校長室
機械仕掛けの歌姫
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第十九章 贈奏、スタートライン 鎮圧作戦から一晩経った、シャンバラ教導団の病室。 そこでは、一時的にせよ鏖殺寺院の支配下にあったフランの声帯と大介の検査を行っていた。 検査の目的は二つだ。 奪われていたフランの声帯部品に何か仕掛けられていないか。 煤原に後催眠が仕込まれている可能性。 どうやらこの二つの心配も杞憂に終わり、念のため今日一日フランと大介の二人は同じ病室で過ごすことよぎなくされた。 その二人がいる病室の前の廊下で、それを秀幸に報告しているのは一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)だ。 「以上となります。なお、大介さんの刑罰ですが記憶が無かったという点などから恩赦もあり、しばらくは監視下に置かれるということだけのようです」 「……そうか、良かった。すまない、手間をかけたな」 「いえ、お仕事ですから。それに、こちらの方にも事後処理を手伝って頂きましたので」 アリーセがそう言うのと同時に隣に立つ近衛 光明(このえ・みつあき)は小さく頭を下げた。 秀幸は頭を下げて、光明に礼を言う。 「手伝っていただき、ありがとうございます。光明殿」 「いえいえ、礼には及びませんよ。 戦場に出て戦うだけが戦いではないといういい見本でもありますが、教導団だけに事後処理任せっぱなしというのも問題ありますからねぇ」 微笑みながら、やさしくそう返す光明に秀幸はもう一度頭を下げる。 「では、事後処理の報告も終えましたので私はこれで――っと?」 踵を返し去ろうとする光明の足が思わず止まる。 それは、二人の病室から歌声が洩れていたからだった。 ―――――――――― 辛いことがあっても 挫けそうになっても。 諦めないで もう一度やってみよう。 少しずつでいいから 前へ進んでいこう。 二人の病室でその詩を歌うのは輝と瑞樹とフランだった。 作戦前に約束をしていた作戦が終わったら一緒に一曲、という約束を果たすために。 全力を出して 諦めずにやり続ければ。 出来ないことは 何もないから。 皆で一緒に 頑張っていこう。 三人は楽しそうに詩を歌う。 その歌声に耳を傾けながら、大介のベッドの隣に立つルカルカは質問した。 「煤原さんは強化人間になったんだよね? 貴方達これからどうするの?」 「……そうですね、まだ何も考えていないんですけど。出来れば――」 大介は窓から見える外の景色に目をやった。 それは、懐かしい風景。自分が記憶を改竄する前に眺めていたいつもの光景。 「出来れば、また。シャンバラ教導団の生徒に戻りたいと思っています」 窓の外に視線をやりながら、大介は言葉を紡いでいく。 「契約者ではなくとも、シャンバラ教導団の生徒になることは出来るんですから。 だから、もう一度。入学できるように頑張ろうと考えています」 「……そっか、うん。きっと、それが一番だね。頑張れ、大介」 「ええ、ありがとうございます」 大介は白い患者服に身を包み、包帯にぐるぐる巻きにされた腕を振り上げ、敬礼をした。 その顔に浮かぶのは先日の戦場では決して現れなかった晴れやかな笑顔だ。 「もう一度、自分はシャンバラ教導団の生徒となり、あなたがたと肩を並べて戦えるよう努力します。 だから、待っててください。今度はパラミタを守るために、この場所に戻ってきます!」 その恥ずかしいぐらい真っ直ぐな言葉を聞いたルカルカは、少し照れながら頬を掻く。 そして、いいことを思いつき、悪戯めいた笑みを浮かべて口を開いた。 「一番大切なフランのことも守ってあげなよ?」 その言葉を聞いた大介は頬を少しだけ赤く染め、チラリとフランのほうに視線を向けた。 フランもいつの間にか詩を歌うのを止めていて、顔をリンゴのように赤く染め、大介のほうを見ていた。 それどころか、病室に見舞いに来てくれた鎮圧部隊に参加した面々は次の大介の言葉を固唾を飲んで待っていた。 大介は恥ずかしさを隠すため、少しだけ小声になりながら答えるのだった。 「も、もちろん。今度は、一生離さないよう守り抜きます……!」
▼担当マスター
小川大流
▼マスターコメント
最後まで読んで頂きありがとうございます。マスターの小川大流と申します。 この度は「機械仕掛けの歌姫」にご参加頂きありがとうございました。 今回の物語は如何でしたでしたでしょうか。 少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。 それでは、また皆様にお会いできる時を楽しみにしております。 ※追記 様々な修正点があり、申し訳ありませんでした。 誤字、脱字等が多いマスターですが、今後ミスがないよう誠心誠意務めますので呆れずにお付き合い頂ければ幸いです。