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【第一章】〜雅羅と海と二人の迷子〜

 その日の午後、ホストであるジゼルに笑顔で迎えられやってきた場所は―転送という手段だったから―外観こそ分からなかったものの、
彼女の言う「家」程度で無い事は内装がもの語っていた。
 森の中の木のように立ち並ぶ円柱、見上げた先にある華麗な天井画。
 準備されていた宴会も、ここまでくれば分かったものだったが、矢張りホームパーティーのレベルを超えたものだった。
「これはまるで……」
「お城のパーティーね」
 呆れて言ったつもりだったが、高円寺 海(こうえんじ・かい)は自分の言葉を繋いだ雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど) の瞳が少女らしくキラキラ輝いているのに気付く。
 周囲を見回してみれば、女の子達は皆一様にそんな状態だ。
 キラキラとか、ピカピカとか、旨くてかわいい? 飯とか、そういうのを女の子は好むらしいから、それでこんななんだろうな。
 と、海は溜息混じりに最近やっと分かってきた事を考える。
 通された席について、何となく所在なさげになってしまうのは自分だけなのだろうか。
 テーブルの向うについた見知った顔、杜守 柚(ともり・ゆず)杜守 三月(ともり・みつき)や、遠く座る同年代であろう顔を
彼等はどんなもんなんだろうと見て、海はふと不思議に思った。
「随分と招待客が多いんだな。
 今日は俺達みたいにジゼルを助けた奴が集まってるんだろ?」
「それからその友人も参加してOKだって聞いてたけど」
「それにしても……」
 これ程の人数になるだろうか。
 幾ら広い屋敷の会場で多い人数も入るとは言え、一人のホストが開いたパーティーで。
 海の考えをよそに、雅羅の目は既にテーブルにのせられた色とりどりのケーキやムースに向けられている。
「雅羅もきてたんだ」
 と同じく隣で声を掛ける友人、四谷 大助(しや・だいすけ)の声も頭に入らない。
 壇上でジゼルが軽い挨拶を済ませると、宴会場に少女達の明るい声が響き渡った。


「おいルカ、まだ食べるのか!?」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)の止める声も、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の無言の圧力も「甘い者は別腹」だと言う女性の耳には届かない。
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は壇上で踊る踊り子のリズムに合わせて鼻歌を歌いながら皿の上に甘い香りを発する茶色い山を積み上げて行く。
「だってこれ凄く美味しいよ!
 見た所手作りっぽいんだけど、中身のピーナッツとヌガーが舌の上でとろける感じ、それを包む程良い甘さのチョコレート……
 このチョコバー本当完璧!」
「その分カロリーも多いとは思うが」
「ブクブクになっちまうぜ?」
 相棒達の突っ込みに、ルカルカはむくれて見せて後ろを向いてしまう。
「無粋ねー。男子にはこの良さは分からないか。ここはやっぱり女子同士でないとね。
 えぇっと、雅羅は何処に座ってたかな……ってありゃ?」
 ルカルカが見つけた雅羅だが、どうやらお菓子やデザートやと言ってる場合じゃない不穏な空気を漂わせている。
「”厄災神(カラミティ)”なんてあり得ないって事?
 それって私に文句言ってるの?」
「そんなつもりは!」
 言い淀んだ海に被せるように、雅羅の横に居た大助が彼女の肩を掴む。
「雅羅、落ち着いて。喧嘩は……」 
 大助の横ではルシオン・エトランシュ(るしおん・えとらんしゅ)はフォークを口に突っ込んだまま、心配そうに彼等を見て居た。
「大丈夫よ大助、そんなんじゃない。ただ私は……
 私はジゼルに会えて良かったと思ってる。
 私みたいな人間、世界に一人だけ。一人ぼっちだって思ってたから……だから」
「雅羅……泣いてるのか?」
「ち、違うわよ」
 否定しながらも顔を隠す雅羅に、海はばつが悪そうな表情を浮かべて席を立ち上がった。
「悪かったな」
「海君!」「海!」
 宴会場を出て行こうとする海を柚と三月が追いかけて行く。
 どうやら楽しいパーティーとはいかないらしい。
「あらら。喧嘩しちゃってるのかにゃ?」
 一分始終を遠くから見て居たルカルカは手に持っていたチョコレートバーを載せた皿と雅羅達を交互に見つめた。
「どうしたんだルカ?」
「……うーむ」
 ピコンと頭の上に電気でも突いたように、皿を持っていない方の人差し指を立てると、ルカルカは雅羅の席へ向かって行ってテーブルにチョコレートバーの皿を載せる。
「え?」
「これ、あげるね」
「で、でも……」
「ルカの分は自分で探してくるからいいよ。
 厨房か、倉庫にきっとあるわ……そこに誰かさんも居るかもだし。ね?」
 ウィンクを残してルカルカは宴会場を立ち去った。