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リアクション
第五章 森の中の乱戦
ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)とそのパートナー、トリア・クーシア(とりあ・くーしあ) 、フユ・スコリア(ふゆ・すこりあ)の3人は、静かに、静かに見守っていた。
8人の乱戦を。
「俺のシャロを狙う奴はラーメンの具にしてやるぜ!」
「ええ。もうこんな島嫌です! 私は誠治と一緒に脱出するんですー!」
包丁を振りかざす渋井 誠治(しぶい・せいじ)と、その後ろに立つシャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)。
「遙遠は絶対に遥遠が守るんだからあっ!」
「どんな事をしてでも、ヨウエン達が生き残りましょう」
緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん) の隣に立ち、鉈を構える紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)。
誠司の包丁が遥遠の鉈とぶつかり合い、火花が散る。
そのまま鉈を振りかざす遥遠から、数歩距離を取る誠治。
(オレに……オレには、できる!)
誠司の心が熱く燃え上がる。
普段は虫も殺せないようなビビリの誠治。
この島に着いた瞬間からいつもより激しく湧き上がるシャーロットへの想いと、何故かあふれ出てくる力を頼りに踏ん張っていた。
この島の全てのものが、愛するシャーロットを狙っているような気がして、根拠のない不安と焦りが胸を焦がす。
(いや、大丈夫。オレだってやる時はやれるんだ。シャロのためならなんだってできる)
「おぉおおお!」
包丁を構え直すと遥遠に向かい突進していく誠治。
「っっ!?」
誠司の目に何かが入った。
チョコレートだ。
遙遠が、自分の手から流れるチョコレートを誠治の目に向かって飛ばしたのだ。
「今です、ヨウエン!」
「ああ、さすがヨウエン! ヨウエンがしてほしい事をよく分かってる!」
誠司の包丁を、遥遠の鉈が弾き飛ばす。
「誠治ぃいいっ!」
シャーロットの悲鳴。
「それじゃあ、ヨウエンの為に死んでくださ……」
「……っ」
遥遠の動きが止まった。
愛する遙遠の僅かな動揺を感じ取ったから。
見ると、シャーロットが遙遠の首筋に噛み付いていた。
「……くふ……血、血を……」
「くっ、離せ……」
「ヨウエンから離れろぉおおっ! この女あああっ!」
目の前の誠治の事を忘れ、鉈をシャーロットに向けて走り出す遥遠。
がっ。
後頭部に、衝撃を感じた。
遙遠は見た。
誠治が、手に持った石で遥遠に殴り掛かったのを。
遥遠の包丁を奪うと、彼女の首に当てる。
「ヨウエンんんんっ!!」
悲鳴は、どちらのものだったのか。
遥遠の首から、チョコレートが拭き出した。
「つ、次はお前だ……!」
遙遠の前に、誠治が迫る。
「ね、ね、お姉ちゃん! 今からあたしの良い所、見せてあげるね!」
「待って。わざわざ戦わなくっても、協力して脱出することだってできる筈よ」
血気盛んなニーナ・フェアリーテイルズ(にーな・ふぇありーているず)を抑えようとする水橋 エリス(みずばし・えりす)。
「でも、ほら」
ニーナが指差した先に居るのは二人の少女。
「千百合ちゃんはぁ、私が守ってあげますからぁ〜」
「ううん。日奈々はあたしが守ってあげるから安心してね」
「千百合ちゃん〜」
「とにかく目に入った人を片っ端から包丁で刺し殺せば安心だよね!」
「うぅ……うれしいなぁ〜。人を殺すくらい、私の事を想ってくれてるなんて……」
ニーナとエリスを前に、ひたすら物騒な会話を繰り広げている冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)と冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)。
「……」
「ね?」
首を傾けるニーナの横で、絶句するエリス。
ああ、これは無理。
もう絶対にこの二人に対話とか出来そうにない。
