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インテリ空賊団を叩け!

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インテリ空賊団を叩け!
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〜 9th phase【決戦】 〜


レティーシア・クロカス(れてぃーしあ・くろかす)の乗る交易船の戦闘が終焉を迎えた頃
戦闘は敵空賊母船周囲を取り囲む面々の戦闘で、全体も佳境を迎えていた

少しずつ落とされる小型飛空艇と母船の煙を見ながら旗船にて
【『シャーウッドの森』空賊団】団長ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)は戦況を確認していた

 「淳二、作戦開始からどれくらい経った?」
 「3時間経過だ、相手戦力は7割撃沈したけど、母船がまだだ」

小型飛空艇の調整を終え、デッキにて長原 淳二(ながはら・じゅんじ)が答える
空の様子を見ながら彼の言葉を受け、ヘイリーは考え込む

 「ちょっと長いね。派手な戦闘が長引けば無関係なものでも火事場に混ざりたがる
  一気に追い込まないと……」
 「何組かは護衛を終えて母船に突入してるみたいだが……これ以上は弊害になる
  残りで空の戦力を追い込むか」

そんな二人の会話にミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)が割って入る

 「大変だよ淳二!触手のうねうねでなんだかわからないものが襲ってきた!?」

彼女の言葉に二人は顔を見合わせる
恐らく、魔術的な勢力だと思うが空賊にそこまでできる連中がいるという情報はない

 「噂をすればなんとやら……か、行こうミーナ!あとは任せます!」

小型飛空艇に飛び乗り、淳二とミーナは再び空に飛び立った


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 「なんだかめんどくさいのが出てきたわね……これからって時に!」

目の前の物体にフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)が舌打ちをする
そこにあるのは触手をまとった異形、その手は無差別に周囲のものを攻撃している

その怪異ともいうべき物体も説明すれば人である
エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)

身体や右腕から生えている刃付き触手を変幻自在に振り回し
離れている相手に 歴戦の魔術や這い寄る混沌をぶちまける
迂闊に接近したモノは異形の左腕に貪られる脅威

通常はまだ良識あるヒトなのだが
不用意にクトゥルフ魔術の深い領域に踏み込み魂を穢され
半身がアンデットとしての異形と化した部分が暴走を起こすのだ
まぁ本来この件とは何の関係もないのだが、タシガンへの移動中、戦闘音を聞きつけ近くまで来たら
暴走してしまったらしい

よって敵味方持ち合わせていない情報にそれぞれが当惑する

 「どうするんだ?想定外にかかわれば時間のロスしか生まないぞ!」
 「でもこんな風に戦場のど真ん中で今更暴れられると……」

フリューネの隣でレン・オズワルド(れん・おずわるど)リネン・エルフト(りねん・えるふと)が苦悶の声を漏らす
統率戦と統率戦に割って入るイレギュラーこそ戦況を左右させる
やむを得ず戦力を分断か……そうフリューネが判断したところで、遠方から声がした

 「ここは俺達に任せてもらおう!」

見れば飛空艇と光翼、そして光の竜
それぞれの手段で近づく一団がある
グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)
そして九十九 昴(つくも・すばる)である

 「グラキエス・エンドロアだ!
  手練れや縁者ばかりで十分に暴れる場がなかったんでね、こいつは任せてもらおう!」
 「邪魔な空賊は私が追い詰めます、この程度の数造作もない!」
 「ありがとう…でも…!」
 「皆さんは指揮系統に専念してください!攻略まであと一息なんですから!!」

グラキエスと昴の言葉に一瞬、戸惑うフリューネだったが
ロアの言葉に圧されて決意する

 「わかったわ!よろしく頼むわね!」

天馬を翻して大型母船に向かうフリューネ達を見送り、グラキエスは仲間に檄を送る

 「キース、アウレウス、思い切り暴れるぞ!」

彼の言葉に反応するように彼の身を包む魔鎧と化したアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が一際輝く
彼らの戦意に反応する様にエッツェルの刃を纏った無数の触手が襲いかかる
光翼【ネロアンジェロ】を展開させ、【行動予測】【歴戦の立ち回り】を駆使して鮮やかにそれを回避する

そのグラキエスの背後に新たな触手の束が襲いかかるが、直前で当然爆発し先端が砕け散る
【サイコキネシス】で操られた【戦闘用イコプラ】【機晶爆弾】による空中地雷原とでも言える防護柵
ロア・キープセイクのサポートであった

 「さぁ、行きましょう白夜!」

それを見事と見惚れ、自らを鼓舞するように昴が愛竜【光竜『白夜』】に呼び掛けた
そんな彼女の背後を2隻の空賊の飛空艇がそれぞれの位置から襲いかかってくる

だが彼らの機関銃が彼女に照準を合せた刹那、彼らを突風が襲いかかった
【殺気看破】により彼らの行動を把握していた彼女の刀の一振りから放たれた【舞い降りる死の翼】
予想だにしない攻撃によって、バランスを崩した空賊の飛空艇に【歴戦の武術】による連檄を叩き込み
続けざまに一隻に翼を切り払った!

