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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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●蒼き霊

 今回は何とかなるのではないか。
 そんな希望的観測が霊魂となったゴーストの中を駆け巡る。
 どれだけ人がいるんだろう。
(10? ううん、それ以上はいる、かな?)
 もしかしたらただ倒す為に、処理する為だけに来ているのかもしれない。
 乗っ取った体を取り返すために戦っているのかもしれない。
 ここに来た人たちの真意は分からない。
 けれども、これだけいれば全てのカタがつくのではないかとゆらりと佇む青白き霊魂は思う。
「ふふっ、楽しみね。どんな子がどんな思いで、どうしてくれるのかしら」
 ぼそりと呟く声は、大気に溶けた。
「そろそろかしら」
 ふっと小さく笑うと、
「楽しませて欲しいな。死んだ後の楽しみなんて時折見る迷子のご案内しかないんだもの。そのために武器も時間をかけて用意したしー」
 そして、欲望も駄々漏れであった。
 そんな中、がさがさと茂みが揺れる。
「あら、もうちょっとかかるかと思ったんだけど」
 飛び出してきたのは息をせききらせている、高峰雫澄(たかみね・なすみ)とそのパートナー魂魄合成計画被験体第玖号(きめらどーる・なんばーないん)――ナイン――だった。
 わき目も振らずにやってきたのだろうか、髪や服に木の葉を引っ付けている。
「あっ」
 その声は急に広場に出たことに対してだろうか、それとも目の前にいる半実体を持っているゴーストに対してだろうか定かではないが、
「あの!」
 ほとんど勘に近いもので雫澄はそのゴーストが蒼玉石の守り手であり、怨念の姉だと確信して、
「お願いだ、貴女の力を貸して欲しいんだ……」
 そう、懇願するように言った。
 そんな真剣な雫澄をあざ笑うかのように、ゴーストは、
「うん、いいよ?」
 短く、それでいてあっさりと言った。
「びっくりしたー。でも、ちょっと待ってね。今この要を壊すわけにはいかないんだー」
「そう簡単にいかないのは分かってる。でも僕は貴女と弟さんの関係が気になったんだ」
「へー?」
 興味がある、といった様子でゴーストは雫澄に話を促すように続ける。
 そして雫澄はぽつぽつと自身の身上を話し始める。
 自分も姉を亡くしていること。それで弟の気持ちが痛いほど分かるということ。
「これが姉の形見……なんだ」
 そういって、手入れの行き届いた[デリンジャー]を取り出す。
 手入れは行き届いてはいるが、もう何年も前の型式であることは容易に伺えた。
「貴女の弟さんが、貴女の振るった剣に執着しているように、僕もこれは手放せなかったんだけど……」
 考えるように、傍で静かに話を聞いているナインとデリンジャーとを交互に見やり、
「僕には仲間も友人もいる。楽しい日々を送ることができる。だから、これは今、貴女に協力への対価として渡してもいいと――思ってる」
「はは、真面目だねー。でもそうやって簡単に手放したら君のお姉さんは悲しむんじゃないかな?」
「どうだろう……。もし、貴女だったらどう思いますか?」
 簡単には出ない答えに雫澄は逆に問い返した。
「私はそうやって対価に差し出されるより、大事にされた方が嬉しいかなー。別に執着しろってわけじゃなくて、たまに昔を思い出して欲しいよ。私が死者だからあれかもしれないけどね」
 にへらーっと気の緩んだ笑みを浮かべてゴーストは言う。
 そしてそっと、雫澄の手を包み込んで、
「だから、決別するみたいに差し出すのはやめて欲しいな。キミは私の弟じゃないし、現実を受け入れて前を向いてるじゃない?」
 包み込まれた雫澄の手には暖かさも冷たさも感じなかった。けれど、伝えたい思いは伝わった。
 一度ゴーストはナインを見た。
 その視線に気づいたナインは、
「なんでしょう?」
「ううん、キミも大変だなーって思って」
 それは何かを見透かしているようで、どこか達観している様子で、
「“色々な魂で紡ぎあげられた魔鎧”のキミも大変だねーって」
「む……何かバカにされているような……」
「そうじゃないよ。ただちょっと“いいなー”って思っただけ」
「どういうことでしょうか?」
 釈然としない面持ちで食って掛かるナイン。なんともいえない微妙な気持ちが心の内にわだかまっているようだった。
「ナイン?」
「いえ、なんでもありません」
 そういって、また何かを考えるように黙り込んだ。
「ま、もう暫く時間を頂戴。こっちに向かってる人が結構いるんだよね。だからそれまでゆっくりしていってよ。キミのその形見をどうするのかはもうちょっと待ってね」
 優しく言い含めるとゴーストは雫澄から離れて行き、ふっと姿を消す。
「あれ、ここが蒼玉石の在り処だよね……?」
 一応は目印である墓らしきものや、魔獣の骨もある。
 しかしナインがいたとはいえ、単独で行動しているせいで、少しだけ不安になる雫澄だった。