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リアクション
「あ、もしかしてあれが地祇ってやつじゃない?」
クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)はひそひそ声でエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)に上空を見るように指をさす。地祇を見つけたのだ。
「ああ、青く光る、そして動く……。報告にあった通りだな。でかしたクマラ」
見つけたはいいが、かなり高い位置を飛んでいる。低いところまで降りてきてくれたら幸いだが、そんな好都合なことはないだろう。
今のところ、二人が見えている位置から見えている範囲をぐるぐると回っているようだ。
雨の降っていない今、なんとか注意を引かせて、捕獲なりなんなりできないものか。
《見つかったか……。それがなんだ》
こそこそとしているエースたちのことは気づいている。強い雨を降らせることにした。
「うわっ……降られたな」
思わず目に入りそうになる雨に、腕で隠すが土砂降りの雨にそんな動作は皆無だった。勢いの強い雨と雨雲で見えなくなってしまったが、クマラは天に向かって叫ぶ。
「ゲリラなのはライブだけでいいよーっ」
「地祇なりのライブだ、きっと。会話もできるかわからないし」
「そっか……。言葉が通じるかどうかってのも問題だよね」
傍に雨具や雨宿りの当てもないので、上着を一度脱いで頭を隠すように身をかがめた。けれど、数分と経たずすぐに雨はあがってしまう。
「降るならもうちょっと考えて……ん、声が変。オイラ背ぇ伸びた!」
お互いぎょっとするものの、噂されていた入れ替わりの注意を忘れていた。
「違うから! 危惧してた入れ替わりってやつだ! 油断してたな……」
変な気候になってしまっていると言えど、頻繁に降る雨の予測ができなかった。
「でも、エースの体になってみるっていうのも楽しいかも。オイラの愛らしい姿を見られるのもいいし」
「よくない。俺は心配だらけなんだけどな」
エース(クマラ)は面白がっているようだが、逆にクマラ(エース)は眉間に皺を寄せてしまう。
「おお、けわしい顔してるオイラの顔もなかなか」
調子に乗るエース(クマラ)を、クマラ(エース)はぺしっと叩いた。体を動かしてみて、特に痛みなどの症状がないことから対地祇作戦を再開することにする。
言葉は通じないかもしれないが、呼びかけることにした。
「地祇よ、何故異常な雨が降るのか教えてくれ!」
「お菓子! 教えてくれたら守り神さんにもお菓子あげるからーっ!」
エース(クマラ)が的はずれな事を口にしたせいか、またさっきと同じような雨が降る。入れ替わりで一番心配していたことは、エース(自分)の姿で子供らしい言動をされることだった。
「怒らせてるだけなんじゃないのか?」
「えー、お菓子美味しいのに。チョコとか落ち着かせる効果あるんでしょ?」
言葉は理解されているようだけれど、お菓子で釣れるものではないだろう。
「いっそクマラが神になってくれた方が、楽で済む気がするな」
**
内陸部とは反対の、海上空。
「ターゲット発見! コルセア、直ちに向かうでありますっ!」
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)の小型飛空艇オイレに乗って地祇を探していた。飛んでいるなら上空から探した方が賢明だろうと考えた吹雪は、一番乗りに地祇に近づいた。
「気を付けて! 多分、ワタシたち以外に誰も手出ししてないかも」
「ならば余計に好都合でありますよ、もっと接近!」
コルセアは吹雪の指示通りに、注意を払って飛空艇の操縦を続ける。
《小娘二人……、上等》
飛空艇をかわすように青い光も上空をすいすいと飛ぶ。まるで追っている鳥が捕まらない状況に似ている。
「何か聞こえたでありますな。近づいても逃げる逃げるで、進路もめちゃくちゃ! これ馬鹿にされている気が……」
「気が、じゃなくてまさにそれでしょ。どうするの」
「追いかける! そして交渉するであります!」
雨が降り始めた。けれど飛空艇に乗っている二人にとっては無意味。もし降りや風が強くならなければ、の話だ。
感覚が鋭いと遠くからでも気配を感じ取れるが、傍までくれば誰でも地祇から何か発信しているとわかる。
『守り神よ応答せよ! 危害を加えるつもりはない。聞こえているなら応答せよ! ……でいいのかな』
吹雪はわからないなりに、とりあえず通信でも使う拡声器を用いて地祇に話しかけた。
これだけ近づいて、拡声器も使ったのだから絶対に聞こえているはずだ。
《うるさい! 近づくな……》
雨の勢いが増し、飛空艇の高度が下がってきてしまった。神の力に加え、重力には逆らえない。
「……っ、頭が高いとかでも言いそうね」
くっと苦い表情を浮かべて、コルセアは操縦ハンドルを切る。
『応答拒否とみなす! コルセア、イレイザーキャノンとか撃つであります!』
《――――!》
「吹雪!? それはなんでも祟られるって……っ、仕方ない!」
「えっ、ええ、急降下――――っ!?」
コルセアはいくら応じない相手でも、さすがに攻撃を加えるのは不味いと判断した。
海面に向かって急降下した。水しぶきをあげ、沈んだかのように思えた。
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は吹雪たちの乗っている飛空艇が急降下して海に落ちていく一部始終を見てしまった。
「嘘……っ、地祇に落とされちゃったかも」
スレイプニルに乗っているダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)と通信を取った。ルカルカは地上近くを、空飛ぶ箒スパロウに乗って移動、すぐその上空をダリルがサポートとして誘導役をしている。
「今の見た? ダリルも十分注意してよね」
『もちろん。ルカこそ気を付けてくれよ』
「聞こえていたら返事して! あなたのこと聞かせて欲しいの。攻撃とかはしないから!」
ルカルカは身を乗り出し、青く光る地祇に向かって声を張り上げた。
雨が降っているが、この際誰も近くで濡れそうな人などいない、とおかまいなしだ。
《……油断させて俺を落とす気か?》
『危ない、身を乗り出すな! 一緒に乗った方がよかったんじゃないのか』
「大丈夫よ、ダリル! なんとか落ないでいられる。あのね、ちょっと話がしたいだけ。土地神にいろいろ聞きたいけど、さすがに落としたら怖いもの」
こちらの声が聞こえた、とわかったルカルカは落ち着いた声色で地祇に話しかけた。ダリルも、説得に協力する。
『さすがに、厄病神、とは呼ばれたくはないだろう? このまま異常気象を続ける気か?』
《くっ…………》
「ダリルナイス! 本当なら人を困らせたくはないものね。あなたもそうでしょ? けど、結果的に困ってる人もいるわけ。外授業が中止になってラッキーって思ってる子もいるけどね」
お願いだから、雨を降らせるのを止めてくれたら助かるんだけどな。
ルカルカは聞き入れてくれるのを願った。
《そんなことを言って、どうせ祠を荒らす奴らと同じだろ……。雨が降らなかったら困るくせに、何を》
『何日かに一度でいい。それと、普通のだ。わざわざ人の中身が入れ替わったり、ゲリラ豪雨が頻繁に、というのは』
「祠? 祠を荒らされたから怒っているのね。確かにそれは嫌だわ」
《……》
ルカルカたちの言葉が効いたのか、雨は徐々に上がっていった。雨雲も引いていき、青空が現れる。
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