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リアクション
第三章:VS重火力タイプ(遭遇編)
同時刻。
「便宜上、叶中尉たちの部隊を第03イコン小隊と呼称、ならびに叶中尉をその隊の隊長に任命しますぅ。以上、交信終了ですぅ――」
作戦内容を最終確認した末、そう締めくくられた本部との通信を終え、叶 白竜(よう・ぱいろん)と世 羅儀(せい・らぎ)の二人はモニターに映る景色に目を戻した。
二人は枳首蛇と名付けたフィーニクスタイプの機体を駆り、重火器タイプの未確認機が出現した施設へと急行している最中であった。
現在、交戦地点となる施設へ続く荒野の道のりには二人が乗る枳首蛇の姿しかないが、決して単機での戦いを挑むというわけではない。
同じく重火器タイプとの交戦に向かっているローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)とフィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)の機体――{#ICN0003800グレイゴースト?}は海軍機という位置付けであり、狙撃の他に強襲偵察・特殊作戦用のイコンとして玉霞を改造した機体。そのコンセプトが『沿岸部までは潜水艦に運んで貰い、敵地奥深くの基地に潜入しイコンが起動する前に叩く』という物である以上、今回の様な防衛任務に投入する時は専ら狙撃手のポジションで動くことになる為、白竜たちとは別行動だ。
また、ローザマリアの残る仲間――上杉 菊(うえすぎ・きく)とエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)の二人はイコン随伴歩兵として別行動だ。同じく随伴歩兵として出撃しているハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)と天津 亜衣(あまつ・あい)もそれに同行していた。
フィーニクスタイプを飛行形態で巡航させているということもあって目的地はすぐに見えてきた。広大で平坦な荒野にどこまでも広がる地平線。その先に煙の立ち上る施設が豆粒ほどに見えてきたのとほぼ同時、枳首蛇のコクピットでアラートが鳴って目的地への接近を知らせる。
「やはり気になるか?」
巡航速度で目的地へと着実に近づいていく枳首蛇のメインパイロットシートに座る白竜は、隣のサブパイロットシートに座る羅儀へと問いかけた。
「あ? 何がだよ?」
操縦を担当している羅儀は傍から見れば、肩の力を抜いてモニターに映る荒野の風景を見るともなしに見ながらボーっとしているように見える。しかし、その操縦に決して抜かりはない。
――戦闘前に余計な疲弊をしない為のリラックス。戦場に慣れたベテラン兵だからこそできる高等技術だ。
もっとも、白竜は羅儀がただその『高等技術』を実践しているだけではないのに気づいていたが。やはりこの辺りはコンビを組んで幾多の戦場を駆け抜け、修羅場をくぐってきたからこそ解ることなのだろう。
相棒の心の機微を敏感に察した白竜は更に問いかけた。
「イリーナ阿部中尉のことが気になっていたのだろう? 確かに、助けたのは君だからな」
すると羅儀は事もなげに答えた。
「別に気にしちゃいねえよ。それなりに知ってる奴に任せてあるからな」
(つっても……本当は気にはなってるんだがな。しっかし、白竜のやつ……エスパーか何かかよ?)
呟きと苦笑を胸中だけに留め、顔には出さないようにしながら羅儀は肩や腕をかるくほぐし始めた。
「そんな話をしてていいのかよ、もうすぐ交戦地点に着くぜ? 無駄口は銃殺刑じゃなかったか?」
相棒が何かを気にしているとあって心配したが、いつも通りの範囲内で白竜は安心していた。
「了解だ。この話は終了にしよう。もうすぐ戦闘だ、よろしく頼むぞ」
小さく微笑み、そう呟く白竜。操縦桿を握る羅儀もそれに応えるように口を開いた。
「ま、いつも通りやって帰投するだけだ。それに関しちゃ――……何だとッ!?」
羅儀の言葉は驚愕で唐突に途切れる。枳首蛇のセンサーが警報を鳴らすよりも早く、羅儀は歴戦のベテラン兵としての鋭い感性で機体を旋回させていた。
それから一秒にも満たない時間経過の後、旋回前の枳首蛇が飛んでいた位置へと高速で飛来した重量物が激突し、巻き上げられた荒野の土がまるで水柱のように跳ね上がる。
「……う、撃ってきやがったッ! こんな距離からッ!」
