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    ★    ★    ★
 
「バードウォッチングという話でしたが、何か様子がおかしくありませんか?」
 蹂躙飛空艇に乗ったイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が、空飛ぶ箒ファルケに乗った非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)たちに訊ねた。
「鷽って言う、世界樹で一年に一日だけ見られる珍しい鳥だと聞いていたんですか……」
 珍しいって、こういう意味だったのかと、非不未予異無亡病近遠がちょっと頭をかかえた。さっきから、奇妙な殺人音波や、きれぎれの悲鳴や高笑いが世界樹のあちこちから聞こえてきている。
「あら、やっと変な歌が聞こえなくなったみたいでございますね」
 アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が、軽く耳をそばだてて言った。
「どれどれ……」
「危ない!」
 自分も確かめようとしたユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)の腕を掴んで、イグナ・スプリントが思いっきり空中で引っぱった。
「はははははは、よい子はまねしちゃダメですよ。はははは……」
 笑いながら、ユーリカ・アスゲージのそばをクロセル・ラインツァートが落ちていく。もうちょっとで空中衝突するところだった。
「みんな、気をつけるのだぞ」
 油断なく周囲に気を配りながら、イグナ・スプリントが言った。
「それにしても、肝心の鷽ってどこにいるでしょうね。ああ、あれかな?」
 非不未予異無亡病近遠が、頭上を飛ぶピンクの鳥影を見あげて言った。
「アトリエ・イルナン、臨時イルミン支店開店中だよ。本日だけの特別営業なんだよ。みんな、ちょっと覗きに来てみてよね!」
 フィオーレに乗った三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)が、宣伝の垂れ幕を長い尾のように引っぱりながら世界樹の周囲を飛んでいた。空を飛んでいるフィオーレの下面がピンクなのは三笠のぞみの趣味なのか、鷽の趣味なのか……。
 
