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対決、狂気かるた!

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対決、狂気かるた!

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「3回戦、イルミンスールかるた会 ンガイ・ウッド(んがい・うっど)さん対おいぬさま会 忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)さん。前に出て下さい」

 前に出たンガイとポチの助の二人はまさに猫と犬。

「ご主人様見ていて下さい。この優秀なハイテク忍犬の僕が優勝してみせます!」

 観客にいるフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)に向かって視線を向けるポチの助。

「あのあのマスター! ”きょうき”かるた……武器持ち込みありなのでしょうか? それとも物凄く楽しいのでしょうか? 大変気になるのですが」

 耳と尻尾をピコピコさせているフレンディスはベルクに声をかける。

「そんな目をしてももう参加申し込みは終わってるぞ。フレイの代わりににポチが行ったんだ、精一杯応援するんだって言ってただろ?」
「そうですけど……それより”きょうき”は『凶器』と『驚喜』、どちらでしょう?」

 しゅーんと耳を垂らしフレンディスは、真剣に『凶器』と『驚喜』のどちらだろうと頭を悩ませる。

「あのエロ吸血鬼め……今に見てろよ」

 札の位置を覚える時間内でベルクに怨み事を言いながら記憶術で位置を覚えていくポチの助。
 それでもベルクに乗せられて参加する事になったことに怒りが収まらない為、セルフモニタリングで精神統一を図り集中する。

「ふふ……この日の為に我の肉球の手入れを怠らなかったのだ」

 自分の肉球をにぎにぎを開いたり閉じたりして感触を確かめるンガイ。
 お互い万全の状態で試合は始まった。

「……きがつけば あなたのうしろに はいよるこん」

―――パパッシン

 良雄の上の句『気が付けば 貴方の後ろに 這い寄る混沌』の下の句の札は若干早くポチの助が早く下に入る。
 上になったンガイは下にあるポチの助の手の甲に自慢のぷにぷに肉球を押し付ける。

「どうよ。この柔らかさにしっとりと肌に触れながらもさらさらしている肉球を。メロメロだろう?」

 ポチの助にふふんとどや顔をするンガイ。

「? 早く手を退けてくれません? 札が取れません」
「!? なんと……我のすばらしき肉球に心奪われぬのか」
「肉球なんて僕にもありますよ。ほら」

 押しつける力が弱まったのを見て、ポチの助はンガイに自分の肉球をそっと押して見せる。

「!!!? ……ま、負けた」

 がっくりとうなだれるンガイ。
 それはそれは札の狂気を超える程の衝撃を持って。

―――ぴぃぃぃぃ

 どこからかフルートの音色が聴こえて来たように感じるンガイ。

「なぜこのような場所でフルートの音色など」

 ンガイははっとして辺りを見回すとそこは森の中だった。
 今まで座っていた試合会場であったハズの場所は森となり、ンガイは土の上に正座していた。

―――ぴぃぃぃぃ

 またあの時と同じフルートの音色が聴こえてくる。

「あちらの方だな」

 奥へ進んで行くと、そこには触椀、鉤爪、手が自在に伸縮する無定形の肉の塊と、咆哮する顔のない円錐形の頭部をもつモノがいた。

「なぜだ? あのような存在に親近感などを感じる……」

 引き寄せられるようにンガイはそちらへ足を進めていく。
 進んで行くが、一向に近づく事はない。

「おい。そなたも離れずに我の元へ来ないか。呼んだのはそなただろうが」



◇          ◇          ◇




 円錐形の頭部をもつモノへ手を伸ばしているンガイだが、実際には何もない場所へ手を伸ばしていた。
 反対側では発狂判定でまさかの12を叩きだしたポチの助が眼をぐるぐる回している。

「ふふふー……僕は最強のハイテク忍犬なのですよー?」

 獣人化すると、ポチの助は機晶爆弾手に持って破壊しようと彷徨き出す。
 機晶爆弾手で辺りを爆破していくポチの助に、なおも何も無い場所へ手を伸ばしていくンガイ。

「あ! 驚喜かるた大会でしたか」
「(フレイが戦闘モードで暴れ無くて良かった……)フレイにはどう見えてるんだよ、この現状が」
「あれ。そういえばンガイさんのパートナーである東雲さんが見当たりませんが、今日は来ていないのでしょうか?」
「あの東雲だ。おそらく会場に入る前にダウンしてるんだろうよ」
「東雲さん、大丈夫なんでしょうか」
「平気だろ。救護班がなんとかしてるさ」

 フレンディスとベルクにそう言われている当の五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)は、ベルクの言う通り会場に入る前から漂う狂気に当てられ立っていられなくなっていた。
 そのまま前に倒れていく東雲。
 地面につく寸前。外で会場の中を見守っていた斎賀 昌毅(さいが・まさき)の手によって助けられた。

「おい、大丈夫か?」
「は、はい……すみません」
「いきなり倒れるとビビるじゃなぇか」
「すみません。……かるた大会の会場に近付いたら、立っていられなくなりました」
「だったら中に入るのはやめとけ」

 昌毅はそばにあった樹の陰に東雲を寄りかからせる。

「ほら、これでも飲んどけ」
「ありがとうございます」

 手渡されたペットボトルに弱弱しく微笑んで礼を言う東雲に、昌毅はどことなく照れを感じてしまう。

「勘違いするなよ、俺は俺のしたいようにしてるだけだ」

 それだけ言うと昌毅は去って行った。