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機械仕掛けの歌姫

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機械仕掛けの歌姫

リアクション

「抜剣!! お前ら全員ぶっとばす!!」

 猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)が腹の底から出したような咆哮をあげた。
 その叫びと共に傍らにいた銀の毛並みを持つ機晶生命体の狼は変化。刀身1メートルほどの片刃の剣に変わり、勇平はそれを力一杯握り締める。
 機工剣『ソードオブオーダー』。ニルヴァーナ人によって作製されたギフトと呼ばれるモノである。

「オラァァッ!!」

 勇平は渾身の力で機工剣を横に薙ぎ、一刀両断。前方にいたオークの集団をまとめて吹っ飛ばした。

「おまえらの所為でどれだけの人が涙したか、体に教えてやるッ! かかって来いこの野郎ッ!!」

 倒されたオークの一人を勇平は剣を握る反対の手で掴み、自動車殴りの応用でそのオークを敵の集団に向かって思い切り投擲。
 まるでドミノのように次々と倒れていくオークの集団に突っ込もうとする勇平の腕をウルスラグナ・ワルフラーン(うるすらぐな・わるふらーん)が掴んだ。

「ッ! 何で止めるんだよ!」
「ここで追い打ちをかけるのは得策ではない。故に、待て」

 ウルスラグナの言葉に、勇平は唇を噛み締める。
 その姿を見てウルスラグナは宥めるような優しい声色で勇平を諫めた。

「勇平よ。気持ちは分かるが落ち着くのだ。怒りにとらわれると思わぬところで足をすくわれるぞ?」
「……ああ、分かったよ」

 目の前では倒れていく敵の集団が立ち上がる。
 それを眺めながら、ウルスラグナはグレートソードを構えた。
 それと同時に勇平も、機工剣を両手で掴み精一杯の力を込め握り締めた。

「我、ウルスラグナの名において、貴様らに天罰を下してやろう」
「……あの子の悲しみの分だけぶん殴る!!」

 二人は突っ込んでくる敵の集団の先頭を剣でなぎ払う。
 目の前で打ち鳴らされる剣戟は絶えることなく鼓膜に響いた。


「さぁ、いきますよ!」

 近衛 栞(このえ・しおり)はその言葉と共にレジェンダリーソードを薙いだ。
 舞い降りる死の翼により剣の切っ先から鋭い風が生まれ、風の刃となり前方の敵の集団の手や足を切り裂いた。
 そして敵の集団の動きが鈍った隙に、突撃するのはマグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)だ。

「まとめてなぎ払うッ!」

 マグナは類稀なる体格と石の身体を存分に使い両腕を目一杯広げて集団に突進。
 鬼神力による鬼の力の覚醒によって強力な力を得たその突撃は、まるで車の如き推進力を持って敵を吹き飛ばしていく。
 そして、宙を舞う敵に栞は風術で圧縮した空気の塊をぶつけ、敵の意識を刈り取っていく。

「……きりがありませんね」

 前の集団を蹴散らし、また自分達に向かって突撃してくる集団を見て栞は疲れたようにため息を吐いた。

「ああ、確かに。だが、ここで止めるわけにもいかないだろう?」
「ですね。他に戦っている人もいるのに、私達だけ逃げることなんて出来ないですもんね」

 二人はフッと口元に笑みを浮かべ、武器を構え敵の集団に立ち向かう。
 二人の武器は奇しくも同じレジェンダリーソード。伝説の英雄が使っていたという剣。
 それは立ちはだかる者を全てなぎ払う力を持つと言われている。

「さぁ、行くぞ!」
「ええ、了解です!」

 二人は望みを込めて、地を蹴り、宙を舞い、そして集団に向けてレジェンダリーソードを振り下ろした。


(レヴェックという男。フランさんの声帯を奪うだけでなく、煤原さんの記憶を改竄し彼女を狙わせる。
 二人の苦しむ姿を……違うわね、フランさんの苦しむ姿が見たいんだわ。……ゲスな事を考える人ですね)

 茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)は最前線で立ち続けながら、思う。

(私は人形師。機晶姫と仏蘭西人形、モノは違えど人型同士。
 同じ人型の作り手として言ってやりたい!
 ――見事でした、と。貴方の造ったフランさんは本当に素晴らしい。
 造られし者でありながら、彼女の心は本物。
 彼女を造った貴方に賛辞を、そして肯定を)

 身体は傷だらけになり、ぼろぼろだというのに。
 衿栖は何度でも立ち上がる。その思いが自分の心を支配し続ける限り。

(貴方の曇った目……覚ましてあげます!)

 衿栖は指先に巻いた魔力の糸を巧みに操り、四体の仏蘭西人形を操作する。

「リーズ、ブリストル、クローリー、エディンバラ! 行きますよ!」

 衿栖は頭上で両手を交差。名前を呼ばれた人形達は、まるで踊るかのように戦い始めた。

「作り手と作られしモノには絆が生まれます。私は、その絆を放棄した貴方を否定する!」

 衿栖の言葉に呼応するかのように、その人形達は洗練された動きで衿栖を邪魔する者達を倒していった。