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リアクション
その頃……。
「こっちよ、急いで!」
獣人のリーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)は森の中を道案内していた。
彼女は、ハイナ本陣の後ろ側にも森が続いているのに気付いて、ずっと探索していたのだ。
エクスも睡蓮もハイナを守るために必死で戦っている。敵は精強で大軍。このままだとかなり危ないだろう。少しでも役に立てれば……。
「勝ったら、ハイナのパンツ欲しいな……」
250人ずつを四つに分け行軍速度の優れた四列縦隊で一路敵の死角へと急ぐのは、イベントイラスト保有者として『鉄砲隊』を引き連れてきていた国頭 武尊(くにがみ・たける)だ。
彼は、リーズに案内されながら森の中を進んでいた。
本来なら、彼らは戦いが始るなりシャンバラ軍の本陣の有る西の山から四列縦隊で出撃し、真っ先にこの南の森にやってくるはずであった。
誤算だったのは、武尊が当初の作戦計画として陣取るはずだった森の外縁が、すでに【シェーンハウゼン】の軍団によって占拠されていたことだ。あの鶴翼の陣の左翼は、森の外縁すれすれくらいまで広く展開されている。のこのこ出かけていったら、すぐ見つかって痛いことになるのは目に見えていた。それならば、と森の中の様子を探りにくれば、敵さんは丁寧にも軍団の一部の兵を割いて森の中にまで布陣している念の入りようだった。
結局有効的な地点を見つけれずに、一旦本陣へと戻っていたのだが、最後の最も危険な場面で出番が来たらしい。
「砦の防備がない、森の奥からの狙撃って……。下手したら死ぬなこれ……森に火をつけられたら終わりだろ……」
「だから、最期にパンツとか言ってるの? サイテーじゃない」
「緊張感をほぐすためだ。何ていうのかな……戦争ってある意味どこか頭の線が切れるとかハイにならないと出来ないよな。特にこういう極限での戦いはな」
「大丈夫よ。そのために私がついてるんだから。森は獣人のテリトリーだって教えてあげるわ。あなたたちのことも、守ってあげる」
リースは微笑む。
「敵は自分たちが狩る側だと思ってるでしょうけど、そこを逆手に取らせてもらうわ。よろしくね、鉄砲隊さんたち」
「……もしさ、森に火をつけたら怒るよな?」
「当たり前でしょう。だから、敵にそんな真似はさせられないわ」
すでに先の戦いでは森が燃やされる事件が多発していた。リーズはそれを見て憤慨していたところだ。
「聞いたか又吉。計画は中止だ。その辺でのんびりとくつろいでいてくれ」
「……扱い、ひどすぎるだろう。リストラ社員の気分だぜ」
武尊のパートナーの猫井 又吉(ねこい・またきち)は、ぶつぶつ文句を言ってくる。森を盛大に放火し、敵を動揺させようと準備していたのだが、その手も使えないと来た。捨て駒臭の漂う奇襲部隊だった。
「ああ……。じゃあ、始めるか」
ハイナの本陣の裏側から攻めてきていた【シェーンハウゼン】の部隊が、木々の陰から遠目に見える。今回も用心してこちらに兵を回してきたらしい。こちらにやってくるのが見えた。本当にソツのない連中だ、と武尊は舌を巻く。
鉄砲隊の隊列を正面火力に優れる横隊に素早く変え、優位な場所を陣取った。
「目当てつけろ。二列目は火蓋切れ」
ザッ! と横四列の部隊が構えを取り、通り過ぎようとする敵軍に狙いを定めた。
「撃て」
武尊の声が響く。
ダダダダダダダダダ! と鉄砲が一斉に火を噴いた。
木々の隙間からでも、敵に命中したらしい。かなり驚いている様子がわかった。
「次、前へ」
短く指示して、隊列を交代させる。まあ、言うまでもなく、信長の三段鉄砲隊と同じような構成だ。
「撃て」
もう一度一斉射撃を行う。
武尊と鉄砲隊は淡々と攻撃を続ける。
「これの繰り返しで本陣の負担は少しは減らせるだろ。後はまぁ、味方の頑張りに期待なんだが……、それがいたら苦労しねえよな……」
武尊は、すごい勢いで迫ってくる敵の部隊を見つけた。
「そこまでにしていただきましょうかな」
【シェーンハウゼン】第二十二軍団所属の支援要員、藤原 時平(ふじわらの・ときひら)が、イコンマリア・テレジアを装備して、鉄砲隊の攻撃を阻止しにやってきたのだ。
「この期に及んで悪あがきとはみっともないでおじゃる。今回は一切の容赦はないゆえ、覚悟されよ」
時平の背後から、他のイコン部隊もやってくる。総勢十名。
