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 権兵衛を成仏させるために、色々と動き始めた契約者たち。
 いまは数人の者たちが浜辺に出て、ビーチバレーをやるために準備を進めていた。

「権兵衛さん、みんなの準備が終わるまで俺とコレで遊ばないか?」

 大岡永谷は、手にしたトランプを見せながら権兵衛にそういう。

「それは……花札のようなものですか?」
「トランプだね。もしかしてやったことないのか?」
「はい、そういうものに縁がなったもので……」
「そっか。まあでも、そんなに難しいものじゃないから、ちょっとやってみようぜ」
「そうですね。せっかくですから」

 権兵衛はそういうと、永谷と向かい合う形で席についた。

「なんじゃ、トランプをやるのか?」

 と、アリエティがそこへひょっこりと顔を覗かせる。

「ああ、アリエティも一緒にやろう」
「ふふふっ、いつもひとりトランプで鍛えておるワタシを誘うとは……後悔してもしらんぞ!」
(ひっ、ひとりトランプ……もしかして、アリエティって友達いないのか?)

 永谷はそう思いながら、苦笑いを浮かべる。
 と、永谷は誰かの視線を感じてふと視線を動かした。
 するとそこにはじっとこちらを見つめるアリス・ドロワーズの姿があった。

「君もやるかい?」
「――いいんデスカ?」
「もちろんだよ」

 パァと顔を明るくして、小さなアリスは自分の座っていた席から飛び降りると、永谷たちの元に向かう。
 そして契約者であるアキラ・セイルーンに向かって声をかけた。

「アキラも一緒にどうデスカ?」
「んーっ、俺はいいよ。このラーメン伸びちゃうからさ」

 アキラはそういうと、先ほどおばちゃんが運んできたラーメンをズルズルと啜った。

「それじゃあ、この4人でやろうか。ゲームはそうだな……簡単なババ抜きにしよう」

 永谷はそういうとトランプを切り、カードを配る。
 そして、配られたカードを皆はそれぞれ手に持った。
 と、何気なく権兵衛に視線を向けたアリエティは目を丸くする。

「ごっ、権兵衛のカードが宙に浮いておるのじゃ!?」
「いやー実は私、物に触れられないタイプの幽霊らしくて……ただ念力のようなものがあるんでしょうかね? こうやって物を浮かせたりするのは得意なんですよ」
「なっ、なるほど」

 アリエティはなんだかよくわからないが納得してうなずく。
 と、配られたカードに目を通した権兵衛が真面目な顔になって永谷を見つめる。

「あの、すいません」
「なんだ?」
「この死神の絵が描かれた札はなんなのでしょうか? もしかして、これを持っていると呪われるとか……」
「違う違う。それはジョーカーといって、ババ抜きというゲームではそのカードを最後まで持っていたら負けになる。だから、人にわからないようにしてそれを引かせるんだ」
「ほぅ、そうなのですか」
「権兵衛さん、そうやって見せてたら誰も引かなくなるぞ?」
「あっ、それもそうですね」

 権兵衛はそういうと、ジョーカーのカードをくるりとひっくり返す。
 そして念入りにシャッフルをした。

「それじゃあ、ペアになってる数字のカードを捨ててゲームスタートだ」

 永谷はそういうと、各自はカードを捨てていき、ババ抜きが始まった。
 4人は時計回りにカードを引いていき、手持ちのカードはドンドンと少なくなる。
 そして最終的に残ったのは権兵衛と永谷だった。

「ふふふっ、1番にあがってやったのじゃ。これもひとりトランプの成果じゃな!」

 アリエティはない胸を張って勝ち誇る。

「権兵衛さん、がんばってくださいネ」

 先にあがっていたアリスは、権兵衛を応援してニコリと微笑む。

「よし、引くぞ」

 と、永谷はそういって権兵衛のカードに手を伸ばす。

「こっ、これはなかなか緊張しますね」

 権兵衛の手持ちの札はジョーカーとスペードのエース。
 相手がスペードのエースを引けば、その時点で勝負が決まる。
 ドキドキとしている権兵衛は、相手の手が動く度に表情が変わっていく。
 その様子を観察していた永谷は、ジョーカーの札を見抜き、スペードのエースを引いた。

「よし、上がり!」
「……まっ、負けた」

 権兵衛はがっくりと肩を落とした。
 アリスとアリエティはそんな権兵衛に向かって、「大丈夫デス、次がありますヨ」とか「初めてにしてよくやった方じゃ」と励ます。
 そんなふたりの言葉を聞いて、権兵衛は嬉しそうに微笑んだ。

「戦いに負けても怒られないというのは、良いものですね」