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シャンバラの宅配ピザ事情

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シャンバラの宅配ピザ事情

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「次の注文先はキマク西区……あそこはたしかパラ実の下宿がある住宅地ですね」
 ルースが注文先に行ってからそれほど経っていない店内で、店のPCのディスプレイの前で偲と姫星がオンラインデリバリーの注文メールに目を通していた。
「パラ実の下宿かー。だから結構枚数が多いんですね」
 次の注文者は、なんと十枚も注文してきたのだ。ピザの他にサイドメニューやドリンクも注文には乗っている。
「ピザはすぐに焼けるから問題ないとして、サイドメニューだよね。……シーザーサラダ五人前に、カルボナーラとぺペロンチーノが各五人前。山盛りポテト三つにドリンクのコーラと清涼飲料水が二L」
「注文したお客様に三十分以内には届けられないとお伝えした方がいいでしょうか」
 はらはらとした口調で偲は姫星に助言を求めるが、
「ネット注文なら、今現在の待ち時間が表示してあるから問題ないよ」
 そう淡白に回答する。
 姫星は、フライヤー担当の人にどれくらい掛かりそうか聞いてみる。回答は約十五分ぐらいとの事だ。
「十五分ぐらいなら、同時進行でピザを作ったらできそうだね。鬼久保さんも手伝ってくれるよね?」
 偲は振り向いた姫星に向かってゆっくりと頷いたのだった。

 ピザ用のキッチンに移動し、姫星は冷蔵庫に寝かせているピザ生地の入ったケースをシンクに出すと、ピザ生地の塊を十個大理石のプレートの上へと置いた。
「この大理石はね、ピザ生地を伸ばすためだけの特別なプレートなのよ。大理石って言うのは一定の保冷効果を持っているから便利よね。ああ、とあるアイスクリーム店でも大理石の上で違う味のアイスを混ぜてお客様に提供するってスタイルがあるって言うしね」
 そう言いながら、姫星は固まりの一つを手に取ると、プレートの上に小麦粉を振りかけて生地の中に含まれている空気を抜くために力強く生地をプレートに叩き付けた。
 偲も生地を手に取ると、姫星と同じ動作でピザ生地をプレートに叩きつける。
「次百さんは、そのアイスクリーム屋で食べた事は無いんですか?」
「んー、そのお店は海京にあるって噂なのだけど、暇な時間が無くて行けないのよね。潰れないうちに行きたいのだけどね……そうだ!鬼久保さん、今度一緒に行ってみない?」
 何度か音を立てながら、生地の空気を抜くとピザ生地を伸ばすための機械へと生地を乗せ、機械のスイッチを押す。すると、機械が作動して塊のピザ生地があっという間にLサイズの平たい生地へと変化する。
「……この機械すごいですね。一瞬でピザ生地が丸くなりましたよ」
 丸く平たくなった生地を見て、偲が思わず感心するのを姫星は横目で見ただけだった。平たくなった生地を機械から取り出すと、もう一度大理石のプレートへと移動させる。
「じゃあ、この生地を使ってピザを作って行きましょう」
 はい。と短く偲は返事をする。
「鬼久保さんに担当してもらうのは、シェフの気まぐれピザです。このピザはこの店でも結構人気なんですよ」
 姫星が手に取ったのは、トマトソースが入ったアルミタンブラーだ。それを偲へと手渡した後、星姫は偲が空気を抜いた生地を機械に掛けて生地を伸ばしていく。
 偲は、手渡されたタンブラーの中に入っている刷毛を使い、ピザ生地に均等になるようにソースを塗って行く。
 次に姫星が手に取ったのは、小さくカットしたボローニャソーセージの入った容器だ。それをトマトソースを掛けた生地の上に乗せて行く。
 順々にツナや荒挽きソーセージやオリーブなどの具材を乗せて行くと、ツァンダ店人気のシェフの気まぐれピザが完成する。
 後は、このピザを焼いてパッケージに詰めて宅配すれば任務は完了だ。
 姫星と偲は、この後注文分の残りのピザを焼く前の工程まで作って行ったのだった。