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ア・マ・エ・タ・イ

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ア・マ・エ・タ・イ

リアクション


準備は整った!

「ぶももももももももーっ!!」
 荒野のかなたに、土煙。
 その土煙の元凶は、牛。
 荒れ狂う1匹の猛牛が走っていた。
 その進行方向に立つのは、一人の青年……佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)
 彼は、何も武器らしきものを持ってはいない。
 素手で、猛牛と対峙しようというのだ。
 牛は、自分の行き先を邪魔する弥十郎の存在に気づき、怒りとも威嚇ともつかない唸り声をあげる。
 そんな牛の様子を目前にしても弥十郎は微塵も同様せず、ゆっくりと腕を捲る。
「さぁ、おいで。おいしく料理してあげるからねぇ」

(注:こちらのリアクションは、お花見シナリオです)

「――という経緯で捕ってきた牛を料理したものが、このケバブです」
「料理って、そこから!?」
「必要なものを、必要なときに、です」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が唖然とした声を出す。
 その手には、仁科 響(にしな・ひびき)から渡されたピタ。
 弥十郎ケバブから削り取った牛肉を、キャベツと共に挟んで特製のソースをかけた一品。
 単純だが、これがたまらなく上手い。
「キャベツも園芸農業家の小林さんから仕入れた特製です」
「うむむむむ、ダリルの飯も上手いがこっちもなかなかの……」
 もむもむとピタを頬張りながら、頷くカルキノス。

 ロックが丘。
 雑貨屋サニーが主催する花見に参加する者、個人でふらりと訪れた者、たくさんの花見客がこの地を賑わせていた。
 目当てはもちろん、紫桜。
 恋が叶うおまじないとも言われるこの紫桜を一目見ようと、今年は過去にない盛況ぶりだった。

「なななも一緒にお花見を楽しもう!」
「うん! みんなと一緒だと楽しいね!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の声に元気よく頷く金元 ななな。
 ルカルカの隣では、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が黙々と花見の料理を並べている。
 自作の和洋とりどりの花見弁当に、花見のお菓子も忘れてはいない。
「この桜餅、おいしそー」
「こっちのナポレオンパイはあたしの!」
「この鳥の焼いたのハーブの香りがしてうめぇ。酒がすすむぜ」
 早くも盛り上がっている面々を前に、ルカルカが一寸真面目な顔になる。
「だけどね、気をつけなくちゃいけないのが、この桜の花粉。吸った人は目の前の人間に甘えちゃいたくなるっていう楽しそう……じゃなくて、迷惑な効果があるんだって。だから!」
 ばばっと紫桜の上方を指差すルカルカ。
 そこには、巨大な扇風機があった。
「こうやって、風術と扇風機で風をコントロールすれば花粉吸わなくてすむよね」
「なるほどー、ルカ、かしこい!」
 笑顔でマスクを脱ぎ捨てるななな。
 周囲の人間もそれに倣う。
(よ、余計なことを……)
 リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)はダリルの顔を見てちらりとそんな事を思ったり。
「しかし、見れば見るほど面白い桜だな。効用もとても気になるし」
 デジカメで紫桜の写真を撮りつつ、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は一人呟く。
 一応、お花見のために花見弁当や焼き菓子を持ってきたものの、敷物の上に放置したまま紫桜に夢中になっている。
 『園芸王子』『花達の恋人』の異名を持つ彼にとって、この紫桜そのものが一番の興味の対象らしい。
「うーん、薄い紫かと思ったらこんなにハッキリした濃い紫色の花だとは。ああ、高貴で美しいその姿……もし許されるなら、君(紫桜)を連れて帰りたいよ」
 ほぅ……とため息をつきながら、エースは紫桜に話しかける。
 桜は何も答えず、ただ静かに枝を揺らすだけ。
「エースもこっちに来て食べようよー」
「……根は、この大きな岩の中に続いているようだな。岩の中に、水分でも溜まっているのか、それとも何か特殊な要素でもあるのか……」
 リリアの声も、夢中になったエースには届かない。
「あれはあれで幸せなんだろうねー。さあ、あたしたちはあたしたちで楽しもうよ!」
 マスクをつけたまま元気よく友人たちに料理を配るのは、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)
「ねじゅおねえちゃん、風邪ですか? 大丈夫ですか?」
 ディアーヌ・ラベリアーナ(でぃあーぬ・らべりあーな)が心配そうにネージュの顔を覗き込む。
「うん、大丈夫。最近ちょっと鼻の調子が悪いから、念のためマスクさせてもらうね」
「でぃあきゅん、優しいですわね〜。うふふふふ。ねじゅちゃんは風邪かしら? 今度、わたくしが添い寝してさしあげましょうか?」
 何故か早くも出来上がっている様子の常葉樹 紫蘭(ときわぎ・しらん)
 しかしその手に持っているのはジュースのコップだ。
「うーん、でもたくさんの人が集まってて、楽しいね。来て良かった!」
 ネージュの視線の先には、この花見イベントを企画した雑貨屋『ウェザー』の看板娘、サニー。
 サニーは花見の主催として参加者に気を配りつつ、時折地面に屈みこんでいる。
 雑貨屋の商品として使うのだろうか、落ちた花を拾っているのだ。
「むっ、出遅れたか……同じ雑貨屋店主として、負けていられないな!」
 そんなサニーの様子を見て、闘志を燃やすのは雑貨『いさり火』の店主、竜螺 ハイコド(たつら・はいこど)
 ハイコドの様子に気づいたサニーもむむっと彼の方を見る。。
 ばちばちばちっ。
 片や店主、片や看板娘。
 雑貨屋同士、譲れない闘志の火花が散る!
「それはそれとして、ソラの言う通りだね。ここの紫桜は商品に応用できそうだ。お客からも『無愛想な彼女に甘えられるアイテム』なんてリクエストを貰ったんだ。これは使えるぞ! ありがとうハコ」
「……ううん、ハコの役に立って、よかった」
 店のことで夢中なハイコドの様子を見て、少し嬉しそう少し寂しそうな複雑な表情を浮かべているのはハイコドのパートナー、ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)
(お店のことは、もちろん大事。大事だけど……)
 ハイコドと一緒になって花や花粉の採取を手伝いながら、婚約者の横顔をちらりと見る。
(私の一番の目的を知ったら、ハコ、どんな顔をするかな)
 ほんの少しの野望。
 その『時』のことを思うと胸がどきどきする。

