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取り戻せッ! 恋人に奪われた狂気の魔剣!!

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取り戻せッ! 恋人に奪われた狂気の魔剣!!

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5章 「想いを貫くという事」


 〜火山火口〜


 火口近くという事もあり、一気に熱気が強くなる。
 そんな火口の前に立つ人影が二つ。
 人影はヒルフェに問いかける。

「わらわ達は、魔剣を回収するようにと依頼を受けてきた……ヒルフェよ、ミューエに魔剣を
 返してやってはくれないか? それは妹の遺品にもなるのじゃぞ」

 ヒルフェはそれに反論する。

「これは、危険な魔剣だ……これがあるからいけないんだ! リーゼの為にも
 必ず、破壊してみせる!!」
「交渉決裂じゃな……ならば、力づくで奪うのみッ!!」

 その人影はヒルフェに向かって飛び掛かってくる。
 咄嗟に風翔達も武器を構えて応戦する。

「ヒルフェ、あんたは早く火口へ!」
「ああ、すまないッ!!」

 ヒルフェと共にチャンピオンのルカルカ・ルー(るかるか・るー)
 ソウルアベレイターのドラゴニュートカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が火口に向かった。

 近づきながら、フェルブレイドの少女辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)はアルティマ・トゥーレを放つ。
 風翔は後方に跳躍し、ヒルフェに向かうそれを弾いた。

「……ッ!?」

 風翔は殺意に気づき、ギリギリのところで上空から襲い掛かった刹那の刃を受け止めていた。

「ほう、なかなかやるのぅ……じゃがッ!!」

 刹那は封印解凍を行い、自らの能力を上昇させる。
 ルカルカを押す刹那の力が強まり、地面に足がめり込む。

「ぬぐうううッ! こんなことで……抑え込めると思ったら、大間違いだッ!!」

 武器に力を込め、爆炎波を放って刹那を弾き返す風翔。

「今度はこっちの番だッ!! 受け取れぇッ!」

 風翔は渾身の突きを放った。
 防御はしたものの、刹那は体勢を崩しながら吹き飛んでいく。

「甘いッ!!、ただの突きなんぞ、打点をずらせば大したダメージにもならぬ!!」

 空中で身体を捻って体勢を整え、刹那は再び風翔に向かって攻撃姿勢を取る。

「さすがに、小細工は通じないか……これならッ!!」

 風翔は縦に轟雷閃を放ち、すぐに水平に構えた翼の剣から爆炎波を放った。
 轟雷と爆炎が同時に刹那を襲う。

 刹那はアルティマ・トゥーレを放ち、迫りくる轟雷と爆炎の衝撃波をかき消した。

「ふむ、なかなかにやるみたいじゃのう……少しは楽しめそうじゃ」

 一方、裕香の目の前には、ハーフフェアリーの少女アルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)
 今にも泣き出しそうな表情で立ちはだかっている。

「あー……あの、無理に戦わなくてもいいんですよ?」
「ば、馬鹿にしないでくださいッ! 私だって立派なプリーストです!」
「いいこと考えたんですけど……」
「な、何ですか? 一応聞きますよ」

 裕香は静かに口を開く。

「私達って、プリーストですよね、だったらどっちが的確にパートナーを回復できるか、勝負しませんか?」
「それは名案だと思います! ではさっそく、せっちゃん! ヒールいくよー!!」
「ああっ!! 先になんてずるいッ! じゃ、こっちも…風翔さんヒールいきますッ!」 

 二人から的確というよりは、回復しすぎというほどにヒールが風翔と刹那に飛ぶ。
 傷を受けるそばから回復していく為、風翔と刹那の戦いは決着がつきそうになかった。

 その後、裕香とアルミナは様々なポーズで回復をかけ始める。
 回復する時の姿勢やポーズが回復効率に影響するとかしないとか。

 半分ダンス大会のようになっている裕香とアルミナを見て、風翔と刹那はつい、戦闘を中断してしまう。

「な、なにやってんだ……裕香は?」
「アルミナも……なぜダンスなんかやっておるのじゃろうな?」

 二人が首をかしげているのにも気づかずに、プリースト同士の意地の張り合い……もとい、ダンス大会は続いた。


 〜火山・火口〜


 ついに火口までやってきたヒルフェ達。

「やっと、ここまでこれたか……あとは火口に魔剣を」

 巨大な剣を持ったラヴェイジャー白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)が目の前に立ちはだかった。

