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リアクション
★第ニ章2「ロック鳥の事情」★
「リリもとにかく攻撃してみるのだ。あれだけの図体と今までの戦いを見ても死にはしないだろうし」
リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)はそう言って、パートナーを振り返る。しかしララ・サーズデイ(らら・さーずでい)はロック鳥を見てはいなかった。
「あの腰つきを見給え、十年に一度の別嬪さんだよ!」
視線の先にいるのは……ユニコーン! そのフォルム、毛並み。遠くを見つめる美しい瞳に、力強く地を蹴る脚。素晴らしい。素晴らしすぎる。
ララは馬が大好きなのだ。
しかしそんなユニコーンの周囲には巨大で凶暴な魔獣や暴走している動物たちが大勢いる。ララの次にとる行動は決まっていた。
「今助けるからね!」
そうしてララはユニコーンの救助へとペガサスにまたがっていってしまったのだった。
仕方ないのでリリはロック鳥を鎮めるために意識を高めていた。光る箒の上に立ち、召喚獣【フェニックス】を呼ぼうとしていた。
鳥には鳥を、ということらしい。
「黒薔薇の魔導師リリ・スノーウォーカーの名に於いて命じる。
嵐を纏いて来たれ、フェニ……おわわっ!」
強く強く風が吹く。それは自然発生したものではなく、ロック鳥が起こした物だったり戦闘で起きてしまったものが引き起こした強い風。それによって宙を舞い、美味い具合にリリの目を覆ったものがあった。
ピンク色のヒラヒラした――どこかで見たかとのあるリボンである。
目元を覆われたせいでバランスを崩し、リリは落下する。直前でなんとか受け身をとったのと逆噴射のおかげで無事だったが、リボンは再び吹いた強い風でどこかへと飛んでいってしまった。
「うう、酷い目にあったのだよ」
「リリ! 大丈夫かっ!」
「今、こっちにリボンが」
ユニコーンを無事になだめたララが、パートナーを心配して駆け寄って来る。後ろにはメルメルもいて、先ほどのリボンを見ていたらしい。同じく心配そうにリリを見ている。
リリは少し痛そうだが、大きなけがはなさそうで2人は安どする。
「リボンとはなんなのだ?」
「ああ、それなんだが」
◆
「いい天気ですねぇ」
心地よさそうに背伸びをしているのは日向 茜(ひなた・あかね)だ。今日は傭兵稼業で、ということではなくプライベートな時間をヴァイシャリーで過ごしていた。口調や服装がどこか違うのはそのためだろう。今の茜は誰が見ても普通の女の子だった。
そんな茜が異変に気付いて顔をそちらへ向けると、遠くに土煙が見える。さらにはそこで戦っているらしい人影も。
今の茜は装備も外して完全プライベート。避難するしかないか、と踵を返した時
「ん、なんですかあれ……リボン?」
ふわふわふわ、と空を漂うピンク色のリボン。手を伸ばしてソレをキャッチする。
「可愛いリボンですね」
楽しげに笑う茜だが、ごごごという足音が聞こえて我に返る。今はとにかく安全な場所に避難するべきだろう。
思ってヴァイシャリーの街中へと戻った茜。避難して少し時間のたった後、彼女の前にシャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)とユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)がやってきた。
「ねえ、君。ピンク色の可愛いリボン見なかった?」
2人はメルヴィア大尉のリボンを探してあちこちを歩き回っていたのである。
「メルメ……お嬢さーん! シャウラ、参上。何があったんすか。何でも言って下さい。……え、リボン? 任せてください。絶対見つけてきますから」
メルメルと呼びかけてお嬢さんに呼び直したシャウラがそう軽く請け負ったのが始まり。しかしユーシスも反対ではないようで
「大尉は『あのリボン』が大切なんじゃないかな。大切にしてる物って、思い出や思い入れがあったりで、代わりになる物なんてないんだぜ」
丁度、俺にメルメルの代わりが居ないようにさ。というシャウラの言葉に納得したため。しかしそれでも動物好きなユーシスはそちらも気になるのでルースへと電話をかけた。
「ルースですか? 実は今動物たちが暴走してまして、メルヴィア大尉がなだめようと……はい。メルヴィア大尉ですよ。助けてあげてくれませんか?」
『メルヴィアが困ってるとあれば、いかないわけにはいきませんね』
「ではお任せしましたよ」
とりあえず信頼できる人物に任せて、リボン捜索をしていたわけだ。
先ほどまでは箒に乗って別々に捜索していたが、どうも町の近くで飛んでいたのを見た人がいたため、ここまでやってきたのである。
「リボンってこれですか?」
「そう、それそれ!」
シャウラの顔が輝く。そして事情を説明する。リボンの持ち主が見つかった茜もホッとする。
「それはよかったです。可愛いリボンですし、どんな方がつけてるのか気になりますけど」
