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『魔王と異世界の勇者達』

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『魔王と異世界の勇者達』

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四章 激闘 ―復活せし魔の王―



「無事かっ、ミーミル!?」

 アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が捕らわれのミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)を見つけ、叫んだ。
 ここは魔の島の中心部。水晶で作られた禍々しい祭壇の前に、ミーミルと一人の老婆がいた。

「何者じゃ!?」
「貴様がヴァセか。ミーミルは返してもらうぞ! このアルツール・ライヘンベルガー、娘に危害を加える者は例え老婆であろうと容赦せん! 影も形も、塵すら残さず消去ってくれる!」」
 凄むアルツールの肩に、シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)の手が置かれる。
「どうどう……君今凄い顔してるから! 少し落ち着こう、な!?」
「う、うむ」 
 アルツールは一つ咳払いをし、落ち着いた表情を作る。
 
 シグルズはヴァセへと視線を向け言い放つ。
「さて、水の四天王とやら……君も運が無かったと諦めてくれたまえ。攫った相手が悪かったな」
「ほざけ人間が!! 貴様らに偉大なる魔王様の復活の邪魔はさせん!」
 その言葉を合図に、石段の影や沼の中から沢山の魔物が姿を現した。

「時間をかけるわけにはいかない。悪いが速攻で倒させてもらうぜ!
 勇者の剣エクスカリバーよ、主の思いに応えよ!」
 下川 忍(しもかわ・しのぶ)がエクスカリバーを手に魔物の群れへ突進する。
 剣の一閃に醜い人魚の魔物が斬り捨てられる。

「スコリアだって頑張るよ〜! ひっさつ、スコリアびーむっ☆」
 フユ・スコリア(ふゆ・すこりあ)の両手から放たれた光線が数体の魔物に命中、魔物達を石化させる。
「いっけぇサンダーブラストっ!」
 ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)が放った雷撃が石化した魔物達を粉砕する。

「頼華招雷!」
 ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が小さな符を魔物達へと投げつける。符は宙を飛ぶ魔物達の額に張り付き、直後、落雷が符の張り付いた魔物を直撃した。

「我が呼び声に応え、盟友よここに来たれ……出でよ、サンダーバード! さあ、ミーミルを困らせる愚か者を塵も残さず焼き尽くせ!!」
 アルツールにより召喚された巨大な鳥が電気を纏い敵の群れへ突撃する。感電した魔物達がばたばたと地面に倒れ、焦げた臭いが立ち上る。
「轟雷閃!」
 残る魔物にシグルズが剣を振るい、轟雷が放たれる。雷の直撃を受けた魔物達は焼け焦げ、その場に倒れ伏した。
 サンダーバードは未だ祭壇で何かを唱えているヴァセへと狙いを向ける。
「ぐっ……!」
 電流を纏った鳥がヴァセの目前まで迫ったときである。

 突如、サンダーバードは漆黒の球体に捕らわれた。そしてすぐに、悲鳴を上げて消滅してしまう。

「……お父様の復活は邪魔させない」
 ヴァセの前に立ちはだかったのは、先程までアルツール達と行動を共にしていた東 朱鷺(あずま・とき)であった。

「お父様……って、どういうことだ!?」
 忍が朱鷺へと叫ぶ。朱鷺は顔を伏せ、言った。
「あなた方と行動を共にして、ようやく記憶を取り戻すことができました。私は魔王の娘。父の復活は誰にも邪魔はさせません!」
「っくくくく、ひゃーっひゃっひゃっひゃ!」
 下品な笑い声がその場に響き渡る。

「娘様、ようやりました。おかげ様で準備は整いましたですぞ」
 祭壇の上で寝かされたミーミルの胸元に、禍々しい光を放つ紫色の水晶が吸い込まれていく。

 ミーミルの瞼が、ゆっくりと開かれた。



「……ヴァセよ、よくやった」



 それはミーミルの声では無かった。

「ミーミル……!」
 アルツールの悲痛な呼びかけに、しかしミーミルは答えない。
 祭壇から降り立ったミーミルは、朱鷺の姿を視界に捉える。
「お父様……!」
「何だ、貴様生きておったのか」
 冷たく吐き捨てるようなその一言に、手を伸ばそうとした朱鷺の動きが止まる。
「この手で殺したと記憶しているのだが……あぁ、そうか。霊体になって未練がましくこの世を彷徨っていたというわけか。まぁ出来損ないの娘でも時間稼ぎくらいは出来たようだな」
「え……?」
 ヴァセが甲高い声で笑う。
「きっひっひ。どうやら忘れておるようですな。娘様、あんたは100年前に魔王様に処刑されたんじゃよ。あの忌々しい勇者の足止めも出来なかった出来損ないとしてな!」
「そ……んな……」

 ずっと誰にも気付いてもらえなくて。
 やっと私に気付いてくれる人達が現れて。
 でもその人達は『魔王』を倒しにここに来ていて。
 それを聞いて、やっと自分が『魔王の娘』であることを思い出したのに。
 ようやく取り戻した記憶は、最も大切な部分が欠けていたのだ。