 「昴君!下だ!!」

振り返る事無く聞こえたロアの声に反応し、昴は白夜を縦状のバレルロール飛行で旋回させる
その背後ギリギリを数本のエッツェルの触手が突き抜けていった
瞬時の見事な判断であったが、無理な体勢が重力を失わせる事にもなる
予想通り、彼女の体は竜の背から切り離され空中に躍り出た

 「もらったぜ!……な!?」

好機とばかりに、落ちる彼女を撃ち落とすべき照準を合わせたもう一隻の空賊の目が、すぐに驚きに見開かれた
不意に彼女の落下軌道がL字型に曲がり、自分の方に向かってきたからだ
【アルティマレガース】の瞬間的飛行能力と【バーストダッシュ】を巧みに駆使した芸当だった

 「好き勝手するのは、いつどんな目にあってもいいという、覚悟があるからよね!?」

落下速度を上乗せされた彼女のすれ違いざまの斬撃が空賊の船を襲い、霧散した小型艇とともに彼らが落ちていく
一方の昴は、先周りして飛翔していた愛竜の背に何事もなかったかの様に降り立つ

 「借り…とは思わないわよ?」

そう呟いて見上げる先には、ニヤリと見返すグラキエスの顔があった
よく見れば落ちていく飛空艇のエンジン部に氷のかけらが見える
遠方より事態を把握した彼が、とっさに飛行速度を落とさせるために放った【ブリザード】の痕跡だった

そんな彼の周りには、相変わらず無数の刃付きの触手が踊り狂っている
熟練としてはエッツェルの方が上なのだが、彼が意識のない暴走状態だということ
加えて空中戦を心から楽しんでいるグラキエスの無邪気さが、彼に人を援護するだけの余裕を与えていた

 「やはり……空中戦はいいなっ!」

昂る勢いのまま【奈落の鉄鎖】で抑え込んだ触手の隙間をかいくぐり【ランスバレスト】を叩き込む
離脱しながら触手の根元ごと、エッツェルの体の一部がダメージを受けるのを確認する……が

 「?……回復している?アンデットか!?」
 「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

異形の力による自己再生の特性を理解した刹那
咆哮とともにエッツェルの数を増した触手があらゆる方向からグラキエスに襲いかかった
ダメージは確実……とアウレウスがその身を【魔鎧】から人型へ変えようとしたその時

 『バアアアニング!ドラゴォォォォォン!』
 「集中砲火1、2の3、ファイヤー!」

少年とやたら機械的でありながら魂のこもった声と、そして垢ぬけた少女の声とともに放たれた
突然の豪炎とロケットの攻撃が触手の幾つかを粉砕した
その隙をぬってグラキエスは触手の雨から脱出する

炎の塊が溶け、姿を現したのは背中の翼に少年を乗せたロボ
……もとい少年那由他 行人(なゆた・ゆきと)コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)だった
その傍らで月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)がこれまたポーズを決めて叫ぶ

 「呼ばれて飛び出てレンズマ?ン♪ おじゃま虫は許さない!あゆみ達も協力するよ!」
 「力だけではだめだ戦士よ!闇には光の力だ!!」

ハーティオンのヒーロー然とした言葉に、グラキエス達が一瞬呆気にとられる
だがすぐに言葉の真意を悟ったロアが、グラキエスに向かって叫んだ

 「そうか……エンド!光属性の魔法を使えばいいんです!回復魔法でもダメージが与えられる!」
 「成程……ならば私が道を開く!全力で行くわ!」

ロアの言葉を聞いた昴が白夜を暴走する異形の元へ飛行させる
【殺気看破】【行動予測】【歴戦の立ち回り】をフルで活用し、白夜が回避できるギリギリまで接近
そのまま背を蹴り本体の方へ勢いよく飛翔した。しかも【バーストダッシュ】の加速つきである

……なまじ複雑に回避するから追尾する方も複雑に動くのだ
逆にシンプルな直線の軌道には追う方も同じ軌道で追撃を開始するわけで
案の定、落下する彼女の後ろを直線の束になって触手が追尾していく

 「ハーティオン!アンガード・バンカーだっ!」
 「おおおおおおおおおおおっ!」

行人の声に導かれ、横方向からの少ない触手の攻撃をハーティオンの攻撃が排除し
グラキエスが魔鎧の力を借りて放つ【龍の咆哮】によってエッツェル本体の魔法防御が下げられる

 「この一撃は……賭けね!いやああああああああああああっ!」

出来る限りの加速で強化されたすれ違いざまの昴の一撃がエッツェル本体から触手の根元を切り離す

 「雷撃だってまぎれもない光だ!いくぞ!」
 「愛の眼力(アイパワー)ラブビーム☆」

そこにグラキエスの【サンダーブラスト】、続いてあゆみの【ビームレンズ】が炸裂した
そこにロアが最大の回復魔法を炸裂させる

 「援護魔法なら遠慮はしないっ!」
 「グ…ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

かくて攻撃とは相反する決め手の一撃で無数の触手は霧散し
エッツェル・アザトースは暴走のくびきから解放される
力を失い落ちる彼の体を咥えると、白夜は昴の落下地点まで飛翔しその身を己が背に受け止めた

 「……いいフォローだったわ、ありがとう、白夜」

すべてが終わり、彼女の元に飛来したグラキエスが力なく加えられているエッツェルに問いかける

 「まだ意識はあるようだな。しかし……俺達が力を合せなければばならない程のあなたが
  何の縁でこんなところにいたんだ?誰かの刺客なのか?」

彼の言葉が聞こえたのか、エッツェルがうめきながら力なく答えた

 「ま、迷子になったので道を訊こうとしたら……暴走し、て……」
 『…………………………』

居合わせた全員が無言で顔を見合わせた後、ため息とともにロアが口を開いた

 「とりあえず、どこかで下ろしましょうか
  回復魔法が逆効果なら、アンデッド特性の回復力に任せるしかないし」

同意した昴の命で白夜に咥えられて運ばれながら、当の魔の異形を孕んだはた迷惑な迷い人は
そろそろ自分の特異な身体に限界を感じ始めるのだった