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【冬季ろくりんピック】雪山モンスター狩り対決

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【冬季ろくりんピック】雪山モンスター狩り対決

リアクション

 ――西シャンバラ・洞窟エリア2――



「ハッ!」
 月美 芽美(つきみ・めいみ)の死角からの一撃が、氷小龍を貫いた。
「貴方達っていつもそう。刺した食ったはあっても、刺されたことはないのよ、モンスターってのは……。大体そうよ。で、気持ちいいかしら、断末魔の叫びも出ないくらいに」
 芽美はパンパンと手を払うと、処理した氷小龍のいくつかを引き摺りながら戻った。

*

「う〜ん、デリシャスッ! 溶けたマシュマロほど美味しいものはないのだよ!」
「はっはっは、わしにかかればただのマシュマロも極上のデザートじゃな」
 阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)カスケード・チェルノボグ(かすけーど・ちぇるのぼぐ)がぐるぐる肉焼きセットで焼いたマシュマロを頬張りながら、落ちそうな頬っぺたを抑えてくるくると回っていた。
「おい、いい加減肉を焼け、肉を! いろんな奴らの虫除け線香で襲ってはこねぇけど、こっちチラチラ伺ってうざってぇ……」
 斎賀 昌毅(さいが・まさき)の言葉に、ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)無限 大吾(むげん・だいご)のお食事班が聞いた。
「ほら、こっちが焼けたぞ。寒くて空腹な奴は食っちまおうぜ。肝心な時に動きが鈍る」
「こちらも熱々のお肉ですわ。昌毅様お食べになります?」
「ああ、いや、気持ちだけ貰っとくわ」
 昌毅はヨルディアの声を手で制した。
「では、加夜様、お召し上がりになってくださりますか?」
「ま、またですか? さっきも頂きましたよ?」
 火村 加夜(ひむら・かや)は顔の前で手を振ったが、ヨルディアはぐいと焼けた肉を差し出した。
「落ち込んだ時人は自棄食いという行為をします。過度の摂取はいただけませんが、それでも人はお腹を満たし、心を落ち着けることができますわ」
「……ふ、太らない程度に……また頂きます」
 加夜の素直な態度に、ヨルディアはにこりと微笑んだ。
 山葉 涼司(やまは・りょうじ)に助っ人を求めたが助力を得られず、少し沈んだ気分ではあったが、大勢の仲間達といて落ち着き始めていた。

*

「はい、新しい餌を持ってきたよ」
 芽美が餌用の小型モンスター狩りから戻り、カスケードに氷小龍を3匹放り投げた。
「手伝ってもらってすまんのぉ。持参した生肉よりも、現地でとれる新鮮な生肉の方がよかろうて。さて、それでは焼き始めるかの」
 カスケードはさっと氷小龍の鱗を剥ぎ、豪快に棒を口から突き刺し抜き、そのまま炙り始めた。
 一体何をしているのかと言うと、
「狩りといえば罠! 罠のない狩りなんて狩りじゃないのだよ!」
 という那由他の一言から始まった『食べ物で釣ろう』作戦である。
「手元のシャンバラ動物図鑑によると今回の獲物は凄まじい食欲、即ち食い意地を持っているらしいのだよ」
 だからハンターがいようがいまいが、美味しそうな匂いに逆らえず、きっと寄せ餌を食べるだろうという――。
「シャンパンで香り付けして軽〜く炙り、香ばしい匂いにして、昌毅の持ってきた特製睡眠薬を刷り込んで……。うむ、悪くない出来じゃ」
 カスケードが随分と手間の込んだ肉にすると、それをヴィルヘルム・エイジェルステット(う゛ぃるへるむ・えいじぇるすてっと)に手渡した。
「ちょ、待ってネ! 本当、自分、無理ヨ!」
 ヴィルヘルムは満場一致で決まった餌置き兼その場で待機、監視役を全力で断ろうとしていた。
 何故、彼が選ばれたかというと――、
「自分、ベリーベリー、弱いヨ! しかも自分、そこいらの、ただの、雪ダルマ、ネ!」
「ヴィルヘルムよ、だから適任なのであろう?」
 パートナーである龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)が肩に手を置いて言った。
「俺が助っ人に呼びきれなかった関羽・雲長(かんう・うんちょう)も言っていた。本物の雪だるまで見分けがつかなかった、と」
「――ッ!? 雲長サン、レヴェル、でも、自分、わからないネ!?」
「ああ……」
 だからお前は凄いのだぞ、という視線を廉が送ると、ヴィルヘルムは背を向け、アディオス――と言い残して餌の設置に向かった。