 その場に崩れ落ちる朱鷺を気にも留めず、ミーミル……いや、魔王は苦々しく呟く。

「勇者か……まったく忌々しい。さて、人間共よ。貴様らも余の復活を阻止しようとここまで来たようだが、徒労に終わったな」
「まだ終わっていない! 出でよ不滅兵団! ミーミルの動きを止めるのだ、決して傷をつけてはならんぞ!」
 アルツールの叫びと共に鋼鉄の軍勢が召喚され、魔王と化したミーミルへと突進する。
「無駄だ」
 しかし魔王は大量の黒い稲妻を発生させると、一瞬で軍勢を焼き払ってしまった。稲妻は更にアルツールや他の者にも襲い掛かる。

「ぐうっ……」
 直撃は避けたものの、皆一様に傷や火傷を負っていた。
「うう、とにかく魔王にミーミルさんから出てってもらわないと! スコリア、手伝ってね!」
「りょーかいっ☆」

 駆け出すユーリとスコリア。後方では、ネージュが呪文の詠唱を開始する。
「静寂の白が揺蕩えば、緑の息吹が芽吹いてあふれる。さぁ、命の奔流をその体で感じて!!」
 迸る生命力が皆の傷を癒していく。

「いっくよぉ! ぼーいずめいどの必殺技!! その名もゆーりんあたっ……」
 必殺技を宣言しようとしたユーリだったが、その体が突然石化。動けなくなる。
「あ、いつもの癖でユーリちゃんに『スコリアびーむ☆』当てちゃった。テヘッ☆」
(どうしてこうなったぁ!?)
 そう言って舌を出すスコリア。盛大に文句を言いたいユーリであるが、体は完全に石と化しており、指一本動かすことが出来ない。
「ごめんねユーリちゃん。でも次は外さないよー!」
 『スコリアびーむ☆』はミーミルの足に命中。地面ごと石化し動きを止める。
「悪しき者よ、ミーミルの体から退散せよ!!」
 アルツールがミーミルへ『清浄化』を発動する。

「ぐおおっ!!」
 ミーミルが頭を抱え悶える。
 その背から紫色の水晶が飛び出した。
「ミーミルっ!」
 倒れるミーミルをアルツールが抱きとめる。



「軟弱な人間の体など邪魔なだけか……」



 水晶の周りに周囲に散らばっていた魔物の死骸が集まってくる。
 死骸はやがて巨大な人の形を取る。紫色の皮膚に巨大な翼、歪な角を生やした悪魔のような生物がそこに立っていた。

「えーい! スコリアびーむ☆」
 スコリアが魔王に石化を試みる。しかし一瞬だけ皮膚を石化させるものの、すぐに元に戻ってしまった。
「無駄だ、そのような攻撃最早通用せぬわ」
「えーん、ユーリちゃん助けてー……って、ユーリちゃんはスコリアが石化させちゃったんだった。テヘッ☆」
(テヘッ☆ なんて言ってる場合かぁ!!)
 ユーリの心の声はスコリアには届かない。

「ここは僕に任せて! ミーミルさんを頼みます!」
 忍がエクスカリバーを手に魔王へ立ち向かう。

「うー、重いーっ」
 スコリアは石になったユーリを引き摺り、戦っている忍達から距離を取る。
 少し離れた所では、ネージュがアルツールに助け出されたミーミルの容態を見ていた。
「ねえ、ミーミルちゃん大丈夫?」
 石になったユーリを適当に転がし、スコリアはネージュのとミーミルの所へ駆け寄る。
「うん。気を失ってるだけみたい。暫くしたら目を覚ますよ」
「そっか、良かったぁ♪」
 にっこりと微笑むスコリア。
 
 その背後では未だ激闘が続いている。

「気に食わんな。貴様、あの勇者と名乗った小僧と同じにおいがするわ」
 魔王は禍々しい色のブレスを吐き出す。
 横っ飛びにそれを避ける忍。ブレスの掠めた地面が泡を立てて溶けていた。
「はあっ!」
 忍がエクスカリバーを一閃する。魔王の腕が裂け、青い血が噴き出した。
「小癪な人間が。引き裂いてくれるわ!!」
 魔王の鋭い爪が忍へと迫る。

「武器 や 防具 は装備しないと意味がないぞ!」

 突如現れた何者かがレーザーブレードで魔王の腕を切り落とした。

「おぉ、勇者たちよ苦戦するとは情けない……どうやら我らの出番のようだな」
 マネキ・ング(まねき・んぐ)が忍の隣に立ち、魔王へ向け言い放つ。
「古来より我が帝国固有の領土を不法占拠する蛮族どもは根絶やしだ……さぁ、行くぞ! 兵士Aよ!」
 魔王の腕を切り落としたセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)は、
「ここは 皇帝、マネキ・ング様の領土だ。失礼のないようにな!」
 と叫び再び魔王を斬りつける。