重量物が高速で飛来した方向は枳首蛇の目的地、すなわち攻撃を受けている施設の方角だ。
「急行の緊急指令が下る前に教導団本校へと送られた情報によれば……確か――」
すぐさま白竜は冷静に枳首蛇のコクピットに取り付けられたコンソールを弾くと、現地の防衛部隊によって既に教導団本校へと送られているデータを呼び出す。
「やはりこの砲撃は交戦予定の未確認機によるものと見て間違いないだろう。敵機が携行しているこの超大型火器を用いた可能性が極めて高いだろうな」
モニターに映し出された、敵機による破壊活動の映像を見ながら白竜は冷静に断じていく。
「見たところ直径は150mm。こちらの装備しているライフルがスナイパーライフルだとすれば、敵機のはさしずめアンチマテリアルライフルといったところか」
その隣では羅儀が操縦桿を巧みに捌きながら声を張り上げていた。
「冷静に分析してる場合かッ!? こんなの一発でもくらったら即、木端微塵だぞッ!?」
だがしかし、それに対しても白竜は冷静なままだ。
「問題ない。そもそも枳首蛇の高機動性を活かして敵機の攻撃を引き付け、それをひたすら回避し続けることで敵機に弾薬を消費させる――それがこの作戦における私達の役目だからな」
あくまで冷静な白竜と、絶え間なく飛んでくる砲撃に苦笑すると、羅儀は再び声を張り上げた。
「要はこういうことか、俺らは逃げ回ってるだけで既に仕事は果たせてるってことだなッ!」
すると冷静な表情だった白竜は苦笑を浮かべる。
「まあ、あながち間違ってはいまい」
砲撃を避けながら会話を交わしていると、その会話に割り込んでくるようにアラートが鳴り響く。回避しながらも施設へ向けて飛んでいたおかげで、どうやら施設の敷地内へと到達したらしい。
「おうおう、随分と近くに見えてきたぜ、あの頭のイカれたトリガーハッピー野郎の機体がよッ!」
気合を入れ直すように大声を上げると、羅儀は絶妙な操縦桿捌きで砲撃を避けながらペダルを踏み込んで推進機構からの放出を最大限に引き上げ、爆発的な加速で一気に敵機との距離を近距離まで詰めにかかる。
中距離から近距離に至る瞬間、スラスターを全開にしてバレルロールを敢行。砲弾がすぐ自機すれすれをかすめる寸前で切り抜け、一気に敵機の懐へと近づいていく。
「さっきから道路標識みたいなのを振り回しやがって、元気の有り余ってるようで、結構なこったな。んで、有り余った元気のやり場に困って教導団に喧嘩売ったのか? なんにせよ、テロリストの分際で好き放題とは……いいご身分だなッ!」
機外スピーカーをオンにし、マイクに向けて叩きつけるように言い放つと、羅儀は操縦桿を捌き、枳首蛇の機種を真上に向ける。それと同時に敵機の両肩部と腰部左右、そして両脚部に装着されたミサイルポッドのハッチが一斉に開き、三者三様に異なる性質を持った膨大なミサイルが一斉に現れる。
ミサイルが発射されるよりも早く羅儀はペダルを力いっぱい踏み込んで機体を上昇させると、敵機の脚部から発射されたミサイル群が危うい所ですぐ下を通り過ぎていく。残る二種のミサイル群がまだ敵機のミサイルポッドを発したばかりであることからも、その尋常ならざる速度が窺い知れる。
「速度特化のマイクロミサイルか!」
いち早くミサイルの性質を見抜き、白竜が声を上げる。
「んなことは見りゃわか――……今度は何だッ!?」
PiPiPi!
操縦桿を握りながら張り上げた羅儀の声はまたも割り込んできたアラート音によって中断された。
敵機を発した三種類のミサイルのうち、肩部のミサイルポッドから発射されたミサイル群が、垂直急上昇で速度ミサイルを避けた枳首蛇を追うように、同じように先端を持ち上げて急上昇して飛んできたのだ。
「気を付けろ! ホーミングミサイルだ!」
「それも見りゃわかるっての!」
操縦桿を縦横無尽に捌き、まるでステップを踏むように鮮やかなペダル捌きで巧みに枳首蛇をマニューバさせてきみもみ飛行しながら羅儀はホーミングミサイルをことごとく振り切っていく。
だが、そのすべては振り切れない。もはや曲芸飛行と化した枳首蛇のマニューバにも果敢に追いすがってきた数発のホーミングミサイルがその機尾へと迫る。
「クソッタレ! 振り切れねえッ!」
羅儀が毒づいた瞬間だった。枳首蛇の後方で、今まさに機尾へと追いつこうとしていたホーミングミサイルの数々が次々に爆発していく。
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