やがて、日奈々と千百合の顔が、こちらに向けられる。
「ひっ」
「お姉ちゃん、下がってて」
ニーナが果敢に前に出る。
それが合図だった。
「あははははははっ!」
包丁を構える千百合。
対するニーナは……
「あれ、ない、ない、ない!」
何も持っていなかった。
「ニーナっ、武器は? 何かないの??」
「ごめえええええええんっ!」
為す術もなく、千百合の包丁で頭を叩き割られるニーナ。
チョコレートを確認後、千百合はエリスに向き直る。
「ひっ」
にぃと笑うと、千百合はまだ温かいチョコレートのついた包丁を振り上げた。
「そろそろかしら」
「ん。頃合いだね」
「本当に、やるの……?」
遥遠と遙遠の首がチョコレートになり。
ニーナとエリスの首だったチョコが潰され。
8人が4人になった。
トリアとスコリアは、その時を待っていた。
「ユーリ、日本刀、借りるわね」
「終わったら、貸してね」
戦闘が終わり、勝利したことで出来た一瞬の隙。
二人は、それを待っていた。
トリアが誠治の元に駆け寄り、袈裟懸けに斬る。
「ぐあっ!?」
「いやあぁあああ、誠治……ぐっ」
返す刀でシャーロットも絶命させる。
シャーロットの悲鳴を聞いて、千百合たちは僅かに緊張を取り戻す。
「あ、気付いちゃった? 駄目だなぁ……気づかない方が楽に死ねたのに」
視線の先には、日本刀を持ったスコリア。
千百合の手にしたチョコまみれの包丁では、勝ち目は薄い。
「……くす」
「ち、千百合ちゃん……」
スコリアを前に、不敵に笑う千百合。
「大丈夫だよ。日奈々には誰も、指一本も触れさせないから」
「ちゆ……あ」
千百合が持っていた包丁で日奈々の腹を刺す。
切れ味の鈍った包丁はなかなか刺さらず、ほとんど殴るのと同様の効果。
しかし何度も刺しているうちに、次第に日奈々の腹にチョコレートの染みが広がっていく。
「誰も……他の人に殺させたりしないから、ね」
「千百合ちゃん……し、しあわせ」
千百合に殺されながら、日奈々の顔に歓喜の笑みが広がる。
「そんなに、思ってもらえるなんて……」
そっと日奈々は千百合の包丁を手で受け止める。
手のひらからチョコレートが流れる。
そのまま日奈々は包丁を持つと、千百合に向ける。
「千百合ちゃんも、一緒に……ね」
「どっちも、獲物は包丁か……」
「ユーリ、日本刀返すわね。私達はこれを貰うから」
スコリアが千百合の持っていた包丁を拾い上げる。
トリアの手には、誠治が持っていた包丁が握られている。
「これで、全員武器が揃ったね」
「そうね」
「そ、そしたら3人で仲良く生き残ろうよ。脱出できなくってもここで住むっていう手もあるし……」
「……ごめん、ユーリ」
「うん。それは、無理」
「え?」
ざっ……!
包丁を手にしたトリアとスコリアの間に緊張が走る。
互いの相手……トリアとスコリアに包丁を向け、険しい顔で二人が睨みあう。
「待って、待って! 何するの二人とも! 止めて、止めてよおおおっ!」
ユーリの懇願も、二人の耳には入らない。
「私とユーリを邪魔する人は、たとえスコリア、あなたでも許さない!」
「ユーリちゃんは私の大切な人なの……! だから、トリアちゃんは調教してあげる」
互いによく知る二人。
だから、攻撃も決着も一瞬だった。
構えた次の瞬間には、互いの胸に包丁が刺さっていた。
「くっ……」
「あ、はっ……」
「トリアっ! スコリアっ!」
愛するユーリの声に応えることもできず、チョコレートになってゆく二人。
「待って、行かないで! 僕、二人を失いたくないよっ!」
駆け寄って抱き上げようとするが、それはもう物言わぬチョコレートでしかない。
「あ……だ、大丈夫……」
暫く茫然とした後、ユーリは日本刀を抜いて首に当てる。
自分の首に。
「僕も、すぐ後を追うから……」
緋桜 遙遠:死亡
紫桜 遥遠:死亡
ニーナ・フェアリーテイルズ:死亡
水橋 エリス:死亡
渋井 誠治:死亡
シャーロット・マウザー:死亡
冬蔦 日奈々:死亡
冬蔦 千百合:死亡
トリア・クーシア:死亡
フユ・スコリア:死亡
ユーリ・ユリン:死亡
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