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第九章 大混戦! 時代劇バトル!? 四

 時代劇の常として、正義の味方と悪の手下との戦いは、ほとんど常に一方的である。

「ニン!」
 謎のかけ声とともに印を結んだのはろざりぃぬ。
 その後、一瞬カメラがよそを向いた隙に、全く同じデザインの忍装束を着たシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)が隣に駆け寄ってくる。
 こんなの分身でもなんでもないような気もするが、魔法以外の方法で分身を再現しようとすると「もともと一人だったのが二人になった」よりは「もともと二人だったのが一人を装っており、あるタイミングでもとに戻った」とする方が説明がつきやすいことを考えると、むしろこの方が本来の分身に近いのかもしれない。
「おてんとさんの決まりはしらねぇがな、俺の聖書第三章十六節にはこうあるぜ……汝てめえのケツをひーひーいわせよってな!」
 キリスト教が禁止されていた江戸時代に聖書はまずいだろ、とか、そんな当たり前のツッコミを入れるものはもはや誰一人としていない。
 その代わり、下っ端が二人ほど刀を振り上げて向かってきたが、シンはカウンター気味に飛び込みつつ鳩尾に前蹴りを当て、ろざりぃぬも同じく飛び込みつつ相手にサミングを喰らわせて動きを止める。
 その隙に、ろざりぃぬは相手の後ろに回り込み、シンは目の前の相手の前に背を向けて立ち、頭を抱え込むように肩に乗せて……そのまま、尻餅をつくような感じで落とす。
 いわゆるスタナーと呼ばれるプロレス技で、仕掛けられた側は思いっきり顎に衝撃が来るため、地味な見た目の割にかなり威力は高いのである。
 これで相手がダウンしたのを見届けて、シンが立ち上がると、それを待っていたかのようにろざりぃぬが抱えていた相手を後方へと放り投げる。
 そして、その足をろざりぃぬが、頭をシンがホールドし、先ほどと同じような、しかし少し違った形で落とす。
 今度は尻餅をつく代わりに背中から落ちるようにし、その分相手をダイレクトに地面に叩きつける。
「忍法……3Dでゴザル!」
 得意げに言うろざりぃぬ。
 忍法、の後に一瞬間が空いたのは、名前を和訳しようとして即断念したからなのは言うまでもない。
 無理矢理直訳するなら忍法三次元。いずれにしても意味不明である。





 一方、先ほどの亜急斗と満坊は、義輝と佐那の二人と対峙していた。
「公方様」
 義輝をかばうように前に出ようとする佐那を、義輝は手で押しとどめる。
 そんな様子に、亜急斗は不敵に笑い……素早く自分の懐に手を入れ、ぴたりと動きを止めた。

 彼の二つ名は「蜘蛛使いの亜急斗」。
 名前の通り、毒蜘蛛を操っての暗殺を得意とする刺客である。
 とはいえ、こうしてすでに相手に踏み込まれていては、暗殺も何もあったものではない。
 やむなく、至近距離から直接毒蜘蛛をぶつけようとした亜急斗だったが……彼は、一つだけ大事なことを忘れていた。
 毒蜘蛛を扱う際には、決して刺激してはいけない、ということを。

「チッ……しくじっ、た、か……」
 懐から、何も持たぬままの手を出し、そのままどうとその場に倒れる亜急斗。
 その指がアップになると、そこには毒蜘蛛のものと思われる咬み跡がついていた。

「亜急斗ぉぉぉっ!」
 満坊の絶叫が、辺りに響く。
「なんという事だ! そなたには、子供の名付け親に……」
 何度も繰り返すが、これで満坊の見た目が普通でさえあれば、味のあるシーンになっていただろう。
 しかし、やはり見た目がマンボウなので……奥さんもマンボウなんだろうか、とか、だとしたら子供の名前っていくつ考えればいいんだ、とか、どうも余計なことが頭に浮かんでしまう。
「クッ……許さんぞ、曲者めぇぇ!」
 なんにしても、相方を殺されて――というか、自滅だが――怒りに燃える満坊は、「閃光の満坊」の二つ名の通りの強い閃光を放った。
「……っ!」
 その眩しさに、さすがの義輝と佐那も一瞬ひるみ――。

 ……それだけである。

「閃光の満坊」の特技は、閃光を放って相手の目をくらませること。
 逆に言うと、実はできることはそれしかないのである。
 本来ならば、相手の目がくらんだ隙に亜急斗が倒す、という作戦だったのだが、先に亜急斗が倒れた今、その計画はもはや何の意味も持たない。
 仕方なく、断続的に……というか、やみくもに発光する満坊であったが、そんなものがいつまでも通用するはずもなく。
 結局、目が慣れてきた義輝によって、あっさりと三枚におろされることになったのであった。
「ギョッ!!」
 ……ちなみに、蜘蛛の咬み傷は特殊メイクとしても、この三枚におろされるシーンをどうやって撮ったのか、というのは気にしない方が幸せである。