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リアクション
第3章 死の亡霊軍 2
「ふふふ、骸骨王に不死の軍団。まことに興味をそそられるものです。同胞として、第六式はどうお考えですか? 彼らの目的というものを」
東 朱鷺(あずま・とき)は言った。冷たささえ感じられる微笑を常に絶やさなかった。銀の髪のもと、褐色の肌に、刃物のような輝きを秘めた瞳がある。瞳がちらりと見たのは、横にいた骸骨の騎士だった。
骸骨騎士はこの洞窟に潜むスケルトンモンスターではなかった。第六式・シュネーシュツルム(まーくぜくす・しゅねーしゅつるむ)。朱鷺のパートナーで、ポータラカ人だ。それがなぜ骸骨の姿をしているかは、偶然の産物というしかない。朱鷺にとっては、レアなスケルトンと一緒だったが。
骸骨騎士は朱鷺を見ることもなく言った。
「オレは亡霊でもないし、同胞でもないので知らないネ。解っている事は、ヤツラが暴れればオレの評判も落ちるって事ネ。このオレの名誉を護るために、オレはヤツラに挑むのネ。オレの骸骨としての矜持が、オレを動かすのネ」
「ふふふ。第六式の矜持なんて、存在しないものに興味はありませんが朱鷺は骸骨王に興味があります。彼はきっと、生前は高位のネクロマンサーかソウルアベレイターだったのでしょう。その彼が何のためにこんな事を起こしているか、気になりませんか? それが仮に骸骨の矜持とかだったら、倒してしまえばいいだけですし」
「骸骨王ネ。オレも、気にならないと言えば嘘になるネ。特に骸骨を部下として率いるその力に、だけどネ。このオレがその力を得たら、髑髏の騎士団としてきっとカッコイイ事間違いなしネ」
くかか、と骸骨騎士は骨を打ち鳴らして笑った。
「髑髏の騎士団がカッコイイかは、ともかくとして。朱鷺の周りに骸骨が沢山居るのは、精神衛生上好ましくありませんね。朱鷺は、悪霊、亡霊、アンデッド……それらの退治を専門とする陰陽師ですよ。まぁ、陰陽術の訓練相手としては望ましいかもしれませんけどね」
「陰陽師としての矜持かネ? 骸骨としての矜持、陰陽師としての矜持。相反する矜持が、交差する時何が起こるか楽しみネ」
「ふふふ。第六式がそんな事を言うなんて驚きですね。そろそろ戦闘馬鹿からは卒業ですか?」
「戦闘馬鹿とは失礼ネ。こう見えてもオレは歴戦の勇士。そんじょそこらの骸骨とは、モノが違うのネ」
朱鷺は確かに、と思った。なにせ喋る骸骨だ。このまま骸骨王のもとまで辿り着ければ、少しは骸骨王と話が出来るかもしれない。その前に、洞窟に侵入している冒険者とかいう連中と合流する可能性があるが。二人は洞窟の奥に歩を進めた。
「ともかく、先を急ぎましょうか」
「うむ、ネ」
「なに、侵入者だと!?」
骸骨王が振り返り、吠えるように言った。部下の骸骨兵たちはびくっと身をすくませる。唯一、骸骨王と正面から向き合っていた骸骨僧侶(ボーンビショップ)だけは、平静を崩さなかった。
「はっ、その通りです」
「いったい何をしていたのだ、ビショップ! この洞窟の管理はお前に任せておる! たかが人間ごときの侵入を許すだけならまだしも、守備兵を倒されてしまうとは!」
「それが侵入者は一人ではなく、仲間を引き連れているのです。どうやらそれは、地球の契約者たち。集団にて、戦いを挑んできたようです」
「地球の契約者だと? あの不思議な力を操る人間どもか! なぜ、やつらがこんなところにまで!」
「どうやら冒険屋と呼ばれる店のしわざのようです。〈夜の黒猫亭〉。クロネコがいるとされている、あの」
「クロネコっ! 忌々しき猫の男か! やつめ、どこまで我らの邪魔をすれば気がすむというのだ!」
骸骨王は怒りに任せ、剣を地に突き立てた。三本の右手のうち、もっとも下にある手が持っていた剣だった。
「我らがモンスターの邪魔をする憎き存在。奴が挑んできたとなれば、許すわけにはいかない!」
「ご安心を。すでに手は打ってあります。骸骨騎士たちを集め、精鋭部隊を編成いたしました。奴らを討伐してみせましょう」
「ほう。となると、ビショップ。お前が自ら出ると?」
ビショップは静かにうなずいた。骸骨王は満足そうにほほ笑んだ。ビショップは最も信頼ある臣下だった。ビショップ自らが出るとなれば、心配することはないだろう。
「おおっ!? これはなんとっ……」
突然、見知らぬ者の声が聞こえた。骸骨たちは声の主に視線を送った。入り口に誰かが立っている。焦げ茶の髪に同じく茶色の瞳。魔法使いらしき外套を着込んだ青年だった。
「これはもしや噂に聞く骸骨王ではないか!? まさかこんなところで出会えるとはおもわなんだ! 僕ってやつぁ、幸運だなぁ!」
「貴様、何者だ!」
骸骨王が立ち上がる。部下の骸骨兵たちが一斉に青年を取り囲み、剣を抜き放った。
「うわっ! 待て待て待て! 僕は別に君たちに危害を加えるようなつもりはまったくないんだって! むしろ友達になりにきたのさ!」
「友達、だと?」
「そうだよ! 骸骨王なんて呼ばれるスケルトンなんてめったに会えないんだよ! 友達になれたら素敵じゃない!」
骸骨王は面食らった。
「クロネコや、侵入してきたという地球の契約者たちの仲間か?」
「クロネコ? 契約者? なんだいそれ。そりゃ、僕だって地球人で契約者だけどさ」
青年は肩をすくめた。本気で分かっていないようだった。馬鹿が一匹、潜り込んできたというわけか? 骸骨兵たちが、骸骨王に確認するように一度だけ振り返り、青年に近づく。
「待て!」
骸骨王がいきなり、それを制止した。横にいたビショップだけではなく、骸骨兵たちもにわかに驚いたように骸骨王を見た。
「貴様、名を何という?」
骸骨王はたずねた。青年はほっとした。
「よくぞ聞いてくれた! 僕の名前はフリードリッヒ・常磐(ふりーどりっひ・ときわ)! あまねく知的探求心に運命を委ねる者さ!」
「そうか。フリードリッヒ・常磐。ならば貴様はその知的探求心とやらのため、この洞窟を自由に使うが良い」
「骸骨王。本気ですか?」
ビショップがたずねた。
「このような怪しげな輩を傍に置いておくとは」
「やつの真意は分からん。だが、どうやらクロネコの仲間ではないようだ。ならば、近くに置いておくのも面白いではないか。スケルトンと友人になりたいという、人間など」
骸骨王はにやりと笑った。常磐は一人ではしゃぎ回っていた。
「やったねぇっ! 骸骨王と知り合いなんて、僕ぐらいのもんだよ!」
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