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第一章

 アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)を半ば引きずるようにして連れ立った金元 ななな(かねもと・ななな)雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)『愛の伝道師』の見つけるのに、そう時間はかからなかった。
「見つけた!」
「この変態! 覚悟しなさあぁーっ!」

 そして、なななと雅羅があっさりとRPGで返り討ちにされるのにも時間は要さなかった。

「い、いくら強いって言っても……桁が違いすぎだよ……!」
 爆風を免れたアゾートはその光景を唖然と見ている事しかできなかった。
「……おや? 貴女は確か、錬金術を愛する方じゃないですか」
 アゾートを目にした『伝道師』が声をかける。
「ぼ、ボクをどうする気!?」
「いえ、別にどうこうはしませんが……あの、お時間ありますか?」
「……時間?」
 その言葉に敵意は感じないが、身構えつつアゾートが問い返す。
「ええ、宜しければご一緒についてきて欲しいんです」
「……わかった」
 相手が何者かわからない以上、迂闊に拒否も出来ずアゾートは頷くしかなかった。

 その少し後。爆破音を聞きつけた者達が倒れているなななと雅羅を連れ、近くの広場で二人を救護していた。
「はい、おしまい。とりあえず大きな怪我はしてないわね」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)がなななの背中を軽く叩く。
「いてて……あ、ありがと」
「それにしてもまぁ、よくもまぁ変なトラブルばかり起きるものねぇ」
 呆れたように宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が言うと、雅羅が溜息を吐いた。
「これも私の体質のせいなんでしょうか……」
「あまり気に病まない方がいいですよ、エレイン」
「エレイン?」
 湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)の言葉に雅羅が眉を顰めると、慌てて彼は手を横に振った。
「ああ失礼した。貴女が知っている者とよく似ている物で、つい」
「エレインってのは生前の奥様の名前だそうでね、貴女に似ているそうよ……そんなに似てるの?」
「ええ、まぁ……傍目で見違えるくらいは」
 祥子の問いに苦笑しつつランスロットが答える。
「それにしても……雅羅さん達をこんな目に合わせるなんて許せない!」
 想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)が怒りを露わに、拳を握りしめる。大した事は無いと言え、雅羅を傷つけられた事が許せないのだ。
「そうだよ! 許せるわけがない! 『正義如き感情』だなんてボクに対して喧嘩売ってるとしか思えないよ! だよねタツミ!?」
「まぁ怒りの方向が違うような気もするが、放っておくわけにもいかないな」
 話を聞いて正義を馬鹿にされた、と感じ憤るティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)に、肩を竦めつつ風森 巽(かぜもり・たつみ)が同意する。
「そうよ! 大体何よ『伝道師』って奴は!? チョコの事ディスってんのかってーの!」
「お前は明らかに怒りの方向がずれている」
 そして更に憤るルカルカ・ルー(るかるか・るー)に、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が呆れたように溜息を吐いた。
「何言ってんのよ! いい、チョコってのは……」
「わかったから落ち着け」
 うがーと吠えるルカルカを、ダリルが軽くあしらう。
「しかし、どうする? 奴はアゾートを連れているんだろう? 迂闊に手は出せないぞ」
 源 鉄心(みなもと・てっしん)が言うと、皆言葉を詰まらせた。
「だ、だからこそ早くアイツを何とかしないと!」
「そうですよ! アゾートさんが危ないじゃないですか!」
 なななとティー・ティー(てぃー・てぃー)がそう言うと、「落ちつけ」と鉄心が二人に言う。
「それはわかってる……まぁ、とりあえず人手が要るだろうな。警察に協力を依頼してみよう。他に街にいる奴らにも声がかかるかもしれない」
「それを任せていい?」
 なななに言われ、鉄心が頷く。
「了解した。ならすぐに話に行こう……イコナ、大丈夫か?」
「ふぇ!?」
 うつらうつらと舟を漕いでいたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が、突如話しかけられあわあわと辺りを見回す。
「イコナちゃん、普段は寝ている時間だから……」
 ティーがイコナを見て、苦笑する。
「だ、大丈夫に決まっていますわ! どーんとタイ●ニック号に乗ったつもりで安心してほしいんですわ!」
「沈没確定してるじゃないか、それ……まあいいか、行こう」
 鉄心がイコナとティーを連れ、空京の警察へと向かう。
「手前共も黙っているわけにはいきませんな。その変態を探しに行くとしましょう」
 空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)が言うと、リカインが不信感を露わに眉を顰める。
「あんたが黙っているわけないと思っていたけどさ……お願いだから穏便に済ませてよ?」
「安心してください。そのような変態、即座に燃やし尽くしてくれましょう」
「それが心配だっての……」
「おいおいどうした不屈エロ河童? お前らしくもねーな?」
「黙れ空飛ぶ有害図書」
 軽口を叩く禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)をリカインが睨み付ける。
「……ねえ、さっきからなんでななな目隠しされてるの?」
「この有害図書を見せられないから」
 両手でなななの目を覆いながらリカインが答える。何せこの河馬吸虎、空飛ぶモザイクのかかった天狗の面という教育上よろしくない外見である。
「まあ、確かに黙っているわけにもいかないわね。乗りかかった船だし、私らもその変態を捕まえる手伝いしましょうか」
「「その話乗った!」」
 祥子の言葉に、ルカルカとティアが同意する。
「なら私達も――」
「雅羅さん達はまだ休んでなよ。ここはオレ達に任せて」
 立ち上がろうとした雅羅を夢悠が止める。
「……わかった。けど後で私達も行くから。それまで無茶しないのよ」
 夢悠が頷くと、皆が街へと向かっていった。

