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『魔王と異世界の勇者達』

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二章 魔の島を守りし暴風 ―風の四天王、リトルシルフの遊戯―



「あったあった。ここね、リトルシルフがいる遺跡ってのは」

 生い茂る木々の間からマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)達が姿を現した。

「大きいですね……」
 リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)がマーガレットの隣に立ち、感嘆の声を上げる。

 彼女達の目前には、石を積み上げてできた巨大な遺跡が。
 それは風の四天王、リトルシルフが住むと言われている遺跡だった。
 リース達の目的は魔の島周辺の竜巻をリトルシルフに止めてもらうことである。

「それじゃリース、頼むわね。絶対詰まっちゃダメよ?」
「だ、大丈夫です。一杯練習しましたから」

 リースは遺跡の入り口の前に立つと、一度深呼吸をし、そして大きな声で叫んだ。

「リトルシルフよ! 我が呼びかけに応えよ!
 我、汝と共に古より伝わりし鬼が人を食らう様を描きし魔を呼び寄せる禁断の遊戯をとり行わん!
 我が呼びかけに答えるならば我、汝にひと時の幸福を与えん!」

 リースの声が遺跡内部で反響する。 
 数秒ほど経って、遺跡の中から声が聞こえてきた。

「また堅っ苦しい人間が来たもんだ」

 直後、遺跡周辺を突風が吹き荒れる。砂埃から目を庇うリース達。
 やがて風はすぐに収まり、顔を上げたリースの目前に、一人の少年が浮いていた。

「な、汝がリトルシルフか」
「シルフでいいよ。後そういう堅苦しいの嫌い。普通に喋ってくれる?」
「あ、は、はい。えっと、シルフさん、今日はお願いがあって来ました。
 えと、その、私達と遊びませんか? それでもし私達が勝ったら、魔の島の周りの竜巻を止めてほしいんです」

 それを聞いたシルフは笑顔になり、嬉しそうに話しかける。

「いいよ! 丁度ボクも退屈だったしね。でも四人じゃちょっとなぁ……」

 その時、茂みを抜けて別の人影が現れた。

「お、増えたね……八人居れば十分かな。ボクは遺跡の中を逃げ回るから、キミ達はボクを捕まえてみてよ! 中には魔物も一杯いるから死なないようにね!」
 そう言うとシルフは風に乗り、遺跡内部に姿を消した。

「一体、何が起こったのだ?」
 茂みを抜けてきた天禰 薫(あまね・かおる)は状況が分からず、リースに尋ねる。
「えっと、シルフさんと遊んで勝ったら、魔の島の周りの竜巻を止めて下さい、ってお願いしたんです。それで遊んでもらえる事になって、鬼ごっこ……になったみたいです。捕まえてみて、って言ってましたから……」
「丁度良かった。我たちも竜巻を止めてもらいに来たのだ。手伝うのだ」
「あ、ありがとうございます!」

 薫、リースらは遺跡の中へと入っていく。
 途中で道が二手に分かれており、薫が左、リースが右の道を仲間と共に進む。

「その辺の柱脆そうだぜ、気をつけな」
 ナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)が注意を促す。遺跡内部は崩れかけている場所が多く、一部では倒れた柱が道を塞いでいた。
「まるで迷路だなここは。こんな場所で鬼ごっこって、追いかける前にまず見つけられるのかが心配だぜ」
「それなら大丈夫です。蔦さん達がシルフさんが逃げた方向、教えてくれてますから」

 そう言ったリースは迷い無く入り組んだ通路を進んでいく。時折足を止めては、壁を覆う蔦に道を尋ねていた。
 どれくらい進んだだろうか。彼女達の前方に、羽を生やした少年の姿が見えた。

「やばっ!」
 リース達に気付いたシルフが慌てて逃げ出す。更にリース達の行く手を遮るように風を纏った水晶のような魔物が現れる。
「邪魔をするでない!」
 桐条 隆元(きりじょう・たかもと)が芭蕉扇を大きく仰ぐと、大風が起こり魔物達を遠くへ吹き飛ばした。
 その後全速力でシルフを追うものの、風を操って空を飛ぶシルフのスピードに追いつけず、すぐに見失ってしまった。
「流石風を司ると言われるだけの事はあるな。何か手を考える必要があるか……」

「あ、さっきの奴!」
 声のした方へ目を向けると、こちらに駆け寄る薫の頭上で八雲 尊(やぐも・たける)がリース達を指差していた。

「シルフさん見つかったのだ?」
「見つけたけど逃げられちゃったのよ! もうすばしっこいんだからー!」
 そう言って溜息をつくマーガレット。

「……薫、俺に考えがある。ちょっとこいつ借りてくぜ」
「ピピィ〜!」
 突然後藤 又兵衛(ごとう・またべえ)わたげうさぎロボット わたぼちゃん(わたげうさぎろぼっと・わたぼちゃん)を掴んで歩き出す。
「又兵衛、どうするのだ?」
「ちょいと罠を張る。薫はシルフを見つけてテレパシーで居場所を教えてくれ」