「死んだな、これは……。なんのイジメなんだよ、おい」
工作要員を外された又吉が迎え撃つことになる。どれだけもつだろうか……。さっそく、連れてきていた【超人猿】をありったけけしかけてやる。
「ほっほっほ……、こんなもので麿が騙されるとおじゃるか?」
時平は、【超人猿】を振り切って攻撃を仕掛けてきた。
「私にも任せておいて」
リーズは【獣寄せの口笛】で助っ人を呼び寄せながら、武尊と部隊を安全な地点へといざなう。当然、イコン部隊は追ってきた。
「ずっと森の中にいたら帰れなくなったの。ちょうどよかったから手伝うわ」
あれから森の中をさ迷っていたらしい鳴神 裁(なるかみ・さい)の部隊が合流してきた。ようやく人と会えて嬉しそうだった。さっそくエコ攻撃を仕掛ける。
リーズも森の獣がやってきたので一緒に戦い始めた。
「恐らく世界初、森林機動鉄砲隊だ……兆弾に気をつけろよ、お前ら」
武尊は【イレイサーキャノン】を使い自分自身もイコン部隊と戦いながら巧みに鉄砲隊の布陣と位置を変えて行く。【ホークアイ】や【ナノサイト】で索敵しつつ追って来るイコン部隊や他部隊に向けて一斉射撃続ける。それでも、かわしきれない部隊が少しずつ削られていった。
「これ……、やっぱり本陣で壁を利用しながらの射撃のほうが効率よかったかもな、かっこいいし。まあ、誰に知られることもなく戦場で散るのもまたよしか……」
武尊たちの戦いはゲーム終了まで続くのであった。
○
「……すいません、とうとう手持ちの兵士がいなくなりました」
本陣の防衛で粘り強く戦っていた舞花がハイナの元に駆け寄ってくる。ありとあらゆる手を使って対抗していたのだが、一人また一人……と兵士たちが減っていき、自分と【特戦隊】たちしか残らなかったのだ。作戦行動にミスはなかった。ただ信長軍の数が多すぎただけだ。
今や、土木作業要員の笠置生駒とジョージ・ピテクスまで戦っている有様だ。
「討ちもらした敵が突入してきます。気をつけてください!」
舞花の言葉が終わると同時に、レノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)とアルビダ・シルフィング(あるびだ・しるふぃんぐ)が、幔幕を切り裂いてハイナの本陣に突っ込んできた。
「欧州筆頭【ドイツ騎士団総長】マクシミリアン・フォン・エスターライヒ、推して参る!」
「会いたかったぜ、ハイナ・ウィルソン! あたしは、北欧無双【海賊女王】アルビダ! 海賊の流儀ってヤツ、教えてやるぜ!」
アルビダが斧を手にハイナに襲い掛かる。
「よくぞ来たでありんすよ。その武勇に免じて、わっちが直々に手合わせをするでありんす!」
ハイナは刀を抜くと、味方の制止を振り切り前に出た。
ガッ! と振り下ろされるアルビダの斧を、ハイナは刀で受け止める。
「良い太刀(?)筋でありんす! かような戦いを待っておったでありんすよ」
ギリギリと軋む刀の感触を楽しむようにハイナは口元に笑みを浮かべた。躍動感溢れる体さばきで身を翻すと、返す刀でアルビダに斬りかかる。
「……うおっ!?」
アルビダは声を上げながらかろうじて切っ先をかわした。これは強い。刀身が目で追えないほどの速さだ。
「まだまだぁ!」
攻めは防御といわんばかりにアルビダは攻撃を繰り出す。
「見事でありんすよ。褒めてとらす」
ハイナは、アルビダが斧で斬りかかってきた三度全ての攻撃を刀身で受け流し、必殺の間合いまで踏み込んだ。
「しまっ……!」
「これで終わりでありんす」
ハイナの刀が一閃する。振り上げた刀身が、ズバァ! とアルビダを上から下まで斬り裂いていた。
「ぐはぁ……」
致命傷だった。もう助からない……。一目でそう悟ったアルビダは最期に嬉しそうに笑う。
「満足だ……。あたしの最期の相手が、ハイナでよかったぜ……」
そう言うと、アルビダはゆっくりと倒れた。
一方、マクシミリアン・フォン・エスターライヒも、ハイナの取り巻きのルカルカたちに倒されてしまっていた。強力なメンバーが集まっている中、乗り込んできただけでも度胸は評価されよう。
「いい加減にしなさい。危なすぎよ」
「だって、戦いたかったんだもの……」
とハイナは小さな女の子みたいに笑う。
「もうこれ、あとは自分の生身で戦うしかないですね……」
舞花は言う。その口調がなぜか楽しげだったのは、きっとバグのせいだろう……。
そんな彼女らを、【シェーンハウゼン】がぐるりと取り囲んでいた……。
▼ レノア・レヴィスペンサー、戦死。
▼ アルビダ・シルフィング、戦死。