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【第一話】動き出す“蛍”

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【第一話】動き出す“蛍”

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 その頃、幾ばくか離れた場所からこの戦いを見守る者の姿があった。
 彼等は自分たちのイコン――藍寶を持っているが、今回は隠密諜報活動ということで、イコンではなく空飛ぶ箒を移動手段として利用し、ここまで来ていた。
 人数は二人。一人は女、そしてもう一人は男だ。
(大好きな大好きな金団長……あのお方の為にも一生懸命頑張って諜報活動を成功させないと)
 戦いを見守っていた女――董 蓮華(ただす・れんげ)は強い信念に基づく決意を人知れず胸中で呟いた。
(心からお慕いする団長。団長の国防に失敗の二文字は似合わない。できる全力で、私は団長のお役にたちたい!)
 蓮華は空飛ぶ箒に乗ってこの戦場を観測できる場所へとやって来ていた。戦場となった施設は五つある中で、何故この戦場を選んだのかといえば、指令本部の判断に従ったからに他ならない。
 圧倒的な強さの敵が同時に同時多発で襲ってきた時、そして今回では敵との戦いが終らないと推察された時、何を目指すか、何が大切か――。
 それは大きく分けて三つある。
 ――敵の情報を可能な限り早く獲得し、分析しして前線に伝える事。
 ――前線の状態に応じて迅速的確に即応する事。
 ――そして、五箇所全てを一つのチームとし、情報を共有し有機的に連携する事。
 それを考えた『とある人物』が急遽提案した連携態勢に則り、教導団はもちろん他の学園からも数多くの人物が協力してこの未曾有の事件に対応していた。
 短時間ながら集まった人員の数は多く、現状だけでも既に学園の垣根も容易に超えて多様な人員が集まっている。
 その連合組織が目下現在、目的とすることはただ一つ。
 ――被害を最小とし、敵の撃退を成功させ、敵の正体に迫る事に他ならない。
 蓮華も自らは微力だと思ってはいるが、決してそれを諦めや言い訳に直結させることはせず、むしろ、そうであるからこその確固たる信念と目的意識、そして使命感を持ってこの連合組織に参加していた。
 そして、蓮華はその信念を胸にデジカメのファインダーを覗き込み、レンズを現場へと向けた。先程からこまめにデジカメで撮影をし続けている彼女は、どんな些細なことでも貴重な情報として記録する気概でこの諜報任務に臨んでいた。
 そんな蓮華に、もう一人の諜報要員であるスティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)が問いかける。
「何か決定的な情報はあったか?」
 スティンガーからの問いかけに、蓮華はデジカメを顔から離して控えめに俯くと、黙って小さく首を振る。
「そうか。でも、こうやって直接諜報活動する意味は大いにあると思うぜ」
 そう口にするスティンガーに、蓮華は大きく、そして深く頷いた。そして、すぐ近くに置いた通信機のつまみを捻り、周波数のチューニングをいじりながら応える。
「私たちの役目は敵の背後を物理的に突き止める事。電子的なだけじゃ迫りにくいから。でも、敵機への指令電波の送受信を通信機で傍受するのも怠れないわ。敵はどこからか見ていて、どこからか指令を受けてるはずだもの……」
 だが、蓮華の言葉とは裏腹に、不審な通信はただの一つとして検知されなかった。高度な暗号化や隠蔽技術が用いられているわけでも、蓮華側の不手際や技術レベル的問題で傍受できないわけでもない。そもそも、敵機への指令通信はもちろん、敵機から何らかの情報を送信する為の電波も一切飛んでいないのだ。
(どういうことだ……? 敵の真の目的……今のままじゃ、皆目見当もつかないか――)
 不可解極まりないこの戦況の謎に改めて直面し、スティンガーは胸中で静かに自問するより他なかった。