 又兵衛はわたぼを連れ、開けた場所を探す。
 程なくして崩れかけた柱の立ち並ぶ広い空間にたどり着いた。
「よし、ここならいいだろう。ほら、罠を作るからちょっと手伝え」
「ピキュキュ!」
 二人はシルフを捕まえるための罠を作り始めた。

 一方薫と尊、そしてリース達はシルフを探していた。
「おい薫! めんどくせー事してんじゃねーよ! てめー! このー! こんな遊びに付き合わねえでシルフぶちのめせばいいだろ?」
「尊さん、それはだめなのだ。シルフさんは誰かに構ってもらいたくて、こんな事をしているかもしれないのだ。だから、何とかしたいのだ」
 薫の言葉に、尊は黙り込む。
「……お前、優し過ぎるよ。それがお前のいいとこなんだろうけどよ。てめー、このー」
「何か言ったのだ?」
「何でもねーよ!」
 
 その時、通路の先で小さな羽が横切るのが見えた。速度を上げる薫。
 やがて十字路にたどり着く。横の通路を覗くと、こちらに背を向けたシルフの姿が。どうやらこちらには気付いていない様子である。
(又兵衛、シルフさん見つけたのだ)
(よくやった。どの辺りだ?)
 薫はここまでの道筋を又兵衛に伝えた。

(分かった。後は任せろ)
 
 暫くして。突然、綺麗な歌声が遺跡内に響き渡る。
「うー、何だこれ。クラクラする……」
 頭を抱え声から遠ざかろうとするシルフ。しかし歌声は彼の後を追いかける。
 逃げるシルフが開けた空間に出た瞬間、両脇に立っていた柱が崩れ落ちてきた。
「うわわっ!」
 慌ててそれを避けるシルフ。岩塊を避けながらシルフは近くにあった通路へと飛び込み、そこに張られていた大きな網へと勢いよく突っ込んだ。
「わあっ!?」
 網に絡まったまま地面を転がるシルフ。ようやく勢いの止まったシルフの上に、もふもふした小さな何かが飛び乗った。
「ピッキュ〜♪」
「このっ、降りろーっ!」
 シルフの上で楽しそうに飛び跳ねるわたぼ。そこに歩み寄った又兵衛はシルフの傍に屈むと、網に絡まって身動きの取れないシルフをくすぐった。
「ちょ、やめて、あははははは!」
 笑い転げるシルフ。そこに、薫達も駆け寄ってきた。

 又兵衛がくすぐるのを止める。肩で息をしているシルフの脇に座り、薫は絡まっている網を外してやった。
 そしてシルフに優しく話しかける。

「ねぇシルフさん、我たち、竜巻を止めてもらいたくてここに来たのだ。捕まえた事は、悪いとは思うのだ……ごめんなさい。でも、みんなが困っているから、竜巻を止めてほしいのだ……お願いしますなのだ」
 それを聞いたシルフは、可笑しそうに笑っていた。
「別に謝んなくていいのに。鬼ごっこなんだからさー。それにしても凄いねおねーちゃん達! まさかボクが負けるなんてなぁ」
 
 シルフは宙に浮かび上がると、ちょっと待っててね、と言って突風と共に姿を消した。
 そして数分も経たずに突風に乗って戻ってくる。
「お待たせ。竜巻は止めてきたよ。約束だもんね!」
「ありがとうなのだ、シルフさん!」
「だが良いのか? 竜巻は魔の島を、そして魔王を守るための物であろう。おぬしは魔王の復活を望んでいるのではないのか?」
 隆元の問いにシルフは肩を竦めて答えた。

「別に魔王様の復活なんて興味ないからね。まあボクらを作ってくれたのは魔王様だから一応感謝はしてるけど、魔王様って怒るとかなり怖いし、仲間でも簡単に消しちゃうから。あんまり好きじゃないんだよね」
「じゃ、じゃあどうして竜巻を起こしてたんですか?」
「他の四天王に頼まれたからだよ。別に断っても良かったんだけど、断ると五月蝿いもん、あいつら」
 リースの質問に溜息をつくシルフ。どうやら彼なりに苦労してるらしい。

「ねえおねーちゃん達、もっと遊ぼうよ! 竜巻の様子見てなきゃいけなかったから、こうやって誰かと話すのも久しぶりだからさ、もっと遊びたいよ! ね、いいでしょ?」
「えっと……どうしよう、ミーミルさんも助けてあげたいし……」
「なら、我たちがシルフさんと遊ぶのだ。ミーミルさんは頼むのだ」
「は、はい! よろしくお願いします!」

 リース達はシルフに別れを告げると、捕らわれのミーミルを助けるべく遺跡を後にする。
 そして薫達は遺跡に残ると、元の世界に帰るその瞬間まで、シルフと共に楽しく遊び続けた。





  ――こうして魔の島を囲っていた竜巻は排除された。

    だが、それだけでは魔の島へ行く事は出来なかった。

    港は全て火の四天王イグニスにより制圧、封鎖されている。これを排除しない限り、勇者達が魔の島へ渡ることは出来ないのだ――