「ぐおぉぉぉぉっ!!」

 魔王は怨嗟の叫びを上げ、両腕を振り回す。切り落とされた腕は驚異的な速さで修復していた。完全に元の形を取り戻した鉤爪がセリスへと振り下ろされる。
 セリスは鉤爪を避けると、レーザーブレードに炎を纏わせ、『煉獄斬』を放った。
 炎を纏った斬撃に魔王の体が切り刻まれ、その皮膚を焦がす。
「我のモノは我のモノ。魔王のモノも我のモノ!」
 魔王の注意がセリスに向いている間に、マネキ・ングが魔王の背後へと回り込んでいた。
「我が拳の前にあるは制圧前進のみ! 喰らうがよい、猫斗真拳!!」
 マネキ・ングの繰り出す無数の拳が、振り向いた魔王の腹部へと打ち付けられる。

「調子に乗るな人間がぁぁぁぁっ!!」
 魔王が衝撃波を放ち、セリス達は吹っ飛ばされる。
「おとなしくしていれば楽に死ねたものを……貴様らには地獄の苦しみを味わわせてやろう……」

 魔王の両腕に暗黒の力が集う。両手のひらに禍々しい漆黒の球体が形成され、それらがセリス達へと発射されんとした、その時。

「……ぐぅっ?!」

 突然、魔王が口から血を吹いた。
 魔王の胸元を、背中から一本の刀が突き抜けていた。
 それは、魔王の血肉となった魔物の一匹が使っていた刀で……そして今、それを魔王の背に深々と突き刺したのは、その娘である朱鷺であった。

「き、貴様ぁっ!!」
 魔王は朱鷺の腕を掴み、引き剥がす。そのまま投げ飛ばされた朱鷺は祭壇に頭を打ちつけ、意識を失った。

「ぐうぅっ……!」
 魔王は胸元を押さえ、苦しそうに呻く。その指の隙間から、紫色に光る宝玉が見えた。

「そうか、もしかしたら……!」
 忍が剣を杖代わりにゆっくりと立ち上がる。

「大自然の息吹よ……皆に、力を!」
 自然の力、生命エネルギーを、ネージュは自分の体を中継点とし、仲間たちへと分け与える。
「さあ皆、頑張って。これが最後の戦いだよ! 魔王を倒して、絶対にミーミルをババ様の許に連れて帰るんだ!!」
 ネージュは自分の精神力を限界まで使い、忍達に力を与える。
「萌木乃息吹(もえぎのいぶき)……!」
 
 忍は傷が癒え、全身に力が漲ってくるのを感じた。
 振り向けば、力を使い果たしたネージュが地面に膝をついている。

「そうだ……僕らは、負けるわけにはいかないんだ……っ!」
 忍はエクスカリバーを握り締め、気合の叫びと共に走り出す。

「兵士Aよ。勇者殿をお手伝い致すのだ!」
 マネキ・ングの命により、セリスは剣を手に魔王の元へと向かう。
「ぐぉぉっ……!」
 片手で胸を押さえる魔王は、開いた手でセリスを薙ぎ払おうとするが、動きの鈍ったその一振りをセリスは難なく避けると、魔王の右足向け煉獄斬を放った。
「うおぉぉぉぉっっ!!!」
 魔王は片足を切断され、バランスを崩して両腕を地面につく。

「たぁぁぁぁっ!!」
 既に魔王の目前までたどり着いていた忍は急激に加速、魔王の横をすり抜けざまエクスカリバーを一閃させる。
「食らえ魔王! バーストスラッシュ!!!」
 神速の一撃は、魔王の胸元にある水晶を真っ二つに切断した。

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
 魔王の叫びが空に木霊する。
 その肉体が徐々に崩れ落ち、やがてそこには、砕けた紫色の水晶の破片だけが残されていた。

「や、やった……!」
 ネージュが喜びの声を上げる。その時だった。
「わっ!」
 忍を突き飛ばし、水の四天王、ヴァセが砕けた魔王の水晶を拾い上げる。
「こんなところで、我らの野望が潰えてなるものかっ!!」
 ヴァセは水晶の破片を大事そうに胸に抱き、そこから走り去ろうとする。

 だが。

「がはっ……!」
 朽ち果てた柱の影から一人の男が現れ、ヴァセの後頭部を強打する。
 ヴァセは地面に倒れ、持っていた水晶の破片が地面に散らばった。

「……クククク。クッハハハハ!! ようやく手に入れたぞ。これでようやく、余は真の魔王になれるっ!!」
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)はそう叫ぶと、落ちていた水晶の破片を拾い上げ、胸元に押し付ける。水晶はまるで吸いつくように皮膚に張り付き、彼の体と一体化した。




「おぉ……体に力が満ちる……。新しき勇者達よ。余は100年前の勇者であり、真の魔王であるクロノス! さあ、最後の戦いを始めようではないか!!」