「あ、じゃあ君もいく?」
「そうですね。そろそろあちらも落ち着いているでしょうし」
3人はそのままメルメルの元へと向かうことになった。
◆
そしてこちらは再びロック鳥の現場。あちこち傷ついてもまだヴァイシャリーへと向かおうとするロック鳥。時間が経てば経つほど焦りのようなものが見える。
「ふっ。このあたしの作戦でロック鳥を追い返してやるわよー♪」
暴れるロック鳥を見て気合いを入れているのはラブ・リトル(らぶ・りとる)であった。小さな拳を天へと突き上げ、やる気満々だ。
「しかし動物達を追ってここまで来た理由も判らん上、あの巨体で暴れられてはなかなか追い返すことも出来ん。ここはひとまず、落着かせてから誘導といきたいところだが……何か良い作戦でもあるのか?」
コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が不思議そうに首をかしげた。そんなハーティオンに、ラブは自分をロック鳥の傍へ連れて行くように指示する。
「策があるのか……わかった、ならば協力しよう。【フレイムブースター】!」
ハーティオンは疑うそぶりをみせず、ラブを守るため、ロック鳥の気を引くために行動を開始する。
「ふ、力技でロック鳥をどうこうしようなんてスマートじゃないわね、あんた達。
しかし、この皆のアイドルラブちゃんが来たからにはもう安心よ♪」
ちなみにアイドルの後ろには(自称)がつく。なんていうと、怒られそうだ。
ラブはハーティオンや他の仲間たちが注意を引きつけている間にマイクを手に持った。彼女の作戦とは『ロック鳥、あたしの歌に感動して号泣しながら帰っちゃうわよ大作戦』であった。
まずは恐れを抱かせる歌だ。
「くぁあっ」
だが余計に暴れ出してしまった。あ、あれ?
「むー……じゃ、【人魚の唄】よ!」
人間の男に恋をした人魚の唄、として伝えられているものだ。きっとこのロック鳥は追いかけてきた動物、魔獣達の中に好きな奴がいていても立ってもいられなくなって追いかけてきたんだ!
そんな憶測を付けて歌い出したラブだが、これが効果てきめんだった。
「ふふんっどうよ」
まあ好きな奴がいるかは定かではないが――心を多少落ち着かせることに成功した。
◆
動物たちの後方へ回っていた樹は、狙撃でロック鳥を落とそうとしたがあえなく避けられる。
「あの図体であの素早さか。仕方ない。後ろは後ろに任せるとして」
「まずはこっちだよね。どうする、お袋?」
緒方 太壱(おがた・たいち)の問いかけに、樹は少し悩んだ後
「後方の特に大きな生き物から対処していくぞ」
「大きな……象とか」
「なだめてやるぜ! で、その後はおっぱーい!」
「また胸ですか、胸が全てなんですかっ! うぎぎぎぎぎ……いえ。怒っていても非生産的です。動物たちをなだめることにしましょう」
奇声をあげているのは、ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)。しかし全員の意識は動物たちへと向けられる。
と、その時何かが飛んでくる。
ニャンルーの山田だ。なぜ飛んできたのかは不明だが、それはたしかに山田だった。
「あにゃあああああ!」
「えっと……あれは」
そんな山田に気づいたジーナ。もちろんちゃんと受けとめようと……え? どうしてクレセントアックスを構えてるんですか?
「逆転満塁ホームランっ! ……良く飛びやがりましたです」
「うにゃあああああああぁぁぁぁぁっ」
声が遠くなっていく……山田、強く生きろ。
とにかくその間もきっちりと太壱は動物をなだめていく。
「あんなキレーなお姉様が困ってるんだもんな、役に立たないと……俺としてはもーちょっと胸がちっこいと嬉しかったんだけどなぁ」
太壱の好みが判明した。
「きりがないな」
樹が呟いたその時、背後からラブの唄声を聞いたジーナ。ここは一気に子守唄でも歌おうと口を開く。
「うぇっ……ジナママそれマズイっスよ、危険っス」
太壱がいち早くとある可能性に気づいて青ざめた。だが時すでに遅し。
「ジーナ、歌うというのは名案だな。私も丁度【驚きの歌】を覚えていてな」
樹が歌う気満々になっていた。ジーナも太壱もこれはまずいと思い、耳をふさいで大声を出す。
「マモパパ! 耳栓、耳塞ぎ、お袋が歌うって!」
「え、樹様も、歌うんですか……バカマモ、耳塞ぎやがれでございますです!」
「んあ? いっちーが歌う? マヂ」
マヂで? と衛が言い終わる前にそれは始まっていた。ぱたりぱたりと倒れていく動物たち。そして衛は耳をふさぐのに遅れてしまい、直撃を受けて頭をシェイクされる心地を味わった。
気分を害した衛はメルメルのおっぱいどころではなくなってしまったが、おおくの動物たちを無効化することに成功? したのだった。
結果オーライ?
「うっ気持ち悪」
「押さえていたのにガンガンする」
味方に大ダメージな気はするが、気のせいということにしよう。
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