「で、なんでボクを連れて来たの? 人質には向かないと思うんだけど」
 街を歩きつつ、アゾートが『伝道師』に問いかける。
「人質? 何故そのような物が必要なんですか?」
 首を傾げて『伝道師』が問い返す。その様な気が無い事が、言葉から感じ取れる。
「……じゃあなんで連れて来たの?」
「いえ、貴女に手伝ってほしいことがあるんですよ」
「手伝ってほしい事?」
 アゾートに『伝道師』が頷く。
「いえね、このシナリオ主に私がメインになるんですが、ぶっちゃけた話ツッコミ役が居ないと話に収拾がつかなくなりそうなんですよねー
「……はい?」
「こういうシナリオってテンポが大事じゃないですか。で、私だけだとテンポとか以前に話があさっての方向にいっちゃいそうなんですよね」
「いやいやいや、何の話してるの!?」
「何の話って……そりゃこのシナリオの話ですが?」
「そんなさも当然に言われてもシナリオとかわかんないよ!?」
「ああ、そうそう。これ以降地の文の『伝道師』、って単語に『』が消えますから。あれ、いちいち書くのが面倒だって何処ぞの誰かが――」
「それただの愚痴だよね!? メタ入り過ぎだよ! こんなのガイドに無かったよ!?」
「ガイドを信用し過ぎる者に私のシナリオは向かないって誰かさんが」
「そういう危険すぎる発言やめようか、ねえやめようか!?」
「はっはっは、ツッコミが冴えわたりますねぇ」

 話が進まないので、閑話休題。

「……で、キミはこれからどうするの? ボクの時のように愛を訪ねて回るの?」
 伝道師はアゾートに首を横に振った。
「その前にやることがあります」
「やる事?」
「ええ、街で破壊活動を行っている輩がいるようです」
 伝道師が言った瞬間、街から爆発する音が響いた。
「今の音……! キミの仲間とかじゃなくて?」
「私に仲間は居ません」
 そう言っている間にも、二度、三度と爆破音が響く。
「急がねばなりませんね。被害が大きくなる前に!」
「……キミが行くと被害が大きくなりそうな気がするんだけど、ボク」
 一抹の不安を抱えつつ、アゾートは伝道師に連れて行かれていった。