「その魔剣……火口に捨てるなら、俺に渡してくれねぇか」
「それはできない相談だ……誰かが悪用して、誰かを不幸にしてしまう前に俺がこの手で破壊する!
 そう決めたんだッ!!」
「はーーーっはっはっはっは!!! いいねーそういう流れ、俺様だーいすきよ?」

 岩の影から、不気味な風貌のハイエロファントゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)が現れる。

「ヒルフェちゃんが恋人になったってのも〜実は魔剣が目的だったんだろ? いいよ、いいよ嘘つかなくてさー」

 その大げさな身振り手振りと、独特の人を馬鹿にしたかのような喋り方は相手を苛立たせる。
 わざとやっているのか、計算のなのかは分からないが。

 ゲドーは漆黒の大鎌…黄昏の大鎌を構えて、戦闘の意思を見せる。
 ヒルフェは剣を抜き放ち、ゲドーに向かっていく。

 ルカルカ達もそれに続こうとしたが、竜造によって阻まれてしまう。

「おっと……てめぇらの方がどうみても強そうだからな……俺と遊んでもらうぜ」
「くっ……カルキ! さっさと倒して、ヒルフェの援護に向かうわよ!!」
「ああ、任せておけ!」

 ルカルカはゴッドスピードを使用し、自分とカルキの速度を向上させる。

「さぁ、私達について来られるかしら!」

 ルカルカとカルキノスがほぼ同時に竜造へと襲い掛かった。
 急加速からの疾風突きを梟雄剣ヴァルザドーンにて受け止める竜造。
 さすが、大口を叩くだけあってルカルカの動きを見切っていたようだった。
 しかし、上空から迫るカルキノスへの対応がワンテンポ遅れる。

 力の強い者同士の戦いの場合、一瞬の判断の速度が勝敗を分けることが多々ある。
 今回もそのはず……だった。

 上空からのカルキノスの攻撃を龍鱗化させた腕でいとも簡単に受け流して見せた。

「いいねぇ……なかなかにいいコンビネーションだ。だが、俺を甘く見て最初から全力で来なかったのは
 間違いだったなぁッ! うおおおおおおーーーッッ!!!」

 金剛力によって得た怪力を使い、力任せに梟雄剣ヴァルザドーンを薙ぎ払う竜造。
 思わぬ反撃にルカルカとカルキノスは大きく体勢を崩し、吹き飛ぶ。

「きゃあああああッ!!」
「ぬううッ!!」

 梟雄剣ヴァルザドーンを振り回し、竜造は叫ぶ。

「おらおら、どうしたぁッ!! お前らの力はそんなもんかッ!!
 こっからが面白くなるところだろうがよぉッッ!!!」

 よろめきながら立ち上がるルカルカとそれを支えるカルキノス。

「まったく、最後の最後でとんでもないのが出てきたわね……」
「だが、アイツをどうにかしない事には、ヒルフェの所にはいけないからな」
「でも、あんなタフそうなやつ……どうしたら」
「方法がないことも無い……ルカ、アイツに隙を作ってくれ」
「隙? わかったわ、なんとか作ってみる」

 再びゴッドスピードを使用し、竜造に向かって突進するルカルカ。
 竜造は梟雄剣ヴァルザドーンを構えて、それを迎え撃つ。
 二人の武器がぶつかり合い、激しく火花を散らした。
 竜造の意識は完全にルカルカの方に向いている。これを好機と判断したカルキノスは
 翼と飛行魔法を使用して急加速し、竜造を掴んだまま火口へ。

