどうかは知らんが、少なくとも彼の妻以外の女性では手に入らないであろう、至高のズボン。世界に名をとどろかせる天才と結婚しラブラブ生活を送る最大のリア充、これが御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のズボンだ!」
「おおっっ!」
 香は感動のあまり、言葉を失ったままそれをじっと見つめていました。
 そして、武尊はカッコよく言います。「さあ、パンツをよこせ」と。
「くっ……」
 なんと香は真っ赤になりました。ズボン強奪常習犯のヘンタイが、ですよ。
「俺様は……、今まで男にパンツを見られたことがない……、貴様が初めてだ……」
 彼女は、目に涙をにじませ屈辱に身を震わせながら、それでも至高のズボンが欲しかったのか、スルリとパンツを下ろします。恥ずかしげに頬を染めながら、全く穢れのない真っ白なパンツを、彼女はそっと差し出してきます。
「持っていけ。貴様が俺様の“初めての男”だ……」
「おおっっ!」
 今度は武尊がうなる番です。そう、パンツは誰がはいているか、そしてどんなシチュエーションで……。それを手に入れたのです。
 純白のパンツを握り締め、武尊は雄たけびを上げました。
 バレンタインデーの空の下、こだわりに命を懸ける一人のパンツ職人が生まれた瞬間でもありました。