   ※※※

 各々に楽しむ花見客の平和を支え、時に野望を挫いているのがルカルカの設置した花粉避け扇風機。
 その扇風機に近づくひとつの怪しい影があった。
「あー、リア充どもがよぉさんおるわー。……爆発せんかなぁ」
 物騒な事をぶつぶつと呟いている、瀬山 裕輝(せやま・ひろき)だった。
「酒の肴に花を見に来たんはええけど、オレ考えてみたら酒もジュースも飲めん体だったわ」
 ひとり寂しく牛乳瓶をあおる。
 そこで、裕輝は扇風機の存在に気付いた。
「むむっ、これは何や? 花粉避けの扇風機……? あー、ええわええわ。リア充どもをこれ以上楽しませたらアカンからなぁ。がんばれやー」
 扇風機をばんばん叩きながら応援する裕輝。
 どうやら牛乳で軽く出来上がっているらしい。
「はっ、待てよ」
 ふいに裕輝が真面目な顔になる。
「逆転の発想や。花粉を吸ってると思わせて、そんな感じにテケトーに振る舞っとけば合法的にセクハラができるんとちゃうか……?」
 シリアスな顔で、言ってることは犯罪スレスレだ。
「そうなると、花粉は必須や。そうそう、そこらのスライムにも花粉が効くかどうかっつーオレの学者脳的好奇心も満たしたいし…… これ、スイッチどこや」
 扇風機をいじり始める裕輝。
「む、このスイッチは何や? ぽちっとな」
 ヴぃいいいいーん
 ヴぃいいいいーん
 ヴぃいいいいーん
「おわっ!?」
 スイッチを押した途端、扇風機が異音を発した。
 風が乱れる。
 扇風機が、首を振り出したのだ!
 首降り状態になった扇風機は、容赦なく周囲に花粉をばら撒き始めた。

   ※※※

「……んんんんんー、ルカぁ」
「んど! どうしたの!?」
 突然くにゃりとルカルカにしなだれかかるななな。
「んんんんんー、なでなでしてー」
 すりすりすり。
 甘え始めたなななに最初は驚いたものの、すぐににこりと笑って頭をなでるルカルカ。
「んもー、ななな、ネコさんみたいだよ!」
「……んにゃー? ごろごろ……」
 ルカルカの言葉をどう受け取ったのか、鳴いてみるななな。
 喉を鳴らしながら、ダリルに近づいていく。
「あ、ちょっと……ま、いいか」
 ルカルカがダリルの方を見ると、既にその膝の上にはリリアが座っていた。
「はい、あーん」
「ん。あーん」
 ぱくっ、もぐもぐ。
 リリアが差し出すクッキーを冷静に頬張るダリル。
「あのね、ダリル。私、花粉のせいでとっても甘えたいの。不可抗力なの。だから……」
 ダリルの首に手を回すリリア。
「なでなで、して?」
「ああ」
 なでなでなで。
 やはり冷静さを保ったまま、リリアの頭を撫でるダリル。
「んんんんんー、なななもー」
「ああ」
 なでなでなで。
「もーう、ダリルってばそんなフラグ立てまくりでどうするの!」
「花粉の作用だから仕方ない」
 からかうようなルカルカの声にもダリルは動じない。
「必要なら、診察しようか?」
「はい☆」
「あ、なななもー」
 ダリルの前で服を脱ごうとするリリアと、それに倣うななな。
「……いや、着衣のままでいいから」
「どう、ちょっとはドキドキしない?」
 再びルカルカが声をかける。
「特には」
 平然とした言葉が返ってくる。
(ん?)
 しかし、カルキノスは気付いた。
 その語尾が、僅かに震えていることに。
「ま、酒でも飲めよ」
 そっと杯を渡す。
「……診察中だから」
 断られた。