*

 既に餌は2箇所に設置されており、2つにそれぞれ分隊していた。
 と言っても1つは既に多くの契約者が待機しており、察知されればいくら食欲旺盛とは言え、逃げられるかもしれない。
 だからこそ、そのうちの一ヶ所だけ――雪だるま。
 冬にあるのが自然な――雪だるま。
 そして熱を帯びれば自然に溶けるのが――雪だるま。
(オー……マイ……ガッ……ヘルプ、ヘルプ、自分……)
 ヴィルヘルムの目の前で、きょろきょろと一旦辺りを伺ってから姿を現した大型猿が、嬉々として肉を食していた。
 ようやく、ようやく大型猿を捉えたのだ。
 さあ、声を出すんだ。声を出して助けを求めるんだ――。
 そうこうしているうちに大型猿は食し終わり、鼻を鳴らして別の場所へ移動した。

*

「おい……来たぞ……」
 昌毅が岩場の陰から除くと、目の前に設置した餌を大型猿が辺りを伺いながら口に運んでいた。
 小声で後方の仲間達に合図を送り、廉が覗いた。
「俺のヴィルヘルムは不発に終わったか。仕方あるまい……」

*

「ヘックシ……! 自分、溶けちゃったネ……。そこらの雪で、身体、補充ネ……」

*

 大型猿は大量の餌をぺろりと食し、自身の腹をパンパンと叩くと唾を返した。
 どうやら睡眠薬は効かなかったようだ。
 それが未だ聞いてないのか、それとも完全に抵抗をもっているのかどちらかはわからないが、いずれにせよこの機を逃す手はない。
 もう狩りの終了時間は目前なのだ。
「ちくしょお……戦うしかないのか……」
 罠での捕獲を優先したかった昌毅だが、断念せねばならず、攻撃を合図をとるために真っ先に岩場から飛び出した。
 大型猿は後ろの出来事にも関わらずそれに気付くと、氷の塊を拳で砕き、最も大きな塊を放った。
 朱の飛沫で対抗し潰し合い、叫んだ。
「やってやらぁ!」
 仲間達が弾ける様に、飛び出した。

*

「随分待ったが……ようやくお出ましか。相手は所詮は猿だ、力任せしかできないだろうよ」
「力比べじゃのう?」
 勅使河原 晴江(てしがわら・はるえ)が言うと廉は薄く笑っていった。
「ふふ、駆け引きというものを楽しめぬようでは……晴江にはまだ早いかよ」
「馬鹿にするでない。手並み拝見……ッ」
 大型猿が再び氷塊を持つと、それを武器に廉へ振り下ろした。
 刀を構えた廉はその氷塊を受け止め競り合い、一瞬だけ力と力の勝負を演じ、すぐに腕の力を抜いて大型猿の懐に潜り込んだ。
「押し引きも楽しめぬ猿かよ」
 潜りながら華麗に回転するソバットで腹を蹴り意識を向けると、一瞬にして背後をとった晴江が背中へ一突きしてみせた。
 ギィエエエッ――!
 苦痛と怒りの叫びをあげながら、猿はそのまま目の前の廉へボディプレスを仕掛けるが、すっと摺り足で横に逃げられ、倒れ様に合わせる様に踵落としを喰らい、先に空振って地面に砕いた氷塊の残りに顔をぶつけて悶えた。