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シャンバラの宅配ピザ事情

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シャンバラの宅配ピザ事情

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◆ お待たせしました! ◆

 コンコン
「あ、きたかな?」
 扉をノックする音に気づき、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は椅子から立ち上がった。ここは蒼空学園生徒会室。仕事が溜まって部屋から出られなかった美羽は、昼食にとピザを注文していたのである。ガラガラとドアを開けた先では、後輩の香菜がピザを手に立っていた。
「ご注文をお届けにあがりました、美羽先輩。スペシャルピザ、サラダ、フライドポテト、ナゲット、コーラ……で間違いないですね?」
「うん、間違いないよ。やっぱりピザにはコーラだよね〜♪」
喜んで受け取る美羽。実は彼女、シャンバラピザの常連客である。
「香菜はバイト慣れてきた?」
「ええ、最初は戸惑う事も多かったけど、今は他のアルバイトの人たちと協力できるようになってきて……楽しいわ」
 香菜はそう言ってはにかむ。そんな彼女の頭に美羽は背伸びして手を伸ばした。
「そっか、香菜は真面目で責任感が強いから何でも一人で抱え込んでないか心配だったけど、これなら私も安心だね! 偉い偉い!」
「ちょ、ちょっと美羽先輩っ! 生徒会の方々も見てるんですから、やめてください! そ、そうだお代を貰っていませんよ!」
顔を真っ赤にする香菜の様子を満足げに眺め、美羽はお金を手渡した。
「香菜、バイト頑張ってね!」
「はいっ! ありがとうございました!」

 *  *  *

 イルミンスール大図書館。巨大な迷宮の片隅に腰を下ろした一行の姿があった。
「そろそろ電話して30分経ちますね。やっぱり少しでも目立つ場所に移動すれば良かったかな? でも、そもそもボクたち遭難中だし……」
 そう言って携帯に視線を落とすのは非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)。大図書館の奥へ仲間と共に資料を探しに来たのだが、もう道に迷って半日ほどになる。もちろん誰も弁当を用意している筈も無く、以前見かけたチラシのことを思いだしてザンスカール店へピザを注文したのだった。
「もぅ、いつまで待たせるんですの? お腹が空きましたわ!」
「きっと、もうすぐ来るのでございますよ。もう少しの辛抱でございます。あぁ、でも確かにお腹は空きましたね……」
 傍らでそんな遣り取りをしているのはユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)。こんな言葉を口にしているものの、誰よりもピザを心待ちにしているのはユーリカである。注文してからワクワク、ソワソワと落ち着かない様子なのだ。
「……む、何か来るぞ」
 周囲を警戒していたイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が、そう言って剣の柄に手をかける。近遠たちを守る前衛は彼女の役割である。彼女も空腹なのだが、その役割を忘れてはいない。
「なんだろう? モンスターでしょうか?」
「……いや、心配無さそうだ。やっと美味しいご飯が食べられそうだな」
 イグナは剣から手を離す。近遠たちのところへ美味しそうなピザの香りが漂ってきていた。
 到着したのは二人の男女だ。その手にはピザ……とマイクとギターが。
「おまたせしましたー! 『シャンバラのどこでもいつでも 届けます♪ とっておきの笑顔と、美味しいピザ♪ 食べたら貴方も、きっと笑顔♪』 ただいま到着ですっ」
遠野 歌菜(とおの・かな)の歌に合わせ、月崎 羽純(つきざき・はすみ)のギターが響く。
「す、すごいですの! ピザの配達にはミュージシャンがついてきますのねっ!」
予想以上のパフォーマンスにユーリカは驚きを隠せない様子である。もちろん、他の3人も惜しみない拍手を送る。
「すごいですね、こんなサービスがあるなんて知りませんでした」
 近遠の言葉に、羽純はギターを仕舞いながら答える。
「いや、これは歌菜のアイデアだから、シャンバラピザの正式なサービスじゃない」
「えへへ、やっぱり美味しいものは幸せな気分で食べて欲しいな〜……って思って」
 少し照れた笑顔の歌菜からピザを受け取りつつ、アルティアはにっこり笑った。
「歌菜さんの歌声、とても心に響いたのでございます」
「ほんと!? 嬉しいなぁ、頑張って作詞した甲斐があったよ!」
「……半分は俺が手伝ったがな」
「羽純くんそれ言っちゃダメーーッ!」
 慌てて羽純の口を押さえようとする歌菜。聞いたばかりの『シャンラピザの歌』を口ずさんでみるユーリカとアルティア。近遠とイグナは食事の準備をしつつ、その様子を見守っていた。
「……半日の疲れが、何処かへ飛んでいってしまったようだな」
「うん、そうですね。これなら、もう少し頑張れそうです」
近遠は歌菜に代金を渡す。
「来てくれたのが歌菜さんと羽純さんで良かったです。美味しいピザと、素敵な歌をありがとうございました」
「はいっ、ご利用ありがとうございました!」
 代金を受け取り笑顔で一礼する歌菜と、そんな彼女の様子を見て口元を微かに綻ばせる羽純。2人を見送って、近遠たちの楽しい昼食が始まったのだった。

 *  *  *

「はぅ〜、あ、ありがとうございました〜〜!」
一礼して小屋の戸を閉める寿子を桐生 理知(きりゅう・りち)は心配そうな表情で出迎えた。理知も寿子の配達を空からサポートしていたのだが、配達時間は間に合うか、間に合わないか、ギリギリだったのだ。
「寿子ちゃん、大丈夫だった? お客さん、怒ってなかった?」
「うん、30分ギリギリだったけど大丈夫だったよ。“大したものだ”って、褒められちゃった……!」
そう言って嬉しそうに笑う寿子。森を突破した時に付いたのだろう、本人も気付いていない切り傷が手に走っていた。
「寿子ちゃん、怪我してる! ちょっと見せて!」
「だ、大丈夫だよ! これくらい大したことないよ〜!」
慌てて隠そうとする寿子の手を取って、理知はポケットから出した救急キットで手当てをする。
「寿子ちゃん、同人誌のためにアルバイトしてるんでしょ? 手に怪我は放って置いちゃダメだよ」
「はぅ……ごめんね、私がドジだから……」
しゅんとなる寿子の手を握り、理知は微笑む。
「これは寿子ちゃんが頑張った証拠。しっかり手当てして、治る頃にはもっと上手く配達できるようになってるよ」
「……あ、ありがとう、理知ちゃん。帰って、店長に報告しなきゃ、だね」
そう言って、寿子と理知は歩き出す。既に日は落ちかけているが、帰り道はゆっくりと安全な道で帰ることが出来るだろう。
「そうだ。寿子ちゃん、おうちで一緒にピザ食べない? 友達も待ってるの!」
「はぅ、いいの? 迷惑じゃないなら……理知ちゃんなら、同人誌の相談も色々出来そうだし、行きたいな」
「うん! じゃあ晩ご飯はピザで決まりだね!」
 そう言って笑う2人の少女の顔を、夕陽が優しく照らしていた。