「あぁ、愛しの君! 君が俺をなでてくれないなら、俺が君をなでるから!」
 すりすりすり。
 紫桜に、まるで人にそうするかのように甘えはじめたエース。
 その隣ではラルム・リースフラワー(らるむ・りーすふらわー)が根っこに腰かけ、頭を桜にもたせ掛けて歌っていた。
 彼らだけではない。
 紫桜の花粉の威力は、間違いなく辺り一面に影響を与えはじめていた。

「ね、ハコ。こっちに来て……」
「ソラ、新しい枝でも落ちてた?」
 ハイコドと共に落ちた花を集めていたソランは、急に真面目な顔になってハイコドの手を引っ張った。
「何だい、何もないじゃないか」
 連れて来られたのは、岩の陰。
 辺りを見回すハイコドを前に、ソランは思い詰めたようにマスクをはずす。
「わ、なにやってるのソラ!?」
「……ごめんね、ハコ」
「?」
「実はあのお客さんからのリクエスト、私が書いたの」
「え、なんでそんな事を」
「たまには、本能のまま甘えたくて」
 赤くなりながら答えるソランに、ハイコドは僅かに息を飲む。
「その、ほら、家だとパートナーがいるじゃない。本当はもっと……」
 そっとハイコドに寄り添うソラン。
 どうやら花粉が効いてきたらしい。
 ソランの尻尾が、それ単体が生き物のようにハイコドに絡みつく。
「そっか、ごめんねソラ。気づかなくって。甘えていいよ」
「ハコ……」
 言葉が途切れる。
 どちらからともなく、唇が塞がれた。

「でぃ、ディアも紫蘭さんも、みんな、どうしたの……」
 茫然としたままネージュは目の前の状況に釘づけだった。
 突然、悶えはじめた二人。
 狂おしそうに身を捩ると、涙目のディアーヌ。
 突然走り出した紫蘭。
 その行き先は……
「あ、あたし!?」
「ねじゅちゃん、ねじゅちゃーん、うふふふふふふ……」
 すりすりむぎゅー。
 唐突にネージュを愛でる紫蘭。
 鼻血をたらしている当たり、完全に花粉の影響なのか判断に迷う所。
 鼻血……?
 花粉の影響は「甘える」だけ。
 なのにどうして鼻血?
 違和感に気づいたネージュだったが、ディアーヌの方を見て全て納得する。
「はぁ……あ……ん」
 ディアーヌの顔は、赤かった。
 まるで熱に浮かされているかのように。
 両腕で自分自身を抱きしめ、ふるふると体を揺する。
「ボク、なんかふわふわしてきちゃった……あ、あ、ぽ……」
「ディアーヌ!」
「ぽぽぽぽーん」
 少しずつディアーヌの体からにじみ出ていたソレは、ネージュの声をきっかけに、大量に噴射された。
「ふぁぁ……あ……」
 黄色い粉が霧散する。
 ディアーヌの、花粉だった。
 興奮作用のあるディアーヌの花粉は、甘える効果のある紫桜の花粉と混じりあい、広く広く周辺に漂い始める。
 大事なことなのでもう一度。
 興奮作用のあるディアーヌの花粉は、甘える効果のある紫桜の花粉と混じりあい、広く広く周辺に漂い始める。

「はい、こちらどうぞ! はい、ピタもうひとつありがとうございます!」
 弥十郎のケバブ屋台は大盛況だった。
 時折、サイコロの出目が悪く激辛ソースをかけられる客もいたが、看板娘? の響は休む暇なく働き続けていた。
「仁科、なんか最近艶っぽくなったねぇ」
「え、あは、最近胡桃を食べてるからかなぁ」
 不意に弥十郎から言われ、的外れな言葉を返す響。
「ん〜♪」
 しかしその後ずっと、どこか浮かれたような歌が響の口から洩れていた。
「んん〜♪」
 だからか、響は気づかない。
 自分がピタに挟んでいるものが、牛肉ではなくなっていたことに。
「んん〜♪」
「にゅいにゅいにゅい」
「ん〜♪」
「にゅにゅー!」
 ぎゅむぎゅむぎゅむ。
 牛肉の代わりに挟まれていたもの。
 それは、スライムだった。
「あれ、なんか感触が違ったような……気のせいか。はい、ピタひとつ、お待たせしました!」
 こうして、花見客の間にスライムピタが広まりまくっていった。
 大事なことなのでもう一度。
 こうして、花見客の間にスライムピタが広まりまくっていった。

 さあ、カオスの準備は整った!


<諸注意>
 こちらのリアクションには、性的な描写がいくつか見られます。
 また、いつもより喘ぎ声多めでお送りしております。
 閲覧の際には、ご注意ください。