「さぁ、俺とガチンコ勝負と行こうかッ!!」
「ぐあああっ! 離せぇッ!!」

 火口に近づくにつれ、強烈な熱波がカルキノスと竜造を襲った。
 炎熱に強いカルキノスでさえ、長時間の滞在は危険な場所……そこについた時にはすでに竜造の意識はなかった。

「気絶したか……ま、人間にしたら頑張った方だ。よし、ルカの所へ戻るか」

 気絶した竜造を連れ、カルキノスはルカの待つ場所へと戻った。


 ゲドーの前に倒れるヒルフェ。

「どうかなぁ? その身を蝕む妄執……相手に恐ろしい幻を見せるんだけど……
 ヒルフェちゃんは何を見たのかな〜〜? って、もう聞こえてないか……」

 ゆっくりとヒルフェに近づくゲドー。

「さーて、魔剣を頂いて、こんな場所からはさっさとおさらばしますかねぇー」

 ゲドーが魔剣に手を伸ばしたその瞬間、ヒルフェは魔剣を抜き放ち、自らの右腕に突き立てた。

「……ごめん、リーゼ……お前の分まで生きれそうに、ない……ほんと……ごめんな」

 直後、魔剣はヒルフェを取り込み、その右腕を異形のものへと変貌させる。
 魔剣が肉塊を纏い、以上に肥大化したその腕はそこだけ別の生物のようにも見えた。
 彼の心が黒く、黒く塗り潰され、残ったのは本能のみ。

(火口……行く……火口……)

 よろよろとした歩みで、重そうな腕を引きづり、火口へと向かうヒルフェ。

「あーあ……やっちゃったよ。ああなったら、もう魔剣は手に入らないね……
 まさか、自分に刺すなんて……普通に振るってたら、奪える可能性はあったんだけどね〜」

 ゲドーは魔剣をあっさりと諦めると、その場を後にした。

 魔剣に取り込まれたヒルフェを見る影が二つ。

「んーなんだかおもしろいことになってきたわねぇ……」
「きゃははッ……やっぱり魅入られちゃったのかな…それとも魔剣は不幸をもたらす存在だから?」
「さぁ、どうかしらねぇ……このまま火口に落ちちゃうのかもしれないわね……」

 ラヴェイジャーの魔鎧ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)と会話しながら
 飴を舐めるソウルアベレイターの女性牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)

 彼女達はかなり高い位置にある岩に座り、下の様子を見て楽しんでいた。
 まるで、ポップコーン片手に映画を楽しんでみている観客のように。
 
 アルコリアの隣にちょこんと座るラズンは舐め終わった飴の棒を、ぷっと下に向かって吹く。
 飴の棒は落下していき、壁に当たって跳ね返り数回ほど回転してから
 下を歩くヒルフェに当たった。
 ヒルフェは気にした様子もなく、そのまま腕を引きずって火口に向かっている。

「当たったのに、気にならないみたいだね」
「まったく、お行儀が悪いわねぇ……次は何味がいいかしら?」

 ラズンは元気よく「オレンジー!」と答え、アルコリアから新たな飴を受け取る。
 一応何味がよいかと、聞かれるのだが……ラズンの答えは一貫してオレンジ一択のようである。
 
 包み紙を破り捨てると、飴を口に頬張り、その味を堪能するラズン。
 飴の先を舐め、そのまま口に含んで全体をしゃぶり上げる。
 その口内に、爽やかなオレンジの味が広がっていく。

「さーて、ここからどうなっていくのかしら……火口に落ちていくヒルフェを誰かが助けたり、とかかしら?」
「……それじゃあ、ありきたりな気がするなぁー」
「そうよねぇ……ありきたりなのはイケナイわよねぇ」

 飴を舐め終わり、次の飴を取り出すアルコリア。包み紙をはがし、その場にポイッと捨てる。
 赤いリンゴ味のような飴を口に含むと、舌で舐めまわしたり、歯の上で転がしたりして飴を弄ぶ。
 ときおり、口から飴をだし舌でゆっくりと上下に舐め上げる。

「んふっ……やっぱり飴は、リンゴ味に限るとおもうのよねぇ……」