    ★    ★    ★
 
「ううーん、また今年も鷽がやってきたのですか。とはいっても、今までまともに追い払えたためしがありませんから。どうしましょう。ベア、何かいい考えとかないですか。ゆる族に伝わる、伝説の武具とかあ」
 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が、ちょっと困ったように雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)に訊ねた。
「ふっ、そんなことは、予測済みだぜ。今年は、ちゃあんと対策を練ってあるんだぜ」
 キランと着ぐるみの目を輝かせて、雪国ベアが言った。
「さあ、行こうぜ、メカ雪国ベアのある格納枝に」
 雪国ベアがソア・ウェンボリスをうながした。
 急いで格納枝に行くと、改造されたメカ雪国ベアの周囲に、たくさんの人が集まっていた。
「出番だぜ、雪国ベアグッズ製作所のみんなー!」
 雪国ベアが大声で言うと、集まっていた人々がわらわらと近寄ってきた。
「紹介しよう。俺様が日本で働いていたころにお世話になった地方自治体のみなさん……その中でも、グッズ製作で手腕を発揮していた方々だぜ!」
 雪国ベアが、メカニック……というよりは、職人さんたちを紹介する。なぜか、その中にエイディエール・イルナン(えいでぃえーる・いるなん)も混じっていた。アトリエ・イルナンの職人として、日本の職人さんたちのデザインした物を兵器に改造する手伝いをしていた……と言うことになっているらしい。
「何を隠そう、俺様の愛機、メカ雪国ベアは、彼らの協力があったからこそ完成した一品だ。そして、この間の戦いで損傷したメカ雪国ベアの修理とパワーアップ改造を頼んでおいたのだ! さあ、見ろ御主人、パワーアップしたニューメカ雪国ベアの勇姿を!」
 自慢げに、雪国ベアが、メカ雪国ベアをお披露目した。その背中には毒液の詰まった棍棒にもなる雪国ベア水筒が背負われ、胸には雪国ベアぬいぐるみミサイルが内装され、両手には雪国ベアパペットグローブが填められ、腰にはグレネードの詰まった雪国ベアポシェットが、頭には口から氷を吐くための雪国ベア氷かき用のハンドルが、腹には雪国ベアストラップのゾロメカ射出ハッチが、足の裏には雪国ベアスタンプの刻印が、その他いろいろ装備されているらしい。一発でも被弾したら誘爆して吹き飛びそうではある。
「さあ、さっそく出撃だぜ、御主人」
「ええ、行きましょうベア。今年こそ、鷽を倒すのよ!」
 意気投合すると、雪国ベアとソア・ウェンボリスは、メカ雪国ベアに乗り込んでいった。
 格納枝から発進するメカ雪国ベアを、職人さんたちが旗を振って見送る。その中に旗を銜えている鷽が混じっていることに、雪国ベアたちはまったく気づいてはいなかった。
「鷽め、こんな所にいたのか。そこを動くな!」
 めざとく鷽を見つけたジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が、鷽めがけて走ってきた。あわてて、鷽が外へと逃げだしていく。
「おのれ、対鷽用機晶姫として開発された我を恐れて逃げだしたか。だが、残念なことに、今の我には対鷽用レールガンがない……」
 悔しげに、ジュレール・リーヴェンディが言った。
「あのう、武器だったら、僕が作ってあげようか?」
 ジュレール・リーヴェンディの言葉を聞いて、エイディエール・イルナンが言った。
「何、作れるのか、レールガンを!」
 ジュレール・リーヴェンディに、エイディエール・イルナンがうなずく。
「僕の工房は、武器ならなんでも請け負うよ」
 そう言って、エイディエール・イルナンが、背後に掲げた『アトリエ・イルナン、イルミンスール支店』と書かれた看板を見せた。
「アトリエ・イルナンの名前を、いろいろな人に目にしてもらいたいから……ああ、いったい何をするんだよ」
「手が勝手に……」
 看板に書かれた「アトリエ・イルナン」という文字を「目」という文字で上書きしていくジュレール・リーヴェンディや職人さんたちを見て、エイディエール・イルナンが悲鳴をあげた。
 あわてて看板を人々の前から隠すと、エイディエール・イルナンがトテカントテカンとレールガンを作り始めた。あっという間に、対鷽用レールガンが完成する。
「おおっ!」
 ジュレール・リーヴェンディが目を輝かせた。
「これで、鷽を倒してよ。それで、無事倒せたら、アトリエ・イルナンの武器だったって宣伝をよろしく!」
 そう言うと、エイディエール・イルナンがレールガンをジュレール・リーヴェンディに手渡した。
「これさえあれば、鷽など恐るるにたらぬ」
 嬉々として、ジュレール・リーヴェンディが外に出た。
「さて、カレンはどこにいるのだ? 我とは別で、鷽捕獲に動いていたはずなのだが……」
 片手を目の上でかざして、ジュレール・リーヴェンディがカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)の姿を探した。
「ははははははは、くるくるくるくるくるくる……」
 何かが回っている。
 箒にまたがった突撃型竜巻少女と化したカレン・クレスティアであった。激しく風を渦巻かせながら回転している。
「いや、竜巻そのものだろう」
 ジュレール・リーヴェンディが頭をかかえた。
「うわっ、危ない。なんて箒の乗り方なの!?」
 周囲を巻き込みかねない形で飛んできたカレン・クレスティアを、ユーリカ・アスゲージがあわてて避けた。
「ああ、見てください。あの竜巻の先に鷽がいましたよ。へえ、意外と綺麗な鳥ですねえ」
 非不未予異無亡病近遠が、カレン・クレスティアを先導するようにして飛んでいる鷽を見つけて指さした。
「もらった!」
 ジュレール・リーヴェンディのレールガンが火を吹く。
「うそなんなん!?」
 一撃で撃ち抜かれた鷽が、空中で吹っ飛んで消滅した。
「あーれー」
 突然回転が止まったカレン・クレスティアが墜落してくる。
「ちょ、ストップ! ストーップ!!」
 あわてて叫んだが間にあわず、ジュレール・リーヴェンディがカレン・クレスティアの下敷きになった。放り出されたレールガンが下に落ちて姿を消す。
「むっ、先を越されたか!」
 遅ればせに、巨大なメカ雪国ベアが太い枝の上を走ってやってきた。
「まあ、大変でございます。様子を見にいってみましょう」
 アルティア・シールアムが、のびているジュレール・リーヴェンディとカレン・クレスティアの所へと下りていく。
「イコンまで出て来たのでは危険です。いったん下りましょう」
 イグナ・スプリントにうながされて、非不未予異無亡病近遠たちもアルティア・シールアムに続いた。