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フリマと少女の本

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第2章 フリマ開始

「わ、可愛い!」
 青空に、遠野 歌菜(とおの・かな)の浮かれた声が響く。
 雑貨屋「ウェザー」の中庭。
 今日は、看板娘サリーの提案でフリーマーケットが開かれていた。
「うん、このTシャツ、素敵。こっちのスカートもいいなぁ」
「いらっしゃい! オマケするから、ゆっくり見てってね」
 美羽の店に並んでいる服の数々。
 フリマを見て歩いていた歌菜のハートをがっちりキャッチしたらしい。
「どうかな羽純くん、似合うかな?」
「うーん、まずはサイズを確認してみたらどうだ?」
 はしゃぐ歌菜に苦笑しながら、月崎 羽純(つきざき・はすみ)は提案する。
「あ」
 その言葉に我に返った歌菜は、しみじみ、服とそれを売っている美羽を眺める。
 彼女の身長は、歌菜よりかなり低くて……
「うぅ……ごめんなさい。私にはちょっと小さいかも」
「あ、ちょっと待って!」
 がっくりと店を離れようとする歌菜に美羽が声をかけた。
「お詫びに、ってわけじゃないけど、これをプレゼント!」
「え、これって……」
 美羽に渡されたものをしげしげと見る歌菜。
 美羽特製の、マイクロミニスカート。
「これなら今サイズも確認したから、バッチリ! 是非着てみてね」
「は、恥ずかしいけど……ありがとう!」
 恥じらいながらもとても嬉しそうな歌菜に、羽純は隣で小さく苦笑する。
「こ、これもどうぞ!」
 コハクも二人に何かを手渡す。
「熱いから、気を付けて」
「わあ」
 揚げたてのドーナツだった。

   ◇◇◇

 フリマといえば、人と人との駆け引き。
「だから高いって言ってるんだ。こんな古い本、もっと安くて当然だろ」
「あーん、お客さん何言うてますのん。こいつは我が家に古くから伝わる由緒正しい書物やで。これでも安いくらいや」
「いや、古くから伝わるにしては怪しすぎる! 引き取ってやるからまけろと言ってるんだ」
「びた一文まかりませんなぁ〜」
 店頭で、佐野 和輝(さの・かずき)と瀬山 裕輝が丁々発止のやり取りを繰り広げていた。
「ボケ兄貴ー、もうまけちゃったらええやん。いい加減売り物さばかんと、またこれ持って帰るのいややでー」
「うっさいアホ、いらんこと言うやな!」
 後方で裕輝を追い詰める妹の慧奈。
「和輝……がんばってね!」
「まだまだ押しが弱いぞ。そのような事で私の代理が務まると思ったか」
 和輝に隠れるようにして彼を応援しているのは、アニス・パラス(あにす・ぱらす)禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)

 二人は、本目当てに和輝を誘ってフリマにやって来た。
 しかし極度の人見知りのアニスと非社交的な『ダンタリオンの書』。
 気になった本を見つけても、交渉は当然のように和輝の担当となる。
「和輝ー、この本、気になるの」
「ふむ。私はこちらの本を確認したい」
 二人が足を止めたのは、裕輝の店の前だった。
 やたら古そうに見える書物。
 それは単に裕輝の家の隅で埃を被っていたからだが、そんな事彼らは知る由もない。
「えぃらっしゃーい!」
「ひっ」
「むっ」
 餌がひっかかった! 逃がさへんで〜とばかりに飛び出してきた裕輝に、アニスと『ダンタリオンの書』は慌てて和輝の影に隠れる。
 こうして、和輝と裕輝のバトルが始まった。

「あ、あの、すみません」
「ん?」
「えぃらっしゃーい!」
 そんな二人の間に、ひとりの少女が割って入った。
 リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)
 彼女は本を見つけると夢中になってしまい、和輝と裕輝のやりとりにも気づかず思わず本の元に引き寄せられてしまったのだ。
「こちらの本、よろしければ少しだけ中身を見せていただけないでしょうか?」
「うーん、売りモンやし、どーしようかなあ……」
「はい、この本やね」
「あ、こら!」
 勿体ぶって考え込むフリをしようとする裕輝の横で、さっさと本を広げる慧奈。
「ありがとうございます!」
 そう言うと、夢中で本を覗き込むリース。
「なになに……『意中のあの子に気づいてもらう方法』ですか……」
 思わず内容を声に出して読み上げてしまう。
「えっと、付録のお札を持って呪文を唱えてみよう。そうすればあの子はきっと……真っ黒コゲ? ふむふむ……」
 リースは本に挟んであるお札に気づき、それを持って何事か唱え始める。
「あ……まずい! アニス、リオン、こっちに来るんだ!」
 リースの持っている札の正体に気付いた和輝がいち早く二人の手を引き物陰に隠れる。
 それを見た慧奈も急いで避難する。
「あ、おいねーちゃんちょっと待ちぃな……」
 裕輝の制止も空しく、本に夢中のリースは呪文を読み終えてしまう。

 どんがらがっしゃーん!

 リースの持っていた札は、稲妻の札だった。
 リースの詠唱で発動した稲妻は、情け容赦なく裕輝の店を黒コゲにする。
「うわぁああ、ボロ儲けしようと徹夜で集めた俺ん家のガラクタがー!」
「やっぱりそうか……天罰だ」
 頭を抱える裕輝に、和輝の冷たい声が降りかかった。