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第十一章 史上最強の用心棒 一

「ここかっ!?」
 なつを先頭に、中庭へとたどり着いた正義の味方総勢五名。
 何の偶然か、いずれ劣らぬ美女ぞろいである。
 そんな彼女たちを待ちかまえていたのは、「史上最強の用心棒軍団」であった。

「オリュンポスの騎士……じゃなかった、『最強の用心棒』として、ここから先には行かせません!」
 一行の前に立ちふさがり、背の大剣を抜き放ったのはアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)
 洋風の大剣というのはどうなのか、という疑問も当初はあったようだが、実際はその程度全く問題にならないのはもはやご覧のとおりである。

「あたいはケチな小金で雇われた、あ、命知らずの用心棒! あ、夢宮未来と申す者〜!」
 歌舞伎か何かの影響を受けたのか、謎の名乗りを上げているのは夢宮 未来(ゆめみや・みらい)
「あたいのこの如意棒が、あ、今日も暴れたくてうずうずしているぜぇ〜!」
 名乗りに合わせて、どこからか柏木の音まで聞こえてくる始末である。

「ここで死に恥を晒すか、他で生き恥を晒すかどっちかにしてもらおう」
 ゆらり、と静かに立ち上がったのは綱。今回唯一の正統派である。
「先に言っておくが……手加減はできんのでな」
 その言葉に嘘偽りはなく……というか、セリフというより、「本気で手加減できませんので向かってくるなら覚悟して下さい」という意味なのが問題といえば問題であろう。

 とはいえ、一番の問題は、この三人ではなく。
 三人の後ろに控える鋼の巨体――コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)であった。
 もともとはラブ姫の護衛の「からくり武士ハーティオン」であったものが、星怪球 バグベアード(せいかいきゅう・ばぐべあーど)演じる邪悪な妖怪触手玉「バグベアード」に乗っ取られて「からくり用心棒ベアド・ハーティオン」となっている、という設定なのであるが……それっぽい単語をどうにか張り合わせていっても、要するにロボなのである。
「どうれ……今宵の【ハートビートキャノン】は血に飢えておるわ……」
 設定と見た目の時点で十二分にアレなのに、なぜよりにもよっていつもの勇心剣ではなくキャノンの方をメイン武器として使用するのか。
 剣ばかりだとアルテミスあたりとかぶる、という配慮だったのかもしれないが、もっと配慮すべき方向がなかったかは疑問の残るところであろう。

 ともあれ、そこに裕輝を加えて、これで用心棒側も総勢五名。
 五対五の激戦が、ついに幕を開けたのである。





「どれ、まずは挨拶代わりだ!」
 戦闘開始の合図とばかりに、いきなりハーティオンの【ハートビートキャノン】が火を噴く。
 しかし、それは正義の味方に命中することなく、前に立っていたアルテミスの背中に思いっきり命中した。
「きゃああぁっ!? な、何するんですかあぁっ!!」
 今回はいつもの誤爆担当がいないから大丈夫だと思った?
 残念! やっぱり今回も誤射されちゃうんでしたー!!
 ……となる辺り、まさにアルテミスの本領発揮である。そんな本領が必要かどうかは別として。
「……あれ、もしかして敵連携とれてない?」
「こんなもんだろ、用心棒なんて」
 きょとんとする八重に、なつが苦笑しながら答える。
「それじゃ、今のうちに片づけちゃいましょうか!」

「えい! やー! たあっ!!」
 まさに教科書通りの掛け声とともに、ぶんぶんと如意棒を振り回す未来。
 動きも大きくて迫力はあるのだが、いかんせんあまり当たりそうな気はしない。
 ところが、相対するルカルカがそれをわざと全部紙一重で避け、あるいは受け流しているため、傍目には非常に熱い好勝負に見えていた。
 ガチの戦闘であればそうもいかないが、これはあくまで演劇であり、ちゃんと相手を立てることによって自分も、そして劇全体も引き立つというものである。
 その辺りがしっかりと身についていたのは、まさに淵たちの指導の賜物であった。

「この、チョコマカとっ……!」
 セレンフィリティの銃撃を、裕輝がギリギリでかわす。
「ちゃんと当たりなさいよっ!」
「だが断る!」
 敵が少ないこともあり、派手に銃弾の雨を降らせるのではなく、正確に狙っての強烈な一撃を、というスタンスなのだが、いかんせん動きの予測が極めて難しい裕輝に当てるのはなかなか簡単なことではない。
「……むぅ」
 その横でにらみ合いを続けているのは綱とセレアナ。
「動」のセレンフィリティと裕輝に対して、こちらは「静」。
 多少なりと間合いの面で有利なセレアナと、隙あらば踏み込みたい綱の牽制合戦である。
「……あかんな」
 そんな様子を見て、不意に、裕輝が肩をすくめる。
「何? 降参する気にでもなった?」
 セレンフィリティのその言葉に、彼はにやりと不敵に笑い。
「そこの襖の裏、おんのやろ! であえ、であえーいっ!!」
 その叫び声に、裕輝以外の全員が驚きの表情を浮かべる。
 せっかく五対五で何となく見せ場っぽくなったかと思ったところに、よりにもよってザコのおかわりである。
「ちょっと、状況を考えなさいよ!」
 セレンフィリティのツッコミももっともなのだが、そんな話が通じる裕輝ではない。
「状況? 何が状況や。オレが状況を作るんや」
 お前はどこの皇帝なのかと。
「いや……そこの連中は、用心棒が負けた後の最後の悪あがき用にだな!」
 あまりの傍若無人っぷりに、様子を見にきた肝心の悪代官からもネタバレ気味なツッコミが飛ぶ始末である。
 だが、そんな掟破りのツッコミでも、裕輝はやはり止められない。
「悪あがき? 用心棒が負けたらどのみち九割九分終わりやろ?」
 身も蓋もないことをさらっと言うと、自信たっぷりにこう言ってのける。
「ならいつやるか? 今でしょ!」
 お前はどこの予備校講師なのかと。
 ともあれ、斬られ役の皆さんとしては、出てきてしまった以上は引っ込みがつかない。
「斬れ! 斬れ! 斬って捨てとけぇーい!!」
 裕輝のその号令で、なんだかよくわからないままに正義の味方に向かうのであった。