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【メルメルがんばる!】ヴァイシャリーに迫る危機!?

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【メルメルがんばる!】ヴァイシャリーに迫る危機!?

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★第ニ章3「ロック鳥の事情」★


 みながみな、傷つきながら必死にロック鳥を押さえている頃。ヒラニプラ山脈に彼はいた。
「あんなデタラメなサイズの猛禽類を相手にするより雛の泣き声で親鳥で戻せるかもしれないし」
 ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)である。彼の目的はロック鳥の雛を手に入れること。雛の鳴き声で親が戻るかもしれないし、戻らなくても雛が手に入る。どちらに転んでも彼にとっては都合がいい。
『今のところ、ロック鳥は相変わらずヴァイシャリーを目指し続けてるよ』
 精神感応でそう連絡してくるのはジル・ドナヒュー(じる・どなひゅー)。ロック鳥の近くでその動きを事細かに知らせてくる。
(今後、天敵がいないロック鳥がここを狩り場にするかもしれないし、天敵がいると知らしめるのは大事かもしれない)
 別段2人とも今回の件がどう転ぼうと気にしないが、ロック鳥の生態には興味がある。またジルに至っては山の上からの絶景でブルタが少しは真人間になってくれないだろうかと、密かに願っていたりもする。
 ブルタはあらかじめ雇っていたガイドの注意を聞きながら、従者とともに登っていく。契約者といえど山登りには様々な危険がつきもの。準備は万全にして望んでいた。
「それに虎穴に入らずんば、虎子を得ずだよ。むふふ」
 無事に雛が手に入れば売りたい……ところだがメルヴィア大尉にプレゼントするのもいいかもしれない。そんな妄想をしつつ、ブルタは順調に登っていく。
 景色はとても素晴らしいが、あまり目に入ってはいなさそうだ。
「あ、あそこらへんにロック鳥の素があるはずでさぁ。おっオラはここで待ってるだ」
 ガイドが震える指でさした方角は影になっていてよく見えない。ブルタは足元に気をつけつつ、慎重に進んでいく。
『ロック鳥はまだそっちに行く様子はないよ』
 ジルの言葉にある程度の安心を感じつつも、もしかしたら別のロック鳥がいるかもしれないので警戒は怠らない。
「……これは」
 ブルタが驚く。そこには――!



「子育て、ですか?」
『はい。今の季節、巣で雛を育てているようです。なのでもしかしたら』
 電話から聞こえてくる白竜の険しい声に、リースの目も真剣身を帯びる。
「分かりました。確認してみます」
『お願いします』
 ようやくヒラニプラ山脈についたリースは、箒から降りて石の隙間から生えている草に心の中で話しかける。
『何かいつもと変わったことはありませんでしたか? たとえば、大きな荷物を持った人が通ったり』
 草は少し間を開けてから、リースの言葉に応じる。先ほど数人が登っていったこと。それより前に降りていった者たちがいること。
「先ほど……いつごろかが問題ですね」
 さすがに何時間何十分前、などということを知っているわけもなく、礼を言ってからリースは考え込んだ。
 その時、山脈を降りて来る人影があった。ブルタたちだ。
「あ、あの! すみません。少しお聞きしたいのですが」
 リースは勇気を出してブルタに話しかけ、ロック鳥の雛を見なかったかと問いかけた。ブルタは
「雛はどこにもいなかったよ」
 そう首を横に振った。



「なるほどね。いるはずの雛がいないっと。分かったぜ。姫さんに伝える」
「リースちゃんから?」
 ナディムの元に入ってきたリースからの情報に、セリーナが悲しげな顔をした。そして動物たちになぎ倒された植物たちに触れ、会話していく。ナディムはそっと、その様子を見守る。
「……ええ。大きな物を抱えた人たち……そう。うん、ありがとうぉ」
「どうだって?」
 話し終えたセリーナにナディムが問いかける。
「動物たちが通る少し前。ここを真っすぐ……大きな荷物を抱えた人たちが通っていったって。中からは鳴き声のようなものも聞こえたみたい」
 指示した方角はヴァイシャリー。
「ビンゴ、か」
 ナディムはそれを、すぐさまなななへと伝えた。



『――だからね。密漁者を見つけて欲しいんだ』
「腑に落ちないとは思っていたが、密猟とはな。分かった。こちらは任せてくれ」
 なななからの情報を受け取った夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が顔をしかめた。人為的ではないかと疑って動いていたとはいえ、あまり心地の良い報せではない。パートナーたちを振り返る。
「聞こえてたな? 一刻も早く捕まえるぞ。絶対に逃がさん」
「む〜、パラミタエレファントに乗ってみたかったですけど……仕方ないですね。ほんとに悪い事している人達がいるなら捕まえないといけませんしね」
「……見える範囲に怪しい人影はありませんが、今までの情報から位置を割り出します」
 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)の声に甚五郎は頷き、「オリバー」ともう1人のパートナーを呼ぶ。
「ああ、分かってる。ここら辺は他の動物の匂いが強くてわからねぇが、近付けば分かるはずだ」
 オリバーも真剣に頷く。
「飛空艇はあまり好きじゃないが四の五の言ってられん。行くぞ!」
「こちらです」
 ブリジットが先頭となり、予測地点へと向かう。オリバーは獣化したままフライングボードに乗り、周囲へ気を配る。
 4人はそのまま湖を少し超えたあたりで、オリバーが「こっちだ」と何かを察知した。さらにしばらく進むと、不審な影を発見する。大きな荷物に悲鳴のような声。後ろを振り返った人影が「げっ」と顔をしかめた。
 風が荷物にかけられた布を取り払う。中にいたのは――大きな鳥の雛。あらかじめ教えられていたロック鳥の雛の写真と同じだ。
「おぬしらが密漁者か! 覚悟しろ!」
「くそっ! あと少しなのに、諦められるか!」
 密漁者たちがやけくそ気味に襲いかかって来るが、甚五郎たちの敵ではなく……雛を無事に保護したのだった。

 雛をロック鳥の元へ連れていくと、ロック鳥と雛は再会を喜ぶように鳴き声を上げ、親鳥は雛を自らの身体に乗せて空へと舞い上がった。
 契約者たちの頭上を優雅に何度か旋回し、まるで礼を言うかのように一鳴きしてから、ロック鳥はヒラニプラ山脈へと帰っていったのだった。