校長室
学生たちの休日9
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★ ★ ★ 「買い出しっていうから、てっきり食料品か何かだと思ったあたしが馬鹿だったわ……」 「何言っとるんや。夏は地上では一大イベントの夏コミがあるんや! それ合わせで、おもろい同人マンガやパソゲーもよー出るはずやから、今のうちに要チェックで買いあさったる!」 きらびやかなアニメ絵の紙袋をいくつも両手に提げ持ちながら、上條 優夏(かみじょう・ゆうか)がフィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)に言い返した。袋の中には、公道で外に出すのもはばかれる薄い同人誌やカラープリンターで印刷されたジャケットのディスクなどがパンパンに詰まっている。 「よっしゃあ、次の店行くでー」 「まだ行くの?」 呆れつつも、つきあいのいいフィリーネ・カシオメイサであった。だいたい、引きこもりの上條優夏がこうやって外に出てきているのだから、一緒に行かない理由がない。拒否して、さらに引きこもりが酷くなったら大変である。 次に入ったショップは、コミックやゲームと共に、グッズが充実しているショップであった。 特に、ここパラミタでは魔法少女が実在するので、本物の変身グッズやらフェイクのアクセサリーやらいろいろと可愛い物が揃っている。もちろん、コスプレイヤー用の様々なドレスや着ぐるみも数え切れないほどの種類があった。当然、オーダーメイドも可能である。 「フィギアとかは予想していたけれど、まさか優夏がコスプレにまで目覚めていたとは……。真人間に更生する日は日は、まだまだ遠そうね」 深い溜め息をつかざるを得ないフィリーネ・カシオメイサだった。 「いや、俺のやないで。あー、そのー、なんやー。気に入ったブローチとかあったら、好きなの選んでええで。そのー、いつも世話になっとるし。感謝しとるさかい」 なんだか照れくさそうに目線を外しながら上條優夏が言った。 「えっ、あたしの?」 空耳じゃないのかと、フィリーネ・カシオメイサが聞き返した。 「ここのアクセサリーなら、魔法少女でも問題なく身につけられるやろ。いや、むしろ、魔法少女のためのグッズがここには眠ってるはずや。それこそ、フィーに似合うんとちゃうか?」 「あ、ありがとー。じゃあ、これっ!」 ちょっと舞いあがりつつ、フィリーネ・カシオメイサが胸に飾るタイプの大きなリボンのついたブローチを選んだ。 「よっしゃあ。兄ちゃん、これ一つ!」 すかさず上條優夏が店員を呼んで、プレゼント用に包装してもらう。 「ほんとにプレゼントなんだあ。大切にするわね♪」 可愛い包装とリボンをつけてもらい、フィリーネ・カシオメイサが喜んだ。 「今度は、あたしからデートに誘うから、一緒に外出するのよ」 「それは、引きこもりとしては……」 「するのよ!」 口籠もる上條優夏に念押しするフィリーネ・カシオメイサであった。 ★ ★ ★ 「おい、まだなのか?」 「もうちょっとだ。ほら、見えてきたぞ」 木々が生い茂った夜の道を上っていきながら、ちょっと文句を言う神代 聖夜(かみしろ・せいや)に神崎 優(かんざき・ゆう)が答えた。 「もう、聖夜ったら、こらえ性がないのですから……」 「まあまあ」 せっかく神崎優たちがダブルデートに誘ってくれたのにとつぶやく陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)を、神崎 零(かんざき・れい)がなだめる。 「ここだ、ここ、ここ。ここの展望台からの眺めが最高なんだ」 神崎優が言った。 木立が途切れ、いきなり視界が広がる。 展望台の上には、満天の星空が広がっていた。ツァンダはトワイライトベルトの西に位置しているので、ここから見える星々は地球から見える星々と同じだ。それが、パラミタのある高空から見ているわけで、六等星どころかほとんど満天に星々が見える。まさに星空という言葉がぴったりの光景であった。 「さあ、堪能しようぜ」 そう言うと、神崎優が展望台にあるベンチの一つに神崎零と共にむかった。残された神代聖夜と陰陽の書刹那が少し離れた場所にあるベンチにならんで座る。 「こうして零とゆっくり星を眺めるのも久々だな」 星空と神崎零の顔をいったりきたりしながら、神崎優が言った。 「そうだね。最近はいろいろあってバタバタしてたもんね。だから今日はいっぱい優に甘えちゃうよ」 神代聖夜たちの目が離れたので、神崎零が神崎優にもたれかかりながら甘い声を出した。 「それに、本当は、刹那と聖夜のことを思って二人を誘ったんだよね。お互いに気持ちを話し合ってわかりあえるように」 「零にはかなわないな。二人には幸せになってほしいし、お互いにもっと解りあってほしいと思ったから。けど、零と二人で星を見たいと思ったのは本当だぞ」 「うん、知ってるよ」 神崎零が、神崎優の耳許でささやいた。 はたしてどちらが口実であったのか、今となってはもう分からないし、どちらでもいいことなのかもしれない。 「とても綺麗な星空」 「ああ、そうだな」 陰陽の書刹那の言葉に、彼女の肩に手を回して神代聖夜が言う。 「こうやって刹那と恋人同士になれて、今はとても幸せだ。あのとき、優の手を取っていなかったら、こんな風に幸せな日々を過ごすことはなかっただろうな」 「私も聖夜と一緒にいられて、とても幸せな気持ちです」 陰陽の書刹那が、そっと頭を神代聖夜の肩にあずけた。その肩が、ちょっとぎこちない。 「けど、正直まだ不安があるんだ。俺は優みたいにはできないし、刹那が優のことを想っているのも知っている。だから、時々不安になるんだ。自分は刹那の恋人としてふさわしいのかどうか」 「確かに優を想う気持ちあります。でも、こんな私に誰かを好きになる気持ちと、好きな人と共に過ごす幸せを教えてくれたのは、優だけではありません。むしろ、聖夜、あなたに教えてもらったんです。だから、ずっと私のことを放さないでいてくださいね。だって、これも運命なの」 そう言うと、陰陽の書刹那が、少し身をのばして神代聖夜に口づけした。 「ああ。絶対に離さない」 やっと唇を離すと、神代聖夜が力強く言った。