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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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●彷徨いし魂

 広場に出た。
 円形に刈られた木々の真ん中には、大型の魔獣であろうということが予測される頭蓋骨が静かに置いてあり、
 その回りには、長い年月をかけて作り上げられた骨でできた武器がある。
 元となったのは魔獣の骨であろうことは簡単に予想できた。
 そして、魔獣の頭蓋骨近くには元は豪勢であったろう墓があった。
 人間の墓であることが推測できるソレは、長い年月をかけて風化していた。
 苔生し、風雨に晒され角は丸みを帯びている。まるで忘れ去られた聖域のようにも見えた。
 墓石の真ん中に紺碧の海を思わせるような深い色の蒼き宝石がある。きっとそれが蒼玉石であることは見た人全員に宿った想いだろう。
「ようこそ」
 どこからとも無く声が聞こえた。
「迷子、というわけじゃなさそうだよねー?」
 軽い口調で続ける女の声。
「まあ、何にせよ、それだけの大人数だし大方結界の破壊者かな」
 ゆらりと姿を現す女。それは肖像画で見た女性と差異がなかった。
 薄っすらと向こう側の景色が透けてみてはいるが、紛れも無く村のために命を散らした守護者だった。
 それに、
「俺たちには戦う意思はない。ただ少し、話を聞いて欲しいんだ」
 紫月唯斗(しづき・ゆいと)が一歩前に出てそう言った。
「えっ」
 呆気に取られた女のゴーストは二の句を失った。
「どうしよう。戦うとばかり思ってた。えっ、戦わないの……?」
 再度確かめるようにゴーストは言う。
「ありませんよ。ほら、武装も解除しますし」
 言って、ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)は自身の装備をその場に置く。元々道中の露払い用に携帯していたものばかりだ。
 それに習って他の皆も装備を地面に置くか直してしまう。
「本当に?」
「本当です」
「マジで……?」
「マジです」
 何度も確かめるように言うゴーストは明らかにうろたえていた。
「あ、あははは……どうしよう戦うこと以外考えて無かったよ?」
 乾いた笑いをあげるゴーストに、皆絶句した。
 バカだ。本当のバカだと思う。ただの戦闘狂だとか、そんなのじゃなくて、ただのバカだった。
 そこにいたのは、あの狂った弟を持つ姉のゴーストではないように見えてしまった。
「折角目一杯戦えると思って、何年もかけて武器、一杯準備したのにぃぃぃいいい!!」
 仕舞いにはそんな嘆きまでして地べたに座り込んでいた。
 うわあ、とどん引きするほか無かった。
 今までのシリアスを全てぶち壊すような態度に、精神的にどっと疲れているのは真面目に調査をしていた人たちだろう。
「いや、あの、あなたの弟さんを助ける為には結界を壊さないといけなくて、ですね……?」
 ヴィナが困惑したまま腰を下ろした。
「それは分かってるよ! だから、ふふふ、蒼玉石が欲しくばこの私を倒すんだなー! ふはははは! ってやってみたかったのに! やってみたかったのに!! 敵意がなかったらそんなの意味がないじゃない!」
 ばんばんと駄々っ子のように地面を平手で叩く。もうどうしようもなかった。
 緊張感が一気に霧散した。
「もー、しっかりしてよね!」
 しっかりして欲しいのは貴方の方ですという言葉はぐっと飲み込んだ。
「ま、戦えないのは仕方ないけど。それ、欲しいなら持って行っていいよ。あ、でも今はまだダメ」
 良いのか悪いのかはっきりして欲しかった。
 そんな思いを知ってか知らずか、ゴーストは可愛らしい仕草で持って、
「その代わりどういう話をしようとしてきたのか聞かせてよー。伊達に齢20歳と660ヶ月は生きてないよー! あ、ごめん、660ヶ月は死んでた!」
 また、あははーと笑ってゴーストは、
「お茶もお茶菓子もだせないけれど、ゆっくりしていってよ